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ハズレな話

パーティー

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 空き地に立つ、二人の小さな影。
 ガキ大将のシュウヘイと、そのシュウヘイに子どもだと思われている、小さき怪異使い燈火。両者、頬に伝う風を感じ目を閉じる。手には新聞紙を丸めた、紙刀が握られていた。
 からっ風が吹き抜ける、その刹那を見切り同時に正面に向かって走り抜け、紙刀で刺し違えた。

「────っ、はいっ!!」
「もらったぁ!!」

 お互いに背を向け合うなか、不安そうな目でイスケとコノミが見守っていた。先に姿勢を正したのは、燈火であった。遅れてシュウヘイが紙刀を振り、付いた血を払う真似事をして腰に納めた。

「────。」
「…………っ、────やられた……です。───────は、い……」

 時間差を空けて、燈火は顎を地面につける形で伸びて倒れた。
 イスケとコノミが、決闘を終えたシュウヘイのもとへ駆け寄り、勝利を分かち合った。その近くで、絶命した虫のようにまるで動かない燈火がいた。すると、燈火のもとへ近寄る二人組。呆れたことをため息に乗せて、タオルを頭にかけて口を開いた。

「お前、子ども相手に何やってんだよ」
「えぇ?仕方ねぇですよ……。これもご近所付き合いというやつですから……はい」
「日本というのは、独特な文化があるとは伺っておりましたが、まさかこれ程とは……」

 辰上がくれたタオルで顔を拭き、日本をよく知らないラウの質問にサムズアップで答えた。しかし、そんな訳あるかとすぐに辰上が訂正に入り、ラウに燈火がやっていることは変わっているので、真に受けないように説明した。

 この空き地には、燈火が色々な人に声をかけて招集していたのであった。シュウヘイ達近所の子ども達と噂観測課の人達を呼び、以前作った手作り焼き肉のタレを使った焼肉パーティーを開くことにしたのだ。会場にはぞろぞろと、メンバーが集まってくる。

「おや?本編もこのスピンオフでも、出番が音沙汰なしになっている真さんじゃないですか」
「言ってくれるねカヤコちゃん♪俺は届いた招待には答える主義なのよ」

 メタい発言はさておき、席に着いたみのる まことにタッパーの米を渡す。それから、辰上、ラウ、麗由へと配り残りの参加者を待っていた。
 怪異調査で来れない面子を除いて、残り七席。それを、一人先に白米だけ頬張りながら、世間話に参加する燈火。終始、なんで食うんだよと顔をして燈火を見る辰上であったが、そうこうしているうちに怒号のような声が聞こえてきた。

「なぁぜ、貴様のような天才ぶっている道化がマイハニーの招待を受けているのだッ!?」
「煩いな君は?近所迷惑を考えられないのか?それでよく、スクープやスキャンダルに合わないな天才漫画家?」
「ま、まぁ落ち着けって憐都れんと寄凪よりなは、その漫画のファンなんだからさ」

 フンっとそっぽを向いて、割り当てられた席に座る憐都。寄凪は、家小路いえのこおじに「パパがすみません」とお辞儀をしてから、憐都の隣に座った。
 憐都をなだめたトレードであったが、席に着いた瞬間に目が死んでいた。真正面にいた燈火も、嫌いな奴を睨む目でトレードを見ていた。ラウが耳打ちで辰上に聞き、二人が犬猿の仲であることを知る。しかし、そのトレードを主催者である燈火が、何故呼んだのかという疑問が残るのであった。
 続けて、仕事終わりのディフィートとアブノーマル。総司がやって来てきて、招待したメンバー全員が揃った。焼き肉パーティーを始めるため、クーラーボックスからそれぞれのテーブルに肉や野菜を置き開宴した。

 憐都と寄凪は、シュウヘイ達と同じテーブルに座り食事を取っていた。寄凪は、燈火の作った焼き肉のタレに感動していた。その隣で、内容物を探し当てるように肉を食べる憐都の姿があった。

「これは……リンゴだな。それに、玉ねぎもすりおろしたものと一緒に煮込んで作った下地……。燈火さん、中々研究家のようだね」
「んもう、パパ!!せっかく、お呼ばれしたんだから、もっと普通に食べようよ?あと……、食べた後に家小路さんに────」
「サインは貰うなっ!!僕は認めないぞ、寄凪があんな奴の作品を好きでいること……」

 そうは言っても、家にあった寄凪がしまい忘れた家小路の漫画を読んで、感心していたことを知っていた寄凪は、そこをつつきサインだけは貰うと胸を張っていた。その様子を見ていたコノミが、シュウヘイのイスケに向かって寄凪みたく威張った態度をみせた。
 イスケはヘコヘコと、焼けた肉をコノミの皿に乗せていくなか、シュウヘイは美味しいご飯を前に無我夢中であった。

「マイハニーの作ったこのタレは、世界に通じるものっっだぁっっっ!!!!」
「そ、そうですね……。はい、こちら龍生様……程良く焼けております。間違いなく、ベストな焼き上がりかと思われます」
「え?あ、ありがとう……。麗由さん、あとでデザートもみんなに食べてもらおう」
「はいっ♪」
「良いものでは────ないかっ!!お2人は、間違いなく最っ高の夫婦にッッッ!!なぁぁぁるで、あろうっ!!!!…………まぁ、わたしとマイハニーには勝てんがな」

 終始、家小路のテンションに翻弄されながらも、焼き肉を堪能する辰上。しかし、その表情はぎこちない。理由は、家小路の煩い喋りでも、麗由の過剰なまでの配膳ではなく、隣のテーブルにあった。
 お互いに死んだ目のまま、焼き台に肉野菜を乗せてトングで遊ばせていた。他のテーブルでは、少なくとも味の感想を述べる程度には、話題が尽きない賑わいを見せているというのに、主催者とトレードは無言を貫き通していた。

「よし、焼けたな」
「ああ!それは私が育てていた肉ですよ!!」
「っるせぇよ!こういうのは、早い者勝ちだろ。アーン……」

 絶望の表情で、最高の焼き加減まで焼き台に置いておいた肉が、自作の最高のタレを付けた状態でトレードの口に溶けていく様を、見届けていた。この世の終わりでも見ているような、青ざめた顔。しかし、すぐに目に正気を宿しトレードの皿に乗っていた野菜達に狙いを定め、素手で掴んで口に頬張った。

「て、てめぇ!?皿に乗ってるやつは、反則だろうが!!つか、素手って最低だな!?」
「んぐんぐ……、モグモグ……、ゴクッ……。はぁ───、食いもんの恨みは恐ろしんですよ?……はい?あ、これも貰ってやるです」

 それは、トレードが木製のジョッキに注いでおいたビールだった。掻き込むように飲み干して、ゲップまでしてみせた燈火。
 負けじと、トレードもリンゴジュースを盗み飲み、焼き台に置いた食材の争奪戦を始めた。最終的に、胸ぐらを掴み合って食べるのを妨害する乱闘待ったなしな状態に発展していた。

 そんな、波乱な場面の奥に悲壮感が漂っているテーブルがあった。総司は一人、その状況に耐えながら食事をしていた。嫌な顔をしつつ、目の前でやっかみ酒をしている二人の女を見つめていた。

「うあぁぁ~~、総司きゅん……まだぁ?まだ、あたしと再婚してくれないのぉ?」
「嗚呼……、拙僧。修道女に尼僧、和洋折衷な見た目故。時折、自分がどの宗派なのか分からなくなり、今宵もお肉を食べていいものなのか…………、ソワカソワカ」
「ひっぐっ!?アブノーマル、今夜は付き合えよな。あたしとお前は、お互い辛い人生を歩んできたんだからよ……うぅぅぅ…………」
「ほら、焼けたぞ。ディフィートもアブノーマルも、自ら参加しに来たんだから。その……、今日くらいは楽しまないか……?」

 総司の一言が、耳に入っていない二人は肩を組んで酒をかっくらった。普段は、嫌悪感全開でアブノーマルをボコボコにしているディフィートが、癒しの抱き枕を抱きしめるようにアブノーマルに抱きついた。
 その異様な光景に、総司は肝が冷えていた。アブノーマルは、皿に置かれた肉を見つめ怯えていたが、自分は宗教の掟に背いていないと首を振ってビクビクしながら、タレを付けて食べた。途端に、身を震わせて燈火の美味しいタレの味を知ってしまったことに、禁じられた行為に手を染めたと頬を紅潮させる。

「どうしましょう?ディフィート様ぁぁ?拙僧は新世界の扉を開けてしまいましたぁ……ソワカソワカ」
「良いんだよ、お前はそれで♪あたしも本当は、お前の体からしてる桃みたいな匂い……、うへへっ♪大好きなんだ♪」
「嗚呼♡いけません、総司様がっ、見てらっしゃいますぅぅ♡」
「────。」
(………………帰りたいな……)

 酒癖悪いというものがあるが、普段仲の悪い二人が酔うと仲が良くなるというケースは、案外あるらしい。
 ディフィートは枕に顔を埋めるように、アブノーマルに擦り寄っていた。禁じ手を二つも染めてしまったと、アブノーマルは罪悪感を持ちつつもディフィートの要求に応えるのであった。

 最早、酒池肉林と不協和音が混在した焼き肉パーティーとなったことに、冷静に気付いていたのは辰上しか居ないのであった。そんな心情も知らずに、立ち上がった辰上にスルッと手が伸びる。

「龍生様ぁ♪わたくし、不覚ながらもお酒が廻ってきてしまいましたぁ♪龍生様も、もっとお飲みになってくださぁい?」
「り、麗由さん?お、おい燈火?この酒ってそんなにアルコール高いのか?」

 しかし、その答えは帰ってこない。
 燈火はトレードとの争奪戦が佳境へと向かい、開けた空き地の方で怪異を展開して武器を構えていた。燈火の二丁拳銃が容赦なく発砲され、ロッドで弾いたと同時に鎌へ変形させて斬りかかった。
 幸い、真っ暗で見えていないのか。それとも、泥酔しているのか。家小路は、麗由とともに酒を酌み交わす。憐都は、焼き台にものを乗せていないからとその場で眠りに着き、寄凪とシュウヘイ達は燈火が《ご自由にどうぞ》と置いておいた、線香花火を向かいの公園で楽しんでいた。

「空砲使ってるんですよ、こっちはぁ?おめぇはなんで、本物の刃使ってるんですか?そんなすぐ頭に血が上るほど、胸にしか栄養行ってねぇんですか?はいぃ?」
「てんめぇのその口を縫ってやる為に、メス代わりに使ってんだよ、オラァァァ!!次いでに、てめぇのそのチビも治してやるよっ!!」

 ポンポンっと、ショボイ音しか出ない銃を使っていたために、銃声がない燈火に対して、トレードの鎌は本当に刃が着いている。いつも、怪異討伐に使われている鎌だった。
 しかし、よく見れば鎌を振ってすらなく、お互いに罵倒し合っているだけの不毛な戦いをしていた。これなら、放っておいてもいいかと辰上は麗由の拘束から逃れると、飲酒もせず箸の使い方に苦戦を強いられていたラウに声をかけた。そして、寄凪とシュウヘイ達に家に帰るように言って、送り届けるのであった。

 その日、近隣の通報で騒ぎを起こしたものがいると警察が出動した。呆れながら、茅野とラットは報道内容を操作し、噂観測課による騒ぎではなかったことにした。しかし、得意のカバーストーリーにも、限度はある。その限界によって、燈火は面会室に座っていた。

「なぁぜ、わたし以外帰ってしまったところにっ!!警察が来てしまったのだっっ!?完全に濡れ衣ではないかぁぁぁぁっっ!!!!」
「あ~~~、うるせぇですぅぅぅ…………はい。仕方ないんですよ、家小路さんだけが起きてくれなかったのですから……。まさか、そのせいで職質受けて連行されているとは思いませんでしたが…………」
(ごめんなさい、家小路さん。私達が、これからも怪異調査をするためにも、今回は肩代わりしてください……はい)

 真相は家小路には伝えずに、面会を終えて釈放手続きを済ませる燈火。そのまま怪異調査に向かい、本日も世はなんてことも無しな一日を終えた。
 その日の夜。家小路の大好物を取り揃えた、フルコースで持て成して帳消しにしてもらうのであった。
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