上 下
36 / 56
第四章 新天地

吸収合併ー2

しおりを挟む


「北村さんはどうするんですか?」

 若い二年目の女子社員が私に聞いた。

「私?私は本社へ行く。今更どうにもならないし、覚悟していきます。一緒に行く気がある人は頑張ろうね!」

 ガッツポーズをしてみんなにウインク。皆、ほっとした顔をした。良かった。それぞれ席に戻っていった。

「さすがだな、里沙。お前、管理職向きだよな。めそめそしてないし、男っぽい。本社で女性管理職目指せよ」

 悟が私を見ながら言った。

「……管理職?興味ない。まあ、部下なんて今だっているようなものだし、責任伴わないから今の方がいい。偉くなったりしたら、みんなから距離が出来ちゃう」

「部長はお前を評価してるし、そうなる気がするな。俺がお前の上司だったら絶対推薦する」

「……やめてよ」

「異動後が楽しみだな」

「悟、人のこと言っていられるの?心配じゃないの?」

「は?俺としては本社の営業になれるなら、万々歳だよ。辞める奴の気がしれない。あっちのほうが入るの難しい会社なんだからラッキーだよ」

 なるほど。そう言われてみればそうかもしれない。ポジティブシンキングの代表選手みたいな人。そういうところは私が好きなところだった。

「お前と同じ部署になれるといいけど、まあ、無理だろうな」

「どうかしらね?」

 夜、彼にメールで事の次第を連絡した。彼のことだから大分前から知っていたかもしれないけれど……。するとしばらくして電話がかかってきた。

「里沙。今回のことは言い方が悪いかもしれないけれど、俺にとっては良かったよ。同じ会社になれるからお前と毎日会えるようになる」

「あなたが実は本社のすごいエリートだと知られたら大変よ。会計部の人だって思っている人がまだ多い。噂になるんじゃない?」

「どうせ、ばれてるんだろ、一部の奴には……」

「そうだけど、一般の人は知らないでしょ。そういう人達が噂大好きなのよ」

「どうだっていいよ。俺は俺だ」

 賢人もある意味ポジティブシンキング。というか、オレ様仕様なのよね。最近わかってきた。

「ね、会計部長ってあなたの部署だったの?」

「俺の部署というよりは、文也のところの人というほうが正しいかもな」

「え?」

「まあ、表向きは普通の仕事をしているが、何かあれば潜入したりする要員だ」

「じゃあ、戻るところはどこなの?」

「さあね。知らない」

「また、秘密?」

「いや、本当に知らない。君らの会社のことだけじゃなく、こちらの機構改正も一緒に行われる。本社自体が大きく変わるんだ」

「ふーん」

「里沙は全然慌ててないんだな。たいしたもんだ」

 部長に言われたことは黙っていよう。もし、本当にそうなら彼から話が先にあるはずだ。話がないなら違うということだろう。

「縁談はどうなったの?」

「里沙がこちらに来るなら、社長に紹介してお前と付き合うと言う。それが一番だと腹をくくった」

「ええ?!行った早々、社長から嫌われるようなことしたくない」

「何言ってんだよ。その代わり、社長に言うとなれば結婚前提だからな。そうだ、里沙の実家のことは何も聞いてなかったな。というか、俺も何にも話してないけど……」

 おかしくて吹き出してしまった。

「賢人って実はこういうこと直感勝負なのね。何も考えてないでしょ?順番ぐちゃぐちゃよ。私達、最初もぐちゃぐちゃだったけど、今もそうなの?落ち着いて話し合いましょう、結婚は飛びすぎだわ」

「里沙が俺から離れないと約束するなら、落ち着いて話し合う。そうじゃなかったら、今すぐ婚姻届を書いてもらう。まだ出さないけど、約束手形だな」

「もう、いい加減にして……落ち着いて。それで今度いつ会えそう?」

「いつでもいいよ。これからお前の部屋へ行こうか?」

 どうしたのよ、どこか変。こんな人だったっけ?

「もう、ふざけないで!」

「ふざけてないよ。俺はいつでもお前優先なの。それだけわかっていればいいよ。後は里沙の覚悟次第ってところだな。会社が一緒になるタイミングで同棲しよう」

「あなたのところに?私、あなたがどこに住んでるのかも知らないのに?」

「そうだな。今度片付けるから一度ご招待しよう。出来れば縁談を片付けてからにしたいけれどな」

「はー。だから、順番がよくわかんない……何からしたいの?優先順位が全くわかりません」

「俺もよくわかんねえ。お前を囲い込みたいことだけはわかってる。面倒な縁談がなくなるのを待ってるけれど、里沙がこっちへ来るのが先ならチャンスだ。やり方を変えるのも悪くない」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最後の恋って、なに?~Happy wedding?~

氷萌
恋愛
彼との未来を本気で考えていた――― ブライダルプランナーとして日々仕事に追われていた“棗 瑠歌”は、2年という年月を共に過ごしてきた相手“鷹松 凪”から、ある日突然フラれてしまう。 それは同棲の話が出ていた矢先だった。 凪が傍にいて当たり前の生活になっていた結果、結婚の機を完全に逃してしまい更に彼は、同じ職場の年下と付き合った事を知りショックと動揺が大きくなった。 ヤケ酒に1人酔い潰れていたところ、偶然居合わせた上司で支配人“桐葉李月”に介抱されるのだが。 実は彼、厄介な事に大の女嫌いで―― 元彼を忘れたいアラサー女と、女嫌いを克服したい35歳の拗らせ男が織りなす、恋か戦いの物語―――――――

10 sweet wedding

国樹田 樹
恋愛
『十年後もお互い独身だったら、結婚しよう』 そんな、どこかのドラマで見た様な約束をした私達。 けれど十年後の今日、私は彼の妻になった。 ……そんな二人の、式後のお話。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

恋に異例はつきもので ~会社一の鬼部長は初心でキュートな部下を溺愛したい~

泉南佳那
恋愛
「よっしゃー」が口癖の 元気いっぱい営業部員、辻本花梨27歳  ×  敏腕だけど冷徹と噂されている 俺様部長 木沢彰吾34歳  ある朝、花梨が出社すると  異動の辞令が張り出されていた。  異動先は木沢部長率いる 〝ブランディング戦略部〟    なんでこんな時期に……  あまりの〝異例〟の辞令に  戸惑いを隠せない花梨。  しかも、担当するように言われた会社はなんと、元カレが社長を務める玩具会社だった!  花梨の前途多難な日々が、今始まる…… *** 元気いっぱい、はりきりガール花梨と ツンデレ部長木沢の年の差超パワフル・ラブ・ストーリーです。

たったの3歳

ぱっつんぱつお
恋愛
──「年下高校生じゃ、駄目ですか。」 同じバイト先に勤める、至って普通の大学生の女子〈あきら〉と、 進学校に通う金持ちでイケメン、ハイスペック高校生男子の〈昴〉 同じくバイトで知り合った大学の友達、三上は、昴が退勤したあと、いつも「ぜったいあきの事好きっだって〜」と言っていた。 「まさか、そんなはずが無い、あり得ない。」 いつも否定する。 それもそうだ。 相手は高校生、未成年だ。 可愛いJKが沢山居るのにわざわざこんなババァを好きになるはずもない。 自分だってイケメンだからと高校生なんかに手を出すつもりも無い。 正直、高校生なんて自分達からしてみたら子供だ。 たった3歳の差。 社会に出れば気にならない年齢差。 けれど彼女らにとっては、とても大きな差だった……。 おそらく10話未満で終わるはずです。 まだ全然作ってないけど。 カクヨム、なろう様にも投稿しています。

雨音。―私を避けていた義弟が突然、部屋にやってきました―

入海月子
恋愛
雨で引きこもっていた瑞希の部屋に、突然、義弟の伶がやってきた。 伶のことが好きだった瑞希だが、高校のときから彼に避けられるようになって、それがつらくて家を出たのに、今になって、なぜ?

隠れ御曹司の手加減なしの独占溺愛

冬野まゆ
恋愛
老舗ホテルのブライダル部門で、チーフとして働く二十七歳の香奈恵。ある日、仕事でピンチに陥った彼女は、一日だけ恋人のフリをするという条件で、有能な年上の部下・雅之に助けてもらう。ところが約束の日、香奈恵の前に現れたのは普段の冴えない彼とは似ても似つかない、甘く色気のある極上イケメン! 突如本性を露わにした彼は、なんと自分の両親の前で香奈恵にプロポーズした挙句、あれよあれよと結婚前提の恋人になってしまい――!? 「誰よりも大事にするから、俺と結婚してくれ」恋に不慣れな不器用OLと身分を隠したハイスペック御曹司の、問答無用な下克上ラブ!

処理中です...