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EXTRA FILM 3rd ※三章の幕間
渦巻く影
しおりを挟む辰上とアブノーマルが堕性の浄化で、肌を重ねている間。ディフィートは一人、BARに赴いていた。
そこで、今回の主人殺害事件が怪異による犯行であったとされる調査書を受け取り、ラウからの報告を見て酒を噴いた。
「はぁ?赤ん坊だけ取り残されていたから、怪異目撃者の疑いで預かったぁ!?ラ・フランスのやつ、結構行動力あんだな」
「なんでも特別遊撃隊に入る前から、ライセンサーとして各地を転々としていたため、その支部特有のルールにもお詳しいとか」
にしたって保護するまでの即決と、決断までの責任を負ってやり遂げる肝の座りように、ディフィートは感服していた。
その後も調査書に目を通してていると、主人の女関係のだらしのなさや昨今患っていた病状についてが記されていた。ふと、目撃された怪異の数の多さに気付き、グラスをテーブルに置いた。
牛型の怪異、忍者の怪異、影纏いの怪異。霧隠れの怪異、悪魔の怪異、歌姫の怪異。
「おい、これってインフェクターが絡んでるってことか?」
「ああそうだ。それについて、お前に新しい任務だそうだ」
そう言って、情報提供者は小さなメモリーチップをスッとディフィートの前に出した。溜め息混じりに受け取り、カウンターのネオンライトに透かしながら情報提供者の方に声を向ける。
「スレンダーマンと接触したからかい?それとも、今まで散々探すなって言っておいて、今度は即刻消せってか?」
「いや、少し違う。とにかく、今ここで見てくれ」
面倒くさそうに、一緒に渡されたデバイスにチップを挿入して内容を閲覧する。
すると、目を見開いて情報提供者を見るディフィート。その反応を待っていたと口角を上げ、これから起こることへの共犯者になってもらうかのようにディフィートの肩にそっと手を置いて、カウンター会計を代金だけ残してBARから姿を消した。
ディフィートはしばらく、グラスに手をつけることすら出来なかった。デバイスを握り潰しそうになるくらい、力を込めて持っていた。バーテンダーが心配して声をかけてに来ると、デバイスをテーブルに叩きつけてグラスの中に入っていた残りのお酒を飲み干して、会計を済ませる。
デバイスを拾い上げて、ホテルへと戻る。そして、辰上とアブノーマルが寝ている部屋に向かおうとする途中のこと。
「意外だぜ。人の事を尾行する趣味があったとはな?」
「いえいえ、たまたまッスよ♪わっち、キョーミあるので……。貴女のそのラグナロッカーという怪異に……イッヒッヒッヒッ…………♪」
パーカーをだらしなく着こなし、肌寒い夜風に腹部を晒す鳴堕 暁咲。
蛇行でディフィートへと接近すると、跳び跳ねて回転蹴りをお見舞いする。が、ディフィートは手の甲で軽々と受け止め、暁咲の胸ぐらを掴んで引き寄せた。そのあっという間の出来事に、冷や汗を浮かべながら簡単にはやられまいとサタナキアへと変身し、歯を食いしばって目をめいいっぱい閉める。
「ちょうどいい」
「……っ?へ?」
「お前、手を貸せ。出来によっちゃ触らしてやるよ、あたしの愛棒」
「マジすか?ってアイボウって、なんかエロい表現に聞こえるんですけど?」
「はぁ?お前そんな不埒な格好しておいて、カマトトぶるのか?なんか……ますますあたしに似てんな?」
じゃなくて、頼みたいこと。
ディフィートは酔いの廻っている自分にそう言い聞かせて、近くにベンチに暁咲を座らせた。
自販機で買ったホットドリンクを手渡し、隣に座って飲み始める。酔い醒ましも兼ねてと買ってはみたものの、全然効かないと文句を零しつつも暁咲にさっきの頼み事の続きを話した。
「それって、つまりは……わっちが貴女のお仲間を適当な理由つけて、相手していればいいって訳ですか?」
「応ッ!そんで、あたししか怪異を始末しないようにしたい。ってのが、本音だが……どうもそれも難しいそうだな」
暁咲に相手させる怪異使い。
アブノーマルの足止めを頼みたいが、もう一人。それも、怪異使いではないものとそれとバディを組んでいるラウの存在があった。そこで、自分とラウで行動することへ変更し、暁咲にラウの足止めをしてもらうことを依頼する。
しかし、ディフィートは知っていた。アブノーマルには、心の中に闇や隠し事をしている人間に対して敏感な、センサー的な直感があることを。
「それについては、こっちで対策するしかないか……。ま、どの道こっちの思惑どおりにはならねぇんだ。もう一つ頼んでもいいか?アバズレ」
「なんかその呼び名、イヤなんですけど……?普通にサタナキアって呼んでいいッスよ?」
「んじゃあ、サーターアンダギー♪」
駄目だ。この人は、人の名前を正しく覚える気はないらしい。そう暁咲が呆れているなか、肩を組んで耳打ちするディフィート。すると、目を見張ってディフィートから離れた。
「マジで言ってんスか?しゃ、洒落になってないですよ……エヘヘヘへ…………」
「ダメか?」
「も、もちろん。やってはみましょう?」
首を高速に縦に振る暁咲。ニコッと満面の笑みを向けるディフィートは、その足で今度こそホテルへと戻って行った。全く恐ろしいことを平気な顔して、切り出してくる人なんだなと暁咲は呆気にとられたまま、その場に立ち尽くすことしか出来なかった。
これが、主人殺害事件の怪異調査。その裏で起きていた知られざる、一部始終。その後、サタナキアはラウの足止めを行ない、ディフィートはアブノーマルと二人きりになったタイミングで、対処法を実施したことは誰も知らないのであった。
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