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第二章 恋愛と仕事
攻防
しおりを挟む深夜実家に帰り、眠れないまま早朝に出社した。
母は早朝だというのに、喫茶店の仕込みの合間に、私の朝ごはんを出してくれた。
そして身体が心配だから、会社の近くで一人暮らしをしたらと言ってくれた。しかも父の説得を請け合ってくれた。
私は幸せ者だ。お兄ちゃん夫婦をはじめ味方ばかりだ。頑張らなくちゃと思った。
夜は眠くてメールの確認もろくにしなかった。そんな時に限って彼から着信もあった。メールの返信しなかったから、彼がいない夜にどこへ行ったのか心配だったのだろう。
とりあえず、電車で返信できなかったことを詫びて、何も心配いらないと返事をした。すると話があるとすぐに返信が来た。
嫌な予感がして、わかりましたと返信し、出社中なのであとでと書いて話を終わらせた。
嫌な予感は的中した。
会長が出社していなかったので、会長秘書に昨日のお礼を言付けした。その後秘書室へ顔を出すやいなや、他の役員秘書から噂聞いたわよと探りが入った。
すがるような目で篠田さんを見る。
「皆さん決まっていないことを軽々しく話す人は守秘義務違反で秘書を辞めて頂きます」
秘書課長がいつもの決まり文句で追い払ってくれた。でもこの状態じゃ他の役員の耳にも入っていて、おそらく同行している役員から彼の耳にも入っていると確信した。
始業時間になると、すぐに彼から電話が入った。
「……森川サン、聞いたよ。絶対渡さないからな」
思った通りの第一声だった。机の電話だから、聞いている人もいるだろう。語尾が公私混同している。
「取締役、その件ですがまだ決まったわけではありません。私の後任もまだ調整中です」
「……菜摘、お前異動了承したのか?」
会社の電話なのに名前を呼ぶなんて一体どうしたんだろう。
「取締役おちついてください。携帯で話しましょう」
「誰もいない会議室で話しているから大丈夫だ」
「三橋新部長から伝言です。全て新部長が取締役と交渉するそうです。彼は、私のプライベートには干渉しないと言いました。そういう意味では私に全く興味もないと言ってました。おそらく見破られました」
声を落として小声でささやく。
「どういうことだ?付き合っていると言ったのか?」
「肯定も、否定もしませんでしたが想像していたようでした。お話して驚きました。すごく頭の切れる方ですね」
「ふざけるな、達也のやつ調子に乗りすぎだ。俺を敵に回す気なのか?」
「落ち着いて下さい。私は公には秘書で、プライベート変わりません。新部長もそれを阻む気は全くありません」
「菜摘、お前は公私ともに俺のものだと言ったはずだ。誰にも絶対に渡さない。他の奴の仕事はさせない」
やっぱりね。こうなるような気がしていた。正直、彼の愛は重い。
愛されてるのは嬉しいけど、裏切ることはないということくらい信じてほしい。
「とにかく、お帰りになってから話しましょう。私も会議の手伝いがありますので、失礼します」
「おい、菜摘、切るな」
「だから、時間なんです。夜待ってますから。気をつけて帰って下さい」
受話器を置くと、突っ伏した。びっくりした。すぐに電話が鳴ったのだ。
「はい、秘書室森川です」
「森川さん、おはよう。三橋です。昨日はお疲れ様でした」
「こちらこそ、ありがとうございました」
「俊樹さんから連絡あった?」
今度はこっちかという思いがする。鋭すぎて、疲れる。
「……はい。すでに怒られました」
「はは、想像通りだったな。で、伝言してくれた?」
「全部言えませんでしたけど、とりあえず仕事を武器にする云々はまだ言ってません。それ以上言うとホントに大声で怒鳴り出しそうだったんです」
「面白くなってきた」
「面白いわけありません。三橋部長は俺を敵に回す気かと言ってましたよ」
「俊樹さん、戦う気満々だな。これは少し準備がいりそうだ」
「人ごとみたいにやめてください。私は巻き込まれて迷惑です」
「任せろと言っただろ。とにかく、この会社にいるんだから異動は絶対だ。特に会長命令だ」
それがよくないんだということくらいわかっているだろうに……もう少しやり方があったはずだ。こんな不意打ち、誰だって腹が立つ。
「わかりました。私がなだめると逆効果です。後はお任せ致します」
「了解。またね」
にやりと笑う部長の姿が脳裏によぎった。
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