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記者の記録

霧包む街の中で

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記者記録その1

「霧が濃すぎませんか?この街、濃霧に覆われるなんて予報なかったっスよね?」
「いいから、前の車を追え」

    遂に見つけた。怪奇現象や神隠しを取り扱っている組織がこの国にはあると聞いて、都市伝説スクープを上げ続けてきた苦労がようやく実りそうだ。我々は今、この霧の濃い街に向かう一台の車を追っていた。
    車は特段霧がかった場所で見失ってしまい、仕方なく自分達の足で乗っていた人間と思しき人を探すことにした。時間にして十分弱といったところか。建物の軒道から二人の女が何やら話し合っている様子を確認出来た我々はその特徴と話している内容をここに記しておく。

「ったく。手間のかかるもん掴まれたぜ。おい、アブノーマル?臨床出来るかこれ?」
「嗚呼、トレード様ぁ♡急かさないでくださいましぃ♡オォホォォ♡今、ビンビンこのカラダに伝わっておりますゥ~、ソワカソワカ……♡」

    地面に寝そべる修道女。いや尼僧がビクビクと釣り上げられた魚のように身体を痙攣させている。名をアブノーマルと呼ばれているが、恐らくはコードネームか何かだろう。
    しかし、その名に恥じぬ変態ぶりを白昼堂々行なっているところ見るに、我々が入手した噂観測課というところはとんでもない人間が所属している組織のようだ。その証拠にそれを見下ろしているトレードと呼ばれている女は、肥大化しているのか着太りを起こしているのか。後者の場合であってもことに変わりのないのだが、アニメや漫画の世界でしか見たことのない体つきをしているようにここからでは見える。

「あっっ♡ハァァ────ッ♡♡♡」
「バカッ!?声でけぇってのっっ!!」
「はぁぅ、はぁ……ぅ、はぁ。もし訳ありません。ですが、ばっちりと居所は掴めましたわよォ?」

    女豹のように身体をクビレさせて起き上がる尼僧を観ていたら、気分がおかしくなった。まるで目の前に居て手を握られている距離感なのではないのかと思えるくらい、芳香の効いた匂いが脳内を支配して来るような。それでいて、初めて見た筈の尼僧を前に昂るような熱いものが────。

「ナカにある……と言った顔をしておりますねぇぇ♡♡」
「うわあぁ!!??」

    気が付いたら本当に目の前に居た。それどころか思っていたとおり手を握られ、目立たなくとも柔らかく滑らかで艶っぽい胸に手を押し込むように抱き込んでいた。慌てて手を引き戻すと尼僧は自身の脇の方へ直前に引き込もうとしていたため、ピアノの鍵盤を指でなぞるように胸に触れてしまう。

「アァン♡いけませんわよ、幾ら拙僧が節操なしでふしだらな女に見えたからってそんな乱暴にしては……♡」
「いや、これは不可抗力だ!というより貴女の方から私の手を胸に寄せたのではありませんか?」
「あら?本当にそうでしたか?嗚呼……拙僧はまた罪を犯してしまったのですね?……ソワカソワカ」

    自身の胸に両手をうずくめて葬儀を明けの未亡人のような、哀愁を漂わせて上目遣いでこちらを見てきた。何故か、謝らなければならない気がしたので頭を下げて謝罪をした。

「嗚呼……いいのですっ!!これも一重に、拙僧が抑えきれない色欲を空気中にばら蒔いてしまっていることがいけないのですから……」

    肩に猫のように軽く添えられた手。その法衣の袖から香る甘い桃と刺し身のようにほのかに匂う肉の香りが理性を壊していきそうなほどに、蠱惑的で危険なものを感じていた。そう考えていたら、考えるよりも手が先に一度離れた尼僧の胸へと伸びていた。

「おっと、いけねぇぜ記者さんよ?」
「ふ、ぇぇ!?はっ!?」

    トレードに腕を掴まれて我に返る。何をしていたのかはっきりしないが、とんでもないことをしようとしていたのではないかと恐くなり後ろに下がると同行者にぶつかってしまった。そして、腰を抜かしている我々に向けて屈強な身体をしたトレードが言った。

「死にたくなきゃ、失せな……」
「は、はひぃぃ────っ!!」

    同行者は半泣きの状態で車へ駆け出して、置いて行かれる訳もなく着いて行き退散することとした。去り際に霧の濃い中、私にはハッキリと見えた。尼僧が法衣の首元を肌けさせて胸の谷間が見えないくらいの位置で止めて口を動かしていたのを────。

━━欲しくなったら、またいつでも来てください♡

    確かにそう言っているような気がした。

    どうやら、我々はとんでもないものを知ろうとしてしまったのかもしれない。同行者はこの件で記者を辞めると言い出している始末だ。かくいう私もあの時の尼僧に当てられた匂いのせいか、度々夢に出て来たはまたアレを味わいたい。その続きを見てみたいと駆られることがあるほどに恐怖を覚えるものであった。

    これにて、我々の班は噂観測課の調査を断念することとする。

✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳

━ 記者達を追い返した後 ━

「何やってんだこの阿呆がッ!!あれじゃ返ってあのおっさんがてめぇのこと探し回るかもしんねぇだろっ!!」
「嗚呼♡そうなったら、プライベートとして存分に愉しませてもらいますわ……嗚呼♡ソワカソワカァ♡想像しただけで昇天しそうですわァァァ!!!!」
「駄目だこりゃあ……。おい、とりあえず【切り裂きジャック】の居場所まで行って、さっさと終わらせてこいよ。あたいは空美のやつと例の魔法少女を追ってて忙しんだ」

    以上が、記者対策トレード&アブノーマルの一部始終でした。
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