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第ニ十九話 『面白い祝福』
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「では、こちらの賃貸契約書にサインして下さい。」
一番若い者が前に進み出た。 しかし、彼からは戸惑いがあり、ペンも持ち慣れていない様に感じた。
(もしかして文字が書けないのかな?)
「ノルベルト」
「はい、若様」
『もしかして文字を書けないことってある?』と小声でノルベルトに確認をした。
「そうですね。 この方たちは農村の出身ですのでありえますね。 若様は孤児院で勉強されたと思いますが、農村地区では識字率が低い場所があります」
『でも、アルフ。 彼は面白い祝福を授かっているよ』
「えっ、彼って誰?」
『一番、後ろにいる彼だよ。 彼の祝福は、傾聴記憶だ』
「何それ」
『聞いたものことを記憶できる能力だね。 彼には嘘をつけないと思うよ。 彼は全て覚えているから、誤魔化しが効かない。 あ、しかも記憶した事を文字に起こせるんだ。 しかも、ちょっと面白い文字の起こし方だ。 彼、面白いね』
「それも検索で出て来たの?」
『うん、そうだよ。 変なのが混ざってら危ないでしょ?』
「流石、主さまモドキ様です」
ノルベルトはいい笑顔で褒めると、主さまモドキは、『えっへん』と可愛らしく胸を張った。 そして、ノルベルトは興味深そうに、主さまモドキが教えてくれた彼を見た。 グランも同じように思ったのか、またノルベルトの悪い癖が出たと呻いてる。
(それならば、ちょっだけ試してみますか?)
ノルベルトとアイコンタクトを送り合う。 主さまモドキが面白いと言うのならば、見てみたい。
「ノルベルト、サインを貰う前に契約書を読み上げて。 皆が理解できる様にゆっくりね」
「はい、若様」
前へ進み出たノルベルトは、全ての条約を読み上げた。
(まぁ、そんなに大した契約ではないけれどっ……)
「契約一、部屋の借り主は、住居人数を報告する事。 住居人数が増える場合も報告する事」
「黙って居候を作らない事で、一泊、二泊の泊まりはいいけど、継続させないで下さい」
「契約ニ、借り主は、部屋を清潔に保つ事。 退居時、確認をして部屋の状態が悪ければ、修繕費を支払ってもらいます」
「汙部屋にしないでね。 あまりにも汚い場合は出て行ってもらうからね。 後、問題行動も控えて下さい」
「契約三、家賃は期日に支払う事。 一ヶ月の滞納があれば出て行ってもらいます」
「ノルベルトが支払い期日に集金に向かうので、騙されない様にして下さいね」
「契約四、以上の事柄に違反した者は、即刻、出て行ってもらいます」
「以上が契約です。 何か質問はありますか?」
皆が一様に顔を振ったので、一番大事な家賃の話をする事にした。
三階建ての一階は貸店舗にしているので、二階、三階を貸し部屋を勧める。
二部屋とトイレとキッチンが付き、一階には大浴場あり、家賃は一応、お手頃価格を伝えると、皆は物凄く驚いていた。
「本当にその家賃でいいのかい?」
「ええ、本当に五万ダラでいいですよ」
アルフは和かに笑いかけた。
「しかも、入居者の方は大浴場は無料で使えます」
皆から感嘆の声が上がった。
微笑んでいるが、内心では笑顔は引き攣っていた。
(こんな性格悪い事、ノルベルトがやればいいのにっ! 物凄く似合っているよっ)
アルフの心情を読んだのか、ノルベルトに瞳の奥が笑っていない笑みを贈られる。
アルフは引き攣った笑みを浮かべた。
「では、皆さん。 こちらの契約書にサインをして下さい」
アルフが持っている契約書の束をノルベルトに渡す。 主さまモドキが出した契約書だ。 皆の中で契約書を読めるのは、四・五人だ。 アルフは後ろに控えている件の彼に視線を向けた。
「文字を書けない方は、私が代筆します。 お名前を仰って下さい」
先程の若い男性が進み出て、自身の名前を言った。 ノルベルトは教えてもらった通りに、契約書にサインをして男性に渡した。 ノルベルトは教えてもらった名前を次々と契約書にサインを書いていった。
サインを書いてもらった男性の契約書を見た後ろの彼から待ったの声が掛かった。
アルフとノルベルト、グランと主さまモドキの瞳が期待で輝く。
「お前が言った事は嘘だっ!」
後ろの彼がアルフを指差して、怒気を含ませた声で叫んだ。
「この契約書には家賃が10万ダラになっているじゃないかっ! 五万ダラなんて嘘じゃないかっ!」
彼が言うと皆は一斉に自身の名前を書いてもらった契約書を見た。
『そんな馬鹿なっ』『契約は無効だ』と呟く。 しかし、ノルベルトという悪役が登場し、皆がノルベルトの不敵な笑みに震え上がった。
「ですが、皆さんはサインをしました。 まぁ、私が代筆しましだが、皆さん、納得されたでしょう? 私どもが五万ダラと言った証拠もないでしょう」
ノルベルトの不敵な笑みは、全員の気持ちを煽った。
「証拠ならあるっ! これだ!」
空中に文字が浮かび、アルフと男性の声が響いた。
『「本当にその家賃でいいのかい?」
「ええ、本当に五万ダラでいいですよ」』
アルフとノルベルト、グランと主さまモドキの感嘆の声が上がった。
一方、証拠を突きつけた彼は、アルフたちが怒るよりも喜んでいる様子に唖然とした表情を浮かべた。
「ごめんね。 君の祝福がどんなものか見たかったんだ」
主さまモドキに指示を出すと、手にした契約書を破棄した。 契約書は光った後、粉々に破けた。 驚き声をあげ、固まっている皆にちゃんとした契約書を手渡した。
「ちゃんと確認して、五万ダラって書いてあるでしょう?」
鼻息荒く契約書を奪った彼は、目を皿の様にして文字を追う。 納得したのか、彼は村長格の老人に頷いた。 老人も頷き返して契約は無事に終了した。
「村長さんとお見受けします。 この様な茶番をした事、お許しください」
「……まぁ、大体の事は理解しました。 しかし、何かで埋めてもらいたいものですな」
「ええ、仕事がない者には仕事を与えます。 それで家賃も払えますよね?」
にっこり笑った村長にアルフは完敗した。 後、こっそりと彼の魔法学校への援助を申し出た。
村長と握手をして笑い合った時に、下宿屋のメイドを任せていたマルタとレギーナ
が辻馬車営業所に転送術で飛び込んで来たのだ。
「アルフレート様っ! 大変です! ウェズナー様が大怪我をされてっ」
「えっ?! 大怪我ってどういう事っ?!」
「お食事をされていない様子でしたので、レギーナに頼んでウェズナー様の部屋に転送してもらったのです。 そしたらベッドで怪我をされて寝ているウェズナー様を発見しましてっ」
「それでウィーズ嬢は? 大丈夫なの?」
「はい、私の祝福で治しましたので、大丈夫です。 ですが、いつ怪我をされたのか分からなくてっ」
訝しむアルフの後ろでノルベルトの低い声が聞こえる。
「侵入者はいなかったはずです」
「ノルベルトがそう言うなら、家で怪我した訳じゃないね」
「はい」
「ちょっと事情を聞いた方がいいかな?」
「ええ、そうですね」
いつになく優しい笑みを浮かべるノルベルトは珍しい。 グランは小さく息を吐いている。 主さまモドキは期待したショータイムが終わったので、いつのまにか消えていた。 相変わらずムラがある奴だ。
「ちょっと、後を頼んだよ」
「承知致しました」
ノルベルトが新たな入居者を集め、貸し部屋のアパートを案内する為、移動をした。 アルフは、マルタとレギーナ、グランの四人で下宿屋である四階の廊下に転送した。
ガッチリと閉まっていたポーチに作られていた門が開けられている。
マルタの方を見ると、マルタが開けっぱなしで出て来た事を恥ずかしそうに言った。
(まぁ、仕方ないよね。 マルタは慌ててた訳だし、)
一歩、前へ踏み出した時、グランから警戒するオーラが放たれ、アルフの一歩前へ出た。
「どうしたの、グラン?」
「ウィーズ嬢の他に誰かいます。 この気配はチュソビチナ氏です」
「チュソビチナ氏って……ライナーかっ!! えっ、部屋へ来てるの?!」
アルフは、ちょっとだけやましい事を考えたのか少しだけ頬を染めた。
「まぁ、婚約者同士ですから、そんな事もあるかもしれませんが、あの二人はないでしょう」
二人が一緒にいる所を思い出し、アルフは納得した様に頷いた。
「呼び鈴、鳴らした方がいい?」
「というかですね。 ここは男子禁制の女子寮なんですよっ!」
「えぇ、そうだったの。 出ていくよ」
「アルフレート様は、オーナーですからいいのです。 でも、中に婚約者だとしても、男性がいるのですよね?」
レギーナの声は大きく、中まで聞こえているのではないかと思われた。
鼻息荒く、レギーナは腰に手を当てて胸を張った。 困惑したアルフはどうするかと、考えあぐねていると、ウェズナーの部屋から大きな物音が響いた。
アルフは反射的に扉の取手に手を掛けた。 しかし、グランがアルフを止めて、自身が最初に入ると言って、拒否は許さないと眼差しが言っていたので、アルフは頷いた。
グランが最初に部屋へ踏み込み、中を確認した。 暫くして、部屋の前で待っていると、人が争う物音がし、男の悲鳴が上がった。
「大丈夫なのかっ?!」
「アテシュ家の人間が負ける訳ないですよ、アルフレート様」
「ええ、負けせんわ」
「……そうかっ」
マルタとレギーナの二人の雰囲気に押されていると、中からグランが出て来た。
「若様」
「グラン、凄い物音が聞こえて来たけど、大丈夫なのか?」
「ええ、少し暴れられてしまって、もう縄で縛ったので大丈夫です」
「そうっ」
グランが言う縄は、グランの祝福で作られたものだろう。
(ライナーの奴、大分と酷い目にあっただろうな)
しかし、アルフは少しも可哀想だとは思わなかった。 中へ入ったアルフの視線の先に飛び込んで来たのは、ライナーが紫の縄でぐるぐる巻きされている姿で、部屋は物が壊され、ウェズナーは床でしゃがみ込み泣いている。
「これは、どういう事?」
一番若い者が前に進み出た。 しかし、彼からは戸惑いがあり、ペンも持ち慣れていない様に感じた。
(もしかして文字が書けないのかな?)
「ノルベルト」
「はい、若様」
『もしかして文字を書けないことってある?』と小声でノルベルトに確認をした。
「そうですね。 この方たちは農村の出身ですのでありえますね。 若様は孤児院で勉強されたと思いますが、農村地区では識字率が低い場所があります」
『でも、アルフ。 彼は面白い祝福を授かっているよ』
「えっ、彼って誰?」
『一番、後ろにいる彼だよ。 彼の祝福は、傾聴記憶だ』
「何それ」
『聞いたものことを記憶できる能力だね。 彼には嘘をつけないと思うよ。 彼は全て覚えているから、誤魔化しが効かない。 あ、しかも記憶した事を文字に起こせるんだ。 しかも、ちょっと面白い文字の起こし方だ。 彼、面白いね』
「それも検索で出て来たの?」
『うん、そうだよ。 変なのが混ざってら危ないでしょ?』
「流石、主さまモドキ様です」
ノルベルトはいい笑顔で褒めると、主さまモドキは、『えっへん』と可愛らしく胸を張った。 そして、ノルベルトは興味深そうに、主さまモドキが教えてくれた彼を見た。 グランも同じように思ったのか、またノルベルトの悪い癖が出たと呻いてる。
(それならば、ちょっだけ試してみますか?)
ノルベルトとアイコンタクトを送り合う。 主さまモドキが面白いと言うのならば、見てみたい。
「ノルベルト、サインを貰う前に契約書を読み上げて。 皆が理解できる様にゆっくりね」
「はい、若様」
前へ進み出たノルベルトは、全ての条約を読み上げた。
(まぁ、そんなに大した契約ではないけれどっ……)
「契約一、部屋の借り主は、住居人数を報告する事。 住居人数が増える場合も報告する事」
「黙って居候を作らない事で、一泊、二泊の泊まりはいいけど、継続させないで下さい」
「契約ニ、借り主は、部屋を清潔に保つ事。 退居時、確認をして部屋の状態が悪ければ、修繕費を支払ってもらいます」
「汙部屋にしないでね。 あまりにも汚い場合は出て行ってもらうからね。 後、問題行動も控えて下さい」
「契約三、家賃は期日に支払う事。 一ヶ月の滞納があれば出て行ってもらいます」
「ノルベルトが支払い期日に集金に向かうので、騙されない様にして下さいね」
「契約四、以上の事柄に違反した者は、即刻、出て行ってもらいます」
「以上が契約です。 何か質問はありますか?」
皆が一様に顔を振ったので、一番大事な家賃の話をする事にした。
三階建ての一階は貸店舗にしているので、二階、三階を貸し部屋を勧める。
二部屋とトイレとキッチンが付き、一階には大浴場あり、家賃は一応、お手頃価格を伝えると、皆は物凄く驚いていた。
「本当にその家賃でいいのかい?」
「ええ、本当に五万ダラでいいですよ」
アルフは和かに笑いかけた。
「しかも、入居者の方は大浴場は無料で使えます」
皆から感嘆の声が上がった。
微笑んでいるが、内心では笑顔は引き攣っていた。
(こんな性格悪い事、ノルベルトがやればいいのにっ! 物凄く似合っているよっ)
アルフの心情を読んだのか、ノルベルトに瞳の奥が笑っていない笑みを贈られる。
アルフは引き攣った笑みを浮かべた。
「では、皆さん。 こちらの契約書にサインをして下さい」
アルフが持っている契約書の束をノルベルトに渡す。 主さまモドキが出した契約書だ。 皆の中で契約書を読めるのは、四・五人だ。 アルフは後ろに控えている件の彼に視線を向けた。
「文字を書けない方は、私が代筆します。 お名前を仰って下さい」
先程の若い男性が進み出て、自身の名前を言った。 ノルベルトは教えてもらった通りに、契約書にサインをして男性に渡した。 ノルベルトは教えてもらった名前を次々と契約書にサインを書いていった。
サインを書いてもらった男性の契約書を見た後ろの彼から待ったの声が掛かった。
アルフとノルベルト、グランと主さまモドキの瞳が期待で輝く。
「お前が言った事は嘘だっ!」
後ろの彼がアルフを指差して、怒気を含ませた声で叫んだ。
「この契約書には家賃が10万ダラになっているじゃないかっ! 五万ダラなんて嘘じゃないかっ!」
彼が言うと皆は一斉に自身の名前を書いてもらった契約書を見た。
『そんな馬鹿なっ』『契約は無効だ』と呟く。 しかし、ノルベルトという悪役が登場し、皆がノルベルトの不敵な笑みに震え上がった。
「ですが、皆さんはサインをしました。 まぁ、私が代筆しましだが、皆さん、納得されたでしょう? 私どもが五万ダラと言った証拠もないでしょう」
ノルベルトの不敵な笑みは、全員の気持ちを煽った。
「証拠ならあるっ! これだ!」
空中に文字が浮かび、アルフと男性の声が響いた。
『「本当にその家賃でいいのかい?」
「ええ、本当に五万ダラでいいですよ」』
アルフとノルベルト、グランと主さまモドキの感嘆の声が上がった。
一方、証拠を突きつけた彼は、アルフたちが怒るよりも喜んでいる様子に唖然とした表情を浮かべた。
「ごめんね。 君の祝福がどんなものか見たかったんだ」
主さまモドキに指示を出すと、手にした契約書を破棄した。 契約書は光った後、粉々に破けた。 驚き声をあげ、固まっている皆にちゃんとした契約書を手渡した。
「ちゃんと確認して、五万ダラって書いてあるでしょう?」
鼻息荒く契約書を奪った彼は、目を皿の様にして文字を追う。 納得したのか、彼は村長格の老人に頷いた。 老人も頷き返して契約は無事に終了した。
「村長さんとお見受けします。 この様な茶番をした事、お許しください」
「……まぁ、大体の事は理解しました。 しかし、何かで埋めてもらいたいものですな」
「ええ、仕事がない者には仕事を与えます。 それで家賃も払えますよね?」
にっこり笑った村長にアルフは完敗した。 後、こっそりと彼の魔法学校への援助を申し出た。
村長と握手をして笑い合った時に、下宿屋のメイドを任せていたマルタとレギーナ
が辻馬車営業所に転送術で飛び込んで来たのだ。
「アルフレート様っ! 大変です! ウェズナー様が大怪我をされてっ」
「えっ?! 大怪我ってどういう事っ?!」
「お食事をされていない様子でしたので、レギーナに頼んでウェズナー様の部屋に転送してもらったのです。 そしたらベッドで怪我をされて寝ているウェズナー様を発見しましてっ」
「それでウィーズ嬢は? 大丈夫なの?」
「はい、私の祝福で治しましたので、大丈夫です。 ですが、いつ怪我をされたのか分からなくてっ」
訝しむアルフの後ろでノルベルトの低い声が聞こえる。
「侵入者はいなかったはずです」
「ノルベルトがそう言うなら、家で怪我した訳じゃないね」
「はい」
「ちょっと事情を聞いた方がいいかな?」
「ええ、そうですね」
いつになく優しい笑みを浮かべるノルベルトは珍しい。 グランは小さく息を吐いている。 主さまモドキは期待したショータイムが終わったので、いつのまにか消えていた。 相変わらずムラがある奴だ。
「ちょっと、後を頼んだよ」
「承知致しました」
ノルベルトが新たな入居者を集め、貸し部屋のアパートを案内する為、移動をした。 アルフは、マルタとレギーナ、グランの四人で下宿屋である四階の廊下に転送した。
ガッチリと閉まっていたポーチに作られていた門が開けられている。
マルタの方を見ると、マルタが開けっぱなしで出て来た事を恥ずかしそうに言った。
(まぁ、仕方ないよね。 マルタは慌ててた訳だし、)
一歩、前へ踏み出した時、グランから警戒するオーラが放たれ、アルフの一歩前へ出た。
「どうしたの、グラン?」
「ウィーズ嬢の他に誰かいます。 この気配はチュソビチナ氏です」
「チュソビチナ氏って……ライナーかっ!! えっ、部屋へ来てるの?!」
アルフは、ちょっとだけやましい事を考えたのか少しだけ頬を染めた。
「まぁ、婚約者同士ですから、そんな事もあるかもしれませんが、あの二人はないでしょう」
二人が一緒にいる所を思い出し、アルフは納得した様に頷いた。
「呼び鈴、鳴らした方がいい?」
「というかですね。 ここは男子禁制の女子寮なんですよっ!」
「えぇ、そうだったの。 出ていくよ」
「アルフレート様は、オーナーですからいいのです。 でも、中に婚約者だとしても、男性がいるのですよね?」
レギーナの声は大きく、中まで聞こえているのではないかと思われた。
鼻息荒く、レギーナは腰に手を当てて胸を張った。 困惑したアルフはどうするかと、考えあぐねていると、ウェズナーの部屋から大きな物音が響いた。
アルフは反射的に扉の取手に手を掛けた。 しかし、グランがアルフを止めて、自身が最初に入ると言って、拒否は許さないと眼差しが言っていたので、アルフは頷いた。
グランが最初に部屋へ踏み込み、中を確認した。 暫くして、部屋の前で待っていると、人が争う物音がし、男の悲鳴が上がった。
「大丈夫なのかっ?!」
「アテシュ家の人間が負ける訳ないですよ、アルフレート様」
「ええ、負けせんわ」
「……そうかっ」
マルタとレギーナの二人の雰囲気に押されていると、中からグランが出て来た。
「若様」
「グラン、凄い物音が聞こえて来たけど、大丈夫なのか?」
「ええ、少し暴れられてしまって、もう縄で縛ったので大丈夫です」
「そうっ」
グランが言う縄は、グランの祝福で作られたものだろう。
(ライナーの奴、大分と酷い目にあっただろうな)
しかし、アルフは少しも可哀想だとは思わなかった。 中へ入ったアルフの視線の先に飛び込んで来たのは、ライナーが紫の縄でぐるぐる巻きされている姿で、部屋は物が壊され、ウェズナーは床でしゃがみ込み泣いている。
「これは、どういう事?」
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