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第一章 入社と出会い
就職ー1
しおりを挟むカランカラン……。
「いらっしゃいませ~こちらへどうぞ」
いつも通りの朝。モーニングは忙しい。
父や母と一緒にこの二号店を出してから、前の店よりも場所が駅に近いせいか、若い人が客層に入り込み、非常に人気店となった。
チェーンといっても、実家の一号店のほうは住宅街にあり、その近所の商店街の人など街の喫茶店の趣だ。そちらは兄が継いだ。祖父の店だが、祖父は病気で二年前亡くなった。
兄が隣の家に住む緑ちゃんと切り盛りしていたが、その緑ちゃんとようやく春に結婚した。緑ちゃんは私達兄妹の幼馴染。緑ちゃんはずっと兄を慕ってくれていた。
彼女は会社勤めをしながら土日は店に出て兄を支えている。
兄は彼女に会社を辞めさせようと攻撃しているらしいが、うまーくそれをかわしている緑ちゃん。所詮、兄なんて緑ちゃんには敵わない。溺愛しているから嫌われたくないのだ。男ってだめね。
先週のことだ。二号店で両親と共に店を切り盛りしている私に突然、就職のはなしが舞い込んだ。
「森川さん、良かったら当社に入りませんか?」
今日も店で出す料理の素材を提案に来た取引のあるミツハシフードサービスという会社の営業さん。
話が終わり、コーヒーとお菓子を出すと突然切り出してきた。
「どういう意味です?」
コーヒーを美味しそうに飲む営業さんがこちらを見る。
「言葉通りですよ。新入社員として春からウチへ来ませんか?取引のお話ししているときも失礼ながら頭が回るし、提案してくれることもある。正直、うちの業務部に欲しいです。私ね、前業務部所属だったんですけど、あなたはとても向いてる。商品提案、販売戦略など……人事部に推薦したいんですよ、どう?」
この営業さんは営業二課の課長さん。だから提案すると割と早くレスポンスされてくる。
若い営業さんの時はこうはいかなかったし、その人自身が勉強不足かなと思うこともあったりで提案しなかった。この課長さんは有能なので、私はガンガン提案しているのだ。
「……うーん。正直に言います。お話自体はとても興味があります。義姉も民間企業で働きながら一号店を手伝っているんですが、楽しそうで。ただ、私の場合この店の跡継ぎなのでいずれ戻ると思うんです。それでもいいんですかね?」
「それは構いませんよ。結婚退職する人だっているんだからね。でも、森川さんは辞めないと思うなあ。絶対楽しくて辞められないパターンだと思う。目に浮かぶよ」
私もそう思う。だからこそ、踏み切れない。はあ。
「まあ、ご両親と相談して下さい。良いお返事を期待してます」
そう言うと、彼は颯爽と帰って行った。
机のうえの空になったコーヒーカップと皿を下げて戻る。
レジの前で座って、一部始終を見ていた母がひと言。
「好きにしなさい」
「え?」
「だから、好きにしなさいって言ったのよ。お父さんは私に任せなさい。どうせお前が何を言っても反対されるから……お前のこと溺愛してるしね。奏のことはどうでもいいみたいだけど、お前は別なのよ、あの人……」
「お母さん……」
「私もね、お前はこの店で過ごすにはもったいない逸材だと自分の娘ながら思ってるの。奏よりも経営に向いている。奏は真面目で人の上に立つこともできなくはないけど、融通が利かない。緑ちゃんがいてこそうまくいくのよ。お前は店を出て社会勉強をもっとしてきなさい。そうすればもっと大きくなれるわ。この喫茶店より大きいものを経営できる」
お母さんはこちらを見て真剣に話してくれた。
嬉しかった。私を認めてくれるんだなと思った。
お父さんが私を溺愛しているのは自覚してるからこれは決めてから説得すべきだとすぐに思った。
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