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第一章 すべてのはじまり
近づく距離ー3
しおりを挟む「北村さん。ここで俺らを見たことは黙っていてもらおうかな。他の奴に話したりすると、あとで畑中さんからお仕置きされちゃうぞ」
「おい、長田。余計なこと言うなよ」
峰山さんが言う。
「北村さん。とにかく俺らに会ったことは忘れてほしいな。そうじゃないと、どうしようかな……」
そう言いながら近づいてきた長田さんが私の頬を指で撫でるように触った……気持ち悪い、タバコの匂いが強い。こちらをじっと見られて足が震える。そこへ、後ろから声がした。
「何をしているんですか、こんなところで……女性ひとりを男二人で囲い込んで」
低い声がする。ふたりは振り返ってその人を見た。背筋を伸ばした眼鏡によれよれスーツの彼。鈴木さんだった。
「……お前、誰だ?」
「あんたたちこそ、ここにどうしている?ここに入れる人は限られている。許可証持っているのか?」
許可証とは部長が出すもの。それがない状態で鍵だけ持っているとすると、説明がつかないのだ。ふたりは、黙って背中を向けて非常階段の入り口を開けるとカンカンという音を立てた。上っていったのだろう。
彼らの気配が消えたところで、鈴木さんが私の前に来た。立ち尽くしている私をのぞき込んだ。
「……里沙、大丈夫か?何された?」
「……長田さんに頬を撫でられて……気持ち悪くて。でも助けてくれてありがとう。どうしてここへ?」
「お前がいつになっても戻ってこないから様子を見に来たんだよ。まさかあいつらに捕まっているとは思わなかった。いいか、もうひとりでここへ来るな。俺と待ち合わせするんだ、いいな」
小さくうなずくと、心配そうにかがんで私の顔を見ている。目を合わせず下を向いている私をそっと抱き寄せた。
「震えてる。怖かったんだな、もう大丈夫だ。撫でられたのはここか?」
そう言うと、そっと頬を長い指で触ってくれた。
「大丈夫か?」
「……怖かった……」
つい、無意識で彼にしがみついてしまった。彼が頭を撫でてくれた。私は顔を上げて彼の目をじっと見つめた。すると彼は驚いたように目を見開いた。
「……そんな目で見るな……」
私は、目をそらし顔を下げた。そして、見つめない代わりに、もう一度彼にしがみついた。
すると、彼がため息をついて私の顎を持ち上げた。そして、私の目をじっと見つめた。影が覆い被さり、彼の唇が私の唇を優しく塞いだ。彼のミントの香りが私を包んだ。
「……っん」
彼は私の声を聞くと、ビクッとして唇を離すと呟いた。
「……ごめん」
「……う、ううん」
彼は黙って私を放すと、言った。
「これからは必ず俺がお前を守ってやる。ここへ来る前に連絡しろよ」
荷物は彼が運んでくれた。帰り際に思い出して彼に伝えた。
「そういえば、さっきあの二人に言われたの。ここで会ったことを誰かに話したら畑中さんに叱られるよって……」
鈴木さんは私をちろりと見て、ため息をついた。
「あの二人が実行役で隠蔽は畑中がしているんだな。おそらくそうだ。うちの部長は二部の帳簿がどこかおかしいと睨んで俺たちに連絡してきた。ただ、指示役が誰なのかが問題だ。二部の部長は何も知らないというのもな。関根課長が気付くくらいだ」
「……そうね」
私をじっと見ている。何?
「里沙、畑中に気をつけろ。あいつら、お前のこと畑中に何か言ったかもしれない」
「……大丈夫よ。さすがに専務が私に何かするとは思えない」
「そうだといいがな。今日はどこへ行ったか知っているのか?畑中は誰と会いに本社へ行っている?」
「それが、秘密だと言われてしまったの」
「お前に秘密というより、部長連中や他のやつらに行き先を知られたくないから、そのことを聞かれるであろうお前には内緒にしたんだろう」
「なるほど……そうかもしれない。こんなことはでも初めて。私も緊急時連絡が取れない状態って困るから必ず教えてもらっていたから」
「そうか。とにかく気をつけろ。何かあれば俺にすぐ連絡しろよ」
「うん」
「よし」
彼は優しく私の頭を撫でてくれた。私は彼を無意識に信頼している自分にようやく気づいた。先ほどのキスも……自ら彼に預けてしまった。だって彼にキスをされて嬉しかった。まるで守られているようでホッとする。こんな短い期間なのに……なぜだろう。
そして彼も私へ気遣いを見せてくれる。それがただの捜査仲間としてだからなのか、まだはっきりしない。キスは雰囲気に流されたとしても、初日に連れて行ってくれた店は誰でも連れて行ける店ではなかったと思う。
キスがきっかけとは言いたくないが、警戒心が薄くなり、お互い少しづつ距離が近づき始めた。
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