5 / 56
第一章 すべてのはじまり
調査仲間-1
しおりを挟む「新しくこちらに関連会社から応援で入りました鈴木賢人です。よ、よろしくおねがいします」
翌朝の会計部の朝礼。
ヨレヨレのスーツを着て、ボサボサの頭。黒縁眼鏡をかけて、ちょっと猫背。
なぞの風体で挨拶をするのは、昨日の夜とは別人の鈴木さん。
「彼はこうみえて、会計士の資格を持っている凄腕です。皆さん仲良くして助けてもらいましょう」
部長のよくわからない挨拶に、会計部員は皆パチパチと拍手。
畑中専務は隣のガラスの壁越しに彼を見ていた。私は横の机に座って、パソコンに目を戻した。
「部長が手配した人らしいが、どこの人間だ?こんなおどおどした人で大丈夫なのか?」
専務はぽつりと言う。無視も出来ないので、一応相づちをうった。
「確かにそうですね。ちょっと暗い感じの人ですけど、会計オタクの人ってそういう人いそうですよね。数学大好き、数字大好きみたいな。あ、偏見かもしれませんけど。かく言う私も数字大好き人間です。彼とは話が合うかもしれません」
「……はは。北村さんは数字も好きだけど、冗談も好きな普通のOLに見えますよ」
「ありがとうございます」
「まあ、監査の前だし、ああいう人がいてくれたほうが部長や課長は助かるんでしょう」
「……そうですね。質問はきっとこれから『鈴木さんに言ってくださーい』と言われそうですね」
「あはは。その口まね似てる」
語尾を少し下げて言う部長の口癖をまねた。ちょっと似てたかな?
鈴木さんはさっそく今期の決算書類を確認している。それを横目でやはり畑中専務が見ている。何だろう?気になるのかな?
「北村さん。昨日頼んだ溶解の書類はどうしました?」
「あ、あれならすでに下へ全部運び込んであります。昨日専務がお帰りにならなかったので時間があって頑張って終わらせました」
「そう。言ったとおりにやってくれたよね。付箋のついているやつを抜いておいてくれた?」
「はい、それだけを溶解の箱へ入れておきました」
ほっとした顔を見せる。
「ありがとう。君に頼んで間違いはないからね」
「……いえ。専務、そろそろ会議のお時間ですけど」
時計を見た畑中専務は驚いて書類を持つと立ち上がった。
「すっかり忘れてたよ。じゃあ、行ってきます」
「はい、行ってらっしゃいませ」
立ち上がって頭を下げた。専務は左手をあげていなくなった。
私は彼がいなくなってから、ふと言われたことを頭に浮かべ嫌な予感がした。
昨日のことがあってから、どうも私まで頭が探偵モードになってしまった。
昨日、専務から指摘されて箱へ入れた付箋書類、もしかして何かあるの?確認されたのは初めてだ。
トラックで運ばれてしまう前にもう一度中身を開けて見てみた方がいいかもしれない。私自身は中身を見るほど余裕がないから何も知らないのだ。
確認したほうがいいかもしれないと思い立ち、急いで地下の昨日の部屋へ行くため鍵を持って部屋を出た。
相変わらず、鈴木さんは猫背でファイルをめくっている。
彼を遠巻きに後ろの方で女子社員がこそこそ話している。あんまりいいことを言っているようには見えない。
ルックスが8割の人気を占めるこのご時世、彼の演技は彼女達の興味をそらして、ある意味対象外になったと思う。
「里沙せんぱーい!」
後ろを見ると、私が指導員をした二歳下の会計部の女子社員。
「あら、久しぶり。元気だった?佐倉さん」
「ええ。先輩こそ、元気ですか?神部さんのこと噂になってますよ……でも、全面的に悪いのは神部さんでしょ?みんなにそう言ってありますからね」
相変わらず私のこと好きなのはいいけど、余計なことまで言ってないかしら?
部内同期で悟と付き合って別れたんだから、噂になるのはしょうがないと諦めている。
「佐倉さん、余計なことは言わなくていいのよ」
「先輩の名誉を守る活動ですよ。本当神部さんって顔はいいけど、浮気とか最低。やるなら、わかんないようにせめてやれって感じ……」
「もう佐倉さん、こんなところで……」
「部内なんだから、後のこと考えていなさすぎ。神部さんって馬鹿でしょ」
「……そうね、馬鹿だね」
ハッキリ言うなあ、もう。これでも元カノなんだよ。選んだ私も馬鹿だって事でしょ。
「まあ、先輩美人だし、すぐに次が出来ますよ。でも、今度は相手をよく確認して下さいね、神部さんみたいなのじゃなく……」
この子ったら、眼鏡をかけて小柄丸顔の可愛い子なんだけど、口が達者過ぎて、本当に……でもはっきりしている性格は私と似ている。
だから私も彼女を気に入っている。会計部には合わないと最初泣いて大変だったけど。今は立派なOLになった。
「そうね、今度は佐倉さんに会わせてからにするかな」
「それはいいかも!是非そうしてくださいよ」
嬉しそうに笑ってる。もう……。
「今日来た新しい人、謎ですよね、そう思いません?先輩」
「うん、そうね」
「あの見た目の割に、目つきが鋭い。眼鏡取ったら結構イケメンかもしれません」
「……どうだろ?ああいう人が好みなの?佐倉さん」
「私、好みとかわかんないんですけど、ちょっと面白いなあって思って。他の女子達は気付いてないみたいですけどね」
「さすが、佐倉さん。よく見てるんだね」
「先輩、今度お昼一緒に行きましょうよ」
「うん。そうだね。また、ね」
私はエレベーターに乗り込むと携帯を取り出し、早速その噂の鈴木さんへメールをした。
「昨日はどうもお世話様。今朝の挨拶、仮面を被って昨日とは別人に化けていて驚きました」
鈴木さんに送る。すると、地下についたころピコンと音がして返信が来た。
「独自のコンセプトに沿って人物を作っているんだ。余計なこと言うな。里沙、今どこにいる?」
何なのよ、どうして急に下の名前を呼び捨て?
はっきり言って昨日見た限りでは、性格は今日の見た目と正反対だと思う。
本当に偽装してる。女子社員はおろか、専務も騙されてるっぽい。
「今、昨日の溶解の部屋へ向かってます。専務の話から少し確認したいことがあって……」
「何があった?教えてくれたら俺が調べる。君は首を突っ込むなと言っただろ。気をつけろ、俺もすぐに行く」
別にいいのに……。
「大丈夫です」
すぐに返信した。鍵を取り出し、部屋へ入る。昨日の私の段ボールはどこだろう?電気を付けて探してみよう。
ん?ええ、また誰かいる!まさか……昨日の人?
0
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説
社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
上司は初恋の幼馴染です~社内での秘め事は控えめに~
けもこ
恋愛
高辻綾香はホテルグループの秘書課で働いている。先輩の退職に伴って、その後の仕事を引き継ぎ、専務秘書となったが、その専務は自分の幼馴染だった。
秘めた思いを抱えながら、オフィスで毎日ドキドキしながら過ごしていると、彼がアメリカ時代に一緒に暮らしていたという女性が現れ、心中は穏やかではない。
グイグイと距離を縮めようとする幼馴染に自分の思いをどうしていいかわからない日々。
初恋こじらせオフィスラブ
Promise Ring
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
浅井夕海、OL。
下請け会社の社長、多賀谷さんを社長室に案内する際、ふたりっきりのエレベーターで突然、うなじにキスされました。
若くして独立し、業績も上々。
しかも独身でイケメン、そんな多賀谷社長が地味で無表情な私なんか相手にするはずなくて。
なのに次きたとき、やっぱりふたりっきりのエレベーターで……。
冷徹上司の、甘い秘密。
青花美来
恋愛
うちの冷徹上司は、何故か私にだけ甘い。
「頼む。……この事は誰にも言わないでくれ」
「別に誰も気にしませんよ?」
「いや俺が気にする」
ひょんなことから、課長の秘密を知ってしまいました。
※同作品の全年齢対象のものを他サイト様にて公開、完結しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる