上 下
11 / 36

友達として3

しおりを挟む
 
 須藤さんって、礼子さんだったのか。初めて知った。

 彼女がカウンターの一番奥に座ったので、その隣に座る。

 「ここはね。夜はバーなのよ。昼は喫茶店。といっても、開いてるときとそうじゃないときがある。飲み過ぎたときは開いてない」

 「礼子ちゃーん。余計なことは言わないのよー」

 あっちで彼がウインクしてる。

 「健ちゃん、洋食ランチふたつ。アイスコーヒーでいい?」

 私を見て聞いてきた。

 「ええ」

 「じゃ、アイスコーヒーもふたつー」

 「はいはい」

 彼が返事した。

 「素敵な店ですね。夜に良く来るの?」

 「そうね。夜のほうが多いかな?」

 「昼も来るじゃん」

 「そうね。ここ以外どこにも行かないかもしれない」

 「そうなんですね」

 「実は、健ちゃんは私の恋人です!」

 「そうでーす。おネエは商売道具。本当は男だぜ」

 声を低くして答えてくれた。

 面白くてまた笑ってしまう。

 「と言うわけで、さあ今度は織原さんの話を聞かせてね。健ちゃん、今日の昼は私達だけってことでお願い。ちょっと内緒話するからね」

 「何だとー?おい、礼子」

 「え?そんな。大丈夫ですよ、須藤さん」

 「だめだめ。玖生さんの話は内緒がいいのよ。私もあそこやめたくないしね」

 「……すみません」

 彼に頭を下げると笑顔で手を振られた。

 「で?御曹司とはどういう知り合いなの?おばあさん同士がどうのこうの言ってたよね、最初……」

 「そうです。ここだけの話にしてくださいね……」

 「だから、貸し切りなんでしょうが……」

 「あ、そうでした。えっと、お見合いというか、紹介されたのが最初です」

 「やっぱりね。そうじゃないかと思った。お花の家元とかいうし、変だなと思ったんだ」

 「それで、お付き合い自体はお断りしてですね」

 「うん。初対面で冷たかったんでしょ、どうせ」

 「須藤さんったら……」

 「それで、どうしてここにいるの?」

 「失業中だったんです。色々あって少し話しましたけど、男性に裏切られて前の仕事を辞めていたんです。そしたら、紹介してくれた大奥様から受付の仕事を勧められて。お花もセットだったので、乗っかってしまいました」

 「なるほどねー」

 「というわけで、まだ知り合って一ヶ月くらいですので、お話しすることはそれだけです」

 「そうかなー?あの様子は絶対気があるでしょ、あなたに……」

 須藤さんが面白そうにこちらを見てる。

 「というか、友達としてお付き合いしているんです。そういう人も周りにあまりいないようなので。特に、異性の知り合いがいないみたいで……」

 「それはそうだね。あの冷たさ。誰も深入りしないよ。織原さんを見る目や話し方が今までとまるで違う。みんなすぐに気がつくよ」

 それはそれで問題だな、やっぱり。

 「私で慣れてくれれば、きっと他の女性にも普通に話せると思うんです」

 「そうかなー?あれは、結構面倒くさいタイプと見た」

 「……否定できないところもありますね、確かに」

 料理が出てきた。ナポリタンとハンバーグ。すごい最強の洋食。

 「はいどーぞ」

 「ありがとうございます。美味しそう」

 「美味しいよ。お酒を作るのも上手だけど、料理も上手なのよ、彼」

 須藤さんが言う。

 「そうそう、男としても上等だもんな、礼子は得してるぞ」

 「そうねー、私も上等だから、おたがいさまねー」

 ふたりで笑ってる。いいなー。こういう関係になりたい。

 「おふたりはお付き合いしてどのくらいになるんですか?」

 「どのくらいだっけ?」
 須藤さんが聞く。
 
 「もう二年じゃん」
 彼が答えた。

 「須藤さんって受付二年くらいやってるって言ってましたよね。結構来てすぐから付き合った?」

 「そうね。お客さんに言い寄られて相談してたの。で、助けてってメールしたらすっ飛んできて、私を助けてくれた。それからかな。ああいうのに弱いのよ、女って……」

 「ああ、いいですねー。憧れます。本当にそういうことあるんですね。うらやましい、須藤さん」

 「だから、受付なんてやめろって言ってんだよ、笑えねえんだ。助けに行ったの実は三回あるんだ」

 「マジですか?」

 須藤さんは下を向いてしまった。

 「君も、気をつけろよ。男どもは受付の女の子をゲットするの好きな奴がたまにいるからな。何かあれば連絡くれたら助けに行くよ」

 「健ちゃんったら」

 「いいですよ。姫のナイトはひとりでいいんです。私はひとりで相手を蹴り倒して何とかします」

 「ははは。何言ってんだよ。首になるぞ」

 「そうしたら、玖生さんに助けてもらおうかしら」

 ふたりは固まってこちらを見てる。あ、口が滑った。

 「やっぱり。玖生さんはあなたのこと好きなんでしょ?あなたには普通の優しさを見せるんだから、付き合ってあげたら?」

 「そんな、無理ですよ。身分違い甚だしい」

 「よく言うわよ。紹介されるくらいの関係の癖して……」

 「んー。御曹司は懲りてるんです」

 「もしかして、前の人って御曹司なの?」

 「そうです。たまたまそうでしたね。会社の上司だったんです」

 「そうか。裏切られたって言ってたから相当のことがあったのね。なるほど、御曹司だからこその裏切りだったってことね」

 須藤さん頭いいな。

 「まあ、そういうことです。身分の高い女性とお付き合いしてますよ、今頃」

 「……ひでえな」
 
 彼が言う。

 「騙された私が馬鹿なのかもしれないですけど……」

 「そんなことないだろ。人格の問題だな。別れるにしても、きちんと別れることはできるからな」

 なるほど。そうだよね。

 「あ、そろそろ時間ね。ごめん、食べられた?」

 「ええ、美味しかった。また来てもいいですか?もちろん、須藤さんと一緒に」

 「ああ、ひとりでもおいで」

 「……健ちゃん!」

 「ふふふ。ひとりでは来ませんよ、安心して下さい」

 「もう。すぐに女の子に色目使って。許さん」

 「使ってねーよ。お前がいるってみんな知ってるよ、ここに来てる奴はほとんどな」

 いいなあ。うらやましい。須藤さんをおいて、私は先に失礼した。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

※ハードプレイ編「慎也は友秀さんの可愛いペット」※短編詰め合わせ

恭谷 澪吏(きょうや・みおり)
BL
攻め→高梨友秀(たかなし・ともひで)。180センチ。鍛え上げられたボディの商業デザイナー。格闘技をたしなむ。 受け→代田慎也(よだ・しんや)。雑誌の編集者。友秀によく仕事を依頼する。 愛情とも友情とも違う、「主従関係」。 ハードプレイ、野外プレイ、女装プレイでエスエムをしています。痛い熱い系注意。

【完結】愛する人にはいつだって捨てられる運命だから

SKYTRICK
BL
凶悪自由人豪商攻め×苦労人猫化貧乏受け ※一言でも感想嬉しいです! 孤児のミカはヒルトマン男爵家のローレンツ子息に拾われ彼の使用人として十年を過ごしていた。ローレンツの愛を受け止め、秘密の恋人関係を結んだミカだが、十八歳の誕生日に彼に告げられる。 ——「ルイーザと腹の子をお前は殺そうとしたのか?」 ローレンツの新しい恋人であるルイーザは妊娠していた上に、彼女を毒殺しようとした罪まで着せられてしまうミカ。愛した男に裏切られ、屋敷からも追い出されてしまうミカだが、行く当てはない。 ただの人間ではなく、弱ったら黒猫に変化する体質のミカは雪の吹き荒れる冬を駆けていく。狩猟区に迷い込んだ黒猫のミカに、突然矢が放たれる。 ——あぁ、ここで死ぬんだ……。 ——『黒猫、死ぬのか?』 安堵にも似た諦念に包まれながら意識を失いかけるミカを抱いたのは、凶悪と名高い豪商のライハルトだった。 ☆3/10J庭で同人誌にしました。通販しています。

美味しく食べてね

丸井まー(旧:まー)
BL
ある日突然『フォーク』になったローランと、そのローランに恋をしている『ケーキ』のラザール。ラザールは夜な夜なローランの部屋に忍び込み、眠るローランに、こっそり自分の血肉を食わせ、自分の味を覚えさせようと試みた。割と頭がぶっとんでいる『ケーキ』ラザールと真面目な常識人『フォーク』ローランの、理性を取っ払って貪り合う愛の物語の始まり。 ※リバです。嘔吐、失禁あります。 ※猫宮乾様主催の『ケーキバースアンソロジー』に寄稿させていただいたものをweb用に編集したものです。 ※ムーンライトノベルズさんでも公開しております。

「優秀で美青年な友人の精液を飲むと頭が良くなってイケメンになれるらしい」ので、友人にお願いしてみた。

和泉奏
BL
頭も良くて美青年な完璧男な友人から液を搾取する話。

召喚獣に勝るものはなし《完結》

アーエル
ファンタジー
この世界で一番強いのは召喚獣だった。 第三者目線の書き方練習に作った短編です。 召喚獣たちは可愛いですが登場は少なめです。 他社でも公開中

橘守のおやつどころ

葉野亜依
児童書・童話
 引っ込み思案の小寺理穂は、引っ越して来たばかり。あやかしに追われていたところを少年・井伊路久に助けられる。不思議な橘を使って料理をし、あやかしを治療する路久の姿を見て、自分も彼のようになれたらと思うようになる。  様々なあやかしと接しながら、あやかしについて知っていく理穂。  だが、ある日、橘を狙うあやかしが現れて――!?  あやかしとの優しい味のお話。

憧れの剣士とセフレになったけど俺は本気で恋してます!

藤間背骨
BL
若い傭兵・クエルチアは、凄腕の傭兵・ディヒトバイと戦って負け、その強さに憧れた。 クエルチアは戦場から姿を消したディヒトバイを探し続け、数年後に見つけた彼は闘技場の剣闘士になっていた。 初めてディヒトバイの素顔を見たクエルチアは一目惚れし、彼と戦うために剣闘士になる。 そして、勢いで体を重ねてしまう。 それ以来戦いのあとはディヒトバイと寝ることになったが、自分の気持ちを伝えるのが怖くて体だけの関係を続けていた。 このままでいいのかと悩むクエルチアは護衛の依頼を持ちかけられる。これを機にクエルチアは勇気を出してディヒトバイと想いを伝えようとするが――。 ※2人の関係ではありませんが、近親相姦描写が含まれるため苦手な方はご注意ください。 ※年下わんこ攻め×人生に疲れたおじさん受け ※毎日更新・午後8時投稿・全32話

瀧華国転生譚 ~処刑エンド回避のために幼い病弱皇子を手懐けようとしたら見事失敗した~

飛鳥えん
BL
【病弱捨てられ皇子(幼少期)と中身現代サラリーマン(外見・黒い噂のある美貌の文官青年)】 (中盤からは成長後のお話になる予定) 社会人の芦屋は、何の前触れもなく購買した乙女ノベルゲーム「瀧華国寵姫譚(そうかこく ちょうきたん)~白虎の章~」の世界に取り込まれていた。そのうえ、現在の自分の身上は悪役として物語終盤に処刑される「蘇芳」その人。目の前には現在の上司であり、のちの国家反逆の咎で破滅する「江雪(こうせつ)」。 このままでは自分の命が危ないことを知った芦屋は、自分が陰湿に虐げていた後ろ盾のない第3皇子「花鶏(あとり)」を救い、何とか彼が国家反逆の旗振りとならぬよう、江雪の呪縛から守ろうとする。 しかし、今までの蘇芳の行いのせいですぐには信用してもらえない。 それでも何とか、保身のため表向きは改心した蘇芳として、花鶏に献身的に尽くしつつ機をうかがう。 やがて幼い花鶏の師として彼を養育する中で、ゲームの登場人物としてしか見てこなかった彼や周りの登場人物たちへの感情も変化していく。 花鶏もまた、頼る者がいない後宮で、過去の恨みや恐れを超えて、蘇芳への気持ちが緩やかに重く積み重なっていく。 成長するに従い、蘇芳をただ唯一の師であり家族であり味方と慕う花鶏。しかしある事件が起き「蘇芳が第3皇子に毒を常飲させていた」疑いがかけられ……? <第1部>は幼少期です。痛そうな描写に※を付けさせていただいております。 R18 サブタイトルも同様にさせていただきます。 (2024/06/15)サブタイトルを一部変更させていただきました。内容の変化はございません。 ◆『小説家になろう』ムーンライト様にも掲載中です◆  (HOTランキング女性向け21位に入れていただきました(2024/6/12)誠にありがとうございました!)

処理中です...