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女性嫌いの理由1

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 その次の日の夜。玖生さんから突然メールが来た。
 
 「お疲れ。今週末の予定、どうだ?」

 相変わらず、無駄のないひと言。

 「日曜日なら大丈夫ですけど、玖生さんはいかがですか?」

 返信したら、またもやすぐに電話が鳴った。もう、いっつもこうなる。

 「はい」

 「日曜だな、わかった。水族館はどうだ?」

 「水族館へ行きたいんですか?」

 「聞いてみたところ、水族館とかがおすすめらしい」

 誰に聞いたのよ、まさか運転手さんじゃないでしょうね?

 「誰に聞いたんです?」

 「腐れ縁の親友が何人かいる。そいつらにこの間飲んだとき聞いた」

 「さぞかし驚かれたでしょ。女性と出かけるのにいいところとか聞いたんでしょ?」

 むっとしたのか、しばらく返事がない。

 「……玖生さん?」

 「だが、いい。せっかくお前と出かけるんだから、俺はお前に喜んで欲しいからな」

 「あの、ただの友達なんですから、気を遣ってもらわなくてもいいです。相談されたお友達は勘違いしてるかもしれない」

 「確かに相談したら驚かれた。それで聞かれたから、お前とのいきさつを説明した」

 「ええ?!お友達はなんて?」

 「……笑われた」

 それはそうでしょうね。なんか、ごめんなさい。
 
 「水族館ってなんとなくデートのイメージです」

 「嫌なのか?別にお前が他に行きたいところがあるならそこでもいいぞ」

 「いいえ。せっかく玖生さんがお友達にまで相談してくださったんですから、お友達のためにも行きましょう」

 「……別にあいつらのために行く必要はない」

 低い声が更に低くなって、呟いている。

 「えっと、じゃあどこの水族館にしましょうかね?」

 「まずは、近場で東京の水族館にしよう。どうだ?」

 「はい、お任せします。待ち合わせは?」

 「九時くらいにお前の家へ迎えに行く」

 「まさか、運転手さん付きとかないですよね?」

 「ああ。俺が運転していくつもりだ」

 「え?大丈夫なの?普段運転してないんでしょ?」

 「いや。休日は気分転換にドライブをしている。心配いらないぞ」

 「じゃあ、お願いします。お待ちしてますね」

 「ああ。もう、寝るのか?」

 おかしくて、吹き出してしまった。そうだ、この間適当に言ったの本気にしてるの?

 「いえ。今日はまだ寝ません」

 「じゃあ、話ししていてもいいか」

 「え?」

 「お前と話したいんだ。今週はまた出張が入っていて、週末までお前の顔も見られない」

 どういう意味?

 「……」

 「だめか?おい、眠いのか?」

 「ふふふ、眠くないですよ。大丈夫です」

 「そうだ、由花。受付で何か絡まれたり、嫌な思いをしたらすぐに秘書室へ連絡しろ。必ず助けるから」

 「え?」

 「秘書にこの間聞いた。受付は結構男に絡まれることが多いそうだな」

 「……あ、あの」

 「知っていたら、受付になどしなかった。すまない。俺がいないときに何かあったとしても、秘書や警備に言っておくから、すぐに連絡するんだ、いいな」

 「一緒に働いている須藤さんもそういうことがあって、近所のカフェのオーナーである彼氏に助けてもらっていたそうです。すでに三回も。この間、私に何かあっても連絡くれたら助けに行くっていってくれましたから、大丈夫ですよ。もちろん、社内の警備員の人には助けてもらえると助かりますけど」

 「……由花。お前、他の男に自分のことを頼むとか、本気で言っているのか?許さないぞ」

 低い声で怒っている。

 「え?」

 「いいか、他の男に頼ったりしたら許さないからな、わかったか?」

 「玖生さん、あ、あの……」

 「お前は俺の最初の女友達だ。守るのは当然だろ」

 「……玖生さん」

 「ああ、そろそろ十時半だな。お子様は寝る時間だ。じゃあな、また週末までいいこでいろよ」

 どうしたんだろう?今日の玖生さんは甘すぎる。お友達に色々教えてもらって、実践しているのかな?それにしたって、友達と言う割には……私じゃなかったら絶対勘違いする案件だ。
 
 日曜日。
 
 時間よりも十分前に彼は大きな車で迎えに来てくれた。有名な外車。乗ると革張りの椅子が身体を包むようだった。
 私服姿も素敵。やっぱりイケメンだなと見とれた。すると、彼もこちらをじっと見てる。

 「え?何か変です?」

 「いや。制服と着物姿しか見ていなかったから、新鮮だ。結構可愛いな」

 ピンクのワンピース。お気に入りのお出かけスタイル。褒められるのは嬉しい。

 「あ、ありがとうございます。玖生さんも素敵です。もう、なんか昨日から調子狂うんですけど……毒舌の玖生さんはどこへ行っちゃったの」

 私を見つめて笑っている。

 「ああ。女友達は他にいないから、少しは優しくしようとこれでも最近は気をつけるようにしている。どうだ?」

 どうしたらいいの。すごい破壊力。こんなに甘い雰囲気作れる人だったなら、私本当は必要なかったかもしれない。

 「どうした?シートベルトはめてやるか?」

 「い、いいえ。自分でできます」

 そう言って、アワアワとベルトを締め出したら彼はまた笑っている。

 水族館は楽しかった。ふたりでああでもない、こうでもないと言い合いながら回った。
 午前中にほとんど回ってしまった。お友達にこれまた勧められたという素敵なレストランで食事をした。

 「とても美味しかったです」

 「ああ。気に入ってもらえてよかった」

 「このあとはどうしますか?まだ、少し早いですけど……」

 「由花。寄りたいところがあるんだが、行ってもいいか?」

 「ええ、もちろんいいですよ」

 どこに行くんだろう。しばらく行くとずいぶんと緑が多くなってきた。

 「どこへ向かっているの?」

 「俺の思い出の場所だ」

 「え?」

 「今日来るつもりじゃなかったんだが、時間があったので連れてきたかった」

 そう言って、森の近くの道を走っていく。すると、別荘と湖が見えてきた。

 「ここ?」

 「ああ、そうだ」

 そう言って、別荘の駐車場へ車を入れた。

 「ここは、俺の小さい頃よく来ていた別荘。母がここで療養していたんだ」

 「え?」

 「都内から一時間半くらいで来られるが、父はほとんど来なかった」

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