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第六十一話 『ダークエルフの里へ向けて出発』

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 翌日、里長とウルスの面会が成された。

 ウルスは四つの部屋があるログハウスの一部屋に閉じ込めていた。 扉の前にはクリストフが連れた来た戦士隊が立っている。

 ログハウスはアスク達も使っていたが、残りの三部屋をクリストフたち、隊長クラスの戦士隊に譲り、下っ端の戦士隊は武道場で雑魚寝だ。

 交代でウルスの見張りをしていた者たちは、庭にあるバーベキューの竈門で朝食の準備を自分たちでしていた。

 扉の前で立っていた戦士隊が敬礼をする。 里長は頷きだけで答えた。

 優斗は里長に続いて部屋へ入った。 優斗自身もウルスに会うのは、事件後初めてだ。 ウルスは以前とは様変わりしていて、記憶がなく自分自身も誰か分からなくなっていた。

 隣で里長は諦めた様に溜め息を吐いた。

 「申し訳ありません、俺たちがもう少し早く精神攻撃に気づいていればっ」
 「いや、君たちの所為ではない。 彼は400歳くらいだろう。 悪魔を取り込んでかなりの年数が経っているはずだ」
 「400歳っ!」

 『エルフの年齢も分からないけど、ダークエルフの年齢も分からないね』

 (ああ、少し上くらいだと思ってた。 エルフの方は若い者が悪魔を取り込んでたけど、ダークエルフの方は……大分年齢がいっている人たちなのか?)

 「……それなら、浄化しても無理かもしれなかったですね」
 「うむ、そうだな。 期待は出来ないが、エレクトラなら治せたかも知れないな」
 「じゃ、今からでも浄化してみましょうか」
 「いや、もう遅いだろう。 彼は死ぬを待つだけだ」
 「そうですか」
 
 暗い表情をして部屋を出て来た優斗に、クリストフは察し、庭のベンチへ誘導した。

 皆が揃ったテーブルで朝食を頂く事に。

 「ユウト、我々は食事が済んだら里へ戻る」
 「はい、分かりました」
 「それで、頼みがあるのだが」
 「頼みですか?」
 「ああ、何、簡単な事だ」
 「はぁ」

 里長の頼みとは、隠れ家に何人かの戦士隊を住まわせる事だ。 里長は隠れ家を中経地点にしたいらしい。 そして、優斗が中経地点を束ねる役目を負う。

 『ただでは旅に出してくれないはずだよね』

 (ああっ、そうだなっ)

 「志願する者を隠れ家に置いて行こうと思う」
 「はい、分かりました。 あの、まさかと思いますが、華の新たな婿候補じゃないてますよね?」

 優斗の喉が鳴らせれ、里長は白銀の瞳を見開かせた後、可笑しそうに表情を崩した。

 「心配しなくても大丈夫だ。 本人たちが嫌がっている以上、無理やり婿は娶らせないし、ユウトにも愛人をあてがったりしない」
 
 里長の言葉を聞き、優斗はホッと胸を撫で下ろした。

 「では、部屋はあのログハウスでいいですか?」
 「ああ、充分だろう。 では、残りたい者は名乗り出る様に。 ただし、独身者に限る。 隠れ家は移動するから、好きな時に里に戻れないからな」
 「ええ、そうですね」
 「出来れば、皆が作った工芸品やらも売ってもらいたい」
 「はい」

 優斗と華、里長で話しを進め、色々と詰めて行き、お店を出すのは行った先々で露店で売る事にした。 まだ、エルフの物だとは公表はしない。

 「なぁ、ユウトたちは何で人族に変化したままなんた?」

 クリストフに言われて思い出し、優斗たちは魔道具での変化を解いた。

 (人族の姿に違和感がないからな、忘れてたっ)
 
 「では、そろそろ里へ戻る」
 
 里長の一言で皆が動き出す。 転送魔法陣がある場所、森の入り口まで戦士隊と里長を引き連れ移動する。

 残る者以外、戦士隊と里長、戦士隊に抱えられたウルスが魔法陣に乗る。 何かを思い出したのか、華が焦った様に里長へ声を掛けた。

 「あ、あの里長っ! 魔法陣の移動先は、その」
 「ああ、大丈夫だ。 お前のクローゼットは移動させた。 転送魔法陣があったクローゼットは、今は何も置いていないただの部屋だ」

 里長の話を聞いて華がホッと胸を撫で下ろす。

 「皆、元気にやるように」
 「はい」
 「エレクトラに限らず、皆、たまには里へ帰って来なさい」
 「はい、必ず」

 里長の後ろでクリストフが片目を瞑って手を振る。 優斗たちが手を振りかえし、里長は頷くと、転送魔法陣が発動した。

 皆は光の中で、エルフの里へ転送されて行った。

 「では、次期里長、隠れ家へ戻りましょう」
 「……ああ」

 『隠れ家を中経地点に、とか言ってたけど、彼らはユウトたちの護衛だね。 最初から残る人が決まってたんじゃないかな?』

 (ああ、女の人もいるしね)

 残った戦士隊は男女四人だ。 男が二人女が二人。 彼らはログハウスで暮らし、優斗たちの護衛をする様だ。

 始めはクリストフが残りたがっていたが、里長が許可を出さなかったので、ぐちぐち言いながら、最後は諦めていた。

 しかも、私物をかなり持って来ていたらしく、一泊にも関わらず、クリストフは荷物が多くて、帰り支度に時間が掛かっていた。

 (あ、クリストフさんにカラトスとどうなったか聞くの忘れた)

 ◇

 帝国を出るには、幾つかの街を通り過ぎないと行けない。 里長たちがエルフの里へ戻った後、優斗たちは次の街を何処にするか話し合っていた。

 食堂のテーブルに地図を広げ、道程を確認する。 隠れ家に残った戦士隊の四人も一緒に地図を覗く。

 (お目付役が付くとは思っていなかったなっ)
 
 「優斗っ」
 「ん? どうした? 瑠衣」

 小声で話して来た瑠衣に視線を向ける。

 「あいつら四人は優斗と華ちゃんの補佐候補なんだってさ。 さっき挨拶されたよ」
 「えぇ、そうなのかっ。 里長、そんな事、何も言ってなかったのにっ」
 「まぁ、仕方ないんじゃないの? 立場的にさ」
 「……仲良く出来なさそうなのか?」

 瑠衣は表情にも態度にも出さないが、人見知りというか、人と壁を作る所がある。

 前世でも、優斗にしか気を許していなかった。 首を傾げた瑠衣は、フッと笑った。

 「大丈夫だ。 いい奴らだったし」
 「そうか、だったらいいよ」
 「ああ」

 彼ら四人はポテポテを見て表情を引き攣らせていたが、配られたお茶を受け取ってお礼を言っていた。

 「何で、皆、ポテポテにビビるの? あんなに可愛いのにっ」

 『そう思っているのは、華だけだぞ』と、優斗と瑠衣は内心で呟いた。

 「じゃ、移動先の話をしよう」
 「ああ、あれ? 仁奈は何処行った?」
 「ニーナさんなら、フィル様とフィン様と一緒にフウジン様を慰めに行かれました」
 「ああ、そうか。 今回も隠れ家に置いて行くからなっ」
 「帝国は魔物を嫌いますからね。 見つかれば、フウジン様が大変な目に遭います」
 「うん、俺もちょっと行って来るわ」
 「うん、分かった。 俺たちは地図で確認しておく」
 「頼んだ」
 
 瑠衣は風神がいるであろう中庭へ出て行った。

 「さて、フィルたちの事もあるし、最短ルートで帝国を出ないとな」
 「ええ」

 食堂には優斗と華、戦士隊の四人が残った。 彼らも一緒に移動するつもりの様なので、華が作った人族へ変化出来る魔道具を渡している。 彼らは人族の平民に変化した自身を興味深そうに見つめていた。

 優斗たちは慣れたもので、全く違和感がない。 地図で次の街を確認し、身支度を済ませると、優斗たち一行は隠れ家の森の入り口を出た。

 華が隠れ家を魔法陣に戻し、ローブの中へ仕舞う。

 「さて、行きますか」

 瑠衣の号令で、素早く帝国を出る為、優斗たちは木の枝の上を駆け抜けた。

 エルフの移動で一番早い方法は、木の枝を伝って走る事だ。 ただ気をつけないと行けないのは、エルフの大木よりも細い枝の為、丈夫ではない。

 強く踏み抜かない事をお勧めする。

 暫く駆け抜けると、次の街が見えて来た。 華を抱き抱えていた優斗は、地面に降りると、馬車道へ出た。

 街道には、徒歩や馬、荷馬車が走っていた。 優斗達一向は、馬車で三日は掛かる道程を一日もかからずに駆け抜けて来た。

 脳内で立体地図を広げ、周囲の安全を確認する。 敵を示す表示はなかった。

 途中、魔物が追いかけて来たが、優斗達の移動の速さに追いつけず、振り切れた様だ。

 「ユウト、またせきしょをとおるの?」
 「ああ、そうだ。 だからフィルもフィンも人俗に変化していてくれ」
 「わかったっ!」
 「わかったわ」

 軽い音を鳴らして、銀色の美少女と美少年に姿を変えた二人は、変化の魔道具を発動させる。 銀色からカラフルな色合いに変わる様子を戦士隊の四人は不思議な物を見る様な眼差しで見つめた。

 「そう言えば、君たちの身分を証明する何かは持っている?」
 「はい、私たちもカラブリア王国で冒険者登録をして来ました」
 「……そう」

 『やっぱり前もって決められた人達なんだね』

 (ああ、そうみたいだなっ。 俺らって信用ないのか?)

 『心配症なだけじゃない?』

 ダークエルフに襲われた後なので、『それもそうか』と、思い直した。

 「じゃ、街へ入りましょう」

 皆が明るく返事を返して来た。 フィルとフィンは早速、お腹を鳴らし、食事を要求して来る。 夕方前には関所に着いたが、街へ入れたのは夜だった。

 着いたという報告をギルドにして、また安宿を紹介してもらう。

 街を歩いていると、獣人が歩いているのが目立つ。 大小といるが、皆、獣人でも種類が違う。

 「人狼は狼男にしか見えないなっ」
 「まぁ、事実、狼男だしな」

 瑠衣のツッコミに、優斗は言い訳を返す。

 「いや、そうじゃなくてさっ」
 「分かってるって、前世の狼男の事だろう? 確かに狼男、その物だ」
 「ああ」

 人間の姿をして、耳と尻尾が生えているのではない。 顔や姿が狼で、二足歩行で歩いているのだ。 狐やたぬき、猫や犬が服や防具を着て歩いている。

 身長が低く、人数の姿で耳や尻尾がある獣人を見かけ、前の街での写真を思い出す。 クラスメイトと一緒に写っていた獣人の彼を思い出した。

 「そうだ、彼は主さまの所へいるのか?」
 「彼って誰?」

 優斗に突然、脈絡もなく聞かれてフィルは首は傾げた。

 「ほら、前の街で、主さまの気配がするって言ってた。 写真に写っていた獣人の子」
 「ああ、彼ね。 うん、彼ならもうこの世にはいないね」

 フィルはあっさりと答えた。

 「えっ、そうなのかっ?!」
 「主さまの使いって、不老不死じゃないのっ?!」

 フィルから飛び出た話に、瑠衣と仁奈が驚きの声をあげる。

 「じゃ、彼からクラスメイトの事は聞けないか?」
 「ええ、駄目ね。 彼は主さまから指名を受けただけだから。 寿命があるのよ」
 「僕とフィンが不老不死なのは、主さまに作られたからだよ」
 「なるほど……そうなのかっ」
 「うん」
 「それと主さまにそれとなく聞いたわよ。 彼らがどんな頼み事をされたか、主様に」
 「主さまはなんてっ?!」
 「微笑まれて誤魔化されたわっ」
 
 期待を込めて聞いてみたが、予想通りの言葉が返って来た。

 「ただね、一番最後の絶叫マシーンに乗ってた人は別世界に転生したみたい。 詳しくは聞かれなかったけど」
 「ん?」
 「絶叫マシーン、何人か乗ってか、気にしてたでしょ」
 「ああ、そうか。 いや、皆が無事で幸せだったならいいんだ」
 「うん、そうね」

 華がにこりと笑いかけて来る。 優斗たち一行は、フィルとフィンに要望通りに、市場へと足を向けた。
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