上 下
33 / 43
学内実戦実習編

沙織の心配

しおりを挟む
女子組のリーダーの手にはおにぎり。
おそらくもっと食べると思って持ってきてくれたのだろう。
「あぁ~えーと……」
名前が出てこない。普段健治のクラスメイトとか女子チームとか適当に括ってて覚えてない。
基本的に彼女と会うのが実習や訓練の時がほとんどなので名前で呼ばれてるのを聞いたことがない。
名前も相手を知る貴重な情報なので名前で呼ばないのが普通だ。

「沙織です、いい加減覚えてください。」
これで何回目だと思ってるんですか、と沙織はプリプリ怒っている。
あれ?そんなに自己紹介されたっけ?
「あぁ、悪い悪い。」
俺は笑ってごまかした。
沙織はジトっとした目で俺を見ていたが何か諦めた様な顔をして隣に座り俺におにぎりを渡し、自分も食べ始める。
「それでひとりでぶつぶつどうしたんですか?」
「あぁ、いや近くに来てる第三勢力についてちょっとな」
一応、ここにいる全員が雨宮について知っているが、あまり大っぴらに話すことでもないので少し濁した。

「あぁ、あの猫被りですね、聞いた話じゃ呪詛に目覚めたとか?竜と呪詛とか少しキツすぎな気がしませんか?」
沙織が心配そうに俺に聞いてくる。
「例え学生の素人だとしても、物が軍の最終兵器レベルだからな。向こうが殺す気で来れば死人が出るかもしれない。」
まぁ雨宮は100%俺を殺しにくるだろうし、それにあたり周りに気を使うとも思えない。
沙織は死人というワードに反応してさらに暗い表情になる。
「逃げられないのですか?」
「ん~、倒すにしろ逃げるにしろ情報がいるから、1回ぐらいは遭遇戦をしなければならいと思う。心配するな遭遇戦は健治たち主力が前衛を務める、後ろで仕事をする、、沙織は周りの警戒と得意の弓で援護だ。」
「別に私や健治君やコンちゃんの心配はしてないの、私は後ろだし2人とあとメイドさんは強いの知ってますし。」
ん?じゃあ何を心配そうな顔をしてるんだ?
俺がよくわからないと首をかしげると、沙織の心配そうな表情がさっきと同じジトっとした目で軽蔑する様に俺を見る。

「俺?」
やっと気づいたかと、沙織が口を開く。
「そうよ!貴方は知識や発想は彼らの様に凄いけど、実力は私達と大して変わらないじゃないですか!」
正論すぎて耳が痛い。
「言いたい事はわかるけどさ、俺には一応秘密兵器があってだな」
そう言って俺は2種類の術札を取り出しひらひらさせる。
「そんなこと聞いてるんじゃなくて、はぁもういいです。」
沙織はすっと立ち上がる。
彼女が俺にどんな返答を求めてたのかよくわからなかった。
「あぁ、そうだ。せっかくだから、これを持っていけ。」
俺は2枚の術札を渡す。
「なんの術が入ってるのですかこれは?」
どうやら、彼女はこれらの術式を見たことがないらしく、わからない。
「呪い移しと断絶結界だな」
「とんでもなく貴重品じゃないですか!」
呪い移しはその名の通り取り憑いた呪詛を他の場所に移す物で、断絶結界は張られた結界の中の空間をこの世から切り離す物。
もっと簡単に説明すると、結界の中の空間が霊体の様に物理干渉が不可になる。
「貴重っちゃ貴重だけど、これは俺が術式調べて作ったものだから、ほらストックあるし。」
そう言ってもう何枚か取り出してみせる。
術式自体秘匿にされてるものではないので簡単に手に入った。
けどこれらの術札が貴重なのは発動する為に膨大な妖力が必要で、妖力量が化け物のコンですら、妖力を自身の内包量最大に使って1枚できる程度だ。

俺がいつ作ったかって?
そりゃ前回の実習の時には作っていたよ。
あの全く妖力がない頃にね。
常に少量ずつ術札に妖力を貯め続けて1週間。
ようやく一枚ってところだ。
仙術による妖力を外部から取り込む方法もあるにはあるのだが、それをやる場合片手間には出来ず、さらにそれでも1日はかかる。
いくら貴重な術札だとしてと1日中制作に費やす時間はない。

「まぁくれるなら貰いますね。」
さっきまで驚いていた沙織が意外とすんなり受け取ってくれた。
「そうしてくれ、それがあるからって無理するなよ?」
俺の言葉を聞くと呆れ返った様な顔で
「八雲さんも無茶はしないでね。」
そう言葉を残してみんなの元へ戻っていった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

京都式神様のおでん屋さん

西門 檀
キャラ文芸
旧題:京都式神様のおでん屋さん ~巡るご縁の物語~ ここは京都—— 空が留紺色に染まりきった頃、路地奥の店に暖簾がかけられて、ポッと提灯が灯る。 『おでん料理 結(むすび)』 イケメン2体(?)と看板猫がお出迎えします。 今夜の『予約席』にはどんなお客様が来られるのか。乞うご期待。 平安時代の陰陽師・安倍晴明が生前、未来を案じ2体の思業式神(木陰と日向)をこの世に残した。転生した白猫姿の安倍晴明が式神たちと令和にお送りする、心温まるストーリー。 ※2022年12月24日より連載スタート 毎日仕事と両立しながら更新中!

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

AV研は今日もハレンチ

楠富 つかさ
キャラ文芸
あなたが好きなAVはAudioVisual? それともAdultVideo? AV研はオーディオヴィジュアル研究会の略称で、音楽や動画などメディア媒体の歴史を研究する集まり……というのは建前で、実はとんでもないものを研究していて―― 薄暗い過去をちょっとショッキングなピンクで塗りつぶしていくネジの足りない群像劇、ここに開演!!

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

ひかるのヒミツ

世々良木夜風
キャラ文芸
ひかるは14才のお嬢様。魔法少女専門グッズ店の店長さんをやっていて、毎日、学業との両立に奮闘中! そんなひかるは実は悪の秘密結社ダーク・ライトの首領で、魔法少女と戦う宿命を持っていたりするのです! でも、魔法少女と戦うときは何故か男の人の姿に...それには過去のトラウマが関連しているらしいのですが... 魔法少女あり!悪の組織あり!勘違いあり!感動なし!の悪乗りコメディ、スタート!! 気楽に読める作品を目指してますので、ヒマなときにでもどうぞ。 途中から読んでも大丈夫なので、気になるサブタイトルから読むのもありかと思います。 ※小説家になろう様にも掲載しています。

猫又の恩返し~猫屋敷の料理番~

三園 七詩
キャラ文芸
子猫が轢かれそうになっているところを助けた充(みつる)、そのせいでバイトの面接に遅刻してしまった。 頼みの綱のバイトの目処がたたずに途方にくれていると助けた子猫がアパートに通うようになる。 そのうちにアパートも追い出され途方にくれていると子猫の飼い主らしきおじいさんに家で働かないかと声をかけられた。 もう家も仕事もない充は二つ返事で了承するが……屋敷に行ってみると何か様子がおかしな事に……

【完結】ふしだらな母親の娘は、私なのでしょうか?

イチモンジ・ルル
恋愛
奪われ続けた少女に届いた未知の熱が、すべてを変える―― 「ふしだら」と汚名を着せられた母。 その罪を背負わされ、虐げられてきた少女ノンナ。幼い頃から政略結婚に縛られ、美貌も才能も奪われ、父の愛すら失った彼女。だが、ある日奪われた魔法の力を取り戻し、信じられる仲間と共に立ち上がる。 歪められた世界で、隠された真実を暴き、奪われた人生を新たな未来に変えていく。 ――これは、過去の呪縛に立ち向かい、愛と希望を掴み、自らの手で未来を切り開く少女の戦いと成長の物語―― 旧タイトル ふしだらと言われた母親の娘は、実は私ではありません 他サイトにも投稿。

処理中です...