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友達として3
しおりを挟む須藤さんって、礼子さんだったのか。初めて知った。
彼女がカウンターの一番奥に座ったので、その隣に座る。
「ここはね。夜はバーなのよ。昼は喫茶店。といっても、開いてるときとそうじゃないときがある。飲み過ぎたときは開いてない」
「礼子ちゃーん。余計なことは言わないのよー」
あっちで彼がウインクしてる。
「健ちゃん、洋食ランチふたつ。アイスコーヒーでいい?」
私を見て聞いてきた。
「ええ」
「じゃ、アイスコーヒーもふたつー」
「はいはい」
彼が返事した。
「素敵な店ですね。夜に良く来るの?」
「そうね。夜のほうが多いかな?」
「昼も来るじゃん」
「そうね。ここ以外どこにも行かないかもしれない」
「そうなんですね」
「実は、健ちゃんは私の恋人です!」
「そうでーす。おネエは商売道具。本当は男だぜ」
声を低くして答えてくれた。
面白くてまた笑ってしまう。
「と言うわけで、さあ今度は織原さんの話を聞かせてね。健ちゃん、今日の昼は私達だけってことでお願い。ちょっと内緒話するからね」
「何だとー?おい、礼子」
「え?そんな。大丈夫ですよ、須藤さん」
「だめだめ。玖生さんの話は内緒がいいのよ。私もあそこやめたくないしね」
「……すみません」
彼に頭を下げると笑顔で手を振られた。
「で?御曹司とはどういう知り合いなの?おばあさん同士がどうのこうの言ってたよね、最初……」
「そうです。ここだけの話にしてくださいね……」
「だから、貸し切りなんでしょうが……」
「あ、そうでした。えっと、お見合いというか、紹介されたのが最初です」
「やっぱりね。そうじゃないかと思った。お花の家元とかいうし、変だなと思ったんだ」
「それで、お付き合い自体はお断りしてですね」
「うん。初対面で冷たかったんでしょ、どうせ」
「須藤さんったら……」
「それで、どうしてここにいるの?」
「失業中だったんです。色々あって少し話しましたけど、男性に裏切られて前の仕事を辞めていたんです。そしたら、紹介してくれた大奥様から受付の仕事を勧められて。お花もセットだったので、乗っかってしまいました」
「なるほどねー」
「というわけで、まだ知り合って一ヶ月くらいですので、お話しすることはそれだけです」
「そうかなー?あの様子は絶対気があるでしょ、あなたに……」
須藤さんが面白そうにこちらを見てる。
「というか、友達としてお付き合いしているんです。そういう人も周りにあまりいないようなので。特に、異性の知り合いがいないみたいで……」
「それはそうだね。あの冷たさ。誰も深入りしないよ。織原さんを見る目や話し方が今までとまるで違う。みんなすぐに気がつくよ」
それはそれで問題だな、やっぱり。
「私で慣れてくれれば、きっと他の女性にも普通に話せると思うんです」
「そうかなー?あれは、結構面倒くさいタイプと見た」
「……否定できないところもありますね、確かに」
料理が出てきた。ナポリタンとハンバーグ。すごい最強の洋食。
「はいどーぞ」
「ありがとうございます。美味しそう」
「美味しいよ。お酒を作るのも上手だけど、料理も上手なのよ、彼」
須藤さんが言う。
「そうそう、男としても上等だもんな、礼子は得してるぞ」
「そうねー、私も上等だから、おたがいさまねー」
ふたりで笑ってる。いいなー。こういう関係になりたい。
「おふたりはお付き合いしてどのくらいになるんですか?」
「どのくらいだっけ?」
須藤さんが聞く。
「もう二年じゃん」
彼が答えた。
「須藤さんって受付二年くらいやってるって言ってましたよね。結構来てすぐから付き合った?」
「そうね。お客さんに言い寄られて相談してたの。で、助けてってメールしたらすっ飛んできて、私を助けてくれた。それからかな。ああいうのに弱いのよ、女って……」
「ああ、いいですねー。憧れます。本当にそういうことあるんですね。うらやましい、須藤さん」
「だから、受付なんてやめろって言ってんだよ、笑えねえんだ。助けに行ったの実は三回あるんだ」
「マジですか?」
須藤さんは下を向いてしまった。
「君も、気をつけろよ。男どもは受付の女の子をゲットするの好きな奴がたまにいるからな。何かあれば連絡くれたら助けに行くよ」
「健ちゃんったら」
「いいですよ。姫のナイトはひとりでいいんです。私はひとりで相手を蹴り倒して何とかします」
「ははは。何言ってんだよ。首になるぞ」
「そうしたら、玖生さんに助けてもらおうかしら」
ふたりは固まってこちらを見てる。あ、口が滑った。
「やっぱり。玖生さんはあなたのこと好きなんでしょ?あなたには普通の優しさを見せるんだから、付き合ってあげたら?」
「そんな、無理ですよ。身分違い甚だしい」
「よく言うわよ。紹介されるくらいの関係の癖して……」
「んー。御曹司は懲りてるんです」
「もしかして、前の人って御曹司なの?」
「そうです。たまたまそうでしたね。会社の上司だったんです」
「そうか。裏切られたって言ってたから相当のことがあったのね。なるほど、御曹司だからこその裏切りだったってことね」
須藤さん頭いいな。
「まあ、そういうことです。身分の高い女性とお付き合いしてますよ、今頃」
「……ひでえな」
彼が言う。
「騙された私が馬鹿なのかもしれないですけど……」
「そんなことないだろ。人格の問題だな。別れるにしても、きちんと別れることはできるからな」
なるほど。そうだよね。
「あ、そろそろ時間ね。ごめん、食べられた?」
「ええ、美味しかった。また来てもいいですか?もちろん、須藤さんと一緒に」
「ああ、ひとりでもおいで」
「……健ちゃん!」
「ふふふ。ひとりでは来ませんよ、安心して下さい」
「もう。すぐに女の子に色目使って。許さん」
「使ってねーよ。お前がいるってみんな知ってるよ、ここに来てる奴はほとんどな」
いいなあ。うらやましい。須藤さんをおいて、私は先に失礼した。
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