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メインストーリーな話

ルーティン

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「チィ!!キリがないな」
「プロメテウスを水砂刻さん達が倒してくれるまでの辛抱なんだな……これ」

 天空をディフィート、地上を夏蝶火と総司。迫り来る無限の軍勢と、戦いを続けていた。
 総司が完全に囲まれた状況を見て、ディフィートが急降下して人形兵に牽制をかけつつ、総司にアンカーを伸ばして救出する。群がる人形兵が真正面になる場所で、総司を降ろすと同時に空高く叫ぶディフィート。

「ドゥームズデイッ!!総司きゅんを守ってあげて!!あたしは、今来たハエ退治に行ってくるからッッ!!!!」

 電撃波を発生させて飛翔するディフィートの横を、愛剣ドゥームズデイが通過する。そして、総司の手元に吸い寄せられるように向かう。総司は自身の刀とドゥームズデイを手に持ち、二刀流にて人形兵を砕く。

「二刀流か……、悪くない。神木原 総司────、推して参る!!!!」

 鬼神の如き進撃で、目の前の一騎当千に値する数を斬り伏せていく総司。それを見て、自分も負けていられないと夏蝶火も両手に毒素を蓄えて、地面に着けた。

「ヴェノムジャマー。触れれば、金ですらも腐敗させる代物に調合したんだなぁ……これぇ!!」

 腐敗毒の水溜まりを踏んだ人形兵は、次の一歩を踏み出す足がすでに腐敗してその場に崩れていった。広がり続ける水溜まりを人形兵は、腐敗していく仲間を足場に向かってくる。しかし、それらも頭部を撃ち抜かれて水溜まりに沈む。
 夏蝶火が指した指先から、毒液が弾丸となって人形兵を貫く。バイオスナイプと名付けた毒素持つ弾丸は、鋼鉄をも即座に溶かす強酸性毒となり撃ち出された。

「ここまで来て、脳毒の出し惜しみはしないんだな、これ。私が毒の魔女と呼ばれた実力。存分に味わうんだなぁ────これぇぇぇ♪」

 メガネを投げ捨て、狂ったように笑いながら毒弾を撃ちまくる。返り血代わりに浴びる自身の毒。しかし、それはスポンジに吸われる水分のように、夏蝶火の体内へと戻っていく。脳が異常指令で吐き出す毒素が、夏蝶火は怪異の力で自由自在に操れる。
 その恐るべきところは、脳が作り出す毒は合成次第ではこの世界に自然発生する、どの毒よりも凶悪で生命だけに留まらず、物質すらも破壊し尽くす可能性を秘めているということだ。

「さぁさぁ♪チビ助どもが、ケリつけるのが先か────。私らを人類・怪異共々に全滅させるのが先か────。白黒つけるんだなぁこれ♪劇終の刺激臭で、劇的な終末を迎えるんだなぁぁぁ!!!!これぇぇぇ!!!!」

 最早、研究好きで燈火を愛らしく思っていた理系女子の面影はない。そこにあるのは、ただただ広がるCHAOS混沌を謳歌する悪魔の姿であった。毒池と化した戦地の裏側では、総司に斬り捨てられた死屍累々が連なっていた。

 それでも、尽きぬ人形兵は天からも攻めてくる。それに立ち向かうは、最強の怪異使いディフィート。迫り来る隊列にシールドバスターを向け、チャージを開始する。すると、愛棒たるラグナロッカーがディフィートに光信号で通信を試みてきた。

「何?新必殺の名前?バスターなんだから、ラグナバスターツヴァイで良いだろ?」
『────。────。』
「えぇ?マジか、それ?もしかしてだけど……あたしのSense趣味趣向に合わせてる……?ま、いっか!!」

 気を取り直して構え直すと、シールドバスターの銃口が紫色と緑色の光を零しながら、臨界点を迎える。


──喰らえッッ!!奇々怪々キャノン───ッッ!!!!


 暗黒の球体が放たれ、人形兵の隊列。その中心部に飛んでいき、静かな爆発を見せた。瞬間、風が吹き荒れ球体に向かって吸い寄せられていく人形兵。そのブラックホールが発生したのかと、目を疑う光景をディフィートは見ていなかった。それよりも、愛棒がつけてくれた技名が絶妙にダサいことに、額に汗を流して我が事のように恥ずかしがっていた。
 今度はもうちょっとマシな名前を考えるよう、軽く反省を終えるとまだ全滅した訳ではない群れの中へと飛び込んでいくのであった。


 □■□■□■□■□


 西門内部。
 茅野とラットが、対ルーティン用に開発したゲームプログラム。最初の種目は、爆弾を配置して敵を撃破するシュミレーションゲーム。茅野チームからはラット、ルーティンチームからはフロンティアがステージに立ち、ゲームがスタートした。
 キャラコントロールが要求されるのが、通常のこのゲーム。しかし、プレイヤーはキャラクターを操作するのではなく、ナビゲートして敵を見つけて撃破する形に変更されていた。茅野はラットに、フロンティアの位置を伝える。ルーティンもまた、ラットの武装内容をフロンティアに共有し、両者が対峙する。

「なるほど。武器はゲーム内で与えられたもののみ、使用出来るのですね」
「そういうことや。ワシは近接武器と共通武装の爆弾のみや」

 ラットに対して、フロンティアの武装は両手で持って扱うマシンガン、ヴォルフ。大振りで構え、連射して眼前を蜂の巣に変えていく。ラットは堪らず物陰に身を潜め、ナイフを投げモードに切り替える。投擲は壁に向けて行ない、反射してフロンティアへと伸びた。
 フロンティアは銃撃を止めて、華麗に躱す。通り抜けたナイフは更に壁に当たり、フロンティアの方へまたしても戻ってきた。それも同じように回避するが、それこそがラットの狙いだった。空かさず、爆弾を帰ってくるナイフの通過地点目掛けて投げる。見事、ナイフに爆弾がぶつかりフロンティアの至近距離で、大爆発を起こした。
 爆風が徐々に晴れるなか、ラットはフロンティアの姿を確認出来ないでいた。どこに行ったのかと、周辺を見渡す背中に何かが当たる感覚があった。

「面白い作戦でした。ですが、わたしの方が1枚上手だったようですね」
「なぁ!?しまっ────」

 ラットの爆発と同時に、フロンティアが直前でガードに使用したヴォルフ。その残骸が地面に転がった。爆発の衝撃を利用して、一番の端の壁まで飛び蹴り上げて一気にラットの背後へ回った、フロンティアの逆転勝ちで一種目は終了。

 続いて、レースゲーム。走者は虎狼とフロンティア。昔は、ゲーセン通いだったと自称していた虎狼であったが、とても初見のステージを走っているとは思えない、フロンティアの先読みドライブテクニックに圧倒されてしまった。
 そのまま三種目、ジャックポット早出しもフロンティアが────、その後のキャッチャーゲームもフロンティアが────、ルーティンのバックアップもありながらも、ラット達が手も足も出ない戦績を見せ続けた。

「お姉ちゃん達、弱すぎない?お願いだから、1回くらいは勝ってよ」
「…………。」
(おかしい。この子は、ゲームが未練で亡くなった少年の遺体を使っている。もしかして……?)
「ん?何?プログラムの書き換え?しかも、ゲームステージのみ?そうか。お姉ちゃん程度のHack能力では、その程度の軌道変更しか出来ないか。もう、3つしか残ってないもんねゲーム……」

 先取点で決着の着く試合であれば、とっくに負けている。そう、この戦いはあくまでも、のために用意した最後の切り札オリジナルゲームなのだから。茅野は、最後に残ったゲームに全てをかけて書き換えを行なう。
 それを見て察したラットと虎狼は、出来る限りの時間稼ぎをするべくフロンティアへと立ち向かっていくのであった。


 ✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳


 ルーティン。それは、アンリードとして作戦ルートを導き出すために付けられた、仮の名前でしかない。

『いいか、よく聴け■■■。お前は戦場へは行かない。他の子とは違う。必ず私が行かなくて済むようにする。だからここに隠れていなさい』

 ルーティンがアクセス出来るネットワーク。それは、人智の及んだ範囲であるサイバーネットだけではなかった。地表や木々といった、自然物が記憶した断片的なものですらも、記憶データとして抜き出しが可能だった。
 それ故に、ルーティンはすべてのアンリードの前世の記憶を閲覧済みであった。自分自身の出自さえも、彼にとっては包み隠すことの出来ない、プロテクトのかかっていないファイルサーバーを開くのと、何ら変わらない所作でしかなかった。

 ルーティンの基となった少年。彼は、戦争終結後の片田舎に住んでいた。名折れした田舎貴族の生まれで、不自由はあれど戦争で住む場所を失った孤児達よりは幾分、まともな暮らしと生活が出来ていた。
 そんな彼は、屋敷を出て近くの町へ遊びに行っていた。そこでは、子ども達が新しく普及していたアーケードゲームというものに、時間を忘れて夢中になっていた。
 復興作業中の町で、お金を取ることなく人々の娯楽としてゲームにみんな熱中していた。少年は、そのゲームを通じて子ども達と友達になった。そして、その町で誰にも負けないプレイヤーとなり、遠方からゲームをしに来た人達と対戦をして、勝ち続けた。
 良い事は続くとは、よく言ったものだ。少年の活躍を聞き付けた出資者が、ゲームの世界大会を開こうとしていた。その参加選手に少年はスカウトの声がかかったのだった。

 しかし、幸運は長くは続かなかった。それどころか、また争いが始まろうとしていた。戦争ではない、紛争と呼ばれる戦いに子どもが新兵として駆り出された。当然、戦争孤児が多く、出兵して戦死しても後処理に困らない町は優先して、目をつけられた。少年も例外ではなかった。貴族という肩書きなど、ほとんど意味を成さなかった。

 父親に言われて隠れていたが、それも何日目になるだろう。少年は閉じこもっていた部屋の食糧が底つき、遂に部屋の外へ出ることにした。誰もいないのか、静かな屋敷内。
 父親の姿はおろか、使用人とも顔合わせをしない一人きりの空間。少年は、戸棚に閉まってあったお菓子でお腹を満たし、町へと降りた。
 町へ着いた少年の目に飛び込んできたのは、衝撃的なものであった。それが何を物語っていたのかは、戦争を目の当たりにしていなかった少年にも理解出来るものであった。

 出兵に無理矢理、連れ出される子ども。それを軍から取り返そうと、抵抗した町民の射殺死体が町中に転がっていた。それが分かるように、抱き抱えられた子どもに当たってしまった遺体をそのまま、留置されていた。
 戦争が終わり、平和な時代がやって来ると信じていた。そんな夢現が、砕かれた瞬間でもあった。少年は、朧気な目でアーケードゲームの前に立ち、画面に手を伸ばした。もうここに、彼とともにゲームをする人間はいない。残っていたのは、ここで時間も苦悩も忘れて遊んでいたことを残した、アーケードゲーム機だけ。

 少年は天井を見上げた。そこには、目の前の現実を直視出来なくて自害しようと、誰かが用意した首吊り台があった。少年は、他に生きている町民が居ないことを確認して、自らも命を絶った。


 ✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳


「夢はさ……、人間であることを突きつける。正に、でしかないんだよ。だからボクは……、そんなリアルになんて縋らない。そして、今ある現実バグを終わらせる。そのための在りもしなかった選択肢アンディレフリード。それがボク達だ」

 この世界は欺瞞で満ち溢れている。
 ルーティンがベースとなった少年から学んだことは、夢を見ることの残虐性だった。兵器を持ち、力を誇示するための争い。それに巻き込まれていく不平等。
 それらがのさばっているこの世界では、自分を作るために犠牲となった少年のような存在が増え続ける。回避するには、完全なる平等が必要だ。それが、今の世界では実現出来ないことは、怪異が証明していた。

「キミ達人間の脆弱さが──。貧富や身分の差が──。怪異等という偶像を抱かせ崇拝させる、排他的文明文化を築いたのだ」

 ルーティンの演説とともに、ゲームの決着が着く。

 いよいよ、最後のゲームのみとなった。種目は単純明快、格闘ゲーム。フロンティア二体とラット、虎狼のタッグマッチで試合を行ない、最後に立っていた方の勝ち。これまでのゲームとは違い、戦闘不能になるまで攻撃を行うことも可能。すなわち、他のアンリードと怪異使いの戦い同様に、切った張ったのやり取りを行なうデスマッチというわけだ。
 しかし、適応条件としてこれまでの勝利数に応じて、プレイヤーにはバフが追加される。茅野チームは一勝もしていないため、バフはない。ルーティンチームは全勝しているため、フロンティアに身体能力向上から、必殺ゲージMAXまで。あらゆるバフが追加された状態で、ゲームスタートすることになった。

「どう転んでも、お姉ちゃんの仲間……死んじゃうね?」
「それは、どうかしらね?」

 ステージの書き換えを終えた茅野は、額に汗を浮かべつつもステージセレクトのボタンを押した。
 映し出されたのは、ルーティンにとって身に覚えのあるものだった。寂れた町並み、ガラッと開けたガレージに置かれた数台のアーケードゲーム機。嫌でも、少年の記憶を呼び起こさせるステージに、表面上に熱を帯びたような線が浮かび上がるルーティン。
 呼吸をしているはずもないのに、息が乱れ始める。カタカタと内部が形を保てないことを伝えている。アンリードとしての再生力、存在維持が出来なくなりつつあった。体を縮めながら、フロンティアに指示を出すルーティン。開幕から、必殺技を放つ二体。
 フロンティアが、以前放っていた技ではなくゲームで設定されている技であるため、ラットと虎狼は簡単に避けることが出来た。その後の息の合った、フロンティア同士の連携攻撃を喰らい、吹き飛び砂埃立たせて耐えるラットと虎狼。反撃の余地など与えないと、追撃をかけてくる。
 勝利ボーナスバフの影響で、攻撃速度も上がっている連撃。これにはラット達も、防戦一方での被弾回避に専念するしかなかった。そんな絶望的な状況であるというのに、茅野は落ち着いてステージ内の解析に専念していた。一方でルーティンは、この空間にいるのが耐え切れなくなりつつあった。

「フロンティアッ、急げッッ!!」
「分かっております。では、本気と参りましょう」

 宣言と同時に飛び出た拳撃が、ラットと虎狼を一撃で吹き飛ばし壁に叩きつけた。軌道はおろか予備動作すら見えぬ重い一撃に、吐血するラット。辛うじて虎狼は立ち上がり、悪態はついても息子であることに変わりはないと、ラットを庇うように一人向かっていった。

「ほな、ちぃとばかし、能力解禁といくでっ!!」

 走りながら広げた両手。左手に虎、右手に狼。足に豹、頭に獅子。獣の身体能力が、虎狼に備わり飛躍的な加速と強化が施された。血管は急激な体温上昇から、マグマのように熱線を放って湯煙を巻き起こす。
 これこそが、虎狼の持つ怪異【百獣詩篇】が可能とする、ワイルドセンス生きるという夢の体現であった。すばしっこい動きで、フロンティアを撹乱し突いた不意を手放すことのない、牙獣の会心で二体を同時に相手取った。

「まさか……、あんな隠しダネを持っていたとは……、うっ、くぉあぁ!?フロンティアッッ!!ボクからも、バフを送る。それでそんなヤツはさっさと倒してしまえッッ!!」

 顔の半分が、石像の表像が剥がれ落ちたように爛れたルーティンは、崩れ行く身体にムチを打ってコードを入力した。
 コードを受け取ったフロンティアの両眼が、鼓動を発しながら開いた。そして、虎狼の拳を二つとも押さえ込み、もう一体がカウンターをみぞおちにクリティカルヒットさせた。唾液が勢い良く口から飛び出し、フロンティアの反撃を受け流せずに地面に倒れる。

「オカンッ!!……っ」

 虎狼が怪異の力を使ったように、フロンティアも同じくゲーム外から自身の得物を呼びつけ、虎狼へとトドメを刺し向ける。ラットは、急いで起き上がり【異端曲芸師】ヘレシージャグラーの力で作り出した、ダーツを二体のフロンティアに向かって投げ付けた。
 視線を向けることなく、槍ですべて叩き落とし虎狼へ近付く歩みを再開する。それでも、ラットは走りながらサイコロにビリヤードボールで牽制を試みる。いそして、一気に爆破させることでなんとか、煙幕を巻き起こして虎狼を救出する。しかし、ラットはそのままステージ内の店の中へ入り、逃げ場のないところへ向かっていた。

「あ、阿呆ッ!こんなん追い付かれたら、もうおしまいやで?」
「ええから、ええから。茅野はん、ようやっと見つけてくれたで……」
「あんた、何言うとんねん?ゲーム内アイテムなんか取って逆転なんて抜かさへんやろな?」

 細目の目尻をクイッとひねらせて、ニヤニヤ笑うラット。
 そのまさかであると言わんばかりに、茅野から探し出してもらった逆転のためのアイテムを見せる。虎狼はキョトンとした表情で、息子が掴んでハニカミ笑顔をしているアイテムを見つめていた。どう考えても、これがこの状況を打破出来るとは思えない。

「なんで、飴ちゃんなん?」
「ほれ、オカン。騙された思って食うてくれ。これしかないんや!ワシらがこのバトルに勝つんは!!」

 説明を求める虎狼。するとそこへ、煩い内輪揉めが聞こえてしまいフロンティア達が到着した。槍の挟撃を虎狼を突き飛ばして、左右に分かれて退くラット。切羽詰まった声で、再度虎狼に飴を舐めるように頼んだ。
 普段なら、近所の子どもに配っていたりもした飴。そんなものを最後の晩餐にすることになるとは──。そう内心、生涯に悔いがあったと思いながら飴を口に含んだ。フロンティアはラットを突き飛ばし、それがアイテムであると察して先に虎狼から仕留めようと、二体揃って走り寄った。
 虎狼はその場で萎縮して、頭を抑えてしゃがんだ。ピタリと、のこり数センチメートルのところでフロンティアの動きが止まった。途端に苦しみ出して、その場に膝を着いた。一瞬、何が起きているのか分からない虎狼は、腹を抱えて笑っている息子の方を見て説明を求めた。

「いやぁー、間一髪やったでホンマ。ルーティン……、あんさんに最も有効やったんは────」

 敗北。それもゲームの対戦によって発生する、勝ち負けでの敗北だ。
 それは当然、茅野もそこに気が付いていたからこそ、最終ステージを生前に過ごしていた町並みへ変更した。それだけでは、ルーティンの再生力は損なえるかもしてないが、目的がアンリードを破壊することとなれば、その上で必要条件を満たすことがあった。

「今、オカンが食べはったんは、このステージに隠されたや。ほんで、その効果はパーティーリーダーが獲得した際に、相手と自分達のステータスと変動効果を入れ替えるというもの」
「そうよ!ルーティン。これは、あなたにだって見つけれたかもしれない。どう?ゲーム1つにだって、?」

 ステータスが一気に低下したフロンティアは、立つことが出来ない。そして、プレイヤーであるルーティンも茅野の言葉を聞いて、徐々に言葉を失っていき、その場に立ち尽くしていた。

「有り得ない。人間は、他者を食らってでしか明日をも知らぬ大罪人なんだ。だだから、ボク達が導いて────」

 アンリードとしての使命を口にするも生前の記憶に触れ、当時なし得なかったこと。を知った彼は、その場に崩れ込んだ。それを見たラットは、フロンティアがゲーム内の影響を受けている間に追い込みをかける。スライディングからのブレイクダンスで、二体同時に宙へと蹴り上げポケットからトランプの山札を取り出し、シャッフルを切って二枚のカードを引いた。

「ブラックジャックや!!景気よく行くで、オカンッ!!」
「任しなっ、ほなバカ息子!!肩ぁ借りるでっ!!」

 ブラックジャックのトランプから竜巻が吹き荒れ、その風に乗り遅れないようにラットの肩を踏み台にして、竜巻の中へ飛び込んだ。その後、フロンティア達も巻き込まれ縦一直線に並んだ状態で、吹き止んだ風の中を浮遊していた。
 そこへ、虎狼が両手を獣の手を現した爪魅せポーズを構えて降下する。左手に虎、右手に狼を再び宿し決めの一撃を繰り出した。

狼狼ろうろう虎虎ここ、暗き刃が骨を断つッッ!!」


──次狼殺級じろうさっきゅう虎虎ン闘罪ここんとうざいッッ!!!!


「喰らうて生きていくことが罪なら、人は皆───罪人や……ほななっ!!」

 フロンティアの急所を完全に捕らえた、虎狼の必殺の一撃を受けフロンティアは地面に落ちた。同時に、ゲームセットのアナウンスが流れラットと虎狼の勝利として、ゲームプログラムが終了を告げるのであった。

 ゲーム投影していた機械が止まり、戦闘を終えたことを確認した茅野は、崩壊が始まっているルーティンの前に立った。
 そして、最初に燈火達を襲撃したアンリード達と別行動で、一般交通網を麻痺させるジャミング騒動を起こした時に、茅野に向けて言った言葉を。その回答を添えて言った。

「君には、僕たちを止められない。僕たちの負わされた傷を理解することなど出来ない。そう、言ってたわね?確かに、私には戦争が隣り合わせな環境や時代、夢を持つことへのマイナス思考を持つようになる経験なんてないわ。それでもね────」

 自分以外の誰かが夢を抱く。それを邪魔していいことにはならない。夢を見たことで、現実を知る。その結果、自分よりも秀でている人間を妬み、思い込みから人は人ならざるものを作ってしまった。その怪異が、人間が作ってしまったであると決めつけて、世界を作り直すなんていう久遠の考えには、賛同はできない。
 茅野の返答を聞き、これまでルーティンとして。アンリードとして、自分が行ってきたこと。そのすべてが、結局であったことに気が付くルーティン。結局、人間と怪異をベースにして造られた存在である故に、自分が一番嫌悪していたものに一番近いところにいた。

「そう……かもね。ボク達の滅びも……また────。お姉ちゃん、今度は……」
「ええ。正々堂々、勝負しましょうね。お互い、平和になった世界で」

 それは、夢なんてものよりも眉唾物で絵空事であった。
 だが、ルーティンにとっては最後に聞けてよかったと思える、人間らしい回答であった。笑顔を作りながら、ルーティンの体は砂になってその場に崩れた。砂の山の上に、ドッグタグが置かれていた。そこには、ルーティンのベースとなった少年の名前が彫刻されていた。

 これにて、ルーティン攻略は完了したとラット、虎狼とともにハイタッチをする茅野。しかし、肝心な事を忘れていた。張本人が起き上がり、その危機を物語らせた。

「ルーティンはやられてしまいましたか……。ですが、残念です。こちらから最深部に行くことは出来ませんよ」

 そう言い終えると、槍で床を叩いた。フロンティアのその号令で、人形兵が一斉に地面から沸いてきた。茅野達に進軍するよう指示を出し終えたフロンティアは、その場に泥のように溶けて姿を消した。

 茅野達は、それが他のフロンティアと合流しに向かったことを察知する。しかし、目の前に現れた人形兵の大群と対峙することを優先するしかなく、同時に通信機が機能しなくなった。
 そのため、自力で反対側へ向かうことと他の仲間の状況把握が必要となってしまった。急ぎ、包囲網を突破すべくラットと虎狼は構え、茅野はバックアップに専念しつつ人形兵に立ち向かっていくのであった。
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