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40話 『主さまの命令』
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学園に戻ったヴィーは、直ぐに主さまの元へと走った。 主さまはいつものように、医務室で優雅にお茶を飲んでいた。 珍しく令嬢らしくなく、荒々しく医務室の扉を開けた。 急いで走って来たのか、息が荒くなっていた。 主さまはヴィーを見ると、にっこりと微笑み、優しいしわがれた声でヴィーを迎え入れた。
「やあ、ヴィー。 おはよう、朝からそんなに急いでどうしたんだい?」
ごくっと喉を鳴らすと、深呼吸して主さまを見つめた。
「主さまの言う通り、フォルナ―ラ様の浄化の魔法を見てきました」
「そう、それでヴィーは、そんな顔をしてるんだね」
「主さまは、知ってたのではないですか? あれは浄化の魔法ではありません」
切羽詰まった様子のヴィーを見ると、主さまは苦笑を零した。 ヴィーをソファーに促し、紅茶の用意をした。 何処からともなく、お茶セットとお菓子が現れる。 今日のお菓子は、白くて丸いもっちとした感じの生菓子だった。
「さぁ、食べて。 美味しいよ」
ホークを刺すと主さまは白くて丸いお菓子を齧った。 白い皮が少し、びよ~んと伸びた。 中に赤茶色の何かとイチゴが一粒入っている。 主さまは美味しそうに咀嚼していた。 今はお菓子を食べる気分ではないのだが、主さまが美味しそうにお菓子を頬張る様子に、ヴィーは生唾をごくんを飲み込んだ。 意識が大分、お菓子に持っていかれている。 目の前で見た事のないはずのお菓子を、何故か知っている様な気がした。
ヴィーは自身の前に差し出されたお菓子を恐る恐る口にした。 赤茶色の甘くてしっとりとした食感と、イチゴの甘酸っぱい味が絶妙に口の中に広がり、白くてもちっとした感触がとても合っていた。
「ん~~~~っ! 何ですかこれ? すっごい美味しいっ!」
「これはね、『イチゴ大福』って言うんだよ」
「『イチゴ大福』ですか? 初めて聞くお菓子です」
ヴィーは先程の切羽詰まった気持ちも忘れ、初めて食べるお菓子を堪能した。
「少しは落ち着いたかな?」
チラリと黒蝶を見ると、主さまは話し出した。
「ヴィーの言う通り、彼女の力は浄化魔法ではないよ。 ヴィーには視えたと思うんだけど、あのまま瘴気を吸い込み続けると、彼女の力は暴走して耐えられなくなって、周囲を巻き込んで大災害になる」
主さまの話にヴィーの目が大きく開かれた。
「えっ?! 大変じゃないですか! 止めさせないとっ!」
ヴィーは、ローテーブルに手をついて立ち上がった。 主さまがニヤリと笑うと、ここに居ないはずの声が2人の耳に届いた。
「それは、無理だと思うよ」
医務室の床に黒い煙幕の転送魔法陣が現れ、ネロの姿が転送された。 ネロは厳しい目を主さまに向けている。 居ないと思っていた人物が現れ、ヴィーは飛び上がって驚いた。
「ネロ様っ!! どうしてここに?!」
ネロが目線だけで黒蝶を見た事で、ヴィーは思い出した。 いつもそばに居る黒蝶は、ネロの黒蝶だった事を。 ヴィーの瞳に表情が抜けて『ああ』と呟いた。
(そうだった。 ネロ様は私の事を見張ってるんだった)
ヴィーの白い目に、ネロの瞳が妖しく光った。
「ファラは、主さまがこれから話す事を、私には言わなさそうだったからね。 押しかけて来た」
「えっ」
「そうだね。 私は、ヴィーにフォルナ―ラ嬢を浄化してもらおうと思ってるからね。 ヴィーなら王子に言わないかもね。 人間を浄化するなんて危険極まりないからね」
「ええええええええっ!!」
(フォルナ―ラ様を浄化ってどういう事!! そんな事して大丈夫なの?! いや、でもあのまま放置は出来ないわ。 今でも淀んだ瘴気が溜まっていってるんだし)
「やっぱりそうなんですね。 主さまは最初からそのつもりでファラをっ」
主さまは、片手を上げてネロの言葉を遮った。
「彼女が今の力を自ら手に入れたんだよ。 その結果、暴走して広範囲に被害が起きる。 それは止めないと駄目だからね。 それに、今は浄化できないでしょ? 司祭側が許さないだろうし、認めない」
ネロが言葉を詰まらせた音が鳴った。
「王国側も、今、彼女の力を失くしてしまうのは不本意だろう。 瘴気を出す結界石が暴走しそうになっているしね。 でも、フォルナ―ラ嬢が暴走するのは、時間の問題だよ。 フォルナ―ラ嬢と巡業に行くのだろう? 彼女を浄化するチャンスだね♪」
「主さまっ!!」
「これは命令だよ。 ヴィー、フォルナ―ラ嬢を浄化しなさい」
主さまの非情な決断にヴィーは恐怖で震えた。 ヴィーの魂の奥が熱く震えるのが分かった。 学園の授業が始まる鐘が鳴り、話はここまでと主さまに促され、医務室を追い出されてしまった。 隣でネロも厳しい表情を崩さなかった。
――学園の放課後、ネロは王に呼び出されていた。
ネロはフォルナ―ラの話を王に話すかどうか迷っていた。 執務室で待ってのは、王だけではなく、アルバもいた。 王は厳しい表情でネロとアルバに言った。
「来週にもお前たちにはカーナへ行ってもらう。 ルカにも要請したが、レベッカが反対してな。 あれは癇癪を起すと止まらんから、今回はルカを同行させない事にした。 ルカは行きたがったんだがな」
アルバが呆れた声を出した。
「父上は何故、あの人を第二夫人に娶ったんです? 私なら」
「アルバ、そこまでにしておけ」
ネロに諫められ、アルバは口をつぐんだ。 父王は別段気にしていない様で、話を続けた。
「それと、ヴィオレッタ嬢とエルヴェーラ嬢、『愛し子』も同行させろ。 結界石を浄化したのち、新たな結界石を設置してくれ。 カーナも広い、手分けして結界石を設置するんだ」
「「御意」」
「魔物もかなり増えているそうだ。 2人とも、充分気を付けるように」
「はい、必ずや魔物の暴走を阻止致します」
王が大きく頷くと、退室を促され、ネロとアルバは執務室を後にした。 離宮に続く廊下を歩いていると、アルバがネロを伺うようにチラチラと見て来た。
「なんだ? アルバ」
「いや、ずっと眉間に皺が寄ってるなって思ってな。 何か心配事?」
「アルバ、よく見てるな」
「まぁね。 で、何かあった?」
言わない事にしようかと思ったが、もしカーナでフォルナ―ラが暴走をしたら、皆を巻き込む事になると思い、アルバだけには伝える事にした。
「それ、やばくないか?! ヴィオレッタ嬢が危険じゃないか。 フォルナ―ラ嬢がどうでもいいけど」
ネロは自分もどうでもいいと思っているが、堂々と宣ったアルバに白い目を向けた。 アルバは肩を竦めただけだった。
「フォルナ―ラ嬢が暴走する可能性は充分にあるんだ。 父上に話しても、きっと利用するだけ利用して、ファラに浄化させるに違いない。 でも、私もそう思っている所もある。 そんな自分が嫌なだけなんだ」
「ネロ でも、ヴィオレッタ嬢もそれは分かってるんじゃないか? それに、頼まれなくてもやりそうだしな。 訊く所によると、ヴィオレッタ嬢って主さまの指示書は疑問も持たずに、危険なのも気づかずに行ってしまうんだろ?」
「ああ、だから余計に心配なんだ」
ネロは今後の事を思い、深く溜め息を吐いた。
医務室では主さまが1人紅茶を飲んでいた。 相変わらず書類は山の様に机に積まれている。 窓際に座り、学園から聞こえる生徒たちの声に耳を傾けていた。 紅茶の水面にヴィーの顔が映し出されていた。 ヴィーの表情は憂いを帯びていた。
(ごめんね、ヴィー。 命令なんて言って。 でもね、遅かれ早かれ、彼女は浄化はしないと駄目なんだよ。 浄化が上手く行けば、アメリアがヴィーの中で覚醒する。 そうなれば、アメリアが生まれてくるのも早くなるるし、ヴィーと彼女の不の連鎖も断ち切れる。 ヴィーを利用してるなんてバレたら嫌われるかな)
「嫌だな、ヴィーには嫌われたくないな」
紅茶の水面に波紋が拡がると、ヴィー姿が歪んで消えていった。
――カーナへ行く日は直ぐに来た。
ネロからカーナへ行く日付を聞き、ヴィーは緊張していた。 魔物討伐も初めてだ。 少しマシになったというが、まだ苦手なフォルナ―ラとも一緒に行動しないといけない。 そして、今、まさに目の前でネロにすり寄るフォルナ―ラを眺めていた。
「殿下に守ってもらえるなんて、嬉しいですわ。 私、背一杯頑張ります」
ネロは貼り付けた笑顔でフォルナ―ラを引き離し、にこやかに言った。
「いえ、王家の者のとして当たり前です」
ネロの背中から珍しく、黒い靄が出ていて殺気が混じっている。 殺気が混じっている黒い靄を目の前にしても、ファルナーラは楽しそうにきゃきゃうふふと騒いでる。 2人の様子を見たヴィーは、頬を引き攣らせていた。
(すごいっ! あんなに近づくなオーラが出てるのにっ! 私なら絶対に近づくのも無理っ! 怖すぎだわ、フォルナ―ラ様っ)
ネロの隠し切れない殺気に気づかないフォルナ―ラの様子に、周囲の者たちはネロの笑顔に内心で震えていた。 ヴィーはネロのそばから離れないフォルナ―ラをじっと視た。 背中からモクモクと黒い煙幕が現れると、チビ煙幕が描き出される。 チビ煙幕は、前に視た時よりも淀んだ瘴気を吸い込んでいた。
主さまの言う通り、暴走するのも時間の問題だと思われた。 ヴィーは、この巡業内でフォルナ―ラを浄化する事を覚悟しなければならないと考えだしていた。
(いや、主さまの命令だし、やらないといけないんだけどね。 覚悟がいる上に、出来るかどうかも分からないよ!! 主さまは、フォルナ―ラ様に触れるだけでいいって言ってたけれどっ)
主さまからの人生で一番の無茶ぶりに頭を抱えるヴィーだった。 人間を浄化する事に頭を抱えているヴィーとは裏腹に、フォルナ―ラは、ネロとアルバを落とすチャンスだと思っていた。 それぞれの想いが混在する魔物討伐隊は、カーナへと出発した。
「やあ、ヴィー。 おはよう、朝からそんなに急いでどうしたんだい?」
ごくっと喉を鳴らすと、深呼吸して主さまを見つめた。
「主さまの言う通り、フォルナ―ラ様の浄化の魔法を見てきました」
「そう、それでヴィーは、そんな顔をしてるんだね」
「主さまは、知ってたのではないですか? あれは浄化の魔法ではありません」
切羽詰まった様子のヴィーを見ると、主さまは苦笑を零した。 ヴィーをソファーに促し、紅茶の用意をした。 何処からともなく、お茶セットとお菓子が現れる。 今日のお菓子は、白くて丸いもっちとした感じの生菓子だった。
「さぁ、食べて。 美味しいよ」
ホークを刺すと主さまは白くて丸いお菓子を齧った。 白い皮が少し、びよ~んと伸びた。 中に赤茶色の何かとイチゴが一粒入っている。 主さまは美味しそうに咀嚼していた。 今はお菓子を食べる気分ではないのだが、主さまが美味しそうにお菓子を頬張る様子に、ヴィーは生唾をごくんを飲み込んだ。 意識が大分、お菓子に持っていかれている。 目の前で見た事のないはずのお菓子を、何故か知っている様な気がした。
ヴィーは自身の前に差し出されたお菓子を恐る恐る口にした。 赤茶色の甘くてしっとりとした食感と、イチゴの甘酸っぱい味が絶妙に口の中に広がり、白くてもちっとした感触がとても合っていた。
「ん~~~~っ! 何ですかこれ? すっごい美味しいっ!」
「これはね、『イチゴ大福』って言うんだよ」
「『イチゴ大福』ですか? 初めて聞くお菓子です」
ヴィーは先程の切羽詰まった気持ちも忘れ、初めて食べるお菓子を堪能した。
「少しは落ち着いたかな?」
チラリと黒蝶を見ると、主さまは話し出した。
「ヴィーの言う通り、彼女の力は浄化魔法ではないよ。 ヴィーには視えたと思うんだけど、あのまま瘴気を吸い込み続けると、彼女の力は暴走して耐えられなくなって、周囲を巻き込んで大災害になる」
主さまの話にヴィーの目が大きく開かれた。
「えっ?! 大変じゃないですか! 止めさせないとっ!」
ヴィーは、ローテーブルに手をついて立ち上がった。 主さまがニヤリと笑うと、ここに居ないはずの声が2人の耳に届いた。
「それは、無理だと思うよ」
医務室の床に黒い煙幕の転送魔法陣が現れ、ネロの姿が転送された。 ネロは厳しい目を主さまに向けている。 居ないと思っていた人物が現れ、ヴィーは飛び上がって驚いた。
「ネロ様っ!! どうしてここに?!」
ネロが目線だけで黒蝶を見た事で、ヴィーは思い出した。 いつもそばに居る黒蝶は、ネロの黒蝶だった事を。 ヴィーの瞳に表情が抜けて『ああ』と呟いた。
(そうだった。 ネロ様は私の事を見張ってるんだった)
ヴィーの白い目に、ネロの瞳が妖しく光った。
「ファラは、主さまがこれから話す事を、私には言わなさそうだったからね。 押しかけて来た」
「えっ」
「そうだね。 私は、ヴィーにフォルナ―ラ嬢を浄化してもらおうと思ってるからね。 ヴィーなら王子に言わないかもね。 人間を浄化するなんて危険極まりないからね」
「ええええええええっ!!」
(フォルナ―ラ様を浄化ってどういう事!! そんな事して大丈夫なの?! いや、でもあのまま放置は出来ないわ。 今でも淀んだ瘴気が溜まっていってるんだし)
「やっぱりそうなんですね。 主さまは最初からそのつもりでファラをっ」
主さまは、片手を上げてネロの言葉を遮った。
「彼女が今の力を自ら手に入れたんだよ。 その結果、暴走して広範囲に被害が起きる。 それは止めないと駄目だからね。 それに、今は浄化できないでしょ? 司祭側が許さないだろうし、認めない」
ネロが言葉を詰まらせた音が鳴った。
「王国側も、今、彼女の力を失くしてしまうのは不本意だろう。 瘴気を出す結界石が暴走しそうになっているしね。 でも、フォルナ―ラ嬢が暴走するのは、時間の問題だよ。 フォルナ―ラ嬢と巡業に行くのだろう? 彼女を浄化するチャンスだね♪」
「主さまっ!!」
「これは命令だよ。 ヴィー、フォルナ―ラ嬢を浄化しなさい」
主さまの非情な決断にヴィーは恐怖で震えた。 ヴィーの魂の奥が熱く震えるのが分かった。 学園の授業が始まる鐘が鳴り、話はここまでと主さまに促され、医務室を追い出されてしまった。 隣でネロも厳しい表情を崩さなかった。
――学園の放課後、ネロは王に呼び出されていた。
ネロはフォルナ―ラの話を王に話すかどうか迷っていた。 執務室で待ってのは、王だけではなく、アルバもいた。 王は厳しい表情でネロとアルバに言った。
「来週にもお前たちにはカーナへ行ってもらう。 ルカにも要請したが、レベッカが反対してな。 あれは癇癪を起すと止まらんから、今回はルカを同行させない事にした。 ルカは行きたがったんだがな」
アルバが呆れた声を出した。
「父上は何故、あの人を第二夫人に娶ったんです? 私なら」
「アルバ、そこまでにしておけ」
ネロに諫められ、アルバは口をつぐんだ。 父王は別段気にしていない様で、話を続けた。
「それと、ヴィオレッタ嬢とエルヴェーラ嬢、『愛し子』も同行させろ。 結界石を浄化したのち、新たな結界石を設置してくれ。 カーナも広い、手分けして結界石を設置するんだ」
「「御意」」
「魔物もかなり増えているそうだ。 2人とも、充分気を付けるように」
「はい、必ずや魔物の暴走を阻止致します」
王が大きく頷くと、退室を促され、ネロとアルバは執務室を後にした。 離宮に続く廊下を歩いていると、アルバがネロを伺うようにチラチラと見て来た。
「なんだ? アルバ」
「いや、ずっと眉間に皺が寄ってるなって思ってな。 何か心配事?」
「アルバ、よく見てるな」
「まぁね。 で、何かあった?」
言わない事にしようかと思ったが、もしカーナでフォルナ―ラが暴走をしたら、皆を巻き込む事になると思い、アルバだけには伝える事にした。
「それ、やばくないか?! ヴィオレッタ嬢が危険じゃないか。 フォルナ―ラ嬢がどうでもいいけど」
ネロは自分もどうでもいいと思っているが、堂々と宣ったアルバに白い目を向けた。 アルバは肩を竦めただけだった。
「フォルナ―ラ嬢が暴走する可能性は充分にあるんだ。 父上に話しても、きっと利用するだけ利用して、ファラに浄化させるに違いない。 でも、私もそう思っている所もある。 そんな自分が嫌なだけなんだ」
「ネロ でも、ヴィオレッタ嬢もそれは分かってるんじゃないか? それに、頼まれなくてもやりそうだしな。 訊く所によると、ヴィオレッタ嬢って主さまの指示書は疑問も持たずに、危険なのも気づかずに行ってしまうんだろ?」
「ああ、だから余計に心配なんだ」
ネロは今後の事を思い、深く溜め息を吐いた。
医務室では主さまが1人紅茶を飲んでいた。 相変わらず書類は山の様に机に積まれている。 窓際に座り、学園から聞こえる生徒たちの声に耳を傾けていた。 紅茶の水面にヴィーの顔が映し出されていた。 ヴィーの表情は憂いを帯びていた。
(ごめんね、ヴィー。 命令なんて言って。 でもね、遅かれ早かれ、彼女は浄化はしないと駄目なんだよ。 浄化が上手く行けば、アメリアがヴィーの中で覚醒する。 そうなれば、アメリアが生まれてくるのも早くなるるし、ヴィーと彼女の不の連鎖も断ち切れる。 ヴィーを利用してるなんてバレたら嫌われるかな)
「嫌だな、ヴィーには嫌われたくないな」
紅茶の水面に波紋が拡がると、ヴィー姿が歪んで消えていった。
――カーナへ行く日は直ぐに来た。
ネロからカーナへ行く日付を聞き、ヴィーは緊張していた。 魔物討伐も初めてだ。 少しマシになったというが、まだ苦手なフォルナ―ラとも一緒に行動しないといけない。 そして、今、まさに目の前でネロにすり寄るフォルナ―ラを眺めていた。
「殿下に守ってもらえるなんて、嬉しいですわ。 私、背一杯頑張ります」
ネロは貼り付けた笑顔でフォルナ―ラを引き離し、にこやかに言った。
「いえ、王家の者のとして当たり前です」
ネロの背中から珍しく、黒い靄が出ていて殺気が混じっている。 殺気が混じっている黒い靄を目の前にしても、ファルナーラは楽しそうにきゃきゃうふふと騒いでる。 2人の様子を見たヴィーは、頬を引き攣らせていた。
(すごいっ! あんなに近づくなオーラが出てるのにっ! 私なら絶対に近づくのも無理っ! 怖すぎだわ、フォルナ―ラ様っ)
ネロの隠し切れない殺気に気づかないフォルナ―ラの様子に、周囲の者たちはネロの笑顔に内心で震えていた。 ヴィーはネロのそばから離れないフォルナ―ラをじっと視た。 背中からモクモクと黒い煙幕が現れると、チビ煙幕が描き出される。 チビ煙幕は、前に視た時よりも淀んだ瘴気を吸い込んでいた。
主さまの言う通り、暴走するのも時間の問題だと思われた。 ヴィーは、この巡業内でフォルナ―ラを浄化する事を覚悟しなければならないと考えだしていた。
(いや、主さまの命令だし、やらないといけないんだけどね。 覚悟がいる上に、出来るかどうかも分からないよ!! 主さまは、フォルナ―ラ様に触れるだけでいいって言ってたけれどっ)
主さまからの人生で一番の無茶ぶりに頭を抱えるヴィーだった。 人間を浄化する事に頭を抱えているヴィーとは裏腹に、フォルナ―ラは、ネロとアルバを落とすチャンスだと思っていた。 それぞれの想いが混在する魔物討伐隊は、カーナへと出発した。
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