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第二十二話 伯爵令嬢が下宿生として入って来る
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お茶会も無事に終わり、三階建ての貸し部屋の修繕も終え、王立学園の入学試験に無事に合格を果たした。 三階建ての貸し部屋の一階は、いずれは貸店舗にする為、店が出せる様に店舗型にした。
そして、三階建ての西棟一階には、ずっと作りたかった物を作った。 主さまモドキに出してもらった巻紙の中で、異世界の建物を描いたものがあった。 アルフの王国では平民はまだ、井戸で水浴びが主流だ。 中庭に作られた井戸や、台所の水場などで身体や髪を洗っている。
下宿屋にあるお風呂を三階建ての西棟の一階に作れば、入居者が来るのではないかと思ったのだ。
安価で入浴場を提供すれば、マントイフェルの住民も入浴をするだけでも来てくれるのではと考えた。 そして、人が行きかえば、商店も出せるだろうと思っている。
アルフは出来た入浴場を見つめ、うっとりと陶酔した。 背後でグランがアルフを変態の目で見ている事に気づいていない。
◇
「えっ、ノルベルト、今、何て言ったの?」
アルフは自身の部屋でノルベルトから受け取った入居して来る下宿生のリストを広げた。
学園の入学式は九月で、今は八月の初旬だ。 下旬には下宿生が入居して来る。 ノルベルトはなんて事はない様子でもう一度、報告した。
「はい、ウィーズ伯爵家のご息女が入られます。 後、子爵家のご子息、男爵家の子息が二人、騎士爵家の子息が三人、後は平民の生徒たちです。 思っていた通り、下級貴族の子息と平民の子息たちが集まりましたが、伯爵家のご息女が来られるとは思いませんでしたね」
「……うん、見学会のお茶会には来ていなかったよね?」
「はい、子爵家のご子息は来られてましたね。 二年生ですので、マリオン様と同じ学年でしょう」
「あっ、そうなんだ」
「はい、二年生が六人と一年生が七人ですね」
「13人か……という事は下宿代が……」
「若様、嬉しいのは分かりますが、伯爵令嬢様のお部屋を急いで用意しないといけません」
「ああ、そうか。 分かった、直ぐに親方と話をしよう」
「はい、それと、ズザンネ様もこちらに引っ越して来たいと仰ってました」
「アンネが?……そうなんだ。 それは……大伯父と話し合ってからだね……マゼルが居るから無理だと思うけどっ」
「色々とご心配になりますからね。 若いお二人ですし、暴走すると、色々と困る事が起きすから」
「……御家断絶……身の破滅……」
下宿屋の四階が下級貴族の子女が入った時の為に、平民の生徒よりも広い部屋を作っていたが、伯爵家の令嬢が使う為の部屋はない。 爵位があっても子爵までだと思っていたからだ。
(でも、おかしいな? 魔法学校の寮って貴族が優先されているし、子爵や男爵以下の下級貴族が寮からあぶれても、伯爵家が寮に入れないって事はないと思うんだけど……。 まぁ、マリオン嬢の所みたいな事情が無い限り……もしかして、また、訳あり案件?)
本日、親方は三階建ての貸し部屋の一階の貸店舗を何時でも使える様に回想してくれている。 親方の居る場所へ向かいながら、隣で歩くノルベルトを疑わし気に見つめた。
「何ですか? 若様」
「……ノルベルトの紹介案件じゃないよね?」
「違いますね。 ウィーズ伯爵家とは全く関りありませんね」
「ふ~ん、そう」
アルフの瞳に『本当かな』と疑う色が滲んでいる。 親方の相談した結果、二部屋と物置部屋を壊して、伯爵家の令嬢が何とか使える部屋を作った。 居間と寝室、トイレとシャワー室、ウォーキングクローゼットも用意した。 少しだけ他の部屋よりも下宿代を高めに設定しようかと、本気で考えた。
他の貴族の子息が入る部屋も改めて確認し、修繕を重ねる。 そして、直ぐに下宿生が入居して来る日がやって来た。 シュヴァーベン子爵家の子息、ヘルマンはお茶会にも来ていたので、気さくに話しかけてくれた。
「世話になる、アルフ殿」
「ヘルマン様、ようこそレープハフトハイムへ。 お越し頂きありがとうございます」
「堅苦しい挨拶はいいよ。 もう、荷物は届いているだろう?」
「はい、お部屋に運んでいますので、ご案内します」
「ありがとう」
アルフはヘルマンと共に下宿屋の四階まで上がり、後ろからグランも着いて来る。 階段ホールを出て、右に曲がり進むと、直ぐに左側に扉があるが、通り過ぎる。 少しだけ進み、右側と正面に木製の両扉が現れる。 アルフは右側の両扉を開けると、ヘルマンに入るよう促した。
「こちらがヘルマン様のお部屋です。 それと、男子寮の侍従のダスティンです。 用事があれば今後は彼に言いつけて下さい」
「ああ、ありがとう。 じゃ、早速で悪いんだけど、荷解きをしてくれるかい?」
「はい、承知致しました」
ダスティンはシファー家に仕えていた侍従だ。 既に部屋で待機していて、ヘルマンが来るの待っていた。 部屋の主の指示を聞くと、恭しく礼をしてから荷物を寝室へ運び、荷解きを始めた。
ヘルマンは二年生で魔法学校の寮からレープハフトハイムに移って来た。 シュヴァーベン子爵領は、マントイフェル領の隣にある。 子爵とはお茶会で色々と一緒に事業を始めようと話していた。
ヘルマンとは事業との関連で仲を深める為、レープハフトハイムへ引っ越した来たのだ。
「でも、本当に良かったんですか? こちらに来て」
「ああ、いいんだ。 寮は何かとお金がかかる上に、高位貴族に気を使わないといけないしな。 それより、伯爵家のご令嬢がこっちに来るんだろう?」
ヘルマンが興味津々な様子でアルフを見つめて来た。 そして、居間に置かれたソファーへ座るように促してくる。 アルフは仕方なく、情報収集の為、ソファへ腰掛けた。
(他の下宿生の相手はグランに任せるか)
アルフは扉のそばで立っていたグランに視線をやると、グランは心得たとアイコンタクトで意思伝達を交わし、ヘルマンの部屋を出て行った。
「で、もう、会ったか?」
「いえ、まだ来られていないので」
「そうか……」
暫し考えた後、ヘルマンは口を開いた。
「ウィーズ伯爵家のご令嬢は双子なんだが、レープハフトハイムに入って来るのは、妹の方だと思う」
「……名前が確か、ウェズナー嬢の方ですね」
「あんまり、先入観を植え付けたくはないけど……。 すぐ分かると思うし、社交界では有名な双子なんだ。 ウィーズ家の伯爵夫妻は姉の方を可愛がっていて、妹の方は……育児放棄だな」
「育児放棄?」
「ああ、ほぼ放置状態らしい。 理由は分からないけどね。 だから、妹の方は魔法学校の寮じゃなくて、レープハフトハイムに入れられたんだと思う」
「……そうなんですか」
「うん、理由は、学費は仕方ないにしても、妹の為にお金を使いたくないからだろう」
あまりの理由に、アルフは口を開けて間抜けな顔を晒してしまった。 しかし、ウェズナーがレープハフトハイムに来た時、ヘルマンが言っていた先入観を超える出来事が起こった。
「えぇぇぇぇ、ここが我が妹の部屋なの?! 小さい部屋ね。 でも、貴方には似合いのお部屋だわ。 ね、ウェナ」
「……っ申し訳ありませんっ、このような部屋しかご用意できませんでっ……」
(なんだ、この姉っ……)
「あら、貴方が気にする事無いわよ、アルフレート様。 この部屋は妹にぴったりですわ」
「……」
ウィーズ家の双子の姉妹を部屋へ案内して来たアルフとグラン、ウェズナーの世話をしてもらおうと思っていたシファー家のメイドのマルタの三人は、姉の言葉に目を丸くした。
ウェズナーの顔に寄せた姉が小さく呟いたが、アルフ達の耳には届いた。
「良かったじゃない、貴方の屋根裏部屋より広いじゃない。 専属メイドもつくみたいよ」
優しく言っているつもりなのか、内容はウィーズ家ではウェズナーの部屋が狭い屋根裏部屋で、メイドもつけていない事をバラしている。 アルフ達に聞こえても別にいいと思っているのだろう。
(屋根裏部屋って……使用人部屋じゃないかっ……育児放棄って本当だったのかっ。 噂話は話半分で聞いた方がいいと思ってたけど……)
「じゃ、ウェナ、私は帰るわ。 魔法学校の素敵な寮に」
姉は勝ち誇った様な表情を浮かべて、実の妹を蔑み、部屋を出て行った。 チラリとウェズナーを見たが、彼女から何も感情を読み取る事は出来なかった。 二人は双子とあって、顔立ちが一緒なのだが、性格の所為で全く違う顔に見えた。
しかし、姉が魔法学校で起こす出来事に、アルフたちが巻き込まれるなど、今の時点では全く気付いていなかった。
そして、三階建ての西棟一階には、ずっと作りたかった物を作った。 主さまモドキに出してもらった巻紙の中で、異世界の建物を描いたものがあった。 アルフの王国では平民はまだ、井戸で水浴びが主流だ。 中庭に作られた井戸や、台所の水場などで身体や髪を洗っている。
下宿屋にあるお風呂を三階建ての西棟の一階に作れば、入居者が来るのではないかと思ったのだ。
安価で入浴場を提供すれば、マントイフェルの住民も入浴をするだけでも来てくれるのではと考えた。 そして、人が行きかえば、商店も出せるだろうと思っている。
アルフは出来た入浴場を見つめ、うっとりと陶酔した。 背後でグランがアルフを変態の目で見ている事に気づいていない。
◇
「えっ、ノルベルト、今、何て言ったの?」
アルフは自身の部屋でノルベルトから受け取った入居して来る下宿生のリストを広げた。
学園の入学式は九月で、今は八月の初旬だ。 下旬には下宿生が入居して来る。 ノルベルトはなんて事はない様子でもう一度、報告した。
「はい、ウィーズ伯爵家のご息女が入られます。 後、子爵家のご子息、男爵家の子息が二人、騎士爵家の子息が三人、後は平民の生徒たちです。 思っていた通り、下級貴族の子息と平民の子息たちが集まりましたが、伯爵家のご息女が来られるとは思いませんでしたね」
「……うん、見学会のお茶会には来ていなかったよね?」
「はい、子爵家のご子息は来られてましたね。 二年生ですので、マリオン様と同じ学年でしょう」
「あっ、そうなんだ」
「はい、二年生が六人と一年生が七人ですね」
「13人か……という事は下宿代が……」
「若様、嬉しいのは分かりますが、伯爵令嬢様のお部屋を急いで用意しないといけません」
「ああ、そうか。 分かった、直ぐに親方と話をしよう」
「はい、それと、ズザンネ様もこちらに引っ越して来たいと仰ってました」
「アンネが?……そうなんだ。 それは……大伯父と話し合ってからだね……マゼルが居るから無理だと思うけどっ」
「色々とご心配になりますからね。 若いお二人ですし、暴走すると、色々と困る事が起きすから」
「……御家断絶……身の破滅……」
下宿屋の四階が下級貴族の子女が入った時の為に、平民の生徒よりも広い部屋を作っていたが、伯爵家の令嬢が使う為の部屋はない。 爵位があっても子爵までだと思っていたからだ。
(でも、おかしいな? 魔法学校の寮って貴族が優先されているし、子爵や男爵以下の下級貴族が寮からあぶれても、伯爵家が寮に入れないって事はないと思うんだけど……。 まぁ、マリオン嬢の所みたいな事情が無い限り……もしかして、また、訳あり案件?)
本日、親方は三階建ての貸し部屋の一階の貸店舗を何時でも使える様に回想してくれている。 親方の居る場所へ向かいながら、隣で歩くノルベルトを疑わし気に見つめた。
「何ですか? 若様」
「……ノルベルトの紹介案件じゃないよね?」
「違いますね。 ウィーズ伯爵家とは全く関りありませんね」
「ふ~ん、そう」
アルフの瞳に『本当かな』と疑う色が滲んでいる。 親方の相談した結果、二部屋と物置部屋を壊して、伯爵家の令嬢が何とか使える部屋を作った。 居間と寝室、トイレとシャワー室、ウォーキングクローゼットも用意した。 少しだけ他の部屋よりも下宿代を高めに設定しようかと、本気で考えた。
他の貴族の子息が入る部屋も改めて確認し、修繕を重ねる。 そして、直ぐに下宿生が入居して来る日がやって来た。 シュヴァーベン子爵家の子息、ヘルマンはお茶会にも来ていたので、気さくに話しかけてくれた。
「世話になる、アルフ殿」
「ヘルマン様、ようこそレープハフトハイムへ。 お越し頂きありがとうございます」
「堅苦しい挨拶はいいよ。 もう、荷物は届いているだろう?」
「はい、お部屋に運んでいますので、ご案内します」
「ありがとう」
アルフはヘルマンと共に下宿屋の四階まで上がり、後ろからグランも着いて来る。 階段ホールを出て、右に曲がり進むと、直ぐに左側に扉があるが、通り過ぎる。 少しだけ進み、右側と正面に木製の両扉が現れる。 アルフは右側の両扉を開けると、ヘルマンに入るよう促した。
「こちらがヘルマン様のお部屋です。 それと、男子寮の侍従のダスティンです。 用事があれば今後は彼に言いつけて下さい」
「ああ、ありがとう。 じゃ、早速で悪いんだけど、荷解きをしてくれるかい?」
「はい、承知致しました」
ダスティンはシファー家に仕えていた侍従だ。 既に部屋で待機していて、ヘルマンが来るの待っていた。 部屋の主の指示を聞くと、恭しく礼をしてから荷物を寝室へ運び、荷解きを始めた。
ヘルマンは二年生で魔法学校の寮からレープハフトハイムに移って来た。 シュヴァーベン子爵領は、マントイフェル領の隣にある。 子爵とはお茶会で色々と一緒に事業を始めようと話していた。
ヘルマンとは事業との関連で仲を深める為、レープハフトハイムへ引っ越した来たのだ。
「でも、本当に良かったんですか? こちらに来て」
「ああ、いいんだ。 寮は何かとお金がかかる上に、高位貴族に気を使わないといけないしな。 それより、伯爵家のご令嬢がこっちに来るんだろう?」
ヘルマンが興味津々な様子でアルフを見つめて来た。 そして、居間に置かれたソファーへ座るように促してくる。 アルフは仕方なく、情報収集の為、ソファへ腰掛けた。
(他の下宿生の相手はグランに任せるか)
アルフは扉のそばで立っていたグランに視線をやると、グランは心得たとアイコンタクトで意思伝達を交わし、ヘルマンの部屋を出て行った。
「で、もう、会ったか?」
「いえ、まだ来られていないので」
「そうか……」
暫し考えた後、ヘルマンは口を開いた。
「ウィーズ伯爵家のご令嬢は双子なんだが、レープハフトハイムに入って来るのは、妹の方だと思う」
「……名前が確か、ウェズナー嬢の方ですね」
「あんまり、先入観を植え付けたくはないけど……。 すぐ分かると思うし、社交界では有名な双子なんだ。 ウィーズ家の伯爵夫妻は姉の方を可愛がっていて、妹の方は……育児放棄だな」
「育児放棄?」
「ああ、ほぼ放置状態らしい。 理由は分からないけどね。 だから、妹の方は魔法学校の寮じゃなくて、レープハフトハイムに入れられたんだと思う」
「……そうなんですか」
「うん、理由は、学費は仕方ないにしても、妹の為にお金を使いたくないからだろう」
あまりの理由に、アルフは口を開けて間抜けな顔を晒してしまった。 しかし、ウェズナーがレープハフトハイムに来た時、ヘルマンが言っていた先入観を超える出来事が起こった。
「えぇぇぇぇ、ここが我が妹の部屋なの?! 小さい部屋ね。 でも、貴方には似合いのお部屋だわ。 ね、ウェナ」
「……っ申し訳ありませんっ、このような部屋しかご用意できませんでっ……」
(なんだ、この姉っ……)
「あら、貴方が気にする事無いわよ、アルフレート様。 この部屋は妹にぴったりですわ」
「……」
ウィーズ家の双子の姉妹を部屋へ案内して来たアルフとグラン、ウェズナーの世話をしてもらおうと思っていたシファー家のメイドのマルタの三人は、姉の言葉に目を丸くした。
ウェズナーの顔に寄せた姉が小さく呟いたが、アルフ達の耳には届いた。
「良かったじゃない、貴方の屋根裏部屋より広いじゃない。 専属メイドもつくみたいよ」
優しく言っているつもりなのか、内容はウィーズ家ではウェズナーの部屋が狭い屋根裏部屋で、メイドもつけていない事をバラしている。 アルフ達に聞こえても別にいいと思っているのだろう。
(屋根裏部屋って……使用人部屋じゃないかっ……育児放棄って本当だったのかっ。 噂話は話半分で聞いた方がいいと思ってたけど……)
「じゃ、ウェナ、私は帰るわ。 魔法学校の素敵な寮に」
姉は勝ち誇った様な表情を浮かべて、実の妹を蔑み、部屋を出て行った。 チラリとウェズナーを見たが、彼女から何も感情を読み取る事は出来なかった。 二人は双子とあって、顔立ちが一緒なのだが、性格の所為で全く違う顔に見えた。
しかし、姉が魔法学校で起こす出来事に、アルフたちが巻き込まれるなど、今の時点では全く気付いていなかった。
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