上 下
23 / 38
第二章 中宮殿

三ノ巻ー参内②

しおりを挟む
 
 お二人のおばさまに当たられる中宮様。かわいい姪と立派な甥と一緒にお茶を楽しみたいだけだと思う。

「そうかもしれないけれど、私は今が好機だと思う。何しろ、あれだけ忙しいと言っていた晴孝が私たちの入内する今日来ているなんておかしいと思わないの?あなたに会いたいからに決まっているわ。姉としてそれくらいは察しがつくのよ。さあ行くわよ」

 こうなっては何を言っても無駄。

 私は意を決して立ち上がり、とにかくこの唐衣をはじめとしたたくさんの服をうまくさばいて転ばないようにすることだけで頭がいっぱいになった。

 とりあえず、転ばずに部屋まで行くことが出来た。

 御簾をくぐったのはとりあえず姫様おひとり。中には几帳が囲うように置いてあり中は全く見えない。

 おそらく、その中に晴孝様がおられるのだろう。几帳越しのご対面なのだろうか、親しい親族だしどうなのだろうなどと考えていた。

 しばらくして、中宮様おつきの女房が御簾側に来た。

「暦師阿部兼近朝臣の妹、夕月殿。中宮様がお呼びです」

「……は、はい……」

 私はそうっと立ち上がり、足元を見ながら進んだ。女房が御簾を掲げてくれた。頭を下げて中に入る。

 一枚几帳を隔てるとまた几帳がある。そこから声がした。

「夕月とやら、おはいりなさい」

 中宮様のお声がした。ためらっていたら、静姫の声がした。

「夕月。入りなさい」

「はい、失礼いたします」

 私は頭を下げたまま、座ると手をついた。

「お初に御目もじ仕ります。夕月と申します」

「頭を御上げなさい」

 私は静姫様のもえぎ色の唐衣と裳のすそしか見えていなかったが、思い切って目をつむったまま頭を上げた。

 そこには優しそうな女性が紫の内着を柔らかくはおり、脇息に横たわりながらこちらをご覧になっていた。

 病のせいかもしれないが、少しおやつれだ。でも、美しさは隠しようがない。

 はらはらと流れるような黒髪。涼しげな眼もと。

 どこか静姫と晴孝様お二人に似たところがおありなのも好ましかった。

「あら、かわいい。こんな子がいたのね。静は隠していたの?志津じゃなくてこんな子がいるなら、参内するときは必ず連れてきなさい。参議達の噂になりそうね」

「……ゴホン」

 隣から咳払いがする。

「うふふ……おばさま。どうして弟がここに今日来たか教えて差し上げます。ねえ、晴孝」

「姉さん!」

「あらあら……まさかそういうことなの?」

 私は彼のほうをちらっと見た。すると、彼は目を大きくして私を凝視している。どうして?何か変?恥ずかしくて下を向いた。

「晴孝。夕月、今日は一段と綺麗でしょ。いい日に来たわね。あなたに見せてあげたかったのよ」

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

山蛭様といっしょ。

ちづ
キャラ文芸
ダーク和風ファンタジー異類婚姻譚です。 和風吸血鬼(ヒル)と虐げられた村娘の話。短編ですので、もしよかったら。 不気味な恋を目指しております。 気持ちは少女漫画ですが、 残酷描写、ヒル等の虫の描写がありますので、苦手な方又は15歳未満の方はご注意ください。 表紙はかんたん表紙メーカーさんで作らせて頂きました。https://sscard.monokakitools.net/covermaker.html

貧乏神の嫁入り

石田空
キャラ文芸
先祖が貧乏神のせいで、どれだけ事業を起こしても失敗ばかりしている中村家。 この年もめでたく御店を売りに出すことになり、長屋生活が終わらないと嘆いているいろりの元に、一発逆転の縁談の話が舞い込んだ。 風水師として名を馳せる鎮目家に、ぜひともと呼ばれたのだ。 貧乏神の末裔だけど受け入れてもらえるかしらと思いながらウキウキで嫁入りしたら……鎮目家の虚弱体質な跡取りのもとに嫁入りしろという。 貧乏神なのに、虚弱体質な旦那様の元に嫁いで大丈夫? いろりと桃矢のおかしなおかしな夫婦愛。 *カクヨム、エブリスタにも掲載中。

式鬼のはくは格下を蹴散らす

森羅秋
キャラ文芸
時は現代日本。生活の中に妖怪やあやかしや妖魔が蔓延り人々を影から脅かしていた。 陰陽師の末裔『鷹尾』は、鬼の末裔『魄』を従え、妖魔を倒す生業をしている。 とある日、鷹尾は分家であり従妹の雪絵から決闘を申し込まれた。 勝者が本家となり式鬼を得るための決闘、すなわち下剋上である。 この度は陰陽師ではなく式鬼の決闘にしようと提案され、鷹尾は承諾した。 分家の下剋上を阻止するため、魄は決闘に挑むことになる。

失恋少女と狐の見廻り

紺乃未色(こんのみいろ)
キャラ文芸
失恋中の高校生、彩羽(いろは)の前にあらわれたのは、神の遣いである「千影之狐(ちかげのきつね)」だった。「協力すれば恋の願いを神へ届ける」という約束のもと、彩羽はとある旅館にスタッフとして潜り込み、「魂を盗る、人ならざる者」の調査を手伝うことに。 人生初のアルバイトにあたふたしながらも、奮闘する彩羽。そんな彼女に対して「面白い」と興味を抱く千影之狐。 一人と一匹は無事に奇妙な事件を解決できるのか? 不可思議でどこか妖しい「失恋からはじまる和風ファンタジー」

とべない天狗とひなの旅

ちはやれいめい
歴史・時代
人間嫌いで悪行の限りを尽してきた天狗、フェノエレーゼ。 主君サルタヒコの怒りを買い、翼を封じられ人里に落とされてしまう。 「心から人間に寄り添い助けろ。これ以上悪さをすると天狗に戻れなくなるぞ」 とべなくなったフェノエレーゼの事情を知って、人里の童女ヒナが、旅についてきた。 人間嫌いの偏屈天狗と、天真爛漫な幼女。 翼を取り戻すため善行を積む旅、はじまりはじまり。 絵・文 ちはやれいめい https://mypage.syosetu.com/487329/ フェノエレーゼデザイン トトさん https://mypage.syosetu.com/432625/

胡蝶の夢に生け

乃南羽緒
キャラ文芸
『栄枯盛衰の常の世に、不滅の名作と謳われる──』 それは、小倉百人一首。 現代の高校生や大学生の男女、ときどき大人が織りなす恋物語。 千年むかしも人は人──想うことはみな同じ。 情に寄りくる『言霊』をあつめるために今宵また、彼は夢路にやってくる。

JOLENEジョリーン・鬼屋は人を許さない 『こわい』です。気を緩めると巻き込まれます。

尾駮アスマ(オブチアスマ おぶちあすま)
キャラ文芸
ホラー・ミステリー+ファンタジー作品です。残酷描写ありです。苦手な方は御注意ください。 完全フィクション作品です。 実在する個人・団体等とは一切関係ありません。 あらすじ 趣味で怪談を集めていた主人公は、ある取材で怪しい物件での出来事を知る。 そして、その建物について探り始める。 ほんの些細な調査のはずが大事件へと繋がってしまう・・・ やがて街を揺るがすほどの事件に主人公は巻き込まれ 特命・国家公務員たちと運命の「祭り」へと進み悪魔たちと対決することになる。 もう逃げ道は無い・・・・ 読みやすいように、わざと行間を開けて執筆しています。 もしよければお気に入り登録・イイネ・感想など、よろしくお願いいたします。 大変励みになります。 ありがとうございます。

ゴールドの来た日

青夜
キャラ文芸
人間と犬との、不思議な愛のお話です。 現在執筆中の、『富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?』の中の話を短編として再構成いたしました。 本編ではこのような話の他、コメディ、アクション、SF、妖怪、ちょっと異世界転移などもあります。 もし、興味を持った方は、是非本編もお読み下さい。 よろしくお願いいたします。

処理中です...