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第一章 入社と出会い

正体ー1

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 今年は冬が寒い。

 コートの襟を立てて歩き出した。なんだかんだであっという間に年末になってしまった。

 巧から告白されたのが秋。

 それなのに、何も返事しない私をじっと待ってくれている。

 たまに飲みに行っても、いつも通りでいてくれる。もしかすると、私の気持ちに気付いてる?最近そう思う。

 昨日本部長のマンションでご飯を作っていたら後ろから抱きしめられた。そして、映画を見ているときに手を握られた。

 私は何も言わなかった。彼を避けもしなかった。

 本部長から告白もされていない。なのに、この状況はどういうこと?遊ばれてる?そんなことはない。身体の関係も、キスもない。

 あの、賢い人が秘書で遊ぶなんて絶対無いとわかっている。仕事に差し障るからだ。

 だとすると、本気かもしれない。

 そして、昨日帰り際に「クリスマス一緒にホテルのディナーへ行こう。今までのお礼に奢るよ」と誘われた。

 頷いてしまった。それこそが私の気持ちだろう。そして、その時こそハッキリさせようと決めた。

「どう、このフレンチ?」
 
 本部長が笑っている。揺れるキャンドル。私にしては可愛いワンピースを着てきた。

「そうですね。さすがフレンチ。フレンチってソースで味が決まりますけど、どうやっても作れないんですよね」

「君はいっつも自分で作ることを前提にしているね。そうだ、聞こうと思っていたが実家継ぐのかい?」

「そうですね。この会社に入ったらおそらく戻りたくなくなってしまうと思っていました。やはりそうなりました」

「ふーん。ということは会社に骨を埋める覚悟ってことかい?」

「状況によりますが、仕事をとっても許されるのならそうするかもしれません」

「菜摘って呼んでいいかな?プライベートだからね。君も名前を呼んでね。前も言ったけど、家で本部長はやめてくれ」

 私はじっと彼の目を見つめて頷いた。
 
「はい。俊樹さん」

「いいね。何度聞いても良い響きだ。それでね、よく聞いてくれ。僕は春から役員室へ異動になる。菜摘、君にはついてきてもらうことにした」

「え?」

 デザートが運ばれて、コーヒーが出てきた。

「業務部の仕事は春までで終わりになる。引き継ぎをそろそろはじめてもらうつもりだ」

「……嫌です」

 俊樹は目をじっと見ている。
 
「その返事も予測していた。でも、ダメだよ。許さない。これだけは絶対に譲れない。君はね、今日から公私共に僕のものになるんだよ」
 
「どういうことですか?」

 彼は箱からネックレスを取り出すと私のうしろに回って首につけた。ダイヤモンドが中央に輝く、シンプルなもの。つけやすいタイプだ。
 
「良く似合う。これでも悩んで買ったんだ。気に入ってくれるかな」
 
 彼は私の前に座ると両手を握ってゆっくり話した。

「菜摘……好きだよ。分かってたと思うけど、君も僕を拒絶しないからね。気持ちがあると思うんだけど、違うかな?」

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