44 / 44
第三章 氷室商事へ
エピローグ
しおりを挟む「戻ったぞ」
「あ、おかえりなさい。達也さんはおられました?」
「ああ。菜摘を氷室に連れていくことも申し訳ないと言ってきたから、心置きなくついて来いよ」
郵便物を開ける手を止めた。何ですって?
「申し訳ないって言ってきたんですか?別に私なんていなくても関係ないと思います。すでに俊樹さんの専属で、会社の業務にはちっとも関係できてません」
つい口をとがらせて言う。
「まだ業務の仕事を取り上げたことを根に持ってるのか……」
「いいえ。俊樹さんと別れるか、仕事を取るかですよね。考える余地もありません」
「ほう。随分と素直になった。あのクリスマスのホテルでは涙目で訴えていた人が同一人物とは思えないな」
本当に意地悪。
「俊樹さんが万が一にも浮気をして私を捨てたなら、その時はミツハシに戻ります。達也さんへ頼んでおこうかな」
ふん、だ。言ってやった。でも何も言ってこない。変だな……。
ふと目を上げて彼を見た。ま、まずい。すごい目でにらんでる。言い過ぎたかもしれない……。
慌てていたら、彼がまっすぐに私のところへ来た。目の前に立つ。
「今、『浮気』とか聞こえたが……お前の辞書には『浮気』があるんだな。俺の辞書にはない。ということはお前にはその可能性があるということだ」
「何も言ってませんよ。あはは、空耳ですよ。ほら、忙しいですからお仕事いたしましょうね」
「……菜摘」
「……はい」
「鎖が緩かったようだな」
「は?え?鎖?」
「最初に言ったはずだが。俺はお前を見えない鎖でぐるぐる巻きにして繋ぐと言わなかったか?俺は浮気とかできないし、お前しか見ていない。だが、お前はよそ見をする可能性があるということだな。それをつい先ほど自分の口で認めた」
「どうしてそうなるのよ?俊樹さんのことを言ったんでしょ」
「だから、俺の辞書にはそんな言葉も存在しないから口から出ない。お前は存在するから口から出る。つまり人に言うということは、お前にはその可能性があるということだ」
ガタン!私は立ち上がった。
「私はしませんから。大体、浮気とかあなた以外と、その、いろいろするのも嫌だし。俊樹さんより好きな人なんてきっと……」
「ふうん。俺以外の男といろいろするのが嫌なんだ。つまり俺とすることは満足しているんだな」
「もう、言わないで。とにかくないですから、安心してください」
「いろいろってなんだろう?仕事のほかにもあるのか?なんだろうなあ……」
「……最低」
「最低な俺が好きなくせに、最低な秘書さん。さあ、仕事をしようか」
彼はうつむいた私の顎に手をかけてキスを落とした。耳元でささやく。
「菜摘は決して浮気できないね。何しろ鎖が食い込んで遠くには行かれない。菜摘の鎖はそんなに長く伸びないんだよ。残念でした」
「……は?」
「死ぬまで、いや死んでも愛してるから安心しろ。さてやるぞ」
彼はくるりと後ろを向いて自分の席へ戻っていった。
私は……朝から顔を真っ赤にしてしばらく立ち尽くしたのだった。
FIN.
2
お気に入りに追加
126
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。
上司は初恋の幼馴染です~社内での秘め事は控えめに~
けもこ
恋愛
高辻綾香はホテルグループの秘書課で働いている。先輩の退職に伴って、その後の仕事を引き継ぎ、専務秘書となったが、その専務は自分の幼馴染だった。
秘めた思いを抱えながら、オフィスで毎日ドキドキしながら過ごしていると、彼がアメリカ時代に一緒に暮らしていたという女性が現れ、心中は穏やかではない。
グイグイと距離を縮めようとする幼馴染に自分の思いをどうしていいかわからない日々。
初恋こじらせオフィスラブ
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~
椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」
私を脅して、別れを決断させた彼の両親。
彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。
私とは住む世界が違った……
別れを命じられ、私の恋が終わった。
叶わない身分差の恋だったはずが――
※R-15くらいなので※マークはありません。
※視点切り替えあり。
※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。
恋とキスは背伸びして
葉月 まい
恋愛
結城 美怜(24歳)…身長160㎝、平社員
成瀬 隼斗(33歳)…身長182㎝、本部長
年齢差 9歳
身長差 22㎝
役職 雲泥の差
この違い、恋愛には大きな壁?
そして同期の卓の存在
異性の親友は成立する?
数々の壁を乗り越え、結ばれるまでの
二人の恋の物語
恋は秘密のその先に
葉月 まい
恋愛
秘書課の皆が逃げ出すほど冷血な副社長
仕方なく穴埋めを命じられ
副社長の秘書につくことになった
入社3年目の人事部のOL
やがて互いの秘密を知り
ますます相手と距離を置く
果たして秘密の真相は?
互いのピンチを救えるのか?
そして行き着く二人の関係は…?
あまやかしても、いいですか?
藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。
「俺ね、ダメなんだ」
「あーもう、キスしたい」
「それこそだめです」
甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の
契約結婚生活とはこれいかに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる