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四.黄色は狂おしい愛情
30.未来を決めてしまおう
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駆けていた。
見えた未来の場所は桜乃が一緒に死のうと誘ったあの崖のあたりだろう。
普通に考えれば、響はまだ病院の中にいるのだろう。時間だってまだ朝早い。病院を抜け出してまで、何かを起こすとは考えられなかった。
それでも僕は嫌な予感がして仕方が無かった。今ならまだきっと間に合う。なぜか僕の心がそう告げていた。
何かに取り憑かれているかのように、ただ僕は走り続ける。
その瞬間だった。僕のスマホからライムの着信を知らせる音が響いた。慌てて取り出して内容を確認する。
差出人は響だった。そして書かれていたメッセージは『これから真希と会う』という一文だった。
僕達は仲間内で旅行中で『矢上と会う』、それだけの事を連絡してくる必要なんて、本来はないはずだった。会うも何もない。一緒にいるはずだった。
だけどそうやって送ってきたのは、響は何かを伝えようとしているのだろう。
もしかすると僕に止めてほしいと願っているのかも知れない。響が僕を呼んでいるのかもしれない。
場所も何も伝えてきていないのだから、冷静に考えればそうではないはずだ。だけど僕の心は急げ急げと駆り立て続けていた。
不意にもういちど矢上を追いつめていた響の映像が頭に浮かんだ。しかしこれは未来が見えている訳ではない。僕が見た未来を思い出しているだけだ。
このメッセージはこれから矢上を刺すという意味なのか。そうだとするならば、そんなことはさせない。僕は絶対に止めてみせる。
病院から海辺に向かう途中には僕達が止まる旅館がある。まだ二人のどちらかがそこにいるならば、先に旅館に向かうべきだろう。ただもしも二人ともそこにいないとすれば、時間のロスになってしまう。
どうするべきか。僕は少しだけ迷う。
ただ普通に考えればあのメッセージだけで、海辺にいると決めつけるのは早計に過ぎるだろうし、もしもそこにいるのならば、あの未来を止める事が出来るかもしれない。
旅館に駆け込んで部屋へと向かう。しかしそこには響も、矢上の姿もなかった。それどころか女子部屋には楠木の姿すらもない。
どうして誰もいないんだよと叫びそうになるが、そんなことをしても意味がない。僕は焦る気持ちを抑えながらも、ふたたび海辺へと向かって走り始める。
楠木と矢上がいないという事は、桜乃が病院にいたのはやはり矢上と楠木を連れてきたからなのかもしれない。
ただ今はそんなことを考えている時間はなかった。
とにかくまずは響を止めなければいけない。
本当は病院にいるのかもしれない。矢上と楠木の二人が桜乃につれられて病院にきたのだとすれば、病院の中で会っているのかもしれない。むしろそう考える方が自然だ。
だけど僕はなぜか二人は海辺にいると確信していた。いまこの時間のロスが決定的なミスにならなければいいけど。そう願いながらとにかく走る。
麗奈の事件。桜乃の誘い。結局今までも未来を覆せてはいない。ほんの少し見えた映像とのずれがあっただけだ。
未来を変えてみせる。桜乃にはそう告げたけれど、今の僕には何も示せていない。
それでも少しはずれを見せている。だから未来を変えられる。変えてみせる。
そう誓った瞬間。不意に未来は降りてきていた。
凶刃が襲いこようとしていた。それを僕は止めようとして身を乗り出す。
僕の身体にナイフが突き刺さる。血がどんどんと溢れて、痛みと吐き気が強く強く僕を包み込んでいて。それから少しずつ僕は暗い場所に意識が吸い込まれていくのを感じる。
そんな未来がはっきりと映し出されていた。
同時に僕は大きく笑い声を漏らす。
「未来なんて変えられるはずもないだろ」
僕は見えた未来に絶望すら覚えて。でもその中に微かな希望がつなげる事に安堵して。そして空を見上げる。
きっと未来は変えられる。簡単に変えられる。
このシーンは前にみた響が矢上と争っていた未来の続きだとわかった。だから僕がそこにいかなければ、僕が近づきさえしなければ、ナイフで刺される事なんてない。未来はきっと変えられる。
だけどそうしたとするならば、きっと代わりに矢上が死ぬ。凶刃に襲われるのは矢上に変わる事になる。
僕が何もしなければ未来は変えられる。僕自身が死ぬ事も無い。
だけどそれは大事な友達を犠牲にすることだ。
死ぬのは怖い。未来が訪れるのは怖い。どうしたらいい。どうするべきなんだ。
僕ははっきりと困惑して、自分がするべき事がわからなかった。
でも最初に漏らした言葉が、僕の想いなんだろう。
未来を変えられる訳がない。それは例え自分が死ぬとわかっていても、矢上を見捨てられる訳がないということだ。
それにもしも僕が死なずに済むのだとしたら、他の皆も大丈夫だとは言えなかった。
僕が見た未来は別れを伴う。さよならは常にそばにいる。未来を変えた時、矢上は間違いなく別れを告げる事になる。そうなればきっと響とも別れを告げる事になるだろうし、それなら麗奈や桜乃が無事になるなんてことも保証がなかった。
でも僕が死ぬのなら。全員と別れを告げる事になる。
桜乃や麗奈や矢上は命を失わずに済むのかもしれない。
自分がいかなければ大切な人達をなくしてしまうのかもしれない。
なら走るしかなかった。もしも僕が命を失うだけで、他の皆が救えるのであれば。
未来を変えたい。ずっと願っていた。未来を変えるためなら、何でもしてやる。そう思っていた。
でも今は未来を変えないために走っていた。
もう迷いはなかった。そうするしかないと思っていた。
ただ心残りがあるとすれば、桜乃に未来を変えられる事を示してあげたかった。桜乃の心を救ってあげたかった。
僕だって死にたくない。死ぬなんて嫌だ。
でもそれを選ばなければ、僕が一番望んでいない未来が訪れる。
それだけは嫌だ。
だから未来を決めてしまおう。
見えた未来の場所は桜乃が一緒に死のうと誘ったあの崖のあたりだろう。
普通に考えれば、響はまだ病院の中にいるのだろう。時間だってまだ朝早い。病院を抜け出してまで、何かを起こすとは考えられなかった。
それでも僕は嫌な予感がして仕方が無かった。今ならまだきっと間に合う。なぜか僕の心がそう告げていた。
何かに取り憑かれているかのように、ただ僕は走り続ける。
その瞬間だった。僕のスマホからライムの着信を知らせる音が響いた。慌てて取り出して内容を確認する。
差出人は響だった。そして書かれていたメッセージは『これから真希と会う』という一文だった。
僕達は仲間内で旅行中で『矢上と会う』、それだけの事を連絡してくる必要なんて、本来はないはずだった。会うも何もない。一緒にいるはずだった。
だけどそうやって送ってきたのは、響は何かを伝えようとしているのだろう。
もしかすると僕に止めてほしいと願っているのかも知れない。響が僕を呼んでいるのかもしれない。
場所も何も伝えてきていないのだから、冷静に考えればそうではないはずだ。だけど僕の心は急げ急げと駆り立て続けていた。
不意にもういちど矢上を追いつめていた響の映像が頭に浮かんだ。しかしこれは未来が見えている訳ではない。僕が見た未来を思い出しているだけだ。
このメッセージはこれから矢上を刺すという意味なのか。そうだとするならば、そんなことはさせない。僕は絶対に止めてみせる。
病院から海辺に向かう途中には僕達が止まる旅館がある。まだ二人のどちらかがそこにいるならば、先に旅館に向かうべきだろう。ただもしも二人ともそこにいないとすれば、時間のロスになってしまう。
どうするべきか。僕は少しだけ迷う。
ただ普通に考えればあのメッセージだけで、海辺にいると決めつけるのは早計に過ぎるだろうし、もしもそこにいるのならば、あの未来を止める事が出来るかもしれない。
旅館に駆け込んで部屋へと向かう。しかしそこには響も、矢上の姿もなかった。それどころか女子部屋には楠木の姿すらもない。
どうして誰もいないんだよと叫びそうになるが、そんなことをしても意味がない。僕は焦る気持ちを抑えながらも、ふたたび海辺へと向かって走り始める。
楠木と矢上がいないという事は、桜乃が病院にいたのはやはり矢上と楠木を連れてきたからなのかもしれない。
ただ今はそんなことを考えている時間はなかった。
とにかくまずは響を止めなければいけない。
本当は病院にいるのかもしれない。矢上と楠木の二人が桜乃につれられて病院にきたのだとすれば、病院の中で会っているのかもしれない。むしろそう考える方が自然だ。
だけど僕はなぜか二人は海辺にいると確信していた。いまこの時間のロスが決定的なミスにならなければいいけど。そう願いながらとにかく走る。
麗奈の事件。桜乃の誘い。結局今までも未来を覆せてはいない。ほんの少し見えた映像とのずれがあっただけだ。
未来を変えてみせる。桜乃にはそう告げたけれど、今の僕には何も示せていない。
それでも少しはずれを見せている。だから未来を変えられる。変えてみせる。
そう誓った瞬間。不意に未来は降りてきていた。
凶刃が襲いこようとしていた。それを僕は止めようとして身を乗り出す。
僕の身体にナイフが突き刺さる。血がどんどんと溢れて、痛みと吐き気が強く強く僕を包み込んでいて。それから少しずつ僕は暗い場所に意識が吸い込まれていくのを感じる。
そんな未来がはっきりと映し出されていた。
同時に僕は大きく笑い声を漏らす。
「未来なんて変えられるはずもないだろ」
僕は見えた未来に絶望すら覚えて。でもその中に微かな希望がつなげる事に安堵して。そして空を見上げる。
きっと未来は変えられる。簡単に変えられる。
このシーンは前にみた響が矢上と争っていた未来の続きだとわかった。だから僕がそこにいかなければ、僕が近づきさえしなければ、ナイフで刺される事なんてない。未来はきっと変えられる。
だけどそうしたとするならば、きっと代わりに矢上が死ぬ。凶刃に襲われるのは矢上に変わる事になる。
僕が何もしなければ未来は変えられる。僕自身が死ぬ事も無い。
だけどそれは大事な友達を犠牲にすることだ。
死ぬのは怖い。未来が訪れるのは怖い。どうしたらいい。どうするべきなんだ。
僕ははっきりと困惑して、自分がするべき事がわからなかった。
でも最初に漏らした言葉が、僕の想いなんだろう。
未来を変えられる訳がない。それは例え自分が死ぬとわかっていても、矢上を見捨てられる訳がないということだ。
それにもしも僕が死なずに済むのだとしたら、他の皆も大丈夫だとは言えなかった。
僕が見た未来は別れを伴う。さよならは常にそばにいる。未来を変えた時、矢上は間違いなく別れを告げる事になる。そうなればきっと響とも別れを告げる事になるだろうし、それなら麗奈や桜乃が無事になるなんてことも保証がなかった。
でも僕が死ぬのなら。全員と別れを告げる事になる。
桜乃や麗奈や矢上は命を失わずに済むのかもしれない。
自分がいかなければ大切な人達をなくしてしまうのかもしれない。
なら走るしかなかった。もしも僕が命を失うだけで、他の皆が救えるのであれば。
未来を変えたい。ずっと願っていた。未来を変えるためなら、何でもしてやる。そう思っていた。
でも今は未来を変えないために走っていた。
もう迷いはなかった。そうするしかないと思っていた。
ただ心残りがあるとすれば、桜乃に未来を変えられる事を示してあげたかった。桜乃の心を救ってあげたかった。
僕だって死にたくない。死ぬなんて嫌だ。
でもそれを選ばなければ、僕が一番望んでいない未来が訪れる。
それだけは嫌だ。
だから未来を決めてしまおう。
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