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第四十一話 『魔物がいるよっ!』
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馬車に乗り込んで来たのはライナーだった。 ウェズナーは座席を立ち、馬車の後方へ後ずさった。
「……ライナー様っ」
「ウェナ、久しぶりだな」
ライナーの鋭い視線からウェズナーは、恐ろしくて目を逸らした。 ライナーから舌打ちが落ち、嫌でも嫌立ちが現れる。
「学園でも俺を無視しやがって、さっさと帰るしっ」
「そ、それは……課題が多くてっ」
ニヤリと意地悪な笑みを浮かべたライナーは、更にウェズナーを追い詰めてくる。
「そう言えば、ジルの分も課題をやっているだったな。 婚約者なんだから、今度から俺の分の課題もやってくれよ」
「えっ……」
「ロイヴェリクが持っているロイヤルフレンズを盗のに失敗するし……薬は売れたけど、高位貴族の奴らは俺の分まではロイヤルフレンズを用意する気ないだろうしな」
「……」
(ロイヤルフレンズって、最近、学園で噂になっている文具類……王子が配っていて、ジルが欲しがってたっ)
ライナーの言葉を流してしまったが、脳内で反芻した。
「ロイヴェリク様が持っているロイヤルフレンズを盗もうとしたの?」
(……また、薬を売ったって……)
「あぁ、知らなかったのか? ジルも関わってるだろう? 違法薬物の売買に」
ウェズナーの身体が小刻みに震える。
「ライナー様、貴方も薬の件に関わっているのっ?!」
「どうだろうな? 俺は兎も角、ジルは深い所まで関わってるだろうな」
嫌な笑みに、ライナーが何かを企んでいる事が分かった。
「わ、私に何をさせたいの?」
「察しが良くて助かるよ。 簡単な事だ、ロイヴェリクのロイヤルフレンズを盗んで来い。 拒否したら、ジルが違法薬物に加担している事を王宮に告発する」
「本気なの?」
「当たり前だ。 あいつにどれだけ煮湯を飲まされたかっ。 それに、ウェナ、お前が士官希望なのは知っている。 俺とも婚約破棄したがっている事もな」
「……っ」
「だけど、薬の事がバレたらお前の夢も泡と消えるな。 あの男が言っていた身の破滅とお家断絶だ」
ライナーは面白そうに嗤っている。
「分かったなら言う通りにしろ」
ウェズナーの返事を聞かず、ライナーは馬車を降り、自身が御者を気絶させたにも関わらず、如何にも盗賊から助けた風を装い、気絶した御者に説明していた。
ウェズナーは直ぐに考えがまとまらなかった。
(ライナー様は、あんなにも危険思想がある人だったっ? 私の事が嫌いでも、ジルには好意を抱いてはずなのにっ)
幼い頃のライナーはとても大人しい少年だった。 武術や剣術などを習い、祝福を授かってからは少しづつ自信がついて、活発な少年に変わっていったと思っていた。
「ロイヴェリク様からロイヤルフレンズを盗むなんて出来ないっ。 でも、違法薬物の事を知られたらっ」
ウェズナーの脳裏でアルフが言った言葉が浮かぶ。
『僕は貴方の笑顔が見たいです。 出来れば、友人となり、貴方の愛称を呼びたいです』
『魔導書』
ウェズナーの手に魔導書が現れる。 魔導書が開かれ、ページが捲られていく。
開かれたページには、友人に相談しようと、魔法では無く、最もな事が綴られていた。
「……友人、私はロイヴェリク様の友人なのかなっ」
ウェズナーの瞳から涙が一粒、閉じた魔導書の表紙に落ちた。
◇
アルフの元へ、御者から盗賊に遭い、ライナーに助けられたと報告が上がって来た。
そして、馬車に乗っていたのはウェズナーだった事も報告された。
「ウェズナー嬢が乗っていたの? 怪我はしていない?」
「はい、何処も怪我をされていません」
「若様」
図書室で今後の事業の話し合いをしていたアルフは顔を顰めた。
アルフとグランが考えている事は一致している。
「うん、怪しいね」
「はい、最近は盗賊もあらかた片付けましたし、ロイヴェリク家の街道では出ていません」
グランの説明にアルフも大きく頷く。
「何かあったのかな」
「ヴィーズ伯爵令嬢の元へ行きますか?」
「えっ、う~ん。 僕は行ってもいいのかな?」
「若様はオーナーですから、下宿している生徒が危険な目に遭ったんです。 見舞うのは当然かと」
「そ、そうだよねっ、見舞うくらいはいいよねっ」
「どうされたんです? 若様」
挙動不審なアルフを眺め、首を傾げた。
「あ、でも、今日の盗賊の事は詳しく調べてくれる?」
「畏まりました」
しかし、ウェズナーの元へ見舞いに行く事は叶わなかった。 ウェズナーが頑なに拒否したからだ。
「やっぱり、ライナー氏と何かあったのかも知れない」
「はい、盗賊に被害に遭った事は話したくないのかもしれませんね。 モナに頼んでみましょう。 女性同士ですし」
「うん、そうだね。 マルタも一緒にいた方がいいだろう。 ウェズナー嬢の担当のメイドだし」
「はい、畏まりました」
ウェズナーの元へモナを送り込んだが、玉砕して帰って来た。
戻ってくるなり、モナは深く頭を下げた。 眉尻を下げて肩を落としている。
「申し訳ありません、若様。 門前払いでしたっ」
「そうかっ」
「彼女が話す気になるまで待つしかないですね」
「そうだね」
アルフは大きく息を吐き出した。
しかし、ずっと拒否して来たウェズナーがアルフの部屋でなら話をすると、マルタを通して伝えに来た。
「えっ、ウェズナー嬢が僕の部屋に来るの?」
「はい」
ノルベルトは、マルタが伝えて来た話をそのまま報告して来た。
「そう、今までずっと話したくないって言っていたのにっ」
「ええ、少し気持ちが落ち着いたのかも知れませんね」
「ならいいんだけど」
アルフの部屋へやって来たウェズナーは、全身が震えていた。 しかも、誰から聞きつけたのか、トゥール達も押し掛けて来ていたからだ。
(これじゃ、まともな話は聞けないなっ)
◇
アルフが盗賊の件で、ライナーの話を裏取りする為、ウェズナーに話を聞きたいと、ずっと面会を求めて来ていたが、ウェズナーは断っていた。
アルフの顔を見る事が出来ないからだ。
しかし、ウェズナーの部屋へやって来たジルフィアによって覆された。
「いいじゃない、会ってあげなさいよ。 それでライナーの勇姿でも語ってあげなさい」
「……でも、盗賊なんて嘘だし、御者を気絶させたのはライナー様だからっ」
小さく息を吐いたジルフィアは、腕を組んで顎を上げた。 ウェズナーを見つめるジルフィアの眼差しは、『馬鹿な子』と物語っている。
「いいから、文句言わずにライナーから頼まれた事をやりなさいよっ!」
「……どうして、知っているのっ」
「ライナーから聞いたからよ。 どうしてもロイヤルフレンズが欲しいんですって」
「……なら、商会に注文をっ」
乾いた音がウェズナーの頬で鳴らされた。
ここ数日、マルタにはメイドの仕事を断っていた。 今日はウェズナーを助けてくれる者は誰一人いない。
ジルフィアは突然、知らせずにやって来る。
「あんたは口答えせずに、私の言う通りにしなさいっ」
「……ジルっ、もしかして貴方もライナー様に脅されているの?」
「はぁ?、何の話? 私がライナー如きに脅される訳ないでしょう」
ジルフィアの表情は、物凄く不本意だと言っている。 ジルフィアはライナーから脅されてはいない様だ。
「……そう」
「別にいいじゃない、全部のロイヤルフレンズを盗んで来なんて、言ってないでしょう? そうね、カフスかクラバットの留金でいいんじゃない」
ジルフィアは簡単に他人の物を盗んで来いと言ったのだ。
「ウェナ、これが最後よ。 拒否をしたら父親と同じ状態にしてもいいのよ」
実家にいる父親が脳裏に浮かぶ。
ジルフィアの祝福は『乙女』という能力だ。 能力は人を惑わす幻影魔法の様な物で、名前とは真逆で、乙女とは言い難い能力だ。
(何故、あんな能力が乙女なんて名前なのか分からないけどっ。 お父様の様にはなりたくないわっ。 家を出て独り立ちする事も出来なくなるっ)
父親は今では、ジルフィアの言いなりで、ずっとジルフィアだけを見つめている。
強く握りしめていた拳を緩めた。
「……分かったわっ、言う通りにするわっ」
「次、本当に反抗する様なら、あんたの大事な物も私の物するわよ」
小さく嗤ったジルフィアは、ウェズナーが片付けた課題を受け取り、部屋を出て行った。
息を吐き出したウェズナーは、メイド達が詰めている使用人部屋に聞こえる鈴を鳴らした。
直ぐにマルタがやって来て、アルフと面会したいと伝える。 マルタはウェズナーの様子に気づく事なく、直ぐにアルフの元へ走った。
ウェズナーの願いは聞き遂げられ、翌日の学園が終わった後に、アルフの部屋へ訪れる事になった。
◇
突然、頑なに面会を拒んで居たウェズナーから会いたいと伝えられ、アルフは内心では喜んでいた。
「若様、顔に出ていますよ。 貴族は、感情を表に出してはいけません。 侮られますし、揚げ足を取られます」
「アルフは特に分かりやすいですよね」
マゼルが苦笑を溢す。
「そんなに顔に出てた?」
「ええ、何かいい事があったと顔に出てますっ」
「しょうがないよ、元平民だし」
「今は貴族ですので、努力して下さい」
「はいっ」
教室移動で実習室へ向かう途中の会話である。
『アルフは、トゥールとかグラン、ノルベルトを参考にしたらいいよ』
「久々に出て来て、第一声がそれなんだ」
軽い音を鳴らしてアルフの右肩に乗る。
『アルフ、あっちに怪しい気配がするよっ。 魔物かも知れないっ!』
王都という場所と、学園内である事を踏まえると、主さまモドキが言う魔物がいる訳がない。
しかし、主さまモドキはアルフの肩を掴み飛びながら引っ張って行く。
今までに、主さまモドキがした事がない行動に呆気に取られていたアルフは、簡単に引っ張って行かれた。
(何処にそんな力があるんだっ!)
三頭身で身長は15センチくらいだ。
主さまモドキに引っ張って連れられて行くアルフをグランが追いかけ、二人の後をマゼルが追いかけて行った。
校舎裏に辿り着いた主さまモドキが突然に止まった。 主さまモドキの背中がアルフの鼻にぶつかる。
アルフから情けない声が上がった。
「若様、大丈夫ですか?」
「う、うん。 ちょっと、ツーンって来たっ……」
「わぁ、アルフ、大丈夫っ?」
後を引く痛み、青い瞳に涙が滲む。
『しっ! 静かにっ、ほら、魔物がいるよっ!』
校舎の裏の奥を覗き見している主さまモドキが真剣な顔でアルフ達を注意する。
取り敢えず、言われたと通り、そっと覗き見る。 本当に魔物が居たら大変な事になる。
アルフ達の視界に入ったのは、自称トゥールの取り巻きの高位貴族と、ジルフィアだった。
(うん、主さまモドキ、言葉遊びが過ぎるよっ)
「ある意味で、魔物だねっ」
「ですね」
「そうですね」
皆の意見が一致した。
(こんな所で何をしているんだ?)
彼らは何かを囲み、何事か言っている様だった。
「いいか、ちゃんと盗んで来いよ。 この間は失敗して、捕まった僕のコマ使いが戻って来ないんだっ」
(ん? コマ使い?)
アルフ達の耳がダンボになる。 また、何か悪巧みをしようとしている様だ。
(しかし、何で何時もアイツらが悪巧みしている所を目撃するんだっ)
「……分かりましたっ」
彼らが囲んでいる中心から、小さくてか細い声が聞こえて来た。 聞き覚えのある声だ。
「奴が持っているロイヤルフレンズを全部盗んで来い。 今日、学園が終わったら、奴の部屋で会うんだろう?」
「……全部っ? カフスとクラバットの留金だけなんじゃ」
「駄目だ。 全部だ。 奴の管理能力を疑われる状態を作るんだっ」
「俺たちはあいつの所為で小遣いを減らされて、ロイヤルフレンズを買えないんだっ! 奴が持っているロイヤルフレンズは俺たちの物になるはずだったんだっ」
アルフ達は呆れて物が言えなかった。
完璧な逆恨みだ。 甲高い声が校舎裏に響く。
「いいから全部、盗んで来なさいっ! 昨日、言った事、忘れてないでしょう?」
ジルフィアに一括され、ウェズナーは漸く頷いた様だ。
彼らはウェズナーに念押しをした後、校舎へ向かって歩いて行った。
アルフは直ぐに、ウェズナーの側へ走って行った。
「ウェズナー嬢っ」
「ロイヴェリク様っ」
アルフの表情で今、話していた事を見られたと悟ったのだろう。 ウェズナーの顔が青ざめる。
「大丈夫だ。 ウェズナー嬢はまだ何もしていない。 脅されていたのは見たから分かっている」
「……っ」
「こうなったら全て話してもらいますよ、ヴィーズ伯爵令嬢」
グランに詰め寄られ、ウェズナーの身体が跳ねる。
「待て、グラン。 ウェズナー嬢を怯えさせるな」
「……っ」
恐怖で固まるウェズナーを見て、グランは一歩、後ろに下がった。
「申し訳ありません。 ヴィーズ伯爵令嬢、怯えさせてしまって申し訳ありません」
「……あっ、いえ」
ウェズナーは消えいる声でグランの詫びに答えた。 ウェズナーの様子では、今は何も聞けないだろう事を悟った。
「ウェズナー嬢、約束通り。 今日、学園が終わった後、面会しましょう。 これは、下宿屋のオーナーとしての命令です」
俯いて制服の裾を握りしめたウェズナーは、小さく頷いた。
「……ライナー様っ」
「ウェナ、久しぶりだな」
ライナーの鋭い視線からウェズナーは、恐ろしくて目を逸らした。 ライナーから舌打ちが落ち、嫌でも嫌立ちが現れる。
「学園でも俺を無視しやがって、さっさと帰るしっ」
「そ、それは……課題が多くてっ」
ニヤリと意地悪な笑みを浮かべたライナーは、更にウェズナーを追い詰めてくる。
「そう言えば、ジルの分も課題をやっているだったな。 婚約者なんだから、今度から俺の分の課題もやってくれよ」
「えっ……」
「ロイヴェリクが持っているロイヤルフレンズを盗のに失敗するし……薬は売れたけど、高位貴族の奴らは俺の分まではロイヤルフレンズを用意する気ないだろうしな」
「……」
(ロイヤルフレンズって、最近、学園で噂になっている文具類……王子が配っていて、ジルが欲しがってたっ)
ライナーの言葉を流してしまったが、脳内で反芻した。
「ロイヴェリク様が持っているロイヤルフレンズを盗もうとしたの?」
(……また、薬を売ったって……)
「あぁ、知らなかったのか? ジルも関わってるだろう? 違法薬物の売買に」
ウェズナーの身体が小刻みに震える。
「ライナー様、貴方も薬の件に関わっているのっ?!」
「どうだろうな? 俺は兎も角、ジルは深い所まで関わってるだろうな」
嫌な笑みに、ライナーが何かを企んでいる事が分かった。
「わ、私に何をさせたいの?」
「察しが良くて助かるよ。 簡単な事だ、ロイヴェリクのロイヤルフレンズを盗んで来い。 拒否したら、ジルが違法薬物に加担している事を王宮に告発する」
「本気なの?」
「当たり前だ。 あいつにどれだけ煮湯を飲まされたかっ。 それに、ウェナ、お前が士官希望なのは知っている。 俺とも婚約破棄したがっている事もな」
「……っ」
「だけど、薬の事がバレたらお前の夢も泡と消えるな。 あの男が言っていた身の破滅とお家断絶だ」
ライナーは面白そうに嗤っている。
「分かったなら言う通りにしろ」
ウェズナーの返事を聞かず、ライナーは馬車を降り、自身が御者を気絶させたにも関わらず、如何にも盗賊から助けた風を装い、気絶した御者に説明していた。
ウェズナーは直ぐに考えがまとまらなかった。
(ライナー様は、あんなにも危険思想がある人だったっ? 私の事が嫌いでも、ジルには好意を抱いてはずなのにっ)
幼い頃のライナーはとても大人しい少年だった。 武術や剣術などを習い、祝福を授かってからは少しづつ自信がついて、活発な少年に変わっていったと思っていた。
「ロイヴェリク様からロイヤルフレンズを盗むなんて出来ないっ。 でも、違法薬物の事を知られたらっ」
ウェズナーの脳裏でアルフが言った言葉が浮かぶ。
『僕は貴方の笑顔が見たいです。 出来れば、友人となり、貴方の愛称を呼びたいです』
『魔導書』
ウェズナーの手に魔導書が現れる。 魔導書が開かれ、ページが捲られていく。
開かれたページには、友人に相談しようと、魔法では無く、最もな事が綴られていた。
「……友人、私はロイヴェリク様の友人なのかなっ」
ウェズナーの瞳から涙が一粒、閉じた魔導書の表紙に落ちた。
◇
アルフの元へ、御者から盗賊に遭い、ライナーに助けられたと報告が上がって来た。
そして、馬車に乗っていたのはウェズナーだった事も報告された。
「ウェズナー嬢が乗っていたの? 怪我はしていない?」
「はい、何処も怪我をされていません」
「若様」
図書室で今後の事業の話し合いをしていたアルフは顔を顰めた。
アルフとグランが考えている事は一致している。
「うん、怪しいね」
「はい、最近は盗賊もあらかた片付けましたし、ロイヴェリク家の街道では出ていません」
グランの説明にアルフも大きく頷く。
「何かあったのかな」
「ヴィーズ伯爵令嬢の元へ行きますか?」
「えっ、う~ん。 僕は行ってもいいのかな?」
「若様はオーナーですから、下宿している生徒が危険な目に遭ったんです。 見舞うのは当然かと」
「そ、そうだよねっ、見舞うくらいはいいよねっ」
「どうされたんです? 若様」
挙動不審なアルフを眺め、首を傾げた。
「あ、でも、今日の盗賊の事は詳しく調べてくれる?」
「畏まりました」
しかし、ウェズナーの元へ見舞いに行く事は叶わなかった。 ウェズナーが頑なに拒否したからだ。
「やっぱり、ライナー氏と何かあったのかも知れない」
「はい、盗賊に被害に遭った事は話したくないのかもしれませんね。 モナに頼んでみましょう。 女性同士ですし」
「うん、そうだね。 マルタも一緒にいた方がいいだろう。 ウェズナー嬢の担当のメイドだし」
「はい、畏まりました」
ウェズナーの元へモナを送り込んだが、玉砕して帰って来た。
戻ってくるなり、モナは深く頭を下げた。 眉尻を下げて肩を落としている。
「申し訳ありません、若様。 門前払いでしたっ」
「そうかっ」
「彼女が話す気になるまで待つしかないですね」
「そうだね」
アルフは大きく息を吐き出した。
しかし、ずっと拒否して来たウェズナーがアルフの部屋でなら話をすると、マルタを通して伝えに来た。
「えっ、ウェズナー嬢が僕の部屋に来るの?」
「はい」
ノルベルトは、マルタが伝えて来た話をそのまま報告して来た。
「そう、今までずっと話したくないって言っていたのにっ」
「ええ、少し気持ちが落ち着いたのかも知れませんね」
「ならいいんだけど」
アルフの部屋へやって来たウェズナーは、全身が震えていた。 しかも、誰から聞きつけたのか、トゥール達も押し掛けて来ていたからだ。
(これじゃ、まともな話は聞けないなっ)
◇
アルフが盗賊の件で、ライナーの話を裏取りする為、ウェズナーに話を聞きたいと、ずっと面会を求めて来ていたが、ウェズナーは断っていた。
アルフの顔を見る事が出来ないからだ。
しかし、ウェズナーの部屋へやって来たジルフィアによって覆された。
「いいじゃない、会ってあげなさいよ。 それでライナーの勇姿でも語ってあげなさい」
「……でも、盗賊なんて嘘だし、御者を気絶させたのはライナー様だからっ」
小さく息を吐いたジルフィアは、腕を組んで顎を上げた。 ウェズナーを見つめるジルフィアの眼差しは、『馬鹿な子』と物語っている。
「いいから、文句言わずにライナーから頼まれた事をやりなさいよっ!」
「……どうして、知っているのっ」
「ライナーから聞いたからよ。 どうしてもロイヤルフレンズが欲しいんですって」
「……なら、商会に注文をっ」
乾いた音がウェズナーの頬で鳴らされた。
ここ数日、マルタにはメイドの仕事を断っていた。 今日はウェズナーを助けてくれる者は誰一人いない。
ジルフィアは突然、知らせずにやって来る。
「あんたは口答えせずに、私の言う通りにしなさいっ」
「……ジルっ、もしかして貴方もライナー様に脅されているの?」
「はぁ?、何の話? 私がライナー如きに脅される訳ないでしょう」
ジルフィアの表情は、物凄く不本意だと言っている。 ジルフィアはライナーから脅されてはいない様だ。
「……そう」
「別にいいじゃない、全部のロイヤルフレンズを盗んで来なんて、言ってないでしょう? そうね、カフスかクラバットの留金でいいんじゃない」
ジルフィアは簡単に他人の物を盗んで来いと言ったのだ。
「ウェナ、これが最後よ。 拒否をしたら父親と同じ状態にしてもいいのよ」
実家にいる父親が脳裏に浮かぶ。
ジルフィアの祝福は『乙女』という能力だ。 能力は人を惑わす幻影魔法の様な物で、名前とは真逆で、乙女とは言い難い能力だ。
(何故、あんな能力が乙女なんて名前なのか分からないけどっ。 お父様の様にはなりたくないわっ。 家を出て独り立ちする事も出来なくなるっ)
父親は今では、ジルフィアの言いなりで、ずっとジルフィアだけを見つめている。
強く握りしめていた拳を緩めた。
「……分かったわっ、言う通りにするわっ」
「次、本当に反抗する様なら、あんたの大事な物も私の物するわよ」
小さく嗤ったジルフィアは、ウェズナーが片付けた課題を受け取り、部屋を出て行った。
息を吐き出したウェズナーは、メイド達が詰めている使用人部屋に聞こえる鈴を鳴らした。
直ぐにマルタがやって来て、アルフと面会したいと伝える。 マルタはウェズナーの様子に気づく事なく、直ぐにアルフの元へ走った。
ウェズナーの願いは聞き遂げられ、翌日の学園が終わった後に、アルフの部屋へ訪れる事になった。
◇
突然、頑なに面会を拒んで居たウェズナーから会いたいと伝えられ、アルフは内心では喜んでいた。
「若様、顔に出ていますよ。 貴族は、感情を表に出してはいけません。 侮られますし、揚げ足を取られます」
「アルフは特に分かりやすいですよね」
マゼルが苦笑を溢す。
「そんなに顔に出てた?」
「ええ、何かいい事があったと顔に出てますっ」
「しょうがないよ、元平民だし」
「今は貴族ですので、努力して下さい」
「はいっ」
教室移動で実習室へ向かう途中の会話である。
『アルフは、トゥールとかグラン、ノルベルトを参考にしたらいいよ』
「久々に出て来て、第一声がそれなんだ」
軽い音を鳴らしてアルフの右肩に乗る。
『アルフ、あっちに怪しい気配がするよっ。 魔物かも知れないっ!』
王都という場所と、学園内である事を踏まえると、主さまモドキが言う魔物がいる訳がない。
しかし、主さまモドキはアルフの肩を掴み飛びながら引っ張って行く。
今までに、主さまモドキがした事がない行動に呆気に取られていたアルフは、簡単に引っ張って行かれた。
(何処にそんな力があるんだっ!)
三頭身で身長は15センチくらいだ。
主さまモドキに引っ張って連れられて行くアルフをグランが追いかけ、二人の後をマゼルが追いかけて行った。
校舎裏に辿り着いた主さまモドキが突然に止まった。 主さまモドキの背中がアルフの鼻にぶつかる。
アルフから情けない声が上がった。
「若様、大丈夫ですか?」
「う、うん。 ちょっと、ツーンって来たっ……」
「わぁ、アルフ、大丈夫っ?」
後を引く痛み、青い瞳に涙が滲む。
『しっ! 静かにっ、ほら、魔物がいるよっ!』
校舎の裏の奥を覗き見している主さまモドキが真剣な顔でアルフ達を注意する。
取り敢えず、言われたと通り、そっと覗き見る。 本当に魔物が居たら大変な事になる。
アルフ達の視界に入ったのは、自称トゥールの取り巻きの高位貴族と、ジルフィアだった。
(うん、主さまモドキ、言葉遊びが過ぎるよっ)
「ある意味で、魔物だねっ」
「ですね」
「そうですね」
皆の意見が一致した。
(こんな所で何をしているんだ?)
彼らは何かを囲み、何事か言っている様だった。
「いいか、ちゃんと盗んで来いよ。 この間は失敗して、捕まった僕のコマ使いが戻って来ないんだっ」
(ん? コマ使い?)
アルフ達の耳がダンボになる。 また、何か悪巧みをしようとしている様だ。
(しかし、何で何時もアイツらが悪巧みしている所を目撃するんだっ)
「……分かりましたっ」
彼らが囲んでいる中心から、小さくてか細い声が聞こえて来た。 聞き覚えのある声だ。
「奴が持っているロイヤルフレンズを全部盗んで来い。 今日、学園が終わったら、奴の部屋で会うんだろう?」
「……全部っ? カフスとクラバットの留金だけなんじゃ」
「駄目だ。 全部だ。 奴の管理能力を疑われる状態を作るんだっ」
「俺たちはあいつの所為で小遣いを減らされて、ロイヤルフレンズを買えないんだっ! 奴が持っているロイヤルフレンズは俺たちの物になるはずだったんだっ」
アルフ達は呆れて物が言えなかった。
完璧な逆恨みだ。 甲高い声が校舎裏に響く。
「いいから全部、盗んで来なさいっ! 昨日、言った事、忘れてないでしょう?」
ジルフィアに一括され、ウェズナーは漸く頷いた様だ。
彼らはウェズナーに念押しをした後、校舎へ向かって歩いて行った。
アルフは直ぐに、ウェズナーの側へ走って行った。
「ウェズナー嬢っ」
「ロイヴェリク様っ」
アルフの表情で今、話していた事を見られたと悟ったのだろう。 ウェズナーの顔が青ざめる。
「大丈夫だ。 ウェズナー嬢はまだ何もしていない。 脅されていたのは見たから分かっている」
「……っ」
「こうなったら全て話してもらいますよ、ヴィーズ伯爵令嬢」
グランに詰め寄られ、ウェズナーの身体が跳ねる。
「待て、グラン。 ウェズナー嬢を怯えさせるな」
「……っ」
恐怖で固まるウェズナーを見て、グランは一歩、後ろに下がった。
「申し訳ありません。 ヴィーズ伯爵令嬢、怯えさせてしまって申し訳ありません」
「……あっ、いえ」
ウェズナーは消えいる声でグランの詫びに答えた。 ウェズナーの様子では、今は何も聞けないだろう事を悟った。
「ウェズナー嬢、約束通り。 今日、学園が終わった後、面会しましょう。 これは、下宿屋のオーナーとしての命令です」
俯いて制服の裾を握りしめたウェズナーは、小さく頷いた。
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そうして神と色々話した後、気がつくと
ベビーベッドの上だった!?
官僚が異世界転生!?今開幕!
小説書き初心者なのでご容赦ください
読者の皆様のご指摘を受けながら日々勉強していっております。作者の成長を日々見て下さい。よろしくお願いいたします。
処女作なので最初の方は登場人物のセリフの最後に句点があります。ご了承ください。
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