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第二章

漠たる悪魔は誘う ─後編─ ★☆☆

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    悪魔を見た。
    俺は悪魔と、肌を重ねてしまった。親と同じ、穢い人間になってしまった。

「教会……教会だ……。教会に行かなくては……」

    心の声を漏らしたまま走った。あたりはもう朝陽が昇っていたが、そんなこと気にしていられなかった。

    やっとの思いで、この辺で記憶にあった教会へと辿り着いた俺は、すぐに境内へと向かうべく、柵の扉を押し開けて押し通った。するとそこには、肌を小麦色に焼いた金髪の修道女が箒で掃除をしていた。
    俺は迷うことなくその修道女に縋りついて、なだれ込み助けを乞うように震えている肩を抑え込みながら言葉を紡いだ。

「あ、あの……助けて、くれ?」
「え?えぇ?どうした……、ん…んっ!!どうかなさいましたか……?」

    急なことで動揺するのも、無理もないことだった。
    程なくして俺は、これまで自分の身に起きたことを説明すると修道女は詳しく話を聞く必要があると言って、辺りをキョロキョロと見渡しながら、協会のなかへと通じる裏口の扉を開けて案内してくれた。

「院長に話聞いてもらう……じゃなくて、お話を聞いてもらって、その見かけたという悪魔について確かめてみましょう……?」

    不慣れに話している辺り、この修道女は見習いなのだろう。その証拠に歩き方や振る舞いにも、礼儀作法を学び従事しているようには見えない。それどころか、香水なのだろうか。

「あ、あの……?」
(男を誘惑するようなラインをはみ出す服まで着やがって……)
「はい?な、なんでしょうか?」
「いや…、廊下長くないですか?」
(いい匂いがする……。性的に見ろって言っているようなもんだろ)
「もうすぐだ……と思いますから……あはは……」

    修道女がそうやって、笑って誤魔化すような態度を取る。
    その様子を見ているだけで、俺はイライラにも似た感覚が胸の内側にわだかまった。心做しか身体が熱い感じがするし、頭もクラクラする。

「着きましたよ。ここが院長室です。ところでお兄さん……じゃなかった。ご紳士さん、相当体調が優れない様子のようですね……」
「おや?ソラさん、そちらはお客様ですか?」

    院長室にいた修道長も、女性だった。不思議なもので、この部屋に入った途端にさっきまでのわだかまりが、消え失せていた。俺は案内されるまま席に着き、修道長にこれまでの経緯を全て話した。すると、修道女達は顔を見合わせて、何かブツブツ耳打ちを始めていた。
    やがて、金髪褐色のソラと呼ばれていた方が部屋を出ていき修道長が、隣に腰掛けてきた。近くで見れば艶かしい雰囲気を纏っている修道長は、とても人間とは思えない淫猥な香りが漂っている。そんなふうに見つめている俺の手を突然、修道長は自分の豊満な胸の中心に引き寄せて、修道服越しに体温を感じさせるように押し当てた。

「先程から、私のカラダに興味がおありのようでしたので」
「…………っ!?」
「うふふ……っ。どうやら、貴方が肌をお重ねになった悪魔は────相当凶悪な瘴気の持ち主だったようですわね……?」

    妖艶な息づかいで囁くようにそう言うと、ライヤと自身の名を名乗り院長室奥の本棚裏に隠し扉があると言って、引き出しの中に手を入れて絡繰を作動させた。そして、隠し扉から地下室へと案内すると奥の二重扉の鍵を開けて中に俺を入れた。

「ここは……?」
「はい、礼拝の間になります。貴方様の身体に憑いた瘴気もまた、悪魔が棲みついているようですので、此処で悪魔祓いをしなくてはなりません」
「…………はぁ?」

    俺が疑問を持って振り返ると────。

...ガチッ。

    扉の鍵を閉めて、ライヤは修道服のウィンプルを外して、衣服を入れる籠の中に投げ入れた。ベールの下にしまっていた髪をなびかせて、俺をベットに押し倒した。ベッドは手入れがされていないのか、酷く軋む音がした。
    這うように体勢を落として、顔を近づけてくるライヤの修道服から、とてつもなく理性が吹き飛ばされるえも言われぬ芳香が漂ってくる。

「…………うっ……!?」

     ライヤの芳香に当てられた俺は、またしても全身が熱く火照りだすのを感じた。同時にそれは、何かを呼び起こされるものであるような気がした。意識を朦朧とさせていると、下半身に冷たい空気が触れているような感覚がして目を向けると────。

「あら……、これはいけませんねぇ?既に悪魔に魅入られてしまっているようですわねぇ?ココがこんなに熱く滾っていらっしゃるなんて……うふふっ♡」
「いや、あの……ソラさん。……さっきの修道女さんは?」
「ご安心ください。彼女ならここへは来ませんよ?今は貴方様の苦しみを解き放つことを優先してくださいませ……嗚呼♡」

    ライヤはその言葉を俺に対してではなく、理性の箍が外れて俺のモノではないくらいに膨れ上がっているソレに向けて、吐息がかかる距離で話しかけていた。俺は声にならない悶絶に、全身が打たれて腰が上がって反応を示してしまっていた。
    まさにそれを待っていたと、興奮して鼻息を荒くしているライヤは、手で根元を優しく握ると扱きはじめた。まるでそこに心臓があるかのように、脈打つソレは痛みを伴いながら更に大きさを増していく。段々と大きくなっていくに連れて頭痛が起き、俺は悪魔に襲われる前に出逢っていた女の名前を思い出した。

天汝あまな……、狩婬かいん……、────う゛ぅ゛っ!!??」
「これはこれは……。随分と人間離れをしたイチモツですこと……。その天汝という女性を思ってこんなにご立派にされたのですか?……嗚呼♡♡」
「く、はぁ……はぁ……ぬ゛っぐ────う゛ぉ゛ぉ゛…………っ!!!!」

    沸き上がる欲望に呑み込まれて、視界が真っ白になる。
    すると、ライヤは俺の膨張を続ける肉棒を咥えこんだ。自分でも制御のきかないソレをライヤは口をすぼめて一気に喉奥まで使って丸呑みした。

「くはぁ……ぁ゛ぁ゛……」
「んぷ、ぐぷっ、じゅるる……じゅぷ、じゅぷ…………えんろ、は……いり、あへん……。だひて……らいて………いい。れふわ♡♡」
「うっ!?ひょぉ゛ぉ゛ぉ゛────────あ゛ぁ゛!!!!!!」

    俺は忘れてしまっていた、天汝との行為が頭の中で復元されていくのと同じ速度で、吸い付いてくるライヤの口の中に黒い欲望を吐き出した。

────ドッッッップゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!

    流れ込む記憶を全て精液に変えて、流し込んでいくようにライヤの口に吐精する。対するライヤも、俺の吐精を待っていたと言わんばかりに、両手を俺の尾骶骨の位置で組んで、自分の口の中へ押し込んでいた。
    喉に直接火傷しようなほどに、熱くなった精液を押し出しているにも関わらずに、口から話すことなく目に涙を浮かべ、鼻水まで垂れ流しただらしのない表情を見せつけながらバキュームを緩めない。

「がぁ────あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛あ゛!?また、射精る゛ぅ゛ぅ゛…………!!!!」
「ンンッ…………グ……ゴゴォォ……ゴキュッ!ゴキュッ!ゴッキュン♡♡…………、ンン────────ッッッッ♡♡♡♡」

    俺はライヤのバキュームに耐え切れずに、賢者タイムを迎えるタイミングを消されて、壊れたように腰を突き上げることしか出来なった。ライヤは容赦なく、吐精を続ける俺のイチモツをストローに吸い付くように、尿道から精液を吸い出して飲み干していっていた。
    精液を喉を鳴らして飲んでいるライヤもまた、何度も絶頂を迎えているのか全身を震わせている。

    どれだけの時間、射精を続けただろう。突き上げて固まった腰が、ようやくベッドに倒れ込み、俺は身体を震わせて息を整えていた。こんな長い時間出し続けたのは、天汝とやっていた時ですらなかった。
    俺が思い出した記憶と向き合っていると、お腹にライヤの掌がのしかかる。そして、ベッドから直角に床に脚をつけている体勢の俺からも見える。出し切って萎えている自分の分身の向こう側から、頭が上がってくるのが見えた。空かさず俺のお腹の上に置いた手を、分身へと滑らせて掴むとカリ首を舌で舐めはじめる。

「どうされたのです?貴方の中には、まだ悪魔が取り憑いてるままですよ♡」
「────う゛っ゛!?!?」
「嗚呼♡イイ、お返事ですわねぇ……♡♡」

    俺の意思とは反して、分身は再び勃起してしまう。
    ライヤはそんな俺を見つめながら、唇に薬指と小指を当てて妖艶な目をして核心をついた突いた一言を言ってきた。

「貴方の中にある母親から植え付けられた恐怖もまた、悪魔によるものでございます。私がそれすらも、抜いて差し上げます♡♡」

    ライヤの蠱惑的な舌使いで、再び射精しそうになる俺の分身。さっきよりも一層卑猥な音を立てて、強めるバキュームに俺はただただ強制射精イカされるのであった。

「ハムッ♡♡────ンプハァ♡♡さぁ、もっと遠慮なさらずにぃ♡♡♡んふふふっ♡♡はぁ~む────…………」

    何度射精しても、勃起し続ける肉棒をひたすら口でしゃぶり上げては、吐き出さされるがまま、イキ続けることしか出来ない俺。ライヤは愉しむように、しゃぶりついて搾精を続けていた。


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    このまま続ければ、いくら息がつまらないとしても顎への負担が過多となり、顎関節症になってもおかしくない。
    それでも、吸い続ける口の勢いを止めない。

「────んっ!?グフッ!?──────んぐっ!!…………ぷはぁ……」
「だ、大丈夫です麗由さん!?」
「ハッ……ハッ……はぁ……、ええ。ご心配いりません」
「ま、まさか。本当にやれちゃうなんてね……。わたし、驚きよ……?」

    手拭いで口元を拭きながら、おしとやかにお辞儀をして完食をしたことを店主に伝える麗由を見て、心配する辰上と茅野。それに騒然とする店内。
    キョトンとした顔で、店内を見つめる麗由の後ろに貼り出されている壁紙には《全長260m!?一本うどん、ひと啜りで食べること出来たら代金無料ッ!!》と書かれていた。麗由はそれに挑戦し見事一啜りで食べきり、店内発のチャレンジ達成者となったのだ。

「あのぉ?代金は無料タダになると、あちらに書いてございましたので……」
「り、麗由……ちゃん?体調とか……大丈夫なのかしら?」
「はい。お腹はいっぱいですが、この後の業務に支障は来たしませんのでご安心ください」
「はへぇ~~、麗由さんもう食べ終わっちまったんですか?……はい」

    通話で少し席を外していた燈火が、ポカンと口開けて驚いていた。麗由のこの食欲旺盛さは、噂観測課でも衝撃を受けるものであった。店主も呆然としつつも、宣伝として壁紙を貼っているとおり代金を無料にして、記念すべき達成者のサインを要求した。しかし、麗由は恥ずかしがってサインを断り、飲食店を後にした。

「失礼いたしました。龍生様以外は、死亡者扱いなのがここで痛手になりました……反省……」
「あはは……。大丈夫ですよ、おかげでお昼は食費が浮いている訳ですから」
「はぁ~、まったく。後輩と麗由さんのデレデレは日増しに怪異と同じくらいに危険なものになっていませんかね……はい」
「煩いなぁ?お前が麗由さんの食べっぷりを見たいって言ったから、こうなったんじゃないか」

    車内で言い合いをしている、辰上と燈火を交互に見守っている麗由。その光景を見ながらも、話の本題に戻そうと茅野が口を開いた。

「で、辰上くん?みんなに今朝話していたことの続きなんだけど……?」
「あぁはい。先週倒した掌握せし魔笛ハーメルン。そして────」
「…………かっこいい」

    その一言に対して、「どこがだよ…?」という表情で麗由を見つめる燈火であった。
    辰上達が討伐した怪異と合わせて、忽然と消滅した【ブレーメンの音楽隊】のことについて話していた。空港での集団パニックから発生している怪異は、これまでの怪異とは違いが大きくあるのではないかと、観測課全体で資料集めをするほどの事態になっているなか、辰上は一つの仮説を立てて、第2課のみんなに共有した。

「要するに、後輩はこれが上級怪異───インフェクターによる怪異の生成だと言いたいわけですね……はい」
「そういうこと。第1課には、インフェクターについての情報が少しはあるみたいなので今度お借りしに行ってきます。インフェクターは複数いるとするのなら、最近出て来ている怪異はおとぎ話や音楽にまつわるものを怪異化することが出来るのだと、僕は考えています」
「わたくし、龍生様の考察に感銘を受けました。インフェクターはそれぞれに役割を持って行動をしているに関しましては、わたくしも同意見でございました」
「ふぅ……。お似合いカップルの意見も一理あるって気もするわね~。燈火ちゃん、その他にも考えられることがあればわたし達でも探してみましょう」

    茅野がそう言って、最近の怪異傾向についての会話を終わらせて、午後の勤務に向けて車を走らせるのであった。
    そして、燈火は今の会話の内容をまとめた仮説文章をメッセージにして、噂観測課極地第1課宛に一斉送信することで、警戒を強化してもらうように促すのであった。


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━ 教会玄関前 ━


    空美は突然、くしゃみをした。

「なんだろう……風邪?それにしても、あの男の人……って言ってたけど────」

    教会内を見つめながら鼻を擦る空美は、院長室での会話を思い出していた。

『どうやら、あの方……。既に怪異化させられてしまっているようです……ソワカソワカ……。ここは1つ、拙僧にお任せください』
『なんか先輩……、顔がエッチしたいって顔……してる気するし?』
『あらぁ?バレましたぁ♡最近……溜まっておりまして……?まぁとにかく。あの方を怪異にさせたものが、この前教えたばかりのインフェクターである可能性もございますので、門前の警戒をお願いいたしますね?場合によっては、表に出た怪異が空美様の方が適任でしたら交代も────』

    眉間に皺を寄せながら、修道女ソラとして雑事をこなしているようにみせる空美であった。
    すると、近くに強い気配を感じ取った空美が掃き掃除する箒の手を止めて、耳を済ませた。目でも周辺を見渡していると、門前に佇む黒いフードを被った人影を見つけた。

(あいつ怪異だ。でも違う……)
「此処に……居ますね?」
「あの?どうされましたか?教会に何かご用事でしょうか?」
(とりあえず、こいつの対処もしないとってことだよね)

    空美は感じている強い気配の正体が、目の前の黒いフードを被った怪異ではないことに警戒を解かず、それでもアブノーマルの邪魔をさせる訳にもいかないため、門前で呼び止めて要件を確認することにした。

「中に居る……。あの男も……彼女を傷付ける……。邪魔するなら、オマエも……殺ス……」

    すると、いきなりフードの中から鋏の両手を振りかざして、空美に斬りかかった。鋏が空美の着ている修道服にかかり、サッと後ろに身を引いたその時胸元の布が引き裂かれた。斬れ味は目を見張るものがあるほどで、あと少し身を引くのが遅ければ間違いなく心臓を抉られていた。

「ちょっ!?これ、勝負下着だったんですけどぁぁ───ッ!?」
「死ネェェェ!!!!」
「ん~もう!あったまきたっ!!」

    向かって来る黒いフードの両肩を掴んで、背中を地面に倒して巴投げをした。起き上がり振り向きざまに、自身の両拳を胸前でぶつけてガントレットを装着し、反撃向かってきていた怪異に裏拳をお見舞いした。
    同時に、修道服を手繰り寄せるように胸元で握りしめて脱ぎ捨て、戦闘スタイルのマリンセーラーに早着替えした。その手際ときたら、人間離れであった。
    両手武器であることは互いに一緒ということもあって、火花を散らしながら互いの距離を測り合う戦い方。空美は相手が、別で報告があった【鋏を抱く幸薄】シザーハンドであることを見抜くと、生まれた隙を見逃さずにスカイアッパーを繰り出した。

「ぐはぁ……、ぐっ!?何故、邪魔をする?」
「そんなもん。アンタが悪い怪異だからに決まってるっしょ。これで決めるし!!あーし流奥義、ブリッドォォ────」

    右拳に力を集約して放つ、空美の強打の拳。仰け反った【鋏を抱く幸薄】シザーハンドを、倒す決め手になるインコースを捕らえたその一撃が直撃する、その直前に割り込んだ影によって、拳ごと空美が弾き飛ばされた。

「貴様、────噂観測課の人間だな?」
「────痛ッ……!!はっ!?こいつ激ヤバな感じだし?」
「コロス、コロス…………」
「あ、待ってこらァ!!」

    トドメを刺されずに済んだ、【鋏を抱く幸薄】シザーハンドを追おうとする空美の前に立ち塞がる乱入者。そして、丁寧に人間態であるにも関わらず、真名を口にした。

「オレの名は【残念美形の魔将】アスモダイオス。愛欲のインフェクター。といっても、オレはそんな肩書きすら大っ嫌いなんだけどよ」
「────っ、やるしか……ない感じ?本気マジインフェクターってわけ?」
「安心しろ、────────本気は出さん……」

    宣言した途端に、風の如く姿を消したアスモダイオス。そこから、一秒も経たないうちに、腕をクロスに攻撃を受け止めて数メートル後退る空美は、額に汗を浮かべていた。
    肉眼では、ただの一発を繰り出し受け止めただけに見えた攻撃が、実際は今の間だけで七発も繰り出されていたのだ。

「貴様、オレよりも悪魔に向いてるぜ────」
「ッ!?うぐ────っ……!?」

    背後から囁き声が聞こえて、急いで振り返るも背中に重い一撃が、空美にのしかかる。痛みを身体が確認するよりも先に、次の一撃が来る。辛うじて防ぐも、喉元を狙った水平チョップをくらい、脳震盪が起きる。ダメージの処理よりも先に、新たなダメージがそれを上書きしていく連撃を受けてしまう空美は、自分の意思で立っているのではなく、だけになっていることを理解する。
    しかし、すでに仰向けに倒れている自身の腹部目掛けて、振り降ろした踵を差し入れて、踏みつけているアスモダイオスの姿があった。

「どうした?もっと、真面目にやってもいいんだぜ?オレだってまだ……、キャッチボールって言うのか?ガキどもが河原とかで丸い球投げ合ってるやつ……。あれくらいの運動しかしてないぜ」
「ぐふ───、ウソ……でしょ…………」

    格が違う。
    空美はさっきまで戦っていた怪異とは、比べ物にならない強さに恐怖を覚えていた。その底知れぬものは、【ヘンゼルとグレーテル】を相手していた時と同じ。いや────。

「それ以上…………、だよな?」
「ぅ、え?」
「幸い耳は良い方なんだ。人間の持つ欲望────、それに直結しているもんはぜぇ~~~んぶっ!────聴こえるぜ?」

    アスモダイオスは空美の腰を蹴り上げ、地面に落ちないようリフティングみたく足蹴にして、教会の講堂に向けてシュートする。壁に打ち付けられて、吐血している空美がそのまま重力に引かれるまま、身体を落としていく。そんなことすら、許さずにもう一度壁に叩きつけた。

「ぅぅ……く────ぁぁ、うっ……」
(こいつ……、あーしの身体にダメージが蓄積しないように衝撃を外に出している)
「まぁ、そうしないと貴様が死にそうだからな?」
「────ッ!?」
(なんて実力差だし……こんなの…………)
「どうやって勝てっていう話だしー、か。案外簡単な話だったりしてな?」

    心の声すら、会話する題材にしてしまうアスモダイオスに、空美はより一層の恐怖を憶えた。しかし、その恐怖は次の瞬間消え失せることになる。
    恐怖で、心真ん中が冷たくなって生きる気力を失っていく感覚。それを打ち消すように、下腹部から熱いものが込み上げてくる。
    その熱く、甘い感覚に空美は───。眼から生気が失くなるほどの心地よさを感じると同時に、を感じていた。それも、思い出してはいけない懐かしさであるというのにも関わらず、浸っていくことしか出来ない。

「あ……ぁ……、ぅ……ぅぅぅ…………」
「オレも今思い出した。ついこの前のことだが、オレに奴隷のように媚びて来る人間が居てな──。そいつに、怪異を宿した人間の写真を撮って来いって言ったことがある。理由は簡単だ、オレが楽に怪異の管理が出来るようにそいつを使った────」

    アスモダイオスが、額に掌を押し当てるように鷲掴みにしている間、話していた内容が何のことを言っているのか、空美は理解した。それは、自分が【知恵の女神】ミネルヴァを克服するため、トレードによって収容されていた小屋。そこには、自分しかいなかったはずなのに、怪異化している自分が写っていた写真が、出回っていること。それを、ある記者からの取材を受けて知った。
    その後も続けた説明の中で、それら一連の出来事が、怪異克服者見つけてもらうよう指示を出し、記者達に探してもらっていたと告白してきたのだ。

「まさか、あの写真の小娘が貴様とはな……。中に居るのは【知恵の女神】ミネルヴァか?」
「────────っ…………????」

    視界が鷲掴みにされたことで、目隠し状態になっている空美をアスモダイオスは持ち上げると、中指と薬指の二本で腹筋の中心に突き立てた。そのまま、親指を上体の方へ押し出すことで、空美の胸の谷間に食い込んだ。

ピチュゥゥゥゥン────ッ!!バチッバチッバチッ...

「ぐ、あ゛あ゛ぁ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛───────────ッッッッ!!!!!!!!!!!!」

    真紫色の雷を生じさせて、暗黒が空美を包んでいく。その激しい雷霆の中には、空美に苦痛よりも果てしない快楽が流し込まれていた。全身が黒焦げになるほどの帯電のなか、アスモダイオスに与えられている暗黒が齎す快感に、涎を零しながら笑みを浮かべ、熱を感じている下腹部からは行為に至る前戯もしていないのに、愛液を垂れ流していた。

「愛欲の魔将ってのも、こういう時には役に立つもんだ。まぁ、その力……だろうから。今日は御主人様の味を覚えて帰ってもらうくらいにしとくさ…………」

    淡々とアスモダイオスが喋っている間も、空美は一方的に未知の快楽に晒され続け感電し続ける全身で、強制的に覚えさせてくる。それを声にならない悲鳴を上げて、受け入れるしか出来なかった。キャパシティをとっくに越えている快楽は、男性との性行為をしている訳でもないのに、絶頂が歯止め効かなくなるほどに空美の心身に色濃く、染み込んでいった。

「────ッ?」

    辛うじて、肺で息を繋いでいられる状態の空美から、そっと離れるアスモダイオス。空美の目の前には、棺が地面に刺さっていた。


□■□■□■□■□


━ 数分前 ━


「…………っ。────、…………」
「────────ん~~、ぱはぁ…………おや?気絶なさってたのですね?それにしても…………」

    怪異が体に憑依している深山を、教会の地下室に閉じ込めたアブノーマルは、怪異を分離させるために深山がトラウマとする行為に及んでいた。
    一方的な、性的奉仕。自身の父親に実母とその後の義母がしてきて、忌み嫌っていた行為をされることが、なによりもされたくないことであると、院長室からこの地下室に来るまでの間に会話で明らかになった。
    その事実を受け、アブノーマルは私欲を満たすのも兼ねて、フェラチオで精根尽き果てさせる勢いで、深山に奉仕を続けていた。普通の人間なら、休み休みにやったとしても、顎への負担が測り知れないものでも、【八百比丘尼】の持つ再生力の前では、息をしているのと同じであった。
    アブノーマルは、すっかり萎えてしまったイチモツを寂しそうに見つめて、自身の頬に手を当て今さらながらに、恥じらいをみせてやり過ぎてしまったと少しだけ反省した。どのみちこの後、しているため、怪異と切り離して生きていたとしても、消える命であることに変わりはないと手を合わせて見下ろす。そして、全身ついた精液と雄の匂いを落とすべく、院長室のシャワーを使いに地下室を後にするのであった。

    洗浄を済ませたアブノーマルは、教会の外から気配を感じた。
    同時に、空美の身にも危険が迫っていることを察知し、急ぎ服を着て外へ向かおうとした。院長室から、講堂へ続くドアに手をかけたその時、アブノーマルの手の甲に後ろから、重なってくる手が伸びた。

「まぁ?」
「はァ、はァ、ハァ……何処二、イクんだよライヤァァ…………」
「お…………ホホォ♡」

    そこには、二十扉の鍵はしっかりかけたはずの地下室から出て来た、深山の姿があった。アブノーマルは、深山から噎せ返るような性を求めて放つフェロモンに、膣でキュンっと感じてしまい、性に従順なケモノの顔になってバキバキに反り返っている、深山のイチモツを腰に手を回して裏筋をさすっていた。

「情熱的な求愛は嬉しいのですが、拙僧──、これよりご予定がございましてぇ?」
「ふざケルなァァ!!!!俺ヲ、こんな目二あワセてオイテ───、ソノエロいカラダが悪インだァァ────」
「あぁ~~~んっ♡そんな//////」

    息を荒らげ、声が深山のものでないものもハウリングしていた。アブノーマルを振り向かせるように肩を引き、テーブルに叩きつけて貪るように、首元へと唇を擦りつけた。アブノーマルは満面の笑みで嬌声を上げて、脚を深山の腰に回してホールドする。
    火照りが再開したアブノーマルに前戯もせずに、凶悪になったイチモツを突き入れようとする深山。しかし、その時深山の両頬を潰すように両手を当てながら、アブノーマルは口惜しそうな反応を示しつつも言った。

「本当のところ、その素晴らしい魔羅をこの身に受けて快楽天を開きたいのですが…………ソワカソワカ。このとおり、悪魔さん分離願いましょうか?」
「ぐおっ!?」

   訝しげな笑みを向けるアブノーマルを前に、視点がテーブルからズレ落ちた深山。なんと、ホールドした腰から深山の体を真っ二つに切断していたのだ。

「これぞ、ミヤマクワガタに挟まれた深山様────嗚呼♡ついでに怪異さんも拙僧の大好物で助かりましたぁ……ソワカソワカ♡」

    裂けて残った下半身から、もくもくと煙のように這い出てくる怪異。
    女性に愛をもたらし、敵味方問わない友愛を生じさせた人生を送った深山にはおあつらえ向きの怪異───、【人生を騙る幽魔】ウォヴァール。ダチョウのように細くも、筋肉質な二本の脚で床に脚をつけてアブノーマルに襲いかかる【人生を騙る幽魔】ウォヴァールに対し、はだけた修道服を脱ぎ捨てするりと、白肌を両肩まで晒す手製の法衣を身にまとい迎え討った。

「オマエ……美味イ肉……オレノセイヨク、ミタスッ!!」
「嗚呼///いつもなら、大大大、大歓迎ですのに……ソワカソワカ。────残念ですが、雑魚に構っている時間はありませんので」

    肩を押さえ込んできた【人生を騙る幽魔】ウォヴァールの両腕を受け止め、煮エビの殻を剥くように容易く捻って、ゼロ距離のサマーソルトキックを頭部にお見舞いし、壁を蹴って平手を突き出し講堂まで押し通った。
    講堂の太い柱に埋め込むように、叩きつけられた【人生を騙る幽魔】ウォヴァールは、はじめから朽ちていたかのようにくたびれた状態で、塵となり空気へと消えていった。その消滅する散り際には目もくれずに、合掌して床に両手を着くアブノーマル。
    すると、錬成陣のような布陣がアブノーマルを中心に現れて、棺が地面から生えてくるように出現した。

「インフェクター……。空美さんにばかり気持ちのイイことをするなんて…………拙僧も愉しませていただきたいもの、ですねっっ♡」

    頬を紅潮させながら、出現した棺を担いで思いっきり教会の外へ放り投げた。


□■□■□■□■□


━ 現在 ━


    棺が突き刺さっている麓で、アヒル座りで脱力している空美の姿があった。視点は定まらずに、今も胎内を駆け巡る快感に精神的ダメージを受けていた。

「いけません。空美さん、腹部をちょっと失礼しますよ……」
「う、ぅぅ……あ、ぅぅ…………」

    顎が開かないのに緩んでいる口元から、涎が垂れ流しになり地面についている両膝を中心に、小さな水溜まりが出来るほど体液を放出して、内側を徹底的に壊された空美にアブノーマルは、翠色の霊薬が入った注射を打った。すると、棺の攻撃を退いたアスモダイオスが、感心したような態度で口を開いた。

「ほぉ?そいつは、ジュピターティアーズ。エリクサーなんかよりも随分と希少価値のあるもんだな。貴様、それを何処で?」
「限定的ですが、拙僧の血液を基に再現した模造薬物レプリメディカルです」

    薬が周り眠りに就く空美を抱き上げて、棺の中へ入れるアブノーマルは蓋を閉めて、教会の外へと押しやった。その隙をついて、アスモダイオスが飛びかかるとお互いの拳を弾き、腕と腕を交差状にぶつけ合った。すると、衝撃波で棺は更に外へと追いやられ、空美の容態を心配して集中を一瞬欠いたアブノーマルの、肘を上に押し出し顔面に一撃。続いて膝を腹部に蹴り込み、への字になった背中を地面に叩きつけるアスモダイオスは、バウンドするアブノーマルを空美の時同様にシュートするようにして、中庭の方へ蹴り飛ばした。
    水が出ていない噴水に激突し、砂煙を巻き起こす中庭に向けてゆっくりと歩いて近付くアスモダイオスは、助けに来たアブノーマルを一瞬で片付けのにも関わらず、肩を回して骨を鳴らしていた。すると、アスモダイオスの体から鉛玉が地面に無数転がり出した。

「噂観測課────極地って名は、伊達じゃないらしいな?」
「気に入っていただけましたか?拙僧、急拵えですと……その程度のおもてなししか出来ませぬゆえ」

    至って冷静な声色で、砂煙のなかからアブノーマルが姿を現した。
    さっきまでの戦い。一見するとアスモダイオスのワンサイドゲームに見えていたが、隙をついて組み手を崩した時点で、アブノーマルは数珠を用いた術をアスモダイオスに打ち込んでいた。
    しかし、その術を発動させまいと連撃を与えたことで、お互いの決め手とはならずに振り出しとなっただけだった。

    すると、アスモダイオスは高らかに笑いながら手に向けて、闇の波動を放った。それは頭上からドーム状に二人を包み、特殊な空間へと誘うアスモダイオスの技の一つ────。

冥境暗黒亜空域ダークサイド・メタファーム

    周囲の空気が淀んだ空間。構築している物はすべてで、影の世界や裏世界といった空間をアスモダイオスは、独自に持っているのだとアブノーマルに説明した。加えて、この空間にいる間はアスモダイオスが戦闘経験を倍速で学習し、自身の糧にその場で変換出来てしまう。
   つまりは、アブノーマルがこの空間で長時間アスモダイオスを相手すればするほど、不利な状況になっていく仕組みとなっている空間ということになる。

「良いですね♡嗚呼♡どうしてでしょう?この絶望響めく空間に拙僧……膣キュンしてしまっております♡♡」
「ハッ!!お互い、は一緒ってかッ!!!!オレは真っ平御免だぜ!!!!」

    高速移動で、目にも留まらぬ速さの拳を繰り出すアスモダイオス。
    対して、アブノーマルも視認性の低い攻撃を難なく、躱していった。野心を感じられる攻撃では、速さがいくらあってもアブノーマルを捕えることは出来ない。鋭く突き出す打撃を流すように弾き防いでいき、アスモダイオスの胸部に手を添えると発勁を打ち出し吹き飛ばした。
    地面を抉りながら両脚で耐え忍び、反り返った上体を腹筋と背筋後からのみで起き上がらせると手をかざして、氷柱を何もない空間に精製して発射する。アブノーマルは襲いかかる氷を手で払い除けた。

「いいぜいいぜ♡オレは───、これを望んでたんだぁ♡」

    ブルブルと全身が、身体の奥底から震え上がる。
    それがアブノーマルの言う膣キュンと、同質のものであることはアスモダイオスも充分に理解していた。抑えきれない興奮を表現するように、アスモダイオスは空気中に冷気を作り出し、一箇所に集約して巨大な氷の礫を作り投げ飛ばした。
    両腕を腰に添えて、気合いを込めた深呼吸で自然体に奮った拳で礫を粉々に砕き、辺りに霰を降らせた。

「おいおい……♡そんなにしてくれんなよ……?────ぶっ壊して愛してやりたくなるだろうがッ♡♡」
「快楽に溺れることは素晴らしいと、拙僧は思いますが?」
「ハッ!違いねぇなぁ♡でも、それはオレなりの殺し合い愛し合い方でに限るけどなぁ♡♡」
「うふふ♡いいでしょう?ともに阿鼻叫喚すら心地のよい道楽へと……堕ちましょう♡♡」

    【残念美形の魔将】アスモダイオスと【八百比丘尼】。両者ともに───快楽、愛欲、性欲を満たすことの出来ぬ底知れぬ渇望を抱いて、その存在を維持する怪異。されど、アスモダイオスは望まぬ快楽を──。アブノーマルは求めた快楽を──。

    この矛盾に決着など着くはずなどなく、攻防は果てしなく続いた。冥境暗黒亜空域ダークサイド・メタファームの影響を受け、空間に囚われた者は時期に衰弱していき、空間の主はその間もつよくなり続けるはずの戦況は、一向にどちらに傾くこともなかった。

「貴様、怪異をもう一体……飼っているな?」
「おや?ようやくお気づきになりましたか?」

    アスモダイオスの推測によれば、アブノーマルは冥境暗黒亜空域ダークサイド・メタファームの影響を受けない。というよりは、受け流している要素があった。確信を得たアスモダイオスの口から、その絡繰を言い放たれた。

「【女王の蟻塚】か……。自身が国の支配を保つために、民草共を悪魔呼ばわりして殺してでも独裁を続けた愚かな女の伝承が怪異となったそれを、【八百比丘尼】と組んで使いこなしているとはな?貴様、面白いぞ♡」
「そうですか。それは嬉しいお言葉……、ですが…………」
「ん?」

    種明かしも済んだところでといった態度で、お辞儀をするアブノーマルを見て首を傾げた。つもりが次の瞬間、アスモダイオスは腹部を押さえてその場に蹲り、黒い液体を吐血していた。四つん這いで咳き込んで嘔吐いているアスモダイオスは、何が起こったのか分からないと目を白黒させて動揺していた。

「確か…女王蟻のような傲慢な振る舞いをなさった女王様を堕落へと導きになられたのは、暗黒魔将軍のアスモデウスでしたね……?とすると、貴女様もそのアスモデウスをベースに生まれた怪異なのではと思っておりました」
「くぅ、はぁ!?は、は、はぁ……」
「ですので、その淫靡の印は───さぞ、体には応えるものかと……」

    その言葉を聞いて、ようやく理解した。
    悪魔とは、人間にとって欲望や愚の骨頂を可視化させた存在に過ぎないという、ものの見方もされている。同時にそれは、起きている事がことがあっても、不思議ではない可能性も孕んでいた。今、アスモダイオスは【八百比丘尼】の逸話にある、妖魔に人間が恋をする状態の逆。即ち、怪異が人間に恋をする呪いの類を刻印されたのであった。

「お見受けしたところ、貴女様はどうやら。女でいることにご不満のようでしたので、少々危険ではありますが他種族たる人間に恋をしないとその衝動が消えることはありませんよ?」
「き、きさ…ま……。オレに……無差別に、怪異を……創らせる……気か…ぁ……?」
「あら?お気づきでないのですね?まぁ、それは拙僧の大事な後輩を痛めつけてくれたほんのお気持ち程度のお遊びですよ♪」
「ち、チィ……、覚えておき……やがれ……」

    腹部を押さえながら、冥境暗黒亜空域ダークサイド・メタファームとともにアスモダイオスは、闇へと姿を消した。
    周囲の空間がもとにもどったところで、アブノーマルもその場に膝をついて呼吸を整えていた。実際のところ、【八百比丘尼】の再生力と【女王の蟻塚】で自己暗示のフェロモンを嗅いで、弱体化を誤魔化して闘っていたため、ギリギリの戦闘だったのだ。

「しかし、空美さんがマズいですね。拙僧としたことが、このままあのインフェクターがを空美さんにでもされてしまったら、トレードさんに顔向け出来ませんね……?…………ソワカソワカ」

    元気がない分、余計にションボリして見えるアブノーマル。

    教会の破損箇所を確認して、事務所への報告を済ませたころに空美が目を覚ましていた。帰社までの運転はアブノーマルが行ない、空美は後部座席に座っていた。今回の怪異調査で、自分は役に立てなかったと横になりながら、頬を膨らませて不貞腐れるのをアブノーマルが慰めながら、インフェクターの出現は想定外だったことを告げた。

「それに、空美さんのシスター姿……♡嗚呼♡床に就く時にオカズにしてしまうかもしれません……ソワカソワカ♡」
「あはは……勘弁して欲しいし……。────────ん?」
「どうかなさいましたか?」
「え?あ、いや……べ、別に?何でもないし……。あ、そうだ♪アブノーマル先輩、慰めてくれるんだったら戻りしなにあるラーメン屋で奢ってくれたりしない?」

    起き上がって、運転席と助手席の間に顔を突き出して、アブノーマルにたかろうとした。ため息を零して肩を落としつつも、これくらいのことは仕方ないと空美の提案を飲むことにした。

「あ。─────、って今更遅いし……」

    目的地がラーメン屋に決まったところで、スマホを確認した空美は怪異との戦闘中であった時間帯に、燈火から一斉送信されてきたメッセージを呼んで、一人そうツッコミ入れていた。
    そして、移動距離的にも車内での拘束時間が長いことと、アブノーマルから注射されたジュピターティアーズで応急手当はしたとはいえ、受けたダメージを癒しきれていないため、疲れて眠りに落ちた。

───ピィィィィ...

    静かに寝息を立てて、眠る空美の臍下部さいかぶが妖しくかがよって薄紅色に蠢いていたが、運転に意識を向けていたアブノーマルも、当の本人である空美も気付いていないのであった。
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