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アクシデント2

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 するとポケットの携帯電話が鳴った。

 「あ、私だわ」

 そう言って、玖生さんを見ながら他の部屋へ行き、携帯の画面を見る。
 電話番号だけが出ている。何?

 「……もしもし。織原さんのお電話番号でよろしかったですか?こちら都立新宿病院です」

 「え?は、はい。織原です」

 「先ほど、織原志保さんが救急車で運ばれまして、そのご連絡です。買い物途中に倒れられて、お店のほうから連絡がありました」

 「ええ!?そ、祖母は大丈夫なんですか?」

 「心臓を押さえて倒れられたようです。以前そういうことはなかったでしょうか?」

 「はい。聞いたことがありません」

 「……そうですか。とりあえず、入院になりますので病院へおいで頂けますか?」

 「すぐに行きます」

 私は慌てて電話を切ると、部屋を飛び出した。
 玖生さんはそんな私を見て、驚いて立ち上がった。

 「どうした?」

 「おばあちゃんが買い物先で倒れて病院へ運ばれたの。すぐに行かないと……」

 彼はすぐに駆け寄って、私の手を握った。

 「落ち着け。送っていくから……震えてるじゃないか」

 覆うように抱きしめてくれた。身体が恐怖で震えている。以前も両親が救急車で運ばれて、最初に父が、そして母も追うように亡くなったからだ。

 私を抱きかかえて、玖生さんが電話をしている。

 「エントランスに俺の車を回した。今日は運転手がいる。それと鷹也にも俺から連絡しておくから、君の控え室の荷物はあとで取りにこさせよう。今はそれで大丈夫か?」

 私は彼の腕の中で小さくうなずくしか出来なかった。

 すると、彼は鷹也さんの秘書に連絡してくれた。今は丁度レセプションの最中だ。

 私の手を握ると部屋を出て、そのままエレベーターでエントランスに出た。
 車が入り口に回ってきた。彼が私の荷物を持って車に乗せた。

 「病院はどこ?」

 「新宿病院よ」

 一緒に後部座席へ乗ると運転手に指示した。

 「……行ってくれ」

 「かしこまりました」

 運転手さんはいつもの人だ。

 「由花、大丈夫だ。落ち着け、俺がいる」

 震えている私の身体を右腕で背中から抱き寄せてくれた。私は彼の肩にもたれているしかできなかった。
 おばあちゃん、逝かないで、お願い……気付くとそんな言葉が口から出る。涙が出てきた。

 玖生さんは嗚咽をこらえている私のことを抱き寄せて背中をさすってくれた。

 病院へ着くと、彼に肩を支えられて受付へ行く。

 玖生さんがすべて聞いてくれて、私は彼に手をひかれて行くだけだった。

 おばあちゃんはすでに病室へ移っていて、ベッドに寝ていた。

 主治医から話があり、狭心症かもしれないとのこと。検査も含めてしばらく入院して下さいと言われた。

 手術が必要になるかはまだわからない。

 私は命に別状がないとわかった段階で少し安心してぼーっとしてしまい、医師の説明が耳に入っていなかった。

 玖生さんが私の代わりに話を聞いてくれていた。後で聞かされて、お礼を言った。

 病室へ入り、おばあちゃんの隣に座った。玖生さんは連絡してくると言うと、病室を出て行った。しばらくして、ようやくおばあちゃんの意識が戻った。

 「ああ……由花」

 「おばあちゃん、びっくりしたよ、うう、うう……」

 私は病室でおばあちゃんの布団にすがりついて泣いてしまった。

 おばあちゃんはそおっと私の手を触ってくれた。

 「心配かけてごめんね。私も歳だわね。気をつけないと……由花、仕事大丈夫だった?」

 「うん」

 ノックの音がして、玖生さんが入ってきた。

 「織原さん。お加減はいかがですか?」

 「……あら、どうして?」

 「玖生さんもパーティーに招待されていたのでいらしてたの。病院からの電話を受けたとき一緒にいて、ここまでついてきてくれて……私取り乱してしまって……色々助けてもらったの」

 「……そうでしたか。ありがとうございました」

 「とんでもない。ちょうど助けられて良かったです。彼女ひとりでは精神的にも大変だったでしょう」

 「おばあちゃん。後のことはなにも心配しないでね。大丈夫だから、身体のことを一番に考えてね」

 おばあちゃんは私を見て微笑んだ。

 「ありがとう。由花も無理はしないでね。お稽古は私を理由にしばらくお休みしてもいいから……」

 玖生さんが言った。

 「織原さん。彼女の受付の仕事をしばらく休ませて家元の代わりをさせたいと思います。彼女のことは気にして見ていますので、ご安心ください」

 私は驚いた。振り向いて、彼を見た。彼は私に微笑んでくれた。

 「良かったわ。玖生さんがいてくれて……どうかよろしくお願いいたします」

 「ええ、お任せ下さい。由花もいいね?」

 「……はい」

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