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シリーズ盤外戦術
盤外戦術その10 ストーカー?
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「あの。美濃くんいますか?」
放課後、教室の外からかけられた声に僕は振り向く。そこには矢倉さんが立っていた。
同時にざわざわと教室の中がざわざわと騒ぎ始める。
「うお。だれ? あの美人?」
「あれ。ほら、あれが噂の矢倉さんだよ。ちなみに美濃の彼女」
「おーい、美濃。美人の彼女が呼んでるぞ」
「なんで美濃があんな美人と!? うらやましい」
「部活が一緒らしいよ。将棋部だって」
「くそう。俺も将棋部に入るんだった」
なんか一瞬の間に話題を持って行かれてしまった。さすが矢倉さん。
「どうしました? 矢倉さんから教室にくるなんて珍しいですね」
「うん。ちょっと相談したいことがありまして。ここだと人が多いから場所かえてもいいでしょうか?」
顔を赤く染めて照れた様子でうつむく矢倉さんも可愛いとは思うものの、あまり衆目にさらしたくはないとも思う。
「じゃあ、部室にでもいきましょうか」
「あ、いえ。出来れば別のところで」
矢倉さんは僕の提案に首を振るう。
考えてみれば部室で良いのであれば、わざわざ教室にまで迎えにくる必要はない。僕はだいたい放課後は部室にいるのだから、そっちで待っていればいい話だ。
「えっと、とりあえずじゃあ屋上に向かう階段の踊り場にでも」
「はい。そこなら大丈夫です」
部室も実際にはほとんど先輩達はこないから、人気はないとは思うのだけれど、部室棟は校庭の端の方にある。もしかしたらそちら側に行きたくないのかもしれない。
屋上は基本的に立ち入り禁止なので、屋上側に向かう階段の先には当然誰もいない。ここなら邪魔されずに話をすることが出来る。
「それでいったいどうしたんです? 矢倉さんが僕の教室まで来るなんて珍しいですよね」
矢倉さんは凜とした見た目に反して、どちらかというと引っ込み思案なところがあり大人しい性格だ。だから自分から他の教室に行くなんてことは、何か重要な用事でもないとしないと思う。
いったい何があったのかと少し身構える。
ただ続く矢倉さんの言葉は、僕が想像もしていないものだった。
「誰かに見られている気がするんです」
矢倉さんは小さな声でそう告げていた。
矢倉さんは美人だ。かなり美人だ。可愛い。芸能人にいても不思議じゃない。だから見られること自体はたぶん珍しくないと思う。
僕だって矢倉さんに見とれてしまったうちの一人だ。だから矢倉さんは見られること自体には慣れているはずだった。
「学校の中では平気なんです。いつも通りなんですけど、朝の登校時とか、帰りの下校時とか。どうも誰かにつけられている気がして……。あの。私の自意識過剰なのかもしれませんが」
矢倉さんはだんだんと言葉が小さくなっていく。言ってみてちょっと自意識過剰なのだと思えてきたのかもしれない。
ただその言葉で部室へ行きたくない理由は何となく察せられた。部室はいちど校庭にでたあとに横切らなければならないが、フェンス越しではあるものの、外からも見えてしまうのだ。たぶん校庭に出てしまうと、見られている感じがするのだろう。
「もしかしてストーカーとかですか?」
「わかりません。見られている気がして振り返っても怪しい人なんて誰もいないんです。だから最初は気のせいかなって思っていたんですけど、でもぜんぜんその感じが消えなくって」
矢倉さんの体が少し震えているのがわかる。
その様子をみて僕の中の怒りが浮かんでくる。矢倉さんを怖がらせるストーカーは許す訳にはいかない。
もちろん矢倉さんの勘違いという可能性もあるけれど、それならそれでストーカーはいなかったということで矢倉さんが安心出来るのであればいい。
「じゃあ今日は僕も一緒に帰りますよ。一緒なら手を出してこないでしょうし」
「いいんですか?」
「もちろんです。どうせ部活もほとんど誰も来ませんし」
「ありがとうございます……歩くん」
恥ずかしそうにしながらも、小さな声で名前を呼ばれると、僕の心臓が跳ね上がる。
可愛い。何、この可愛い人は。確かにここなら他に人もこないし、二人きりだ。
「はい。じゃあ準備して行きましょう、さくらさん」
「……はいっ」
照れながらも明るい表情で矢倉さんが答える。
ここのところはあまり一緒にいられなかったので、ひさしぶりに一緒に帰られるのは嬉しい。
矢倉さんの家は学校からは少し遠く、本来の僕の帰り道からは外れることになるが、部活をしないのであれば時間は特に問題ないだろう。それに完全に逆方向という訳でもないから、ちょっと回り道をするだけだ。
回り道をしたとしても、一緒にいられることが嬉しくて、僕はどちらかというと浮かれ気分だった。
後にして思えば、僕はもう少し気をつけておくべきだったのだと思う。
放課後、教室の外からかけられた声に僕は振り向く。そこには矢倉さんが立っていた。
同時にざわざわと教室の中がざわざわと騒ぎ始める。
「うお。だれ? あの美人?」
「あれ。ほら、あれが噂の矢倉さんだよ。ちなみに美濃の彼女」
「おーい、美濃。美人の彼女が呼んでるぞ」
「なんで美濃があんな美人と!? うらやましい」
「部活が一緒らしいよ。将棋部だって」
「くそう。俺も将棋部に入るんだった」
なんか一瞬の間に話題を持って行かれてしまった。さすが矢倉さん。
「どうしました? 矢倉さんから教室にくるなんて珍しいですね」
「うん。ちょっと相談したいことがありまして。ここだと人が多いから場所かえてもいいでしょうか?」
顔を赤く染めて照れた様子でうつむく矢倉さんも可愛いとは思うものの、あまり衆目にさらしたくはないとも思う。
「じゃあ、部室にでもいきましょうか」
「あ、いえ。出来れば別のところで」
矢倉さんは僕の提案に首を振るう。
考えてみれば部室で良いのであれば、わざわざ教室にまで迎えにくる必要はない。僕はだいたい放課後は部室にいるのだから、そっちで待っていればいい話だ。
「えっと、とりあえずじゃあ屋上に向かう階段の踊り場にでも」
「はい。そこなら大丈夫です」
部室も実際にはほとんど先輩達はこないから、人気はないとは思うのだけれど、部室棟は校庭の端の方にある。もしかしたらそちら側に行きたくないのかもしれない。
屋上は基本的に立ち入り禁止なので、屋上側に向かう階段の先には当然誰もいない。ここなら邪魔されずに話をすることが出来る。
「それでいったいどうしたんです? 矢倉さんが僕の教室まで来るなんて珍しいですよね」
矢倉さんは凜とした見た目に反して、どちらかというと引っ込み思案なところがあり大人しい性格だ。だから自分から他の教室に行くなんてことは、何か重要な用事でもないとしないと思う。
いったい何があったのかと少し身構える。
ただ続く矢倉さんの言葉は、僕が想像もしていないものだった。
「誰かに見られている気がするんです」
矢倉さんは小さな声でそう告げていた。
矢倉さんは美人だ。かなり美人だ。可愛い。芸能人にいても不思議じゃない。だから見られること自体はたぶん珍しくないと思う。
僕だって矢倉さんに見とれてしまったうちの一人だ。だから矢倉さんは見られること自体には慣れているはずだった。
「学校の中では平気なんです。いつも通りなんですけど、朝の登校時とか、帰りの下校時とか。どうも誰かにつけられている気がして……。あの。私の自意識過剰なのかもしれませんが」
矢倉さんはだんだんと言葉が小さくなっていく。言ってみてちょっと自意識過剰なのだと思えてきたのかもしれない。
ただその言葉で部室へ行きたくない理由は何となく察せられた。部室はいちど校庭にでたあとに横切らなければならないが、フェンス越しではあるものの、外からも見えてしまうのだ。たぶん校庭に出てしまうと、見られている感じがするのだろう。
「もしかしてストーカーとかですか?」
「わかりません。見られている気がして振り返っても怪しい人なんて誰もいないんです。だから最初は気のせいかなって思っていたんですけど、でもぜんぜんその感じが消えなくって」
矢倉さんの体が少し震えているのがわかる。
その様子をみて僕の中の怒りが浮かんでくる。矢倉さんを怖がらせるストーカーは許す訳にはいかない。
もちろん矢倉さんの勘違いという可能性もあるけれど、それならそれでストーカーはいなかったということで矢倉さんが安心出来るのであればいい。
「じゃあ今日は僕も一緒に帰りますよ。一緒なら手を出してこないでしょうし」
「いいんですか?」
「もちろんです。どうせ部活もほとんど誰も来ませんし」
「ありがとうございます……歩くん」
恥ずかしそうにしながらも、小さな声で名前を呼ばれると、僕の心臓が跳ね上がる。
可愛い。何、この可愛い人は。確かにここなら他に人もこないし、二人きりだ。
「はい。じゃあ準備して行きましょう、さくらさん」
「……はいっ」
照れながらも明るい表情で矢倉さんが答える。
ここのところはあまり一緒にいられなかったので、ひさしぶりに一緒に帰られるのは嬉しい。
矢倉さんの家は学校からは少し遠く、本来の僕の帰り道からは外れることになるが、部活をしないのであれば時間は特に問題ないだろう。それに完全に逆方向という訳でもないから、ちょっと回り道をするだけだ。
回り道をしたとしても、一緒にいられることが嬉しくて、僕はどちらかというと浮かれ気分だった。
後にして思えば、僕はもう少し気をつけておくべきだったのだと思う。
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