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第二話 『呼び方』
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ツリーハウスが建ち並び、煙突からは朝食の支度中の煙が立ち昇っている。 色鮮やかで、地球上にはいない小鳥が飛び交っている様子は、とてもファンタジックでメルヘンだ。
(ほんと、全く違うよな。 地球と、カラブリア王国だったかな? 前世で飛ばされた国)
太い幹に取り付けられた螺旋階段を降りながら、いつもと変わらない集落の朝の風景を眺める。 タルピオス家のツリーハウス前の広場には、朝食の屋台も出ていた。 独身者が狩りへ行く前に、朝食を楽しそうにしている様子が見える。 ツリーハウスから見える景色は、優斗のお気に入りだ。
エルフの里は、この世界で3つある大陸の内の1つ、南に位置した大陸を南下し、更に最端の深い森の奥にある。 地図上では森林としか載っていない場所だ。 カラブリア王国と隣接しているが、国との境界に世界樹ダンジョンの深い森がある為、容易には外部の人間は入って来られない。
更には、里を囲う深い森に結界が張り巡らせていて、エルフたちも簡単には行き来出来ない様になっている。 完全に外界と隔離された場所に、エルフの里は隠されている。
優斗が暮らす集落は、エルフの里にある南の里アウステル、ノトス村にいくつかある集落の1つ、集落エーリスだ。 今世の父親は、エーリスの代表を務めている為、エーリスで一番大きなツリーハウスに暮らしている。 もの凄い太い枝を何本も伸ばしている大木には、5棟のログハウスが建てられていた。
太い幹には螺旋階段が取り付けられ、左右交互にあるログハウスへ行き来できるようになっていた。 3段目に作られたログハウスの扉が少し軋んだ音を立てて開く。 3段目のログハウスは、子供部屋として使われている。 優斗が振り返る前に、聞きなれた声がした。
「おはよう、優斗」
「おはよう、瑠衣」
瑠衣と仁奈、二人と世界樹ダンジョンで再会した後、優斗の父親が二人の後見人となり、引き取ってくれた。 フィルとフィン、一角馬の風神も一緒に付いて来た。 瑠衣たちは前世で寿命を全うした後、主さまに掛け合って、優斗たちと同じようにエルフへ転生していた。
優斗の今世の父親は、前世で知り合ったエルフのアンバーが転生したエルフだ。 優斗たちがエルフへ転生した原因でもある。 後見人となった経緯は、瑠衣たちをも巻き込んでエルフへ転生させた事に、多少なりとも申し訳ないと言う気持ちがあるようだ。
「優斗、何か叫んでなかったか? デカい声が聞こえて来たけど」
瑠衣は意地悪な笑みを浮かべてニヤついている。 前世を含め、瑠衣は優斗を揶揄う事が大好きだ。 幼い頃から何かと揶揄われて来たからか、無意識に身体が動く。 ひくりと頬を引き攣らせ、優斗は瑠衣から距離を取った。 夢の話をしたら、絶対に面白がられて揶揄われる事は間違いない。
(経験上、言わない方が得策だな)
「いや、何でもないっ! 叫んでなんてないっ!」
「ふ~ん」
当然だが、瑠衣は納得してない表情だ。 直ぐに、表情を戻した瑠衣は『後で詳しく教えろよ』と先を行き、螺旋階段を軽い足取りで降りていく。 瑠衣の言葉に『え~』と項垂れる優斗の足取りは重い。 昔から瑠衣には、隠し事が出来ない。 いつまでも隠せないだろう事を悟るのだった。
◇
ツリーハウスの2段目に作られたログハウスは、リビングダイニングとキッチンがある。 木製の扉を開けると、20畳はあるリビングダイニング。 右側にはソファーセットが置いてあり、暖炉もある。 左側には、8人掛けのテーブルとキッチンへ続く扉があった。 テーブルにはいつもの朝食、野菜スープと大量の饅頭が山盛りに盛られていた。
キッチンの扉が勢いよく開く。 扉から顔を出したのは、優斗の今世の母親と仁奈だった。 二人は、優斗と瑠衣に気づき、明るい声で朝の挨拶をした。
「二人ともおはよう!」
「おはよう! 瑠衣、王子」
仁奈は朝早く起きて、朝食の支度を手伝っていた様だ。 優斗と瑠衣も挨拶を返す。
「おはよう。 鈴木、王子って呼ぶなって。 前世でも散々言ったけど」
優斗の前世でのあだ名が『王子』だった。 本人は『王子』と呼ばれる事を心底、嫌がっていた。 瑠衣が朝の挨拶をした後、申し訳なさそうに優斗の今世の母親に頭を下げる。
「おはよう、仁奈。 おはようございます、セレンさん。 すいません、起きるの遅くて。 俺も手伝います」
「大丈夫よ、気にしなくても。 よく眠れた?」
「はい」
瑠衣が壁際に置いてある食器棚の扉を開く。 陶器製の食器が軽い音を鳴らし、引き出しが擦れる音を響かせる。 取り皿や、引き出しからカトラリーを取り出し、瑠衣がテーブルの上へ並べていく。 優斗も瑠衣に倣い、グラスを食器棚から人数分取り出して、テーブルに並べる。
「ごめん、つい、前世の癖が抜けなくて。 エルフでの12歳以前の記憶がないし、不思議な感じなんだよね」
仁奈は山盛りのサラダを片手に頬をかいている。 瑠衣も頷きながら仁奈に賛同した。
「俺も12歳以前の記憶ないしな。 自分がエルフだっていうのも未だに違和感があるんだよな。 それに優斗だって、仁奈の事を鈴木って呼んだら駄目なんじゃないの? 仁奈の前世での苗字だし」
「あっ」
反対に瑠衣から突っ込まれてしまった。 優斗の方こそ、仁奈の事をどう呼べばいいのか、考えあぐねている。 『仁奈』と呼び捨てにしたら、瑠衣が機嫌を損ねるのは分かり切っている。 だから前世では、誰になんと言われようと、仁奈の事は苗字呼びしてきた。
二人には前世の記憶しかない。 瑠衣と仁奈の故郷は『災害』に遭い、主さまに助けられたのだそうだ。 精神的ショックと前世の記憶が戻った衝撃で、12歳以前の記憶を失くしてしまったらしい。
「呼び名は分かりやすく統一した方がいいよな。 俺と優斗はいいとして、仁奈はなぁ。 エルフの名前ってなんであんなに長いんだ」
今世の瑠衣の名前は、ウィルビウス・ルイという。 ルイは苗字ではなく、ウィルビウス・ルイまでが名前だ。 そういう名づけをする一族なんだそうだ。 瑠衣は平民なので苗字がない。
仁奈の今世の名前は、エウフェミア・アムピオンオルフェイスという。 南の里アウステルの北にあるキュテーラ村、ドリュアスという集落の出身だ。 仁奈の父親はドリュアスの代表をしていたようだ。 瑠衣の今世の父親が、仁奈の今世の父親の補佐官だったらしい。
記憶がない瑠衣と仁奈の素性が分かったのは、里で暮らすエルフ全員が身に着けている魔法石のペンダントだ。 トップの魔法石には、エルフの個人情報が登録されている。 術式が組み込まれていて、自動的に個人情報がアップデートされていく。 個人情報が入っている魔法石のお陰で、瑠衣たちの素性が分かった。 子供が生まれると身に付けさせられる。 身の安全とエルフたちを管理する為に。
ペンダントの情報によると、瑠衣たちの集落は『災害』により壊滅した。 二人は親により、事前に逃がされていて、難を逃れていた。 本当に生きていてくれて良かったと心から思った。
優斗の後を追って、エルフへ転生したと言うのに、『災害』に遭い、再会する前に命を失っては元も子もない。 どんな『災害』だったのか優斗は知っているが、瑠衣と仁奈には黙っている様にと、父親から言われている。 時を見て話すと。
そして、優斗も12歳以前の記憶はあるが、前世を思い出してからは、前世の人格の方が強い。 エルフの両親の事は、親だという感覚はちゃんとある。 両親も転生者で、前世でも知り合いだった為、どんな人かも知っている。 前世を思い出してからは、どうしても父、母と呼べないでいた。
こんなに転生者が揃うのは、とても稀だ。 先ずない。 誰の差し金かは考えなくても分かるというものだ。 きっと、主さまが絡んでいるのだろう。 優斗たちの反応を楽しんでいるのだ。
「私たちの事は、どう呼んでもらってもいい。 種族柄、敬称で呼ぶ事はない。 年齢関係なく、名前か愛称で呼ぶしな」
「そうね。 ユウトが産まれて顔を見た時に、前世の記憶が戻るだろうなって思ってたから、ミドルネームにユウトを使った訳だし」
「じゃ、優斗はそのままでいいな。 俺も名前にルイって入ってるし、仁奈はニーナが愛称って事でいいんじゃないか?」
「そうだな」
コソコソと、仁奈に聞こえない様に瑠衣に呟く。
「瑠衣は俺が仁奈って呼んでもいいのか?」
「う~ん、仁奈に対してちゃんやさん付けもおかしいし、俺も華ちゃんって呼んでるしな。 優斗なら許すよ」
「そうか」
(本当は、瑠衣が『華ちゃん』って呼ぶのも、気に食わないんだけどな。 流石にそこまで心の狭い事は言えない)
若干、瑠衣の笑みが硬くて怖かったが、優斗も『華ちゃん』に対して黒い笑みを瑠衣に向けている事に気づいていない。 話し合いにより、名前は統一する事に決めた。 『ほんと、独占欲強すぎだろう』、と自身も同じ事を瑠衣に思われている事に全く気付いていなかった。
朝食の準備も終わり、皆がそれぞれの席に着くと、ログハウスの扉が勢いよく開かれた。 顔を出したのは、10歳くらいの二人の少年。 一人は全身が銀色で、少し透き通っている。 サラサラのおかっぱの髪が綺麗な美少年だ。 本来の姿は主さまの使いで、羽根が生えた銀色のスライムだ。
もう1人は前世でも、今世でも初めての兄弟、優斗の弟だ。 クレオンブロトス・エーリス・タルピオスという。 愛称はクオンだ。 名前に集落の名前が入っているのは、次期代表だという事を示唆している。 優斗が華の家へ婿に行くので、当然の流れである。
「皆、おはよう! フィルと果物、いっぱい取って来たよ!」
「ごくろう、クオン、フィル。 手を洗ってらっしゃい。 果物はジュースにするわね」
母親が果物を受け取り、キッチンへ消える。 クオンとフィルの二人も手を洗う為、キッチンへと競って入って行った。 クオンの容姿は父親似だが、性格は母親似だ。 奔放な母親に似ている事を思うと、将来のエーリスが危ぶまれるが、父親がついていれば大丈夫だろうと納得する事にした。
しかし、母親が前世の時、悪戯で転生の薬を飲んだ事を思い出し、クオンも真似してやらないで欲しいなと心から思った。
因みに父親は、アウトリュコス・エーリス・タルピオスで、愛称はリューだ。 母親はエウリュディケ・タルピオスで、愛称はリュディ。 なので、二人の前世の名前ではなく、リューとリュディと呼ぶ事にした。
全員がテーブルに揃うと、朝食を始める。 ふと全員の顔を見て、ここに華がいない事に寂しさを感じる。 華とフィンは、中央の里にあるグラディアス村で暮らしている。 12で婚約者となったが、成人して一人前になるまで一緒に暮らす事を禁じられているのだ。 今は距離もある為、月に2回ほどしか会えない。 饅頭にかぶりつき、密かに決意する。
(華に会いたい。 早く二人で暮らせるようにしないとな。 正直、遠距離は辛いっ)
今朝の夢の事で、魔力を目覚めさせたくないと思っていた事も忘れ、早く一人前になる為、頑張ろうと気合いを入れた。
(ほんと、全く違うよな。 地球と、カラブリア王国だったかな? 前世で飛ばされた国)
太い幹に取り付けられた螺旋階段を降りながら、いつもと変わらない集落の朝の風景を眺める。 タルピオス家のツリーハウス前の広場には、朝食の屋台も出ていた。 独身者が狩りへ行く前に、朝食を楽しそうにしている様子が見える。 ツリーハウスから見える景色は、優斗のお気に入りだ。
エルフの里は、この世界で3つある大陸の内の1つ、南に位置した大陸を南下し、更に最端の深い森の奥にある。 地図上では森林としか載っていない場所だ。 カラブリア王国と隣接しているが、国との境界に世界樹ダンジョンの深い森がある為、容易には外部の人間は入って来られない。
更には、里を囲う深い森に結界が張り巡らせていて、エルフたちも簡単には行き来出来ない様になっている。 完全に外界と隔離された場所に、エルフの里は隠されている。
優斗が暮らす集落は、エルフの里にある南の里アウステル、ノトス村にいくつかある集落の1つ、集落エーリスだ。 今世の父親は、エーリスの代表を務めている為、エーリスで一番大きなツリーハウスに暮らしている。 もの凄い太い枝を何本も伸ばしている大木には、5棟のログハウスが建てられていた。
太い幹には螺旋階段が取り付けられ、左右交互にあるログハウスへ行き来できるようになっていた。 3段目に作られたログハウスの扉が少し軋んだ音を立てて開く。 3段目のログハウスは、子供部屋として使われている。 優斗が振り返る前に、聞きなれた声がした。
「おはよう、優斗」
「おはよう、瑠衣」
瑠衣と仁奈、二人と世界樹ダンジョンで再会した後、優斗の父親が二人の後見人となり、引き取ってくれた。 フィルとフィン、一角馬の風神も一緒に付いて来た。 瑠衣たちは前世で寿命を全うした後、主さまに掛け合って、優斗たちと同じようにエルフへ転生していた。
優斗の今世の父親は、前世で知り合ったエルフのアンバーが転生したエルフだ。 優斗たちがエルフへ転生した原因でもある。 後見人となった経緯は、瑠衣たちをも巻き込んでエルフへ転生させた事に、多少なりとも申し訳ないと言う気持ちがあるようだ。
「優斗、何か叫んでなかったか? デカい声が聞こえて来たけど」
瑠衣は意地悪な笑みを浮かべてニヤついている。 前世を含め、瑠衣は優斗を揶揄う事が大好きだ。 幼い頃から何かと揶揄われて来たからか、無意識に身体が動く。 ひくりと頬を引き攣らせ、優斗は瑠衣から距離を取った。 夢の話をしたら、絶対に面白がられて揶揄われる事は間違いない。
(経験上、言わない方が得策だな)
「いや、何でもないっ! 叫んでなんてないっ!」
「ふ~ん」
当然だが、瑠衣は納得してない表情だ。 直ぐに、表情を戻した瑠衣は『後で詳しく教えろよ』と先を行き、螺旋階段を軽い足取りで降りていく。 瑠衣の言葉に『え~』と項垂れる優斗の足取りは重い。 昔から瑠衣には、隠し事が出来ない。 いつまでも隠せないだろう事を悟るのだった。
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キッチンの扉が勢いよく開く。 扉から顔を出したのは、優斗の今世の母親と仁奈だった。 二人は、優斗と瑠衣に気づき、明るい声で朝の挨拶をした。
「二人ともおはよう!」
「おはよう! 瑠衣、王子」
仁奈は朝早く起きて、朝食の支度を手伝っていた様だ。 優斗と瑠衣も挨拶を返す。
「おはよう。 鈴木、王子って呼ぶなって。 前世でも散々言ったけど」
優斗の前世でのあだ名が『王子』だった。 本人は『王子』と呼ばれる事を心底、嫌がっていた。 瑠衣が朝の挨拶をした後、申し訳なさそうに優斗の今世の母親に頭を下げる。
「おはよう、仁奈。 おはようございます、セレンさん。 すいません、起きるの遅くて。 俺も手伝います」
「大丈夫よ、気にしなくても。 よく眠れた?」
「はい」
瑠衣が壁際に置いてある食器棚の扉を開く。 陶器製の食器が軽い音を鳴らし、引き出しが擦れる音を響かせる。 取り皿や、引き出しからカトラリーを取り出し、瑠衣がテーブルの上へ並べていく。 優斗も瑠衣に倣い、グラスを食器棚から人数分取り出して、テーブルに並べる。
「ごめん、つい、前世の癖が抜けなくて。 エルフでの12歳以前の記憶がないし、不思議な感じなんだよね」
仁奈は山盛りのサラダを片手に頬をかいている。 瑠衣も頷きながら仁奈に賛同した。
「俺も12歳以前の記憶ないしな。 自分がエルフだっていうのも未だに違和感があるんだよな。 それに優斗だって、仁奈の事を鈴木って呼んだら駄目なんじゃないの? 仁奈の前世での苗字だし」
「あっ」
反対に瑠衣から突っ込まれてしまった。 優斗の方こそ、仁奈の事をどう呼べばいいのか、考えあぐねている。 『仁奈』と呼び捨てにしたら、瑠衣が機嫌を損ねるのは分かり切っている。 だから前世では、誰になんと言われようと、仁奈の事は苗字呼びしてきた。
二人には前世の記憶しかない。 瑠衣と仁奈の故郷は『災害』に遭い、主さまに助けられたのだそうだ。 精神的ショックと前世の記憶が戻った衝撃で、12歳以前の記憶を失くしてしまったらしい。
「呼び名は分かりやすく統一した方がいいよな。 俺と優斗はいいとして、仁奈はなぁ。 エルフの名前ってなんであんなに長いんだ」
今世の瑠衣の名前は、ウィルビウス・ルイという。 ルイは苗字ではなく、ウィルビウス・ルイまでが名前だ。 そういう名づけをする一族なんだそうだ。 瑠衣は平民なので苗字がない。
仁奈の今世の名前は、エウフェミア・アムピオンオルフェイスという。 南の里アウステルの北にあるキュテーラ村、ドリュアスという集落の出身だ。 仁奈の父親はドリュアスの代表をしていたようだ。 瑠衣の今世の父親が、仁奈の今世の父親の補佐官だったらしい。
記憶がない瑠衣と仁奈の素性が分かったのは、里で暮らすエルフ全員が身に着けている魔法石のペンダントだ。 トップの魔法石には、エルフの個人情報が登録されている。 術式が組み込まれていて、自動的に個人情報がアップデートされていく。 個人情報が入っている魔法石のお陰で、瑠衣たちの素性が分かった。 子供が生まれると身に付けさせられる。 身の安全とエルフたちを管理する為に。
ペンダントの情報によると、瑠衣たちの集落は『災害』により壊滅した。 二人は親により、事前に逃がされていて、難を逃れていた。 本当に生きていてくれて良かったと心から思った。
優斗の後を追って、エルフへ転生したと言うのに、『災害』に遭い、再会する前に命を失っては元も子もない。 どんな『災害』だったのか優斗は知っているが、瑠衣と仁奈には黙っている様にと、父親から言われている。 時を見て話すと。
そして、優斗も12歳以前の記憶はあるが、前世を思い出してからは、前世の人格の方が強い。 エルフの両親の事は、親だという感覚はちゃんとある。 両親も転生者で、前世でも知り合いだった為、どんな人かも知っている。 前世を思い出してからは、どうしても父、母と呼べないでいた。
こんなに転生者が揃うのは、とても稀だ。 先ずない。 誰の差し金かは考えなくても分かるというものだ。 きっと、主さまが絡んでいるのだろう。 優斗たちの反応を楽しんでいるのだ。
「私たちの事は、どう呼んでもらってもいい。 種族柄、敬称で呼ぶ事はない。 年齢関係なく、名前か愛称で呼ぶしな」
「そうね。 ユウトが産まれて顔を見た時に、前世の記憶が戻るだろうなって思ってたから、ミドルネームにユウトを使った訳だし」
「じゃ、優斗はそのままでいいな。 俺も名前にルイって入ってるし、仁奈はニーナが愛称って事でいいんじゃないか?」
「そうだな」
コソコソと、仁奈に聞こえない様に瑠衣に呟く。
「瑠衣は俺が仁奈って呼んでもいいのか?」
「う~ん、仁奈に対してちゃんやさん付けもおかしいし、俺も華ちゃんって呼んでるしな。 優斗なら許すよ」
「そうか」
(本当は、瑠衣が『華ちゃん』って呼ぶのも、気に食わないんだけどな。 流石にそこまで心の狭い事は言えない)
若干、瑠衣の笑みが硬くて怖かったが、優斗も『華ちゃん』に対して黒い笑みを瑠衣に向けている事に気づいていない。 話し合いにより、名前は統一する事に決めた。 『ほんと、独占欲強すぎだろう』、と自身も同じ事を瑠衣に思われている事に全く気付いていなかった。
朝食の準備も終わり、皆がそれぞれの席に着くと、ログハウスの扉が勢いよく開かれた。 顔を出したのは、10歳くらいの二人の少年。 一人は全身が銀色で、少し透き通っている。 サラサラのおかっぱの髪が綺麗な美少年だ。 本来の姿は主さまの使いで、羽根が生えた銀色のスライムだ。
もう1人は前世でも、今世でも初めての兄弟、優斗の弟だ。 クレオンブロトス・エーリス・タルピオスという。 愛称はクオンだ。 名前に集落の名前が入っているのは、次期代表だという事を示唆している。 優斗が華の家へ婿に行くので、当然の流れである。
「皆、おはよう! フィルと果物、いっぱい取って来たよ!」
「ごくろう、クオン、フィル。 手を洗ってらっしゃい。 果物はジュースにするわね」
母親が果物を受け取り、キッチンへ消える。 クオンとフィルの二人も手を洗う為、キッチンへと競って入って行った。 クオンの容姿は父親似だが、性格は母親似だ。 奔放な母親に似ている事を思うと、将来のエーリスが危ぶまれるが、父親がついていれば大丈夫だろうと納得する事にした。
しかし、母親が前世の時、悪戯で転生の薬を飲んだ事を思い出し、クオンも真似してやらないで欲しいなと心から思った。
因みに父親は、アウトリュコス・エーリス・タルピオスで、愛称はリューだ。 母親はエウリュディケ・タルピオスで、愛称はリュディ。 なので、二人の前世の名前ではなく、リューとリュディと呼ぶ事にした。
全員がテーブルに揃うと、朝食を始める。 ふと全員の顔を見て、ここに華がいない事に寂しさを感じる。 華とフィンは、中央の里にあるグラディアス村で暮らしている。 12で婚約者となったが、成人して一人前になるまで一緒に暮らす事を禁じられているのだ。 今は距離もある為、月に2回ほどしか会えない。 饅頭にかぶりつき、密かに決意する。
(華に会いたい。 早く二人で暮らせるようにしないとな。 正直、遠距離は辛いっ)
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