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第五章 二人の決意

本社配属ー4

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 斉藤さんは関根課長が所属する部署の案件を立案して役員へ回す書類を作るようだ。営業二部担当だった福原さんという人が彼女と組んで仕事をしている。

 関根課長はいずれ部長になるそうで、今後は彼女が彼のサポートへ回ることになるだろうという話だった。

 まあ、そうだよね。財団の仕事を引き継いでやっていくんだから、そのことを知っている人がここの企画室に必要だ。それならば彼女はピッタリだ。

 彼は役員になった。つまり企画室専属ではなく、指揮命令の一番上。執務に関わる事はほとんどなくなった。しかも彼には専属の女性秘書が付いた。形ばかりと彼は言うが、いい気持ちはしない。

 何故かと言えば、昨日専属秘書の可愛い女の子とじゃれ合いながら話していて、彼女の髪の毛に触れているのを見てしまった。

「なんか付いてるよ」

「あ、すみません。何ですか?」

「なにこれ?」

「あ、うちの犬の毛です。鈴村取締役、犬アレルギーじゃないですよね?」

「ああ、大丈夫。実家でも犬飼ってたからね」

「えー、そうなんですか?何飼ってたんですかー?」

 仲よさそうに近距離での二人の会話を聞くのが嫌でトイレへ逃げた。すると今度は秘書室のメンバーがいて話を聞いてしまった。

「ねえ、どうして清水さんなんだと思う?一番使えない人をわざわざ鈴村さんの秘書にしなくてもいいのにね」

「なんか、育ててもらうとか室長が言ってたけど、あれって違う意味?」

「やだあ、やめてよ。清水さん結構最初から全力だよね。私達はどうせ彼女がフラれるのわかってるから適当に見てるけどね」

「やっぱ、本命は佐々木さんだよ。彼女綺麗だし、お似合いだよ。なにせ京子さんの休みは必ず彼女だったじゃない。だから鈴村さんには特別でしょ。っていうか、前から噂あったじゃん。縁談消えたし、いよいよなんじゃない?彼女、最近隠さなくなったよね、あからさまだもん」

「そりゃそうでしょ。瞳さんや社長の手前気を遣ってたけど、それもなくなったしね。時間の問題なんじゃない?鈴村さんも彼女には優しいもんね」

 さようですか。佐々木さんって人もいるわけだ。とにかくしょっちゅう女性に囲まれてる。

 自販機の近くのベンチに座っていたら、彼が通りかかり急に話しかけられた。親しくしないようにしているから、少しつっけんどん。周りに気をつけて小さい声で話してきた。

「なんだよ、怒ってんのか?」

「……秘書がつくって教えてくれなかったじゃない」

「嫉妬か?だから、会社で付き合っていることを公にしようって言ってんだよ。どうせ、上にはばれてる」

「それは嫌。もう少し仕事が出来るようになってからにして。そうじゃないと今いるところは色眼鏡で見られる」

「そうとばかりは言えないぞ。俺がお前と付き合っているとわかれば、秘書連中はお前に遠慮するぞ」

 彼をじろりと睨んだ。

「……なんだよ?」

「公表しないと秘書の人達をあしらえないということ?手を出してしまいそうとか?」

「手を出すことはないが、言い寄られる毎日は結構大変だ」

 ふーん。そうですか。

 秘書が彼を迎えに来たので無視して立ち去ろうとした。すると、慌てた彼が私の腕をつかんだ。

 秘書の人がびっくりしてこちらを見ている。

「……なんですか、鈴村取締役」

「おい、怒るなよ」

「怒ってません。失礼します」

 そう言って、きびすを返した。彼は私を睨んでる。秘書が小走りで走ってきて彼の横顔を見つめている。
 
 私は相模さんという男性と組んで仕事をすることになった。歳は一緒で出身も地方だったので話が合う。

 ふたりでとりあえず京子さんのサポートをしながら専務の案件をあつかっている。つまり、彼がやっていた仕事だ。

 休憩しているときに、思いきって相模さんに聞いてみた。

「相模さん」

「ん?」

「文也さんって知ってます?名字がわからないんですけど、社長の横にいた若い男性です」

「ああ、佐藤文也さんね。あの人は社長の政策秘書みたいな懐刀だよ。鈴村さんが専務についてるでしょ。それの社長版。最近は別な人が社長についていて、今日みたいな日以外は別の仕事をしている」

「社長についている。以前から?もしかして、結構年齢上ですか?」

「そうだね。四十代だよ。四十五まではいってないと思うけど。どうだろ。若く見えるからなあ……」

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