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38話 『『神の愛し子』を捧げる儀式』
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『ごめんなさいっ』と叫ぶヴィーの声が、居間に響き渡った。 ヴィーたちは、領主館に戻っていた。 ネロの黒い笑顔に、ヴィーは肩を小さく震わせていた。
「ファラ、どうして何も言わずに森に行ったの?」
ネロの追及に『うっ』とヴィーは声を詰まらせた。
「申し訳ございません! ネロ様」
ネロのわざとらしい溜め息にヴィーは追い詰められ、益々、言葉を詰まらせた。 ヴィーはこれまで、主さまの指示書を1人でこなしてきた。 誰かと一緒に取り組むという事は、考えもしなかったのだ。
「主さまの事だから、安全だと思ってたの?」
ヴィーは素直にこくんと頷いた。
「申し訳ございません、危ない時は助けてくれていましたので。 主さまが私を危険な目に遭わせる訳ないと思い込んでいました。 それに、今回で分かった事があります。 私の浄化の力は、窮地に立たないと発動しないみたいです」
「今は、まだね。 諦めたら駄目だよ。 もう、謝らなくていいから、今後は必ず、私に報告して欲しい。 1人で危ない目に遭わないで」
「はいっ」
ヴィーたちは結界石の巡業を終え、主さまの宿題もクリアし、無事に王都へと戻って行った。 ヴィーたちが戻る日は、アルバたちも戻って来る。 春休暇は残り2日、1日は『神の愛し子』を創造主に捧げる儀式が執り行われる。
――王都に戻って来たネロは、父に呼び出されていた。
王の執務室に向かっていると、ネロの前を歩くアルバの背中が見えた。 ネロは歩く速度を早めてアルバに追いつく。 近づいて来る背後の足音に気づいたアルバが振り返ると、深緑色の瞳が親し気に細められた。
「よう、ネロ。 久しぶりだな」
「ああ、アルバも父上に呼ばれたのか?」
「そんなところ。 もの凄い嫌な予感がするけどね」
話しながら王の執務室に続く廊下を歩いていると、突然、王の執務室の扉が乱暴に開けられた。 ネロとアルバは思わず、足を止めた。 中から出て来たのは、第三王子で弟王子のルカだった。
「僕は絶対に嫌ですからね! 父上!」
珍しく大きな声を上げて抗議しているルカを、ネロとアルバは唖然として見つめた。 隣でアルバが息を呑む音が聞こえた。
「珍しいな、ルカがあんなに大きな声を出すなんて」
「ああ、私もとても嫌な予感がして来たよ」
ネロとアルバの嫌な予感は当たった。 父王からもたらされた話に、ネロとアルバは深い溜め息を吐いた。
「マッティア、ジュリオ。 お前たちはこれから『神の愛し子』の巡業について行ってもらう」
「は?」
アルバが間抜けな声をだした。 ネロは冷ややかな瞳で父王を見据え、低い声を出した。
「どういう事ですか? 父上」
「司祭から提案があってな。 持ち運びできる大きさの結界石は、タルテから持ち帰った結界を使用して、王都に送られて来る。 持ち込めない結界石の場合は、こちらから日程を調整して『神の愛し子』に浄化しに行ってもらう。 お前たちの同行は『神の愛し子』の要望でもある。 で、ヴィオレッタ嬢も同行させようと思っている」
父王の意味深な視線に、不満ながらもネロは父王の意見を承諾した。
(なるほど、フォルナ―ラ嬢の浄化の力を見極めろって事か)
「了承しました」
「えええええええっ!」
アルバは不満の声を上げた。
「で、ルカにはどんな話をしたんですか?」
「ああ、ルカか。 どうやら、レベッカがルカに『神の愛し子』を宛がおうとしているみたいでな。 レベッカには、無理だと言ってあるんだけどな。 『神の愛し子』も乗り切らしくてな」
王は深い溜め息を吐いて、眉間に皺を寄せた。
「明日は、儀式だ。 『神の愛し子』を創造主に捧げる。 私は、誰にも『神の愛し子』と婚姻させるつもりはない。 何があってもな。 それは『神の愛し子』にも、レベッカにも理解させる」
「それと、マッティア、ジュリオ。 新学期早々悪いが、カーナへの出兵を命じる。 準備が出来次第、カーナへ行ってくれ」
「「御意」」
――『神の愛し子』を創造主に捧げる儀式は、滞りなく行われた。
この儀式を境に『神の愛し子』は、創造主と限られた男性以外の男性を避けなければいけない。 儀式を受けるフォルナ―ラの表情は、不満を露わにしていた。 通常通りの儀式ならば、投影魔道具を使用し、国中に中継されるが、急な事だった為、パレードなども用意されなかった。 今、フォルナ―ラは純白のドレスに身を包み、祭壇を見つめている。
(何でもっと大々的にしないのよっ!!)
大聖堂で行われた儀式は、静寂に包まれていた。 フォルナ―ラは祭壇までの道をゆっくりと歩く。 祭壇の前で膝まづき、司祭が古代語で祝詞を謳う。 すると、フォルナ―ラが膝まづいた床に転送魔法陣が展開され、瞬きの間に転送されていった。
眩い光に包まれたかと思うと、光りが治まり、硬く閉じていた瞼を開けた。 フォルナ―ラの視界には、真っ白い世界が広がっていた。 真っ白い世界には、誰1人居なかった。
「えっ! 誰もいなんですけどっ?! 司祭様の説明だと、神様が待っているのよね?! 何で誰も居ないの?!」
ひらりとフォルナ―ラの目の前に羊皮紙が落ちて来た。 羊皮紙には、古代語で文字が書かれており、フォルナ―ラには何が書いてあるのか分からなかった。
「何これ?」
フォルナ―ラが羊皮紙を手に取ると、再び床に転送魔法陣が展開され、瞬きの間に転送されていった。
――ヴィーは新学期が始まり、また主さまの手伝いの為、放課後に医務室で籠る事になった。
「主さまは、私が窮地に立たないと、浄化の力が働かない事、分かってたんですね」
ソファーで休憩をしていた主さまが『ん?』と首を傾げた。 にっこりと微笑む主さまに、ヴィーは目を細めて疑わし気に見つめた。
「主さま」
『ふふ』と笑うと主さまはヴィーの意見に頷いた。
「そうだね。 でも、ヴィーなら直ぐに出来るようになると思うよ」
「そうですかねぇ。 まだ、小さい物も無理なんですよ」
「練習あるのみだね」
ヴィーは主さまに訊きたかった事を尋ねた。
「主さま、儀式どうでした?」
主さまは目を開くと、不思議そうにヴィーを見つめた。
「また、雑な振りだね。 どうって何が?」
「主さまの花嫁ですよ。 言わば結婚式みたいなものですよね?」
「ん~、あの儀式は、色々と人間たちとの間に齟齬があってね」
何やら主さまは、要点を得ない様だった。 暫く黙っていたが、にっこり微笑んで、これ以上突っ込むなという笑みを浮かべた。 主さまの笑みにヴィーは頬を引き攣らせた。
チラリと黒蝶を見ると、主さまは笑みを浮かべる。
「ふふ、花嫁なんて本当は要らないんだけどね」
「えっ?」
「だってね。 人間側が勝手に決めた事なんだよ」
主さまは、首を傾げながら宣った。
「ええっ、でも、色々と主さま以外の男性と近づいてはいけないとか、他にも色々と制約がありますよね?」
主さまは何とも言えない表情でヴィーを見つめた。
(何か要点を得ないわね。 何か知られたくない事があるのかしら?)
「会ったんですよね、フォルナ―ラ様と。 儀式で主さまの所まで転送されるって聞きましたけど?」
「会ってないよ。 花嫁なんて要らないって言ったでしょ。 儀式の日は、ここに居たからね。 だから、手紙を置いて来たよ」
にっこりといい笑顔を浮かべた。
「それはっ」
ヴィーは、フォルナ―ラの性格を思い出し、何とも言えない表情をした。 きっと、怒ってるんじゃなかろうかと、フォルナ―ラが主さまの住処で暴れている様子を思い浮かべた。 ヴィーのフォルナ―ラの印象も大分偏っている。
主さまがフォルナ―ラに寄せた手紙の内容はというと。
『やぁ、一応、創造主だよ。 花嫁は間に合っているから、君は君のしたい事をしたらいいよ。 じゃね』
喧嘩を売っているかの様な手紙の内容だった。 フォルナ―ラは王子たちに加え、主さまにも振られて怒り心頭だった。 主さまの手紙は、第二夫人には知られない様にしていたにも関わらず、何処からか漏れた。 第二夫人の『神の愛し子』をルカにと、押す声が大きくなっていく事になる。
「主さまっ。 中々に罪作りですねっ」
今後は、フォルナ―ラとの巡業がある事を知らないヴィーは、主さまを怪し気に見ていた。
――学園でのネロとの昼食
ネロから思わぬことを聞かされ、ヴィーはあんぐりと口を開けた。 いつもの学園の中庭のガゼボで、ネロと一緒に昼食を取っていた。 最近、ソフィアは婚約者のエドとお昼を摂っているので、一緒に居ない。
ヴィーと2人っきりになりたいネロが、エドを脅してソフィアとお昼を摂らせているのは、内緒だ。 ヴィーはホッとサンドを食べ終わり、デザートのプティングを口に含むところだった。
「えっ? もう一度、言ってもらえますか?」
「うん、だからね。 今後の巡業だけど、フォルナ―ラ嬢も一緒に同行する事になったんだよ。 結界石の浄化と結界石の設置を一緒にすれば、一石二鳥だからね。 でも、場合によっては、別々になるし、私かアルバの方かについて来る事になる。 それにこれは王命なんだ」
ネロも心底嫌そうな表情をしていた。
「そうですか。 陛下の命令でしたら仕方ないですね」
(ああ、やっぱり嫌な予感が当たった)
「それで、準備が整ったら、カーナへ出兵しなくてはならないんだ。 まだ、いつかは決まってないけど。 突然、何も告げに行く事になるかもしれないから、それだけは理解して置いて」
「はい、分かりました」
ヴィ―はネロの話に、大きく頷いた。 フォルナ―ラは今、大聖堂に送られてきた結界石を浄化しているらしい。 調整がついたら、初の浄化の巡業を行うのだと。
「それと、来月にある魔術大会の準備があって、また忙しくなってしまうんだよね」
「はい、了承しました。 結構、色々とやる事があるんですね? ネロ様も魔術大会に出るんですか?」
「うん、立場上出ないと駄目なんだ。 何も起こらなければだけどね」
「頑張ってください。 私、応援します!」
「ファラも何かしらに出ないと駄目だよ」
「えっ! 私、魔術は全く得意ではないのですけどっ」
「じゃ、今度、私と魔術の練習をしよう」
にっこりと笑うネロの魔術の授業は、とてもスパルタそうだと、ヴィーの瞳が泳いでいる。 話が終わり、一口含んだ大好きなプティングの味が無くなってしまった。
「お手柔らかにお願いしますっ」
ネロは『ふふ』と意地悪な笑みを浮かべるだけだった。 ヴィーは楽しそうなネロを見て、小さく息を吐いた。
「ファラ、どうして何も言わずに森に行ったの?」
ネロの追及に『うっ』とヴィーは声を詰まらせた。
「申し訳ございません! ネロ様」
ネロのわざとらしい溜め息にヴィーは追い詰められ、益々、言葉を詰まらせた。 ヴィーはこれまで、主さまの指示書を1人でこなしてきた。 誰かと一緒に取り組むという事は、考えもしなかったのだ。
「主さまの事だから、安全だと思ってたの?」
ヴィーは素直にこくんと頷いた。
「申し訳ございません、危ない時は助けてくれていましたので。 主さまが私を危険な目に遭わせる訳ないと思い込んでいました。 それに、今回で分かった事があります。 私の浄化の力は、窮地に立たないと発動しないみたいです」
「今は、まだね。 諦めたら駄目だよ。 もう、謝らなくていいから、今後は必ず、私に報告して欲しい。 1人で危ない目に遭わないで」
「はいっ」
ヴィーたちは結界石の巡業を終え、主さまの宿題もクリアし、無事に王都へと戻って行った。 ヴィーたちが戻る日は、アルバたちも戻って来る。 春休暇は残り2日、1日は『神の愛し子』を創造主に捧げる儀式が執り行われる。
――王都に戻って来たネロは、父に呼び出されていた。
王の執務室に向かっていると、ネロの前を歩くアルバの背中が見えた。 ネロは歩く速度を早めてアルバに追いつく。 近づいて来る背後の足音に気づいたアルバが振り返ると、深緑色の瞳が親し気に細められた。
「よう、ネロ。 久しぶりだな」
「ああ、アルバも父上に呼ばれたのか?」
「そんなところ。 もの凄い嫌な予感がするけどね」
話しながら王の執務室に続く廊下を歩いていると、突然、王の執務室の扉が乱暴に開けられた。 ネロとアルバは思わず、足を止めた。 中から出て来たのは、第三王子で弟王子のルカだった。
「僕は絶対に嫌ですからね! 父上!」
珍しく大きな声を上げて抗議しているルカを、ネロとアルバは唖然として見つめた。 隣でアルバが息を呑む音が聞こえた。
「珍しいな、ルカがあんなに大きな声を出すなんて」
「ああ、私もとても嫌な予感がして来たよ」
ネロとアルバの嫌な予感は当たった。 父王からもたらされた話に、ネロとアルバは深い溜め息を吐いた。
「マッティア、ジュリオ。 お前たちはこれから『神の愛し子』の巡業について行ってもらう」
「は?」
アルバが間抜けな声をだした。 ネロは冷ややかな瞳で父王を見据え、低い声を出した。
「どういう事ですか? 父上」
「司祭から提案があってな。 持ち運びできる大きさの結界石は、タルテから持ち帰った結界を使用して、王都に送られて来る。 持ち込めない結界石の場合は、こちらから日程を調整して『神の愛し子』に浄化しに行ってもらう。 お前たちの同行は『神の愛し子』の要望でもある。 で、ヴィオレッタ嬢も同行させようと思っている」
父王の意味深な視線に、不満ながらもネロは父王の意見を承諾した。
(なるほど、フォルナ―ラ嬢の浄化の力を見極めろって事か)
「了承しました」
「えええええええっ!」
アルバは不満の声を上げた。
「で、ルカにはどんな話をしたんですか?」
「ああ、ルカか。 どうやら、レベッカがルカに『神の愛し子』を宛がおうとしているみたいでな。 レベッカには、無理だと言ってあるんだけどな。 『神の愛し子』も乗り切らしくてな」
王は深い溜め息を吐いて、眉間に皺を寄せた。
「明日は、儀式だ。 『神の愛し子』を創造主に捧げる。 私は、誰にも『神の愛し子』と婚姻させるつもりはない。 何があってもな。 それは『神の愛し子』にも、レベッカにも理解させる」
「それと、マッティア、ジュリオ。 新学期早々悪いが、カーナへの出兵を命じる。 準備が出来次第、カーナへ行ってくれ」
「「御意」」
――『神の愛し子』を創造主に捧げる儀式は、滞りなく行われた。
この儀式を境に『神の愛し子』は、創造主と限られた男性以外の男性を避けなければいけない。 儀式を受けるフォルナ―ラの表情は、不満を露わにしていた。 通常通りの儀式ならば、投影魔道具を使用し、国中に中継されるが、急な事だった為、パレードなども用意されなかった。 今、フォルナ―ラは純白のドレスに身を包み、祭壇を見つめている。
(何でもっと大々的にしないのよっ!!)
大聖堂で行われた儀式は、静寂に包まれていた。 フォルナ―ラは祭壇までの道をゆっくりと歩く。 祭壇の前で膝まづき、司祭が古代語で祝詞を謳う。 すると、フォルナ―ラが膝まづいた床に転送魔法陣が展開され、瞬きの間に転送されていった。
眩い光に包まれたかと思うと、光りが治まり、硬く閉じていた瞼を開けた。 フォルナ―ラの視界には、真っ白い世界が広がっていた。 真っ白い世界には、誰1人居なかった。
「えっ! 誰もいなんですけどっ?! 司祭様の説明だと、神様が待っているのよね?! 何で誰も居ないの?!」
ひらりとフォルナ―ラの目の前に羊皮紙が落ちて来た。 羊皮紙には、古代語で文字が書かれており、フォルナ―ラには何が書いてあるのか分からなかった。
「何これ?」
フォルナ―ラが羊皮紙を手に取ると、再び床に転送魔法陣が展開され、瞬きの間に転送されていった。
――ヴィーは新学期が始まり、また主さまの手伝いの為、放課後に医務室で籠る事になった。
「主さまは、私が窮地に立たないと、浄化の力が働かない事、分かってたんですね」
ソファーで休憩をしていた主さまが『ん?』と首を傾げた。 にっこりと微笑む主さまに、ヴィーは目を細めて疑わし気に見つめた。
「主さま」
『ふふ』と笑うと主さまはヴィーの意見に頷いた。
「そうだね。 でも、ヴィーなら直ぐに出来るようになると思うよ」
「そうですかねぇ。 まだ、小さい物も無理なんですよ」
「練習あるのみだね」
ヴィーは主さまに訊きたかった事を尋ねた。
「主さま、儀式どうでした?」
主さまは目を開くと、不思議そうにヴィーを見つめた。
「また、雑な振りだね。 どうって何が?」
「主さまの花嫁ですよ。 言わば結婚式みたいなものですよね?」
「ん~、あの儀式は、色々と人間たちとの間に齟齬があってね」
何やら主さまは、要点を得ない様だった。 暫く黙っていたが、にっこり微笑んで、これ以上突っ込むなという笑みを浮かべた。 主さまの笑みにヴィーは頬を引き攣らせた。
チラリと黒蝶を見ると、主さまは笑みを浮かべる。
「ふふ、花嫁なんて本当は要らないんだけどね」
「えっ?」
「だってね。 人間側が勝手に決めた事なんだよ」
主さまは、首を傾げながら宣った。
「ええっ、でも、色々と主さま以外の男性と近づいてはいけないとか、他にも色々と制約がありますよね?」
主さまは何とも言えない表情でヴィーを見つめた。
(何か要点を得ないわね。 何か知られたくない事があるのかしら?)
「会ったんですよね、フォルナ―ラ様と。 儀式で主さまの所まで転送されるって聞きましたけど?」
「会ってないよ。 花嫁なんて要らないって言ったでしょ。 儀式の日は、ここに居たからね。 だから、手紙を置いて来たよ」
にっこりといい笑顔を浮かべた。
「それはっ」
ヴィーは、フォルナ―ラの性格を思い出し、何とも言えない表情をした。 きっと、怒ってるんじゃなかろうかと、フォルナ―ラが主さまの住処で暴れている様子を思い浮かべた。 ヴィーのフォルナ―ラの印象も大分偏っている。
主さまがフォルナ―ラに寄せた手紙の内容はというと。
『やぁ、一応、創造主だよ。 花嫁は間に合っているから、君は君のしたい事をしたらいいよ。 じゃね』
喧嘩を売っているかの様な手紙の内容だった。 フォルナ―ラは王子たちに加え、主さまにも振られて怒り心頭だった。 主さまの手紙は、第二夫人には知られない様にしていたにも関わらず、何処からか漏れた。 第二夫人の『神の愛し子』をルカにと、押す声が大きくなっていく事になる。
「主さまっ。 中々に罪作りですねっ」
今後は、フォルナ―ラとの巡業がある事を知らないヴィーは、主さまを怪し気に見ていた。
――学園でのネロとの昼食
ネロから思わぬことを聞かされ、ヴィーはあんぐりと口を開けた。 いつもの学園の中庭のガゼボで、ネロと一緒に昼食を取っていた。 最近、ソフィアは婚約者のエドとお昼を摂っているので、一緒に居ない。
ヴィーと2人っきりになりたいネロが、エドを脅してソフィアとお昼を摂らせているのは、内緒だ。 ヴィーはホッとサンドを食べ終わり、デザートのプティングを口に含むところだった。
「えっ? もう一度、言ってもらえますか?」
「うん、だからね。 今後の巡業だけど、フォルナ―ラ嬢も一緒に同行する事になったんだよ。 結界石の浄化と結界石の設置を一緒にすれば、一石二鳥だからね。 でも、場合によっては、別々になるし、私かアルバの方かについて来る事になる。 それにこれは王命なんだ」
ネロも心底嫌そうな表情をしていた。
「そうですか。 陛下の命令でしたら仕方ないですね」
(ああ、やっぱり嫌な予感が当たった)
「それで、準備が整ったら、カーナへ出兵しなくてはならないんだ。 まだ、いつかは決まってないけど。 突然、何も告げに行く事になるかもしれないから、それだけは理解して置いて」
「はい、分かりました」
ヴィ―はネロの話に、大きく頷いた。 フォルナ―ラは今、大聖堂に送られてきた結界石を浄化しているらしい。 調整がついたら、初の浄化の巡業を行うのだと。
「それと、来月にある魔術大会の準備があって、また忙しくなってしまうんだよね」
「はい、了承しました。 結構、色々とやる事があるんですね? ネロ様も魔術大会に出るんですか?」
「うん、立場上出ないと駄目なんだ。 何も起こらなければだけどね」
「頑張ってください。 私、応援します!」
「ファラも何かしらに出ないと駄目だよ」
「えっ! 私、魔術は全く得意ではないのですけどっ」
「じゃ、今度、私と魔術の練習をしよう」
にっこりと笑うネロの魔術の授業は、とてもスパルタそうだと、ヴィーの瞳が泳いでいる。 話が終わり、一口含んだ大好きなプティングの味が無くなってしまった。
「お手柔らかにお願いしますっ」
ネロは『ふふ』と意地悪な笑みを浮かべるだけだった。 ヴィーは楽しそうなネロを見て、小さく息を吐いた。
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