上 下
11 / 38
第一章

六ノ巻ー敵陣へ①

しおりを挟む
 
 とうとう東宮殿に入る日が近づいて来た。あれから兄が色々探りを入れて、指示が来た。

 兄は絹のところにも式神をいれたようで大変な事態がわかった。そして、重要な任務を任された。

 桔梗を牽制しろと言われたのだ。引越の前の挨拶と言う名目で静姫の名代として行くことに決めた。

 ただ、白藤に現状を確認する必要がある。彼女は忠信、桔梗親子の寝殿で女房として仕えているのだ。

 前日の夜、皆が寝静まった頃に鈴を通して白藤を呼んだ。

「あら、白藤……その姿とても綺麗よ」

 白藤はとても美しかった。あまりに白くて驚いた。白ギツネなのだから当たり前だろうけれど、おしろいを塗らなくても肌が白い。紅が白い肌に映える。

 これじゃ、朱雀皇子が戻ってきて白藤を気に入るのではないかと心配になったが、それも兄の作戦のうちなのだろうとこの姿を見て今気づいた。

「うふふ……そういう夕月様もお綺麗ざんすよ」

 嬉しそうに笑っている。兄上以外に褒め言葉を使ったところを見たことのない彼女がお世辞も言えるようになったのか。さすが女房生活。

「それで、桔梗のことは何かわかった?」

「あの人はお団子が大好きやんす」

「……はあ?」

「毎日申の時に女房部屋で隠れて食しているんす。あちきも味見してみやしたが、ちいとも美味くない……」

「……白藤。あなたね何を見てるのよ……はあ……」

 甘塩っぱいお揚げの好きな白藤があの甘いだけのお団子を食べたの?美味しいと思うわけがないじゃない。追求すべきところがずれてる。

「そうじゃなくって、他に何かわかった?」

「皇子の直衣を抱きしめて寝ていやる」

「!」

「あちこちから文が届き、毎日すごい顔をしてその文を読みながらぶつぶつ言っているんす」

「あちこちに人を送り込んで事情を探っているというのは本当だったのね。でも文で報告させているということは、やはり相手は人だわね」

「もちろんでやんす。あの人からはあやかしの匂いがしない。護符も身体に付けてないから近寄れる」

「なるほどね」

「昨日、夕月さんのことを言っていたんす」

「え?」

「自分から挨拶にくるなんて面白いって変な顔で笑っていやした」

「……そう。面白くなりそうだわ」

 翌日。

 私は桔梗のところへ乗り込んだ。

 手土産はふたつ。

 兄上が見つけてきた呪い札が三枚。これは、事前に運び込んだ静姫の道具箱の下から見つかった。それを彼女の好きな団子の下にある笹の葉の間に入れた。

 白藤の言うとおりそこの団子が大好きだったのだろう。私の手元にある団子の包みを見て、彼女は満面に笑みを浮かべていた。

「静姫のお付き女房で夕月と申します。お忙しい中お会い下さりありがとうございます。本日は姫に成り代わり、先に寝殿の主である桔梗様にご挨拶へ参上致しました。この団子はご挨拶代わりです。よろしければお召し上がり下さいませ」

 私が下に置いた団子の包みをすぐに手を伸ばして膝に載せた。

「それはそれは、わざわざご丁寧にありがとう。どうしてこのお団子を?」

 まあ、そうよね。

「これは亡くなった母の大好きな団子でした。それで私もたまに取り寄せて母を思い出しながら食べているのですが美味しいのです」

「そうだったの。私もここの団子は大好きなのよ。気が合うわね」

 桔梗は嬉しそうに包みを開いて団子を眺めている。

「今後、静姫と共にお世話になります。朱雀皇子のお好みのお茶やお菓子、香などございましたらお教え頂けませんか?」

「それは、これから静姫が自分で探っていかれるのがよろしいかと思いますよ。先に知っている方が変でしょう」

「そうでしょうか?先回りをして主人、並びに主人の男君を万全にお迎えできるよう整えてさし上げてこそのお付きの女房です」

 すごい目でこちらを見てる。桔梗は細部に気が届く。部屋のお道具の置き方や使っている調度品を見れば一目瞭然だ。方角などにも気をつけているのがすぐにわかった。使っている香のかおりもそうだ。

 それはこの奥勤めでは頭が回るということと同義だ。女房たるもの、主人に良い伴侶を引当てさせるべく根回しをするのも重要な仕事なのだ。

 彼女は皇子のため、そういうことを最初は陰ながらしてきたはず。でも、彼女自身が情人となったときから、違う意味の気持ちが入り、歯車が違う方へ向かっているのだろう。

「ただし、主人がいくら身分高い相手をあてがわれても、幸せになれないなら力を貸す必要はないと思っています」

「……あなた、それはどういうこと?朱雀皇子とは幸せになれないとでも言うの?あの方は東宮殿にお住まいなのよ。次期帝になることは確定している」

「桔梗さん。朱雀皇子の幸せとは何ですか?東宮として帝の言うとおりの姫を娶ることですか?」

「え?」

「桔梗様ならそれをよくご存じのはず。朱雀皇子のお気持ちもよくご存じだからこそ、今まで朱雀皇子の為にと色々手を下してきたのではございませんか?」

 バンと扇を閉じて脇息を叩く音。まあ、怒らせたわね、きっと。でも図星だ。震えている。

「……何をしに来たの?挨拶じゃなかったのかしら?」

「東の対の調度品に入れて下さった札は団子の下に入れました。お返し致します」

「……!」

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

山蛭様といっしょ。

ちづ
キャラ文芸
ダーク和風ファンタジー異類婚姻譚です。 和風吸血鬼(ヒル)と虐げられた村娘の話。短編ですので、もしよかったら。 不気味な恋を目指しております。 気持ちは少女漫画ですが、 残酷描写、ヒル等の虫の描写がありますので、苦手な方又は15歳未満の方はご注意ください。 表紙はかんたん表紙メーカーさんで作らせて頂きました。https://sscard.monokakitools.net/covermaker.html

貧乏神の嫁入り

石田空
キャラ文芸
先祖が貧乏神のせいで、どれだけ事業を起こしても失敗ばかりしている中村家。 この年もめでたく御店を売りに出すことになり、長屋生活が終わらないと嘆いているいろりの元に、一発逆転の縁談の話が舞い込んだ。 風水師として名を馳せる鎮目家に、ぜひともと呼ばれたのだ。 貧乏神の末裔だけど受け入れてもらえるかしらと思いながらウキウキで嫁入りしたら……鎮目家の虚弱体質な跡取りのもとに嫁入りしろという。 貧乏神なのに、虚弱体質な旦那様の元に嫁いで大丈夫? いろりと桃矢のおかしなおかしな夫婦愛。 *カクヨム、エブリスタにも掲載中。

式鬼のはくは格下を蹴散らす

森羅秋
キャラ文芸
時は現代日本。生活の中に妖怪やあやかしや妖魔が蔓延り人々を影から脅かしていた。 陰陽師の末裔『鷹尾』は、鬼の末裔『魄』を従え、妖魔を倒す生業をしている。 とある日、鷹尾は分家であり従妹の雪絵から決闘を申し込まれた。 勝者が本家となり式鬼を得るための決闘、すなわち下剋上である。 この度は陰陽師ではなく式鬼の決闘にしようと提案され、鷹尾は承諾した。 分家の下剋上を阻止するため、魄は決闘に挑むことになる。

失恋少女と狐の見廻り

紺乃未色(こんのみいろ)
キャラ文芸
失恋中の高校生、彩羽(いろは)の前にあらわれたのは、神の遣いである「千影之狐(ちかげのきつね)」だった。「協力すれば恋の願いを神へ届ける」という約束のもと、彩羽はとある旅館にスタッフとして潜り込み、「魂を盗る、人ならざる者」の調査を手伝うことに。 人生初のアルバイトにあたふたしながらも、奮闘する彩羽。そんな彼女に対して「面白い」と興味を抱く千影之狐。 一人と一匹は無事に奇妙な事件を解決できるのか? 不可思議でどこか妖しい「失恋からはじまる和風ファンタジー」

とべない天狗とひなの旅

ちはやれいめい
歴史・時代
人間嫌いで悪行の限りを尽してきた天狗、フェノエレーゼ。 主君サルタヒコの怒りを買い、翼を封じられ人里に落とされてしまう。 「心から人間に寄り添い助けろ。これ以上悪さをすると天狗に戻れなくなるぞ」 とべなくなったフェノエレーゼの事情を知って、人里の童女ヒナが、旅についてきた。 人間嫌いの偏屈天狗と、天真爛漫な幼女。 翼を取り戻すため善行を積む旅、はじまりはじまり。 絵・文 ちはやれいめい https://mypage.syosetu.com/487329/ フェノエレーゼデザイン トトさん https://mypage.syosetu.com/432625/

JOLENEジョリーン・鬼屋は人を許さない 『こわい』です。気を緩めると巻き込まれます。

尾駮アスマ(オブチアスマ おぶちあすま)
キャラ文芸
ホラー・ミステリー+ファンタジー作品です。残酷描写ありです。苦手な方は御注意ください。 完全フィクション作品です。 実在する個人・団体等とは一切関係ありません。 あらすじ 趣味で怪談を集めていた主人公は、ある取材で怪しい物件での出来事を知る。 そして、その建物について探り始める。 ほんの些細な調査のはずが大事件へと繋がってしまう・・・ やがて街を揺るがすほどの事件に主人公は巻き込まれ 特命・国家公務員たちと運命の「祭り」へと進み悪魔たちと対決することになる。 もう逃げ道は無い・・・・ 読みやすいように、わざと行間を開けて執筆しています。 もしよければお気に入り登録・イイネ・感想など、よろしくお願いいたします。 大変励みになります。 ありがとうございます。

胡蝶の夢に生け

乃南羽緒
キャラ文芸
『栄枯盛衰の常の世に、不滅の名作と謳われる──』 それは、小倉百人一首。 現代の高校生や大学生の男女、ときどき大人が織りなす恋物語。 千年むかしも人は人──想うことはみな同じ。 情に寄りくる『言霊』をあつめるために今宵また、彼は夢路にやってくる。

ゴールドの来た日

青夜
キャラ文芸
人間と犬との、不思議な愛のお話です。 現在執筆中の、『富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?』の中の話を短編として再構成いたしました。 本編ではこのような話の他、コメディ、アクション、SF、妖怪、ちょっと異世界転移などもあります。 もし、興味を持った方は、是非本編もお読み下さい。 よろしくお願いいたします。

処理中です...