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第二章

漠たる悪魔は誘う ─前編─ ★★☆

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    イライラする。そう感じると俺は暴力的になる。これが火種となり何度も彼女が出来ては別れての繰り返しだ。

「どこ見てるんだよ?」
「あぁん?」

    まただ。不良っぽい連中が因縁をふっかけてきた。仕方なくそいつらに連れられるままに廃墟跡地だと思われる工事の行き届いていない場所に連れられた。
    当然のことながら、喧嘩が強い訳でもない俺は数の暴力に勝てる訳もなくフルボッコに会ってワンサイドゲームで終了する。そして、こんなことでも調子づくこいつらの手口はワンパターンだ。

「おい、てめぇメンチ切ったわりには財布ん中にロクなモン入ってねぇな?」
「待って待って♪」

    喧嘩が強い男の彼女だろうか。その女は俺の財布の中身を確認すると、いつもデート帰りに有事とならないとも限らないと常備していた男性用避妊具コンドームを手に取って笑っていた。

「ラッキー♪これでアタシら今日エッチ出来るじゃ~ん♪ありがとお兄さん♪てか、お兄さんそんな冴えない顔してんのにヤる相手居るんだ?」
「どうせデリヘルとかだろ。それと現生で持ってる分だけ貰ってくわ。んじゃあ、次会った時はもう少しマシな額は入れておけよな?」

    財布を開けっ放しして投げ捨てて、盗るものだけ盗って不良集団は消えていった。

──またか。
──あんなやつの暴力は許されるのに、俺の不安から出てしまう暴力行為は許されないなんておかしい。
──こんな世界狂ってやがる。

    いつもこんな感情の循環だけで終わる。今回もどうせそのはずだった。しかし、外は騒がしい。興味本意で起き上がって騒いでいるさっきの不良集団の方を見た。

「なんだよ女?おれらに文句でもある訳?」
「別に……。唯、そこの弱っちい男囲って情けねぇ事やってる貴様らがあまりにも惨めにオレには見えたからさ」
「何この女。そんな男を誘ってる格好でよく言うよね?言っとくけど、アタシの彼はここらじゃ負け知らずなんだから」
「そうだな。なぁ?分からせたらちょっと楽しんでもいいか?さっきのゴム使っちまえば良いしさ」

    どうやら、たまたま通りがかった女に言われた言葉に腹を立てたのかお得意の暴力でその女のことも黙らせるみたいだ。あんな、何でも力で捩じ伏せる生き方をしている奴の下で搾取されて生きていかないといけないんだ。どうせ、喧嘩をする女の方もあの男に屈服させられて取り巻きが増えるだけなのだろうと静かに痛みに苦しんでいようとしゃがみこんだ。

「ぐわあああ!!!???」

    突如として俺をボコボコにして楽しんでいた男が足元まで吹き飛んできた。この距離を飛ばすなんて尋常じゃない。その俺の思いは目の当たりにしていた連中ももれなく感じていたらしく、腰が抜けてしまってる取り巻きの中には失禁しているものまでいる始末。

「で?アイツ以外にオレに喧嘩売る奴は?まさか居ねぇなんて言わねぇよな?」
「ヘヘっ当然だぜ……。喰らえっ!!」

    そう言って立ち上がった男の手にはスタンガンが握られていた。しかも、海外製の改造スタンガンだ。あんなもの、軽く25万ボルトは言うに超えている。それのセーフティが完全にないということは、それ以上の電流が女を襲う。

「あうっ♡」
「へっへっへっ。こいつ喰らって、随分と色っぽい声出すじゃねぇか?動けなくなったらこのまま可愛がってやるぜ」
「そうか。こんな気持ちのいいをオレにしてくれるのなら、嬉しいもんだね」
「は────、え?」

    有り得ない光景が連続して目の前で起こっていた。肌が露出していた腰に直でスタンガンを打たれ、電流が骨まで行き届いているはずの女は痺れた様子もなく後頭部にある不良の頭を掴んで180度回転させて絶命させていた。
    ごとっと力無くその場に倒れる不良を見て阿鼻叫喚する周囲の取り巻き達は、腰が引けて動けずにいた。すると、両手で耳を塞いだ女が「うるせぇよ…」と呟くとその場で一回転した。

ギィアァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛────ッッ!!!!!!!

    何が起きたのか。俺は目を疑った。
    そこには“不良だった”ものたちの黒焦げになった残骸が黒い煙を放って残されていた。対して、女の方は呑気に乱れたセミロングの髪を手櫛で整えてこちらに向けて足を進めてきていた。

──まさか、俺も殺されるのか?
──俺はただこいつらに絡まれただけだぞ?

「う、ぅぅ……」
「?……なんだ、まだくたばってなかったのかよ」

━━ジュボッ!!ジュゥゥゥゥゥゥゥゥゥ...

    辛うじて意識のあった不良集団のリーダーの耳穴に人差し指を突っ込んで、指を抜いた瞬間に角砂糖を水に溶かしたかのように綺麗に骨まで溶けて消えてしまった。

「ひ、はっ、ぁっあ……」

    俺は情けない声を出して唖然としていた。このまま俺もこの女に消さられる。そう思って目を閉じた。目を逸らしたって意味などないだろうに全力で体を縮めて耐えた。しかし、次の瞬間ゴツっと太腿に小さな衝撃が加わった。
    見るとそれは俺の財布だ。女は俺の目の前に腰を落として、不良の残骸近くに落ちていたお金を財布にしまって財布を差し出した。

「ん?何か足りないか?」
「あ、いや……」
「あそっか。悪い。さっきまとめて焼き払っちまったせいでなくなっちまったけど、小さな袋のやつも貴様のだったか」

    表情一つ変えずにそう告げて、立ち上がりその場を立ち去ろうとした。俺は、自分は殺さないのと思わず聞いてしまっていた。すると女は、質問の回答になっていない自己紹介をしてきた。

天汝あまな……、天汝 狩婬かいん。それがオレの名前だ。どっかでまた逢えたら、その時は酒でも呑もう」
「い、いや。そうじゃなくて、あの……」

    立ち去った天汝を名乗った女を追って、外へ出る。居ない。さっきまで50m程度離れた場所にいたはずの人影は何処にも見当たらない。俺は怖くなってとりあえずその場から離れることにした。

✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳

━ 報告を受けた噂観測課の現地入り ━

    現場は酷い有様だと聞いてきてみたら、黒い灰がそこに人がいたことを物語った焦げ跡が辺り一面に広がっていた。

「うぇー、ここでも臨床するんですか?アブノーマル先輩、流石すぎるし……」

    音雨瑠ねうる 空美あみが引き気味に焦げ跡に頬をスリスリしているアブノーマルを見ていると、アブノーマルは臨床を開始した。
    これは怪異【女王の蟻塚】によるフェロモンを嗅ぎ分け操る能力を霊能力と織り交ぜて編み出した霊媒臨床方法でアブノーマルの独自の技術である。

「はぅ///来ておりますぅ♡拙僧のナカに、流れ込んで……嗚呼♡♡」
「他の先輩方はいっつもこれどうやってやり過ごしてるし……。あー、刑事さんもあっち行った、シッシッ……」

    冷ややかな目でその状況を見届けている空美は刑事さんが、床に向かって喘ぎながら悶えている尼僧を見てに目覚めそうになるのを阻止していた。誰が、これを見て得するのだかと視線を向けていると急に立ち上がって天に人差し指をかざして「見越しました!」と言って固まるアブノーマルにビクッと反応してしまった。
    しばらく経ってもそのポーズでフリーズしたかのように固まっているアブノーマルに近付き、目の前に手を振っても胸を触ろうとも膝カックンを仕掛けようとも微動だにしないのを確認して言った。

「で?何が見えたのですか?」
「はい///そのお言葉をお待ちしておりましたのに、嗚呼……空美さんと来たら胸を揉みしだき膝カックンをするだなんて……。拙僧はではありませんのでご理解の程を……ソワカ、ソワカッ!」

    語尾の「ソワカ」に合わせてプイッとそっぽ向き、現場から移動するアブノーマルに謝りながら着いていき手がかりはと尋ねると「あの焼け跡は人間を狙ったものではありません」と即答して車へと向かった。その後ろに着いて行く空美はふと気になって足を止めて、顎に手を当てて声に出して言った。

「何で、あーしが謝らなきゃいけないんだっけ?」

    空美の疑問に答えなど帰ってくるもはずもなく、車へと急ぎ戻るのであった。

    車内に戻って移動を開始する二人。運転をしていたアブノーマルに何処へ向かうのか聞いてみると、いつになく真面目な表情で答えてくれた。

「これより、臨床で辿った気配の1つをマークすべく現地に溶け込んで怪異を探ろうと思います」
「へぇー。それで1つってことは他にもあるって訳ですよね?二手に分かれたりしなくていい系?なんですか」
「それならば問題ありません。あの場にあった3つの気配の内2つはこれから向かう方向におりますから。問題はもう1つの方ですね。これまでにない系譜を辿っておりました」

    アブノーマルの臨床で得た情報には三体の怪異が関わっていた。そのうち、一体はインフェクター。つまりは、怪異を生み出した上級怪異の可能性があるということなのだ。しかし、気になると言っていた方にもまた上級怪異の気配を感じるというのだ。

「でも、その怪異は?」
「はい。どうも、現在既に浄化されたのか。その存在を感知出来ません。もしかするとこれが政府さんから送られてきた使によるものなのかもしれません」
「あーしら以外にも、怪異と知っておきながらその怪異を倒す存在が……。でも、それならそっちの調査もしないといけなくないですか?」

    空美の言うことも最もだ。しかし、アブノーマルはそれについてはラットが対処に当たっているから現状は優先度をある程度設定されていることを告げた。すると、空美は気になっていたことを思い出した。それは、今回の調査に来る前のディフィート達の会話だった。

「あれって、結構ヤバめな雰囲気出したよね?なんかあった系ですか?その【スレンダーマン】って怪異絡みで」
「そうですね……。拙僧はそこまで直接的な関係はないので何とも言えないことも多いのですが、ディフィートさんとトレードさんにラットさん。御三方のが絡んでいるのだとか。それ以外は拙僧にも分かりません」

    それを聞いて並々ならぬ事情があることだけは確認出来た空美は、この件についてはもう触れないようにしておこうと心の中に閉まっておくことにした。
    しかし、その話の内容を深堀りする事をやめた途端にソワソワし始めたアブノーマルを見て、催しているように見えた空美は車を停めてお手洗いに向かうことを提案した。車を停車させてブルブル小刻みに全身を震わせているアブノーマルは、バッと顔を上げて目をハートにさせて空美の方を向くと鼻息の荒げながら興奮を隠すことなく話した。

「拙僧……、嗚呼───、空美さんのシスターお姿を早く拝見したくて疼いてしまって♡嗚呼♡♡拙僧の見慣れた修道女の格好の隣に、掟破りの褐色肌ッ!?遊女から醸し出されるデンジャラス♡────っぽ♡」
「あのー?あーしのことどんな目で見てるんですか先輩は……?」
「あら?聞きましたわよ?その昔100をなさっていたと?」

    よりにもよってそこをツッコまれるかと溜め息混じりに頭を押さえた。そして、口元に手で輪っかを作ってジェスチャーをして答えた。

「ここまでしかしてないですけど?」
「と言いますと、女陰ほとはお使いになってないのですか?」
「な、何でそんな話に本気マジに答えなきゃなんないワケですか?ん──、まぁ……これまで付き合った3人とは……」
「そうですか///その殿方達からは陰核へのこでお突き合いをなさったと言うことですね?」

    エロ目で空美を見つめながら問いかけて来たのに対して、不服気味に頷くとアブノーマルは涎をジュルリと啜って唇を法衣の袖で拭った。そのまま頬を紅潮させ、テンションも好調にエンジンをかけ直してアクセルを踏み込んだ。

「いざ、木星の神のお膝元目指してゴートゥーヘブンですぅ♡…………ソワカソワカァ────ッ♡♡」
「…………。あーし、……怪異より先に潰れそう……だし」

    最早感情の行き場が何処を向いているのか分からないアブノーマルにリアクションを取る元気もなくなった空美はこくりと頭を下げて、これからの思いやれる可能性しかない調査に一人項垂れているのであった。

✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳

━ 天汝 狩婬と出逢ってから数日後 ━

    あれからというもの、俺に因縁つけてくるゴロツキはおろか夜道に戯れる若者の姿を見ない。といっても、俺もその若者に部類するわけなのだが。

「おい、深山みやま。そこの荷物倉庫に入れといてくれ」
「あ、はい。そうだ店長。最近、街は静かになりましたよね?」

    俺は仕事中だってのに何を聞いてるんだろう。そう思った矢先、店長から思いがけもしない一言が返ってきて俺は驚いた。
    なんでも最近、若い男性を狙った通り魔が出没しているらしく通り魔の被害にあった男性の死体は爪で引っ掻かれたような切り傷がつけられて出血多量で死亡している。その現場には必ず女性が目撃者としていて、皆口を揃えて「ハサミの音がした」と警察に言うも黒い影を見たという情報以外に特徴がなく捜査は難航しているらしい。

「そのせいで、学生とかはみんな夜まで外を出歩かないよう呼びかけられたり、集団下校なんてしているくらいだからな。ニュースになったのは昨日くらいだったけど、お前も多分年代に入っていると思うから気を付けろよ」
「ひょっとして、先週から男性スタッフの残業禁止になったのもそれが原因ですか?」

    店長はそうだと答えて、搬入口の荷物チェックに向かった。
    不良が肩で風切って歩くことがなくなったかと思えば、通り魔かよ。これじゃいつになっても、俺みたいな不条理を感じて肩身狭くするやつは人の顔色を伺って生きていかなきゃいけないじゃないか。

「深山君、品出しお願いね」
「ん?あ……」
「なに?」
「あ、いや……分かり、ました」

    声をかけてきたのは元カノの先輩スタッフだった。彼女とは先月別れた。理由は俺の不安症から来る暴力的行動。俗に言うDVというヤツだと言われているが、病院に行って診てもらったわけではないからきっと違う。
    こうして普通に生活している上で接する人達にはそういった言動すらもないのだが、その暴力性が表に一番出る時は性行為のときだった。それも気持ち良くなって果てそうになるに連れて増していき、一度出し終えてから続けた先の事は記憶が残っていないことがほとんどだ。
    朝起きて手の甲を見たら乾いた血が着いていることもしばしばあった。最初は怖いと思っていたけど、人間ってのは不思議なもので何度か目の当たりにしてからはなんだと感じるようになった。

「お疲れ様でした!」

    今日の勤務を終えて、自宅へと帰宅することにした。
    話を戻すと、俺のこの暴力性は異性とふたりきりの時にしか顔を見せないものであるため、彼女を作らないことにすれば普通に生活をおくれるので満足出来る。出来ていたが正確だろうか。
    俺には困っていることがあった。職場の先輩スタッフとの失恋以降、女性に興味というものを持たなくなっていた。それまで、付き合っている最中もそれ以前に付き合っていた女のことを考えたり思い出に浸ったりしていたこともあったが、最後の恋愛が覚めた時にすべての付き合ってきた女達との思い出に繋がるものを手放した。

「はぁ、はぁ、はぁ……まただ……」

    それ以来、激しい演出をしているAVを観ても興奮もしないし勃起することがなかった。どんなシチュエーションものも、SMものもコスプレものも。どれを試しても結果は同じく興奮を覚えない。だというのにの後、俺は毎日のように硬くなるソレを慰める日々に悩まされえていた。
    今日も家に着くなりズボンを脱いでその場で弄り始めて、達するのを早めるために擦る手をきつくしてティッシュで精液を受け止める。倉庫作業で汗をかいている身体を洗おうとバスルームに向かい、洗い終えた頃にまた熱を持って硬くなるソレを今度はバスルームで慰めて吐き出す。

「駄目だ……、収まらない。それどころか……」

    もっとシたくなっている俺がいた。この状態になって直ぐにネットで電動の玩具を購入して使っている。もう一人の手でするだけでは、手が疲れるというのに収まることのないソレを慰めるにはこれしかなかった。

「くっ、う……うっ!?」

    強い刺激を加えられたから仕方なく射精すだけの機械的な作業。俺はベッドを殴りつけている自分の姿を見て確信する。俺は傷つけたがっている。あの女を────、天汝と名乗った彼女のことが頭から離れない。それと同時に俺のこの暴力性も受け入れてくれそうだと感じている。
    そんな天汝のことを思った瞬間、ソレに籠る熱が倍に膨れ上がっていき心臓が激しく脈打つ。ドクドクと煩い雑音を聞かせながら、頭に響く天汝が名乗った時の声。

 ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎──天汝あまな...、天汝あまな 狩婬かいん...

︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎──天汝あまな...

    ───どっかでまた逢えたら...

︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎──ナニしてる...?

「何しているんだ君?」
「っ!?」

    気が付くと俺はコンビニ帰りだった。足りなくなった男性用避妊具コンドームを買い足したレジ袋を警察に取り上げられて職務質問を受けていた。
    結局、夜道は危険だからと異常なしとなったにも関わらずパトカーに乗せられて直ぐそこに自宅があるというのに住所を教える。すると、車道を挟んだ反対方向に走って逃げる男女とそれを追いかける黒い影を目撃した警察が連絡を取り始めた。
    パトカーを降ろされた俺は大人しく家に帰ろうと、自宅の方を向こうとしたが身体がいうことを効かない。何故だか分からないが予感がしている。きっとさっきのが世間を騒がせている通り魔なのだろうし、危険も伴う。しかし、俺はその通り魔を追いかけることにした。

    息を切らして一心不乱に走っているとパトカーが沢山停められている民間施設があった。間違いない。あそこに通り魔がいる。俺はなんとも言えない憤りが身体を支配していた。この通り魔さえ居なければ、夜だって今までみたいに自由に外を出歩けるのにそれが出来なくなった原因を振りまいていることが許せなかった。

「止まりなさいっ!────うわぁ!?」
「こ、こちら急行部隊。通り魔と思われるものと────うっ」

    警察の人間を軽々と惨殺していく通り魔を見て俺は戦慄した。あんなしたやつが通り魔だなんて、どう太刀打ちしろっていうんだ。すると、警察を全滅させた影が先程追いかけていた男女の方へ体を向けた。
    腰が抜けてしまったように動けずにいる男女。今の隙に逃げることだって出来るのだが、その時俺の目に映ったのは男女の一人。女の方は元カノ。つまり、職場の先輩だった。俺は声を上げて黒い影に向かって突進する。

「うおぉぉぉ!!!!」
「深山君!?」
「は、早く逃げろっ!!」

    てか俺も逃げろ。
    そう思った瞬間に背中を蹴られて壁に叩きつけられる。そして、空かさず後頭部を押し当てられて身動きが取れなくなった。幸い向いていた首の方向から男女は無事に逃げ出せたことを確認できた。

「邪魔、したな?おまえも…女性を傷つける……サイテーの男の匂いがするっ!!ここで、わたしがおまえを殺す」

    黒い影が乾いた声でそう言うと掴んだ後頭部を壁に押し付けるのをやめて反対側に投げ飛ばした。地面に叩き付けられて咳込む俺に迫る黒い影はシャキンシャキンとハサミの咬み合わせの音を聞かせながら向かってくる。

──俺、死ぬのか?
──ここでこの化け物に殺されるのか?
──こんな人間離れした化け物、俺なんかに相手出来ないのは分かりきってた。
──どうせ死ぬなら、もう一度天汝に逢いたいっ!!

    俺のそんな心の叫びなど関係なしに、黒い影は手を上げる。その手はの刃となっていた。はなから人間じゃないやつを相手にしていたことへの衝撃と、死を予感した状況にあの時のように俺は眼を閉じる。

「やめろ【鋏を抱く幸薄】シザーハンド
「ッ!?」

    突如聞こえてきた声にピタリと動きを止める黒い影。しかし、その忠告虚しく再び手を構え直すと横から空気砲のような真空の波動が黒い影を突き飛ばした。
    俺は上体を起こして、波動が飛んで来た方を見た。と同時に俺は言葉を失った。そこには彼女がいた。あの日、名前だけを名乗り何処へと姿を消した天汝 狩婬が立っていた。

「グゥ、ゥゥ────。アスモ────、ダイ……オス」
「その男は貴様の狙っている男じゃない。貴様の想い人を傷つけるような、男じゃねぇんだ。分かったらさっさと失せな」

    そう言って天汝は俺の前に立つ。そして、上半身を捻って振り返り右手を差し出して来た。俺はその手を取って立ち上がる。その一瞬で香る天汝の匂いに頭がボーっとした後クラクラする。そんな俺の肩をポンと叩いて天汝は口を開いた。

「また会ったな。貴様……、というのは無礼か?ミヤマ?と呼ばれていたな。ミヤマ、下がっていろ」
「下がっていろって、あいつどう見たって人じゃないぞ?」

    その俺の問いに「だから?」視線で返事をして、前に出てシザーハンドと呼んでいたそいつと向かい合った。
    すると、いきなり右手の指先からハサミの刃を飛ばして天汝を狙い撃ちにした。あんな営利なものを喰らえば、周辺で血を流して死んでいる警察と同じ末路を辿ってしまう。俺は不安を感じて天汝に声をかけようとしたその時────。

「ッ!?ウゥ~~~ッ!?」
「そうか……、としてオレに刃向かうってことか。いいだろう、望みどおり塵と還してやろう」

    シザーハンドの投げた刃はすべて、天汝の手前で灰となって地面にその残りカスだけを散らした。それを受け構えるシザーハンドに対して天汝は胸部を張り上げ、ホールデザインのメッシュトップスの下に着ているのがブラジャーとガーターベルトであることが分かるほどの輝度を持つ禍々しい光を放った。
    メッシュトップスの胸元に大きく開いたホール部分。胸の谷間上に拳程の穴が空き、体内から銀褐色に彩る魔剣を取り出した。

「あ……、くっ……、うぅっ……ぁ……」

    体内から魔剣がその全貌を露わにしようとする動作に合わせて、吐息を漏らす天汝を見ていた俺はだというのに、またしても熱く硬いモノを下腹部に感じていた。
    どうやら、天汝に再び出会ったことでその制御は見境なくなってしまったのか俺は、全貌が明らかになった魔剣を手にシザーハンドに立ち向かっていく天汝の揺れるセミロングの髪を見るだけでズキンっと胸奥が痛みを感じ、その場に崩れ込んだ。

「そらっ……。どうしたんだ?もうやる気なしか?」
「グッ……!?何故、あの男を庇う?」
「それはこっちの質問に答えたら教えてやるよ。貴様何故、あの男の命を狙う?」
「男は皆、だ!!だから、わたしが女を狙う男をすべて……殺す」
「そうかい。……ったく、ガイヤァルのヤツは何をしているのだ?こんなはぐれ者、さっさとしてやればいいものを」

    必死に走り回って斬りつけてくるシザーハンドの攻撃を花壇の水やりでもするように軽くいなし、反撃に掌で平手打ちをする。炸裂すると同時に波動を巻き起こして吹き飛ばし地面に手脚をついて倒れ込むシザーハンド。そして、天汝は魔剣を胸前に構えて漆黒の瘴気とともに冷気を纏わせて剣撃を放った。
    激しい爆風は物凄く冷たい風を巻き起こし、春を迎えている時期に感じることのない寒気を与えた。俺はその寒気によって我に返って飛び起きた。その時にはもうシザーハンドの姿はなく、天汝も魔剣を持っていなかった。

    まるで何事もなかったかのように立ち去ろうとする天汝は、俺にすれ違いざまに立ち止まり首をこちらに傾けて言った。

「危なかったな。ミヤマ、今日見たことだが……忘れろ」
「え?」
「それからオレのことも忘れろ。もう会うことはない……」

    そう言い残し歩き始める天汝。
    俺は咄嗟に振り返った。しかし、そこには天汝の姿がない。どうせこの場に居たって警察の応援が駆け付けて面倒な事情聴取に付き合わされるだけだ。俺は天汝が消えたであろう方向に走った。まだお礼も言えていないのにもう会うことはないなんて、そんなのあんまりだ。
    しばらくして、歩道橋を歩く天汝の後ろ姿を見つけた。俺は無我夢中に階段を駆け上がってその後ろ姿に手を伸ばして名前を呼んだ。

「天汝ッ!!」
「きゃっ!?な、なんですか?」
「あ……、その……」
(何だよ別人かよ)
「い、いや人違いでした」

    俺は苛立ちをおぼえながらその場から離れて再度天汝を探す。こうして天汝の探している間も身体は熱を持っていた。天汝に逢いたいと思うたびに下腹部の熱があがりメキメキとズボンの中には収まりきれないことを訴えかけてくる。
    邪な考えを振り切るように走ることに意識を集中してみるが、目的である天汝と話したいという思考に無理矢理興奮状態に戻される。俺はこれまでに出会って別れた女には感じ得なかった感覚に恐怖すら感じながらも、彼女を求めることを辞められなかった。

「いつまでオレを探す気だよ?」
「はっ!?」

    普段は立ち寄らない公園まで来た俺の耳に聞きたかった声が聞こえてきた。俺は躊躇いもなく振り向くと、天汝がそこには立っていた。毛先がダメージを受けたのを確認している仕草で興味なさそうに俺に質問してきた。
    俺は息を整えながら、二度も助けてくれたことのお礼を伝えた。すると、天汝は唖然とした表情で「それだけのために?」と口にしていた。命を救われたんだからそれくらい当然だろと思ったその時、またズキっとした感覚に胸を打たれ息が出来ずにその場に倒れそうになった。

「おい、大丈夫か?」
「うっ……、はぁ、はぁ、はァ…。ハァハァハァ────」

    倒れる俺を抱き抱えた天汝の胸に頬が触れたとき、ほのかに香っていた匂いがより濃く鼻にささったことで頭がジリジリと目覚まし時計のベルにでもなったのかという振動を受けて理性を破壊していった。

「大丈夫なのか?やっぱオレと居るとではキツいんだろう。オレはだから忘れろって言ったんだ……。このまま気を失ってくれさえすれば、2、3ヶ月で普通には戻るだろうさ……」

    天汝が何か言っているようだが俺には聞こえなかった。そんなことよりももう限界だ。俺は起き上がると、そのまま砂場に天汝を押し倒した。しているとしか思えないメッシュトップスを手で引きちぎって、ブラジャーに手をかける。
    すると、天汝は俺に馬乗りされている状況にもかかわらず上体を起こして跳ね除けた。地べたに尻もちをつく俺を今度は天汝の方から馬乗りになってきた。そして、胸ぐらを掴んで俺に何か言っている。

「おい。いいのか?オレとシたら、するぜ?それでもオレを抱きたいか?」

    そんなの決まっている。俺の身体をこんなにしておいて今更、忘れろだなんて不可能だ。
     俺は首を縦に振って、ズボンのチャックを開けた。

□■□■□■□■□

    結局、こうなった。

「早く、早く犯させてくれ」
「────。」

    そんなつもりなんて、こちとらっていうのに目の前の男は眼を充血させている。結果的にオレの怪異としての力がを呼び起こし、になるまで貪られる。

「あっ///……うっ♡にっ────ふぅ……///」
「天汝っ!天汝っ!天汝ァァァッ!!」

    必死にオレのためにつけた偽名を連呼しながら、乳房に顔を埋めてくる。腐ってもであるオレも性行為に転じると、身体の感度は人間の比ではないほどに敏感になってしまう。はしたなく、醜い愛撫に咽ぶ喘ぐ声が出てしまうことが不愉快でしかなかった。
    だというのに、身体はことを体感させるために牝であることを徹底して強要してくる。意志とは関係なく瘴気に当てられた男の手で強制絶頂無理矢理イカされる

「んん────っ!!」
「天汝の愛液……すごい……」

    義務的に身体が絶頂したことに男は興奮していた。すると、愛液を垂れ流しているオレの秘部に強引に指を三本押し入れてきた。反り返って腰が上がると乱暴に出し入れして愛撫してくる。こんなのただただ痛いだけの前戯だろうに、オレの身体はそれすらも反応を示していた。

「くわ……、あっ///────はぁ♡♡んっ、イッくッッッ♡♡」

    出したくもない愛で声を出して絶頂した。
    そして、すっかり子を成す準備が完了したオレの秘部にオレのことを思うあまり勃起を果たした肉棒を突き入れた。

「んあッ!?うぐぉ……、くっ……」
「じゃあ、犯すぞ」

    聞かされても大して嬉しもない宣戦布告をされ、ピストン運動を始めると男はものの10秒程度で射精した。別に人間相手にこれは早漏なほうではない。寧ろ、よく10秒も持ったほうだ。
    当然のことながら、オレの身体を貪ることになったヤツは例外なく1

「なぁ?こいつ……使ったらどう……だ?」
「ハァハァハァハァ……。そうだな、それ使えばもないからな」

    そんなことを気にして言ったわけじゃなかった。その道徳でいくとだ。ゴムを付けて直接ヒダに触れなければ、そう簡単に射精はしない。つまりはオレも少しは楽しみたいってやつだった。

    体位を変えてゴム越しに性を吐き捨てているのを感じる度に、甘い喘ぎ声が漏れる。それを聞いて更に興奮を高めていく男のそそり立った肉棒は射精した直前よりも硬くなってオレの腟内なかを小突いていた。
    そのにも飽きてくる。疲れたのかベンチに腰掛ける男は水分補給を始めた。人間は不便なもので、こういった身体の貪り合いにも水分が枯渇するようだ。
    そんなことはさておき、スイッチの入ったオレは義務的行為にもバリエーションを持たせるべく、休んでいる男の尚も火照っている肉棒を口で咥えこんだ。

「ジュろろろ………、ッぱぁ。どうだ?もうイきそうになるだろう?」
「うぐぉ!!……うっ……あぁぁ、────イ、く……っ」
「そうだ。さっさとイけ!!イって、もうオレのことなんか忘れろ」
「く、あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!??」

     人が来るかもしれない場所で、ヤッていることを男は完全に眼中に入れずにケダモノのような声をあげ、オレの後頭部を鷲掴みにして喉奥に亀頭を押し当ててぶっ壊れたホースのように吐精した。

━━ドップゥゥゥ────!!ビュクビュクビュク────、ビュルルル──ッッ!!!!

    遠慮というものを知らない男がコキ出した精液に窒息しながらも、ゴクゴクと喉越しを聴かせて飲み干していく。それを聴いて男は全身震わせてグイグイと更に喉奥から食道まで押し込んで追い吐精を浴びせてきた。

「天汝、飲んで……。いや、飲めッ!!」
「────グ、…………ンン────────ッ♡♡♡」

    オレのことを本気で殺そうとしている人間にだって出来ない芸当。それがこのふしだらな行為で出来ることは知っている。それでも、だらしない顔を晒しながら喉を鳴らすせいも相まって男の吐精は更に続いていった。

「グハァ!?────ハッ、ハッ、ハッ……。出し過ぎだ……、────っ」
「お、俺も驚いている。不思議と……まだ収まらないんだ……。俺、おかしくなったのか本当に?」
「はぁ、はぁ……。ほら、まだゴムは残ってるんだ……。ミヤマの……チンポ…………、萎えるまで……相手、してやっから……。さっさと続けろ…………」

    男の名前まで呼んで、ベンチにM字開脚で秘部の蓋を開けて誘う。すると、あっさりとゴムを装着出来るサイズの肉棒を挿入れて欲望を満たすべくピストン運動を再開していった。耳元で変な条件までつけてきた。
    これから使用済みとなった精液入りゴムをガーターベルトに括り付けて性行為を続けろと要求してきた。オレは早くこの時間が終わってくれるならそれでいいと要求を飲むことにした。

━ 3時間後 ━   

「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ!!どんだけ続けんだよ……?もう、ゴム……なくなってんだぞ?」
「ハァ♡ハァ♡ハァ♡うるせぇ!!黙って腰振れっ!!」

    袋の中に入っていたゴムを二箱すべて空けて、性行為は最初と同様にゴムなしで行っていた。呆れたを通り越して見上げたもので、この男の持ち主だったらしく、とっくに身体はキャパオーバーを起こしているだろうにオレを支配したい一心だけで犯す手を止めずにいた。
    義務的に喘ぐのも疲れてきたというのに、最初の方に出した精液が空気に溶けて異臭を放つ方が気になっているオレとは裏腹に白目になってまで腰振りを休めずに続けていた。

「で、射精るっ!?」
「もうとっくに空イキしかしてねぇだろ。なぁ、もう懲りただろ……」
「いや、まだだッ!!天汝が俺から離れないって言うまで続ける。犯すの……やめ、ない。だから、お前ももっと締めつけ強くしろ!!オラァ!!」

    そう言って男はオレの腰を骨を砕く勢いでぶん殴ってきた。これがこの男の本性。不安になる感覚と快感に染まる感覚がと認識してしまっているため、頭ではそれが別のものと理解していてもその身体にがそうさせずに、暴力には暴力で勝つしかないと誤った学習をしたこの男の中でのとなっていたのだ。

「どうでもいいけど、暴力を女に振るうのは最低だぜ」
「あ?えっ────。」

    このままでは埒が明かないために術をかけることにした。記憶に干渉する術でオレがを改変することにした。内容としては至って単純なもので、性行為時に暴力に訴えるきっかけとなったものを探り、そのきっかけを別のものに転じさせる。

「あれ?────俺?って、何だこれ!?」
「うふふ♡お楽しみの最中におネンネとは、いい身分だな♡」
「ひっ!?」

    術は成功した。男の過去を覗きみたところ、昔父親が浮気癖が酷く何度も再婚してくなかで、実母からもその後の義母からも愛されず虐待を受けていたらしい。その極めつけは自分を気絶寸前までに追い込んで、目の前で実父と性行為を繰り広げていた光景が彼にさせてしまった。
    そのをただのみに対象を移し替え、異性との肌の重ねる行為を忌み嫌う男へと記憶を書き換えたところにトドメを刺すようにオレも姿を晒して、まだ瘴気に当てられて人外の肉棒となっている男を騎乗位で犯している状況を見せつけた。

「はっ!?やめっ!?」
「ふんっ♡どうして止める必要がある?ほぉら♡ミヤマのココ……///今にも果てそうだぞ♡♡」
「うっ!?射精ちゃう!!やめてぇぇ!!!!」
「何だよ♡随分と汐らしい反応するんだなこっちのミヤマは♡そら、イけッ!イけッ!」

    疲れているオレの演技でも男が果てるには充分過ぎた。

━━ドッピュッ!!ビュルビュル────、ドバァァァァ!!!!

「ン、ホッ♡♡♡♡」

    もう射精ないと思っていったところを、予想外にも熱く──濃い精液が子宮を満たした。それに驚いて声が淫靡な吐息として漏れ出てしまった。これは本物の声だったが、そんなこと怪異であるオレには関係のないことであった。

「はぁ~~、ありがとうなミヤマ。お前の精気は上物だった。言っておくが、オレと交ぐ合った身体は呪われている。治したかったら教会にでも行ってみるんだな?」
「な、なんでそんなこと……?それに、俺の名前なんで知っているんだよ?……このめッッ!!!!」

    さっきまでの惨状が辺り一面に広がっているが、今の男に取ってこれはとして補完されているため当然の反応と言える。加えて、オレは本来の姿────即ち【残念美形の魔将】アスモダイオスとしての姿を晒している。
    頭部に角が、両肩の後ろに羽根が生えている。極めつけに先の尖った尻尾なんてあれば誰だって悪魔だと表現するしかないだろう。男は晒している下半身に色んな体液がこびりついていることもお構いなしに落ちているズボンを履いて全力疾走でその場から消えていった。

□■□■□■□■□

    アスモダイオスは闇のオーラで竜巻を作り出して、公園を覆った。
    しばらくして竜巻が止むと、来た当初と同じ状態にも戻した。天汝 狩婬の姿に戻ったと同時に手に紫色の氷塊を作り背後に振り向きざま放った。氷が砕け落ちると放った方向の暗闇の中から美麗な男がニコッと笑顔を向けてやってきた。

【偽りの歌姫】ルンペイル、何の用だ?」
「別に♪アスモダイオスは相変わらずに興じているなぁと思ってさ?」
「────チッ!」

    氷塊で作り出した剣でルンペイルを斬りつけた。しかし、ルンペイルがつま先で地面をトントンとタップする振動だけで氷塊の剣は高音に晒されたかのように一瞬で溶け落ちてしまった。
    そのままルンペイルはブランコに乗って、無邪気に漕ぎ出してアスモダイオスの方を向いて口を開いてこれからのことを尋ねてきた。

「で、どうするの?あれだけきみと重ね合ってしまっては彼────、だと思うけど?」
「…………さぁな」
「さぁなって酷いなぁ♪せいで、彼。間違いなくはぐれ者として覚醒するよ」
「んなこと言われても、オレには関係ねぇ。オレは怪異にしたいと思った奴を怪異に堕とす。それは貴様ら他のインフェクターとて同じだろ?」
「そうだね♪」

    陽気な返答をしてブランコから飛び降りて、とてもブランコからでは飛び移れないジャングルジムの頂上に移って帽子を被り具合を調整しながら振り返って笑った。
    アスモダイオスはそんな何処かの感じを出しているルンペイルのことが苦手だった。そう考えながら自分の服装を見て溜め息をつくと、参考にもならないだろうと期待薄いままルンペイルに聞いてみることにした。

「なぁ。服装を変えれば、少しはまともになったりするか?」
「どうしたの急に?」
「いや、別に……貴様の手間は増えんが、オレもはぐれ者を逃したばかりでな。このまま、さっきの男がはぐれ者になるとガイヤァルの仕事が増えてしまうと思ってだな……」

    仲間の仕事を思っての相談だと目を合わせずにそう言うアスモダイオスに腹を抱えて笑うルンペイル。正直にいってまたしても手が先に出てしまいそうであったが、何とか耐えて助言を待つことにした。すると、笑い終えた後のルンペイルは「試してみる価値はあると思う」と伝えて音符を撒き散らして姿を消した。

    その言葉を聞いて服装から妖艶さを消して、意志とは反した怪異の誕生を阻止するために今度服を選ぶことを頭に入れつつ、自分の不始末となるかもしれない男の監視を続けることにしたのであった。
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