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10話

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 チィーガルの街へやって来ましたっ!!

 馬車を乗り継ぎ、鍛治屋の街である聳え立つ三つの火山に囲まれた麓に広がる街に辿り着いた。

 道中は思いの外大変だった。 綾が思っているよりも魔物と遭遇し、馬車を護衛している屈強な冒険者が魔物を全て退治。

 綾も魔物と戦う事を覚悟していたが、ショボイ火魔法を披露する事なく、馬車は街道を駆け抜けた。

 少しくらいは戦ってみたかったという願望は、馬車を襲いくる魔物の形相によって早々に打ち砕かれたのだった。

 絶対にもっと強くなろっ!

 決意を新たにした綾の青い瞳に、三つの火山が見える。

 チィーガルの街は火山の麓に広がっている。 綾が居たサングリエは、火の国フィアンマの丁度中央で広がっている温泉の街だ。

 サングリエの観光地と違い、チィーガルの街に訪れる人々は、火の魔法石と武器を求めてやって来ている様だ。 ガイドブックの説明には、魔法石の鉱山と鉄鉱石が取れる鉱山があると書いてあった。

 フィアンマにはチィーガルとは別の街であるシャンという街もある。 シャンは犬の姿をした精霊が守っている街で、良い土が取れる山が二つあり、食器や陶石の街だ。

 話が逸れたが、チィーガルの街を歩く綾は、周囲の強そうな冒険者を眺めていた。

 「マスター、前を見て歩かないと危ないよ」
 「……うん」

 冒険者の側には、成獣の精霊たちが歩いている。 皆、連れている精霊は一体だけだ。 誰も契約精霊を連れていない。

 「まさかねっ……」

 綾の胸に過ぎる嫌な予感を無理やり奥の方へ押し込み、綺麗に視線を向けた。

 「綺麗、先ずはチィーガルのギルドへ行こう」
 「うん、マスター」
 「それで、契約精霊の情報を見つけないとっ」
 「そんな簡単に見つからないと思うよ」
 「そうみたいだよねぇ、誰も契約精霊を連れてないしっ」
 「それはそうだよ。 世界で契約精霊になれる精霊は12体だけだし、その12体が生まれるのも稀だしね」
 「……」
 「皆んなが連れてたらビックリだよっ。 って、この話、前もしたような気がする
っ」
 「そ、そうっ?」

 二人が話している間に、冒険者ギルドに着いたようだ。 何処の街のギルドも同じ作りで同じデザインの建物になっている。

 ただ、街のシンボルが虎なので、掲げているギルドの紋章に虎を表す紋が入っている。 建物の中央に取り付けられている紋章を見上げ、綾は息を吐いた。

 先ずはギルドに到着報告をする為、ギルドの木製の両扉を開けた。 建て付けがイマイチなのか、冒険者が粗雑に開けるのか、軋んだ音を鳴らした。

 ◇

 チィーガルの火山の一つで過ごしている圭一朗は、ふと何かを感じて見上げた。

 「どうしました? 圭一朗様」
 「うん、今何か感じたんだけど、何か分からないんだ」
 「ほう、そうですかっ」

 律儀に返事を返して来た紫月は、起用に眉を顰め、腑に落ちない表情を浮かべている。 動物はあまり表情が動かないものだと思っていた圭一朗は、転生して考えを改めた。 とても表情豊かで、可愛いらしい。

 まだ、一月も経っていないが、圭一朗の側に侍って来た精霊たちとは、信頼関係が築けて来たと、自負している。

 「圭一朗殿、さぁ、修行の時間だ」

 一体を除いて。

 クロガネが嫌な笑みを浮かべて圭一朗を見つめてくる。 獲物を見つけた猛獣の様だ。

 まぁ、虎も肉食獣だからなっ! だけど、あの視線だけは慣れないなっ、怖すぎるだろっ! 確実に俺を狩る気だろうっ!

 クロガネが身体の筋を伸ばした後、足音を鳴らさずに、四肢が草地を蹴る。

 炎を纏いし剣に魔力を注ぎ、炎を纏わせる。 炎は燃え盛る音を鳴らして揺らぐ。

 クロガネの前足のパンチが圭一朗へ迫る。 炎剣を振り、クロガネの攻撃を交わしたが、背後から迫って来る気配を感じて、圭一朗は左方向へ逃げた。

 背後から迫って来た正体は、クロガネが操る黒い幻影で、いつもは虎の姿、多分だが、クロガネ自身を投影しているはずだ。

 人の姿をした幻影は、なんなとなくだか、シルエットが圭一朗に似ていて、幻影が握る黒い剣は、クロガネの姿を連想するかの様なデザインだった。

 黒の刀身に、金と白の紋様。 厳ついデザインだなっ。

 「幻影って虎だけじゃないのかっ」
 「ええ、そろそろ人との戦い方も学ぶ方が良いだろうと思いまして」

 圭一朗は炎剣を構えながら小さく首を傾げた。

 「でも、俺の姿は魔力の高い者しか見えないんだろう?」
 「そうですね。 姿を隠している状態ならですが。 見せないといけない場面もあるかと思いますので」

 にっこりと笑うクロガネの考えは見えないが、彼の言う通りにした方がいい様な気がして、圭一朗はクロガネに頷いた。

 炎剣と幻影の握る黒い剣が打ち合う音を鳴らした。 金属がぶつかる澄んだ音ではなく、炎がぶつかり合う爆ぜるような音だった。 炎が爆ぜる音は、夕方近くまで鳴り響いた。

 ◇

 「先ずは情報収集よ。 契約精霊について調べないと」
 「…….マスターはそんなに契約精霊に会いたいの?」
 「まぁ、そういうゲームだしね。 それに物凄く美形なんだよ。 虎の精霊っ」
 「へぇ~」

 綺麗の発した声には、なんの感情も乗っでおらず、棒読みの様な音を出した。

 全く興味がない事が分かる反応だ。

 誰に尋ねようかと、周囲を見回していた綾は、ムッと口を尖らせた。

 「何、その興味がありませんって態度はっ」
 「仕方ないじゃない。 実際に興味がないし」
 
 そっぽを向いた綺麗は肩に乗っているのだが、何故か重みが増した。 少しだけ不機嫌にも見える。 ヤキモチを焼いているのかも知れないと思い、綺麗の背中を撫でて宥めて、綾は受付カウンターへ向かった。

 「すみません」

 綾が声を掛けると、机の上に置いてある羊皮紙を見ていた受付嬢が顔を上げた。

 「いらっしゃいませ。 ギルドにご依頼でしょうか?」

 満面な笑みを浮かべる受付嬢に、綾は
苦笑を零した。 幼い容姿の綾は、冒険者には見えない様だ。

 「あの、依頼ではなくて、聞きたい事があるんですがっ」
 
 受付嬢は首を傾げた後、再び満面の笑みを浮かべて対応してくれた。

 「はい、ご用件は何でしょう?」
 「えと、契約精霊の情報を知りたいですっ」
 「契約精霊ですか?」

 暫し考えた後、受付嬢は綾を上から下まで眺めて来た。 強い眼差しに、綾は一歩後ずさった。

 何っ?!

 「貴方様にはまだ早いと思われます。 もう少し大人になったらお越しくださいませ」
 「えっ?!」

 完璧に子供扱いを受けた綾は憤慨した。 幼い顔立ちだが、年齢は成人に達している。 ムッと口を尖らせた。

 再び尋ねようとした時には、もう既に受付嬢は席を離れていた。

 しかし、少し奥に引っ込んでいただけだった為、彼女たちが話している内容が綾の耳に飛び込んできた。

 「ねぇ、あの子の依頼なんだったの?」
 「それが契約精霊の情報を知りたいってっ」
 「えっ! あの子、冒険者だったの?」
 「そうみたいよ」
 「ふ~ん、じゃ、あの子も契約精霊とどうにかなりたい派なのね」

 えっ?! 何それっ! 美形だとしても、ゲームキャラとどうにかなりたいとかないけどっ!

 「じゃ、絶対に教えられないわね。 街の外れにある屋敷にそれらしい精霊がいるって」
 「本当ね」

 受付嬢の話を聞いた綾の脳内にある事が思い出された。 公式サイトに載っていた契約精霊との出会いイベントがある事を。

 「あぁぁぁっ!」

 思わず声を張り上げてしまった綾は、慌てて口を押さえた。

 公式サイトには、契約精霊は悪どい事をしている貴族に捕まっていて、無理やり契約させられているのだ。 プレイヤーたちは悪徳貴族から契約精霊を解放し、救出する。

 何でその事をすっかり忘れてたのっ?! 大事な事だったのにっ。

 他にも忘れていないだろうかと、綾は自身の記憶を探った。 解放イベントは、ゲームの初期に出て来るが、まだ新人冒険者には荷が重いイベントだ。 高いスキルレベルを求められる。

 あっ、スキルレベル6以上推奨って書いてなかったっけ?

 以上という事は、6だと駄目だという事だ。 綾のレベルが今、いくつなのか、ステータス画面が見られない為、全く分からない。

 ちゃんと覚えとけば良かったっ! 最後にアンナウンス聞こえた時、なんて言ってたっけ?

 綾は頭を抱えてしゃがみ込む。 綺麗が肩から床へ降りて、綾の顔を心配そうに覗き込んで来た。

 「マスターっ?」

 カッと青い瞳を見開いた綾は、綺麗を抱き上げ、すっと立ち上がった。

 「うん、今の私のレベルが分からないなら、レベル上げすればいいのよ。 レベルが足らないかも知れないし、よし、綺麗、山へ行くわよっ」
 「えっ?! 契約精霊を探すんじゃなかったの?!」
 「契約精霊に会う為には、一定以上のレベルが必要だって分かったのよ」

 冒険者ギルドを出た綾は、意気揚々と火山に向かった。
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