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第二十三話 魔法学校へ入学

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 ローゼンダール王国の魔法学校は騎士学校も併設されている。 真四角に作られた武道場を二階建ての建物が囲っている。 西棟の渡り廊下で繋がっている長細い縦長の騎士学校が建てられ、武道場は騎士学校の生徒が主に使用されている。 魔法学校で魔法に秀でた者が騎士学校へ進める。

 魔法学校へ入学を果たしたアルフは、魔法学校の正面入り口に入り、カフェテリアの天井から吊るされ、掲示されているクラス分けのボードを見てあんぐりと大きな口を開けた。

 隣でグランが無表情で指摘して来る。 内心ではアルフに同情しているのだが、顔に出ていない。

 「若様、口を閉じて下さい」
 「なっ、何でこうなった~~っ!!」

 アルフは王太子である殿下と同じクラスにならない様に、少しだけ手を抜いて試験を受けた。

 一年生は入試の結果を踏まえてクラス分けがされると、ノルベルトから聞かされていた。 学校へ行って名前だけが有名な男爵子息が、トゥールたちと同じクラスになり、王太子と補佐官候補の高位貴族たちと仲良くしていては、確実に妬みや嫉みを受ける対象になる。

 学校では絶対に悪目立ちしたくないとアルフを思っていた。

 「うわぁぁぁ、トゥールたちと同じクラスにならない様にしたのにっ?! 何で、同じクラスになってるんだっ?!」
 「……私も同じクラスですねっ……」

 一緒にクラス分けを見に来たマゼルも同じクラスだという。 もう一度見てみると、マントイフェルに住む『祝福』を授かった子供たちとも同じクラスになっていた。 ついでに言うと、隣の領であるシュヴァーベン子爵領の生徒とも同じクラスだった。

 「若様っ! 一年、よろしくお願いします」
 
 声を揃えて声を掛けて来たのは、代官の館で一緒に魔力制御の講義を受けた面々だった。 彼らとは 一緒の馬車で来た。 彼らの親と代官に頼まれたのだ。 ロームの街までスクール馬車を走らせてくれないかと、盗賊の事もあり、歩いてロイヴェリク家まで森の中を歩かせられないと。

 アルフは快く受け入れ、街を周回している乗合馬車を使う事にした。 子供たちが学校の登下校時に、空いている乗合馬車が迎えに行く。 今日は何も問題がないかアルフも一緒に乗合馬車で登校したのだ。

 「うん、よろしくね。 それと学校では若様は止めて欲しいな。 アルフって呼んでほしい。 僕は領主の子供ではないからねっ」

 時々、勘違いしている人がいるが、ロイヴェリク家は領地を持たない法衣貴族だ。 爵位だけ持っている男爵家なのだ。 しかも、下級貴族なので、平民に毛が生えた様な物なのだ。

 「分かりました、若、じゃなくて、アルフ様」
 「出来れば、様も付けないでほしいんだけど……」
 「若様、無理を言ってはいけません。 彼らは平民で、若様は男爵家の子息で貴族なのです。 その線引きはしませんと、彼らが周囲から不敬だと言われます」
 「あ、そうか……寂しいけど、そうだね。 分かった。 じゃ、アルフ様でよろしく」

 マントイフェルの子供たちは、ホッとした顔をして返事を返してくれた。 皆と教室へ移動しようとした時、アルフの後ろから嬉しそうな弾んだ声が聞こえて来た。

 「アルフっ!! 同じクラスだね。 嬉しいよっ!」
 「トゥールっ……」

 王太子殿下の登場に、周囲の貴族子息令嬢は臣下の礼をし、平民の生徒たちも慣れないながらも礼をして頭を下げている。 マゼルやグランも礼をし、アルフも慌てて臣下の礼をした。

 トゥールの周囲で皆が頭を下げている様子をトゥールは鷹揚に頷きながら見渡した。

 「うむ、皆、頭を上げてくれ。 そして、今を最後に学校内では、私に臣下の礼をする事を禁ずる。 しなくても不問とする。 廊下を歩くたびにされると、前に進まないからね。 分かったかな。 では、皆、自身のクラスへ急ごう。 ホームルームが始まる」

 顔を上げた生徒たちは、爽やかな笑みを浮かべるトゥールを呆けた表情で見つめる。 令嬢と子息も頬を初心な少女の様に染めていた。 トゥールがアルフの方へ近づいて来ると、時間が止まっていたカフェテリアが動き出す。 トゥールの呼びかけで各々のクラスまで移動を始めた。

 「やぁ、おはよう、アルフ。 久しぶりだね」

 にっこり笑ったトゥールは、とても嬉しそうな笑みを浮かべていた。 しかし、両隣に立っているグランとマゼルから緊張している気配を感じる。 少しだけ、二人から違和感を感じたが、トゥールに返事を返した。

 「……っ、おはようございます、殿下。 ご健勝でなりよりです。 では、私はクラスへ行きますので……」
 「何を言っているの? 同じクラスなのだから一緒に行こう」

 にこにこと笑いアルフの腕を引っ張っていく。 ルヴィとレイから『諦めろ』という気配を感じた。

 アルフとトゥールが連れ立って歩き、東棟にある一年生の教室を目指していると、すれ違う生徒たちがチラチラとアルフ達を見ては内緒話をしている。 アルフ達のクラスは一番端で、遠い。

 歩きながらトゥールが爆弾を投げて来た。

 「ちゃんとアルフと同じクラスになれて良かったよ。 校長にお願いしたんだ。 近い領地同士が同じクラスになれる様にってね。 だって一年は誰も知らないでしょ? 同じ領地の子たちが一緒だと心強いもんね」

 にっこりと黒い笑みを浮かべるトゥールに『犯人はお前かっ!!』とアルフは内心で叫んだ。

 (僕の苦労が……すべて無駄だったっ)

 しかし、トゥールの発案は、アルフの様な下級貴族にとってはとても助かる。 王家直轄地ではあるものの、マントイフェルから来ている生徒はほぼ平民である。 トゥールと同じクラスなら、嫌がらせもあまりないだろう。 少しだけ安堵して開けられた扉から教室へ入ると黄色い声がアルフの耳を突き破った。

 「殿下!」
 「ん? 君は?」
 
 声を掛けて来たのは、ウェズナーの姉であるジルフィアだ。 以前見かけたジルフィアは、妹を冷遇している事を全く隠していなかった。 ゆっくりと淑女の礼をするジルフィアを見て、アルフは違和感を感じた。 アルフとグランは『ん?』と首を傾げた。

 「お初にお目にかかります。 わたくし、ウィーズ家の長女、ジルフィアと申します。 アルトゥール殿下と同じクラスになれた事、とても光栄ですわ」

 まだまだ、甘い淑女の礼だが、以前見かけた高慢ちきなジルフィアではなかった事に、アルフは目を丸くした。 グランは『ほう』と少しだけ感心したような音を出した。

 (グランっ……何に感心したんだっ?! ってか、全く前と違う態度だっ)

 こそっとグランが耳打ちして来る。

 「若様、彼女は外面がいいようです。 気を付けましょう、巻き込まれない様に」
 
 アルフはグランに力強く頷くと、そっとマゼルを引き寄せ、今の内にトゥールから離れる事にした。

 ジルフィアが挨拶をした事を皮切りに、他の令嬢子息がトゥールたちに挨拶をしようと押し寄せて行ったのだ。 アルフはクラスメイトの人影に隠れ、マントイフェルの生徒たちが固まっている場所へ移動した。

 「彼らはアルフが一番上の家格だから、きっと何かあればアルフを頼って来ると思います」

 マゼルの意見にグランもうんうんと頷く。

 「若様がマントイフェルで代官の次に力がありますからね、一応」
 「一応って何っ? というか、そんな力ないよ。 領主でもないんだからっ。 家格で言ったら、マゼルの方が上だよ?」
 「私たちシファー家はよそ者扱いですよ」
 「えぇぇ、そんな事無いと思うけどっ」

 アルフ達が自身たちの所へ来ると、彼らは一様にほっとした表情を浮かべた。 アルフが一緒に居るだけで心強い様だ。

 (まぁ、平民からしたら、貴族は怖いもんね。 そう言えば、孤児院でいた頃は僕も貴族って怖かったな)

 いつも傲慢な態度で修道院を視察に来ていた貴族を思い出し、嫌な気分になった。 自身は絶対に傲慢な貴族にはならない様にしようと心から思った。

 トゥールは抜け出させないのか、笑顔に黒い物が混じって行くようだった。 ずっと笑顔のトゥールも苦手な事があるんだなと、アルフは他人事のように眺めていた。

 アルフにも挨拶をしようと令嬢たちが内緒話している様子に、全く気付いていなかった。

 ホームルームの鐘が校舎に鳴り響き、担任が教室へ入って来た。 担任の話の後は武道場で入学式が行われた。 入学式は少しだけ衝撃な出来事があった。

 在校生による魔法のお披露目だ。 『祝福』での模擬試合が行われ、色々な魔法が披露された。

 校舎全体に防御魔法が掛けられていて、外れた魔法が校舎に当たっても魔法の方が弾けて消し飛んで行った。 新入生や在校生が歓声を上げる中、入学式は無事に終わった。

 そして、教室へ戻って来たアルフは、担任から聞かされた事にすっかり頭から抜け落ちていて、自身の『祝福』のレベルがまだ2だった事を思い出した。

 アルフは教室の後ろの方で頭を抱えた。

 (すっかり忘れてたっ! 武術大会があったんだったっ)
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