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第一章

七ノ巻ー戦い①

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 兼近は焦っていた。

 夕月が桔梗と接触して二日経った。兼近が調べていた幽斎に色んな事がわかってきたからだ。

 彼が黒幕だとすると、非常に危ない。帝が戻る前に、何かしてくる可能性もあるからだ。

 幽斎の力が思ったより大きいというのは、札を見つけたときすぐにわかった。

 こちらのこともわかっていて、見つかってもいいようにわかりやすい場所へ隠していた可能性があるのだ。

 何か起きる。兼近の第六感が告げている、絶対だ。

「晴孝」

 その日は忙しそうだった晴孝を無理に呼んだ。兼近はほっとした。

 時間的に間に合って良かった。まだ酉の刻まで少しある。暗くなってからでは遅いのだ。

「どうした?遅くなってすまなかったな……まさか、急にお前が式神を通じて連絡をよこすなんて……」

「戻ってきたところで申し訳ないが、このあとすぐに東宮殿へ入ってくれ」

「え?何かあったのか!」

「何か起きるかもしれないからお前を呼んだ」

「!」

「右大臣の後にいる幽斎という坊さんは、右大臣を操り、さらには忠信も操っているかもしれない。狙いは朱雀皇子だけでなく、帝の可能性もある」

「……え?!」

「幽斎の過去を洗ったのだが、帝と腹違いの兄弟の可能性が出てきた」

「……!」

「大原におられる前帝の桐生院様の落とし胤だったようだ」

「まさか……」

「おそらく恨みを念に込めている。こういうのはまずい……怨霊を呼んでしまう」

「何かしてくるのか?誰に?」

「二日前に夕月が桔梗と会って、東の対にあった呪い札を返した。絹のことも話したようだ。ただ、少し挑発しすぎたやもしれぬ。夕月には言い方に注意するよう言ったのだが、正面突破したと白藤から連絡があった。我が妹は良くも悪くも……真っ直ぐだからな」

「まさか、夕月殿が狙われているのか?」

「おそらく確実に狙ってくる。妹は私の弱点だからだ。私も準備をして別な場所へ行く。それには少々準備に時間がかかる。間に合わないといけないので、すぐに向こうへ入ってくれ。あ、女房姿になってもらうぞ」

「……はあ?ふざけるなよ」

「いや、夕月はお前が近くにいると挙動不審になる。新入り女房として夕月の側についてくれ。鈴にも連絡を入れた。今、白藤は南の対から東の対へ移り、静姫を護衛している。南の対には鈴の仲間の猫のあやかしが残っているので情報は来るので大丈夫だ」

 晴孝はすごい顔をしている。だが、深いため息をつくと、頷いた。

「わかった。何でもする。夕月は何が何でも守るから安心しろ」

「呼び捨てになったな」

「あ……」

「知ってるぞ。お前、参内するたびに夕月を陰から見に行っていたらしいな。心配なのは実の姉上ではなく、我が妹だったか……」

 晴孝は息をのんで真っ赤になった。兼近は念のため晴孝にも式神をつけていたのだ。

「な、何を言う!私が彼女に姉上を助けて欲しいと言ったんだ。彼女を心配して当たり前だろ」

「確かに心配だ。夕月があんなに綺麗だとは実の兄だったのに気づかなかった。すっかり年頃だったのだな」

「晴孝……」

「それとこの剣を持っていけ。これなら、怨霊も切ることができるはずだ。あと、着替えるときにこの護符も身につけよ」

 兼近は祭壇の中にある剣と護符を晴孝に渡した。

「頼むぞ。お前の匂い袋は置いていけ。身体も軽く拭いておけば匂いが消える」

 真剣な目の兼近に晴孝は事態の深刻さを認識した。頷くと急いで身支度し、女物の袿を被った。そして東宮殿へ馬を飛ばして向かったのだった。

 兼近は自分の配下のものを集め、指示を始めた。

「さてと準備をするとしよう。百舌」

 黒い猫がすぐに現れた。

「にゃ(はい)」

「鈴に連絡しろ。姫は白藤に任せ、とにかく夕月を守れと。そしてお前の手のものを晴孝と夕月につけよ。急げ」

「にゃあにゃ(かしこまりました)」

「旭丸」

 大きな柴犬が庭先に走ってきた。

「わん(へい)」

「お前の配下を数匹私の側へ。お前はすぐに晴孝を追い、権太と連携せよ」

「わんわん(かしこまりました)」

 兼近は胸元から紙人形をふたつ出した。それを目の前に置くと、指を立てて何か呟いた。ふたつの式神は鳥となって、飛んでいった。

 兼近は立ち上がり祭壇の奥にある包み箱を開け、何やら懐にしまいはじめたのだった。

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