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セカンドステージ、試練のはじまり
しおりを挟む「ありがとうございました。これからの【PSYCode】のご活躍、期待しております」
「超能力犯罪への尽力、謹んでお受け致します」
お互いに一礼して握手する。
花才 能子。
この瞬間を持って、全警察組織の司令部に【PSYCode】のライセンサー権利を勝ち得た。これまでとは違い、超能力犯罪に対して上層部の指示で編成された組み合わせで対処に当たるのではなく、出動する適任者を超能力対策課に一任させるというのがここ数日に渡りその足で直接赴いていた。
勿論、超能力を複数操ることの出来る能子にかかればそうであった事実を記憶操作して強引に許諾を取るのもできない話ではない。それが出来るにも関わらず彼女がそれをしなかったのは────。すると付き添いの対策課の人間が大慌で能子のもとへ息を切らしながら駆け寄って言った。
「はぁ、はぁ、はぁ……大変です。各地で【PSYパッケージ】による事件が多数していると……」
「────始まったか……」
その報告は予め知っていたと言わんばかりに薄いリアクションで、広間の硝子張りになっている天井を向き顳かみに指を押し当て一斉念話を始めた。
内容は【PSYCode】全員に向けてのもの。しかしその内容は簡潔的且つ意外なものであった。
───全員、現行の行動に変更なし。能子が達美の家に帰還して対策を決める。
たったそれだけを伝え、その状態のまま瞬間移動で能子は姿を消した。突如人間が目の前で姿を消したことを目の当たりにした職員が驚き、置いてけぼりにされた対策課の人間も腰が抜けてその場に尻もちを着いて唖然としている。
「────あれ?私はどうして、地方庁に来ているのでしょうか?」
「────何って、超能力対策課の活動権の受理を受け取って回っているのではないかね?」
「あ~、そうでした。でも……何故私1人で?」
「知らんよ、そんなこと。おたくの超能力対策課も人手不足で、君1人送るのが手一杯なんだろ?ほら、現に今ニュースになってるよ?超能力犯罪がいきなり多発しているって」
「うわあ!!??本当だぁぁ!!??」
能子が消えて衝撃を受けていたのが嘘のように会話をする職員達。それも不思議なことに、直近の記憶がすっぽりと抜け落ちているところを埋め合わされたような記憶で繋ぎ合わされたものを、会話として続けていて自分で報告してきたはずの対策課の人間は【PSYパッケージ】による同時多発事件のことを忘れていた。
これら全ては能子が自身が瞬間移動した時に、それらを目撃した人間に記憶再定義が発動するようにトリガーを仕込んで置いたから発生したものである。その場に居合わせる人達はその後も、再放送のようにニュースの内容に混乱や動揺して慌て始めていたのであった。
達美の家の前に瞬間移動した能子は、すぐに部屋の中へ入るとパネロとアギレヴが支度を済ませて待っていた。
「話が早くて助かる」
「チッ……、助かるじゃないっての。何が現行のまま変更なしよ!」
「そうなのだ。こんな大規模なパッケージの発生は今まで見たことないのだ!達美のことはコハクと戻ってきたスキンに任せるのだ」
二人はすぐに外へ出て行った。すると、達美が能子の方へ近付き心配そうに声をかけた。ここ最近、能子はずっと家に帰らず達美からして見ても働きずめの状態だ。そんななか、【PSYパッケージ】が大量発生し超能力を使った暴動を起こそうとしているのだから心配になるのは当然のことだった。
しかし、能子はそう言って手を握って外の状況よりも自分のことより自身の身を案じてくれる達美を見て、心が読めないことへのもどかしさと嬉しさ、恥ずかしさを紅潮させて表現すると達美の両肩に両手を置いて出来うる限りの優しい表情を作って答えた。
「大丈夫だ。達美のことも世界のことも、能子が必ず守ってみせる」
「能子さん……、うん分かった。待ってるね……帰ってくるの」
「────ッ。」
「能子さんの好きな料理作って用事しておくから」
「達美……」
いつもなら。普段なら職場の職員であっても【PSYCode】であっても、心の中の声を。本心本音を覗き込むことが出来る。その大半は建前や何らかの思惑があるもので、誰も能子のことを思って言葉を伝えてきた事などなかった。
これからも期待していますよ。
(超能力者なんて、気味が悪い。)
能子が居れば、童達は要らないのだ。
(目障りなのだ。達美と過ごすのは童なのだ。)
【PSYパッケージ】は【PSYCode】でしか対処出来ない。だからお願いしているんですよ。
(いつか俺達が超能力に打ち勝つ術を手に入れれば、お前達も御役御免になるがな。)
パッケージチップの回収ご苦労様。今回もお手柄だったね。
(本当は自作自演なんだろ?超能力が使えるからって新手のビジネスやりよって)
何れも疑って至り、吐いた言葉とは裏腹のことばかり聴こえていた。物事には裏表があるように、所詮人間の感情にも裏表はある。能子がそれを知ったのは生後三ヶ月の幼体として発見されてとある研究員達に回収されてからだった。
過剰までに発達した脳と、キャパオーバーな知能で周りにいた白衣を来た大人達は喜んでいた。その時聞こえていたものもどれも同じだった。
凄い。この子は本当に神の子なのかもしれない。
(我々の研究成果にしてしまえば、国も黙らざるを得まい。)
DNAが検出されない。これを人智を越えた存在とした方がいいのでは?
(こいつは宇宙人だ。すぐに解剖して謎を解明するべきだ。)
待て。この子を元に人間の中にも超能力を先天的に持つ者を探せるかもしれん。
(この子になら託せるかもしれない。ワタシの家族を……。)
「────ッ!?」
「どうしたの能子さん?やっぱり疲れているの?」
「あ、いや。何でもない。能子、いってきます」
これまでの人間とは違う達美という存在。それについて考えるといつも観る過去のビジョン。同時にその場にいた人間から流れ出してきた過去と未来を人生透視したことに意識を落としてしまった能子は、再び現実の今の時間軸に戻ってきた。
そして、達美に謎の敬礼をして玄関を出て行く。
「ちょっと遅過ぎじゃない?飴2個は舐めれたんだけど?」
「それはパネロの唾液の消化スピードが早いだけなのだ。今日くらいは童も大人の余裕と言うやつなのだ。帰ったら達美とイチャつく権利を一日くれてやるのだ」
「そうか。では────」
これからの事を直接口で説明しようとする能子は今の言葉の裏側も観ていた。
(あんたにだけは負けないっての!だからささっと指示よこしなさいって?)
(達美がお前の帰りを待っているのだ。こんなことは早く終わらせてご飯食べるのだ。)
こんな風に達美の心も観られたらいいのになと鼻で笑い、指示を出し北部の暴動をパネロ、南部の暴動をアギレヴ、西部はプレイソーアと昂夜が向かったため東部を能子が対処する。方針を決めたと同時に二人にエネルギーを分け与える。
「何のつもりよ?」
「このために能力は抑えて置いた。能子は助けには行かない。その力で全部片付けくれ」
「そんなこと、力を分けてもらわなくても当たり前なのだ」
「それじゃ、私行くから」
「童も行ってくるのだ」
互いの健闘を祈り地点移動でそれぞれの持ち場へと姿を消した。
✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳
━ 西部 ━
「なんか……青臭……」
「ちょっとー?何サボってるのさー?あたし1人にやらせる気?この後、骨芽くんと合流予定なんだけどー」
「はぁ……ウザ……」
既に半分のパッケージを倒し、気を失った超能力者達の山に腰を掛けながら能子達の始終を遠隔透視と念力傍聴を使って観ていたプレソーア。そこに喝を入れてきた昂夜のことが苦手なプレソーアは毒を吐いて、尚も向かって来るパッケージの群れを迎え討つべく立ち上がって昂夜の隣まで飛躍した。
「で?どうもコイツら……一斉に操られてる……そんな感じだけど?」
「そうねー、あたしも同感。チップにはそういう事が出来るように細工がされているのかも」
「そう……能子が言ってたやつか……」
それは以前アギレヴが力を暴走させるきっかけになった一件。パッケージチップのブリーダーが存在すること。それによって、超能力者を人口的に量産しているのだ。
そして、今回の暴動は【PSYパッケージ】達が意志を持って行っているものではなく、予め破壊行動を行うようセットされた時限爆弾のように作動して動き回っているといった様子でその攻撃対象も法則性のあるものだった。
「そうねー。交通機関に関わるものしか破壊していないわ。逃げ惑う人達には目もくれないって感じー」
「そのゆったり口調……嫌い」
「あらー、こんな時に内輪揉めしたいのー?あたしよりパネロ方がよかったかしらー?」
「ウザ……。いいから……、ハザード使うから。巻き込まれない……ようにね」
両脚を大きく開いて左手を地に着き、三点倒立の前傾姿勢になる。その時勢い良く上体を落とした拍子にヘッドホンが外れ、それが合図かのように全身から碧く激しい電撃が撒き散らされた。
━━━ Brain___Hazard___Overflow...電光石火連撃
火花を散らしながら脚をホバーリングさせ、次々と稲妻の如く抜き去りながらチップが埋め込まれた箇所をレントゲン撮影のようなスケルトン状態に透視で視覚固定して、一撃で確実に破壊していった。
その様子を見て、呑気に拍手して見ていた昂夜の背後にもぞろぞろとパッケージ達が集まって来ていた。自分達の破壊行動の邪魔をしている敵と認識してか、プレソーアと昂夜の排除を優先してくれた事に感謝しながら昂夜も本領を発揮していく。
━━━ Brain___Hazard___Overflow...空想乖離抜粋
「それじゃあー、お姉さんと一緒に遊んじゃいましょっかー♪」
向かって来るパッケージ達に投げキッスからのウィンクをして、足元からフレグランスな香りが目でわかるようにピンク色のカーテンを広げて幻惑へと包んでいく。
幻惑に当てられたパッケージの脳天にぽっかり穴が開き、ガチャポンのカプセルみたいな球体を取り出す昂夜。その封を開けて中に入っている物を広げてその人間の欲の具現化を地面に叩きつけたり踏み付けて壊していくことで、間接的にパッケージチップにダメージを与えて取り出すことなく破壊していった。
「あらー?あなたー……随分とえっちな趣味してるのねー♪奥さんに思いきって言ってみると良いわよー♪奥さんも、そういうの好きみたいだからー♪」
途中、気になったものには一言アドバイスして行く昂夜。しかしその大半が俗物的なものに対してであることに、やはりプレソーアがそういうとこが嫌いだと言うふうに「ウザ……」と零していた。
やがて、西部に居たパッケージは掃討されプレソーアは回収の部隊が到着するのを待つことにした。そして昂夜は本来の任務に戻るため、骨芽と合流するためにその場を後にするのであった。
「ていうか……みんな……命令違反で、いいの?……能子?」
静かに闘いの終わりを告げるように雨が降り注ぐ中、好きな音楽を再生してヘッドホンを付けて自分の世界へと聴覚を塞いでいきながら、疑問を口にしていた。
✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳
━ 南部 ━
出動隊が応戦するが、意図も簡単に怪力の超能力をもつ【PSYパッケージ】に吹き飛ばされる。飛ばされて来た隊員を跳び箱のように飛び越えて現場入りしたアギレヴ直ぐにハザードを行使する。
深呼吸し内に秘めたる謎多き力に問いかけるように言葉を紡ぐ。
「前は達美を助けたいと思って、度が過ぎただけなのだ。童は達美の旦那になると決めたのだ。なら、嫁を護りたいという願いでその力乗りこなしてやるのだ!」
━━━ Brain___Hazard___Overflow...破壊者・胎動
またあの禍々しい紫の波動を放ち、髪の毛も一つ一つ生きているかのように重力に逆らい蠢き始め、両手は黒い瘴気で作り出されたオーラを纏わせた鋭い爪へと変貌していく。
それでも、前と違いアギレヴとしての意識を保っている。その証拠に前回とは異なり、紫の光を放ってい両眼は変身前と変わらない瞳をしていた。
「噂が流れてきた問題のある【PSYCode】の小娘さんですか?皆さん、破壊活動配置中断です。そこに居る小娘の排除を最優先でお願いします」
「やれる……やれるのだ!!」
アギレヴが来た南部は西部とは違い、チップのブリーダーが指揮を取って破壊活動を行っていた。中継地点である警察組織に攻撃を仕掛けていたらしく出動隊は既に半壊していた。
立ち向かって来るパッケージの群れ。前衛の四人を水平蹴りで足払いをして宙に浮いたところを爪の一閃で纏めてチップと超能力の脈を破壊していく。続いて来る攻撃を股抜きで交わし、敢えて敵の中央に回り込んだことで両腕を咆哮を上げながらぶん回してなぎ倒していった。
「ば、バカな……30人だぞ?そ、それをたった3回の行動で全員無力化するとは……。おい、おいっ!!チップならいくらでもあるんだっ!!────あれ?何で刺さらない?おぉーい、起きろっ!!」
「無駄なのだ……」
必死に意識を失った元超能力者にもう一度パッケージチップを挿して、手駒にしようとしているブリーダー。しかし相手が悪かった。
アギレヴのBrain___Hazardは、超能力にたるその人がもつ血管を焼いて消すようなものだ。故に一度パッケージになれた人間であっても、超能力の適性がない人間にされてしまった以上、再び【PSYパッケージ】に戻すことは出来ない。
「童達には美味しいディナーが待っているのだ。お前達のお遊びに付き合ってはいられないのだ。これで終わりにするのだ」
「────ッ!?フッザケルナァァァァ────ッ!!!!」
瞬間、アギレヴはこの暴動を終わらせる手段を見出した。それはチップを注射しようとしていた時のブリーダーの心の声を聞いた内容が物語っていた。
(巫山戯るなよ!このブレスレットで貴様らを操っているのに、小娘1人に何やられているんだ。これでは他の場所に言ったヤツらに笑われちまうっ!?)
今どきのRPGですら、そこまで露骨なネタバレをする敵NPCが居るかというくらいに自身の弱点を心の中で呟いてしまった。そんなこと超能力者。ましてや【PSYCode】と呼ばれる複数の能力を同時に使用出来る者を相手にして、内心に思うこと自体が自殺行為であった。
アギレヴは右拳に力を集中させて、狂乱しながら沢山のチップを自身にして肌の色が過剰摂取で変色させながら、取り込んだ超能力の暴発させてぶつけてくる念の波動を殴り砕いていった。そして突き出した拳にかかる動力に従ってブリーダーをスカイアッパーでぶっ飛ばした。数十メートルの高さからコンクリートの地面に落下したブリーダーもまた普通の人間の風貌に戻り、破壊されたブレスレットとともに周辺に散らばったパッケージチップは一つ残らず時期の部分が破損し煙を出していた。
「パ、パッケージ達が意識を失ったぞ!?か、確保ぉぉぉ!!!!」
隅に待機していた出動隊の残りがブリーダーのブレスレットが破壊されたことで意識を失った超能力者達を回収しに走り出した。
「────ウッ!?」
「な、なんだ?【PSYCode】の様子が変です……?」
「ウゥゥ!?も、もう……おわっ────タノダ……。ヤ、ヤメロ…ナノ、ダ……」
膝を着き吐き気を催すように苦しみ悶えるアギレヴの目の色が変わっていく。苦しみを訴えるように地面を殴りつけると、禍々しい瘴気が膨れ上がり超能力の余剰エネルギーが悪魔の羽のように背中に現れ咆哮を上げる。
このままではまたしても意識が未知の領域に支配されてしまうと、必死の抵抗も虚しく自我が暗黒に染まって行った。と次の瞬間上体を反らし天上に顎を向くと同時に、額に小さな陣形が浮かび上がると白銀の光が天を貫きアギレヴに付き纏っている禍々しい瘴気を引き連れて何処かへ飛び去って行った。
「ど、どうなったんだ!?いや、とにかくパッケージの確保を優先しろ!」
倒れるアギレヴに医療班が駆けつけ、出動隊が暴動の収集活動に向かった。
朦朧とはしているものの、意識を取り戻したアギレヴは玄関で能子が力を分け与える時に触れた手の甲を見て言った。
「2度も……助けられた……の、だ……」
能子はアギレヴが再びあの力を使う事は予想していた。一斉に暴動起こされているこの状況で前回のように止めに駆けつけることは出来ない。ならば、暴走が起きた時に強制的にそれを解除する未来予知式の能力を付与しておけば能子が直接向かわずとも、暴走発動と同時に強制能力解除を発動させることが出来る。
そしてこの抑止が前回も能子によるものだと、知っていたアギレヴは感謝の言葉を残すと疲れて眠りに落ちてしまったのであった。
✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳
━ 北部 ━
「そらぁ!!どりゃー!!次はどいつ?」
「な、なんだコイツ!?めちゃくちゃインファイターなのに、俺達の超能力がまるで通じねぇ!!??」
北部に居たパッケージはブリーダー直属の超能力部隊で、意志を持って破壊活動を行っていた。その対象は発電系列の施設で大規模な停電によって、ライフラインを混沌に貶める事だった。
その計画を邪魔されて苛立つ暴動集団であったが、居合わせたパネロはその何倍もの怒りを叫びを現すように全身を朱と碧の焔を猛らせて暴れていた。
「アンタらのエゴで、私の弟まで……闘うことになったっ!なら私に出来ることは1つ!!」
「この野郎……勢いが増して────ぐあっ!!」
「1日でも、1時間でも……いや、1秒でも……早くッ!!パッケージを全滅させて終わらせるっっっ!!!!わ~たぁぁぁしぃがあぁぁぁぁ」
灼熱の業火がパネロの魂の叫びに呼応して広がり、施設や構築物を傷付けず唯パッケージだけを。それもパッケージチップだけを焼き尽くしていく。
気合いを入れて両腕を腰横に振り降ろし、纏った焔を振り払い飛び散った火の粉を両脚に集中させて走り跳び指揮を取っていた【PSYパッケージ】を目掛けて挟み蹴りを繰り出しながら叫んだ。
━━━ Brain___Hazard___Overflow...執念噛蹴
「クゥゥゥだァァけろォォォォォ────ッッッ!!!!」
「ひっ!?こ、こっちに来るぞ?お前ら、念力防壁で防ぐぞ?」
近くにいたパッケージがリーダーを庇うように前に乗り出し全員でバリアを張って、パネロの渾身の一撃を弾き飛ばそうとした。初撃を受け止めて念を込めて押し返そうとする力にパネロの進撃が止まった。
歯を食いしばってパネロは恨みの焔を心の中に滾らせる。
───君はこの施設で成績1番の【PSYCode】だ。君こそ、私たち人類の希望なんだ………………パネロ。
不意に思い出したくないことを思い出した。それは自分が世界で始めて発見された先天的発芽性越境脳波、以降【PSYCode】と命名された。それの最高傑作であると称されていた過去。
(だけど、能子が来て────私は1番じゃなくなった……)
──まさか【PSYCode】よりも脳波数値の高い子が現れるなんて。博士の研究は素晴らしいですね。
───いや、そうでもないさ。パネロはワタシの考察が正しければ、最後の鍵となるやもしれん。
──しかし、博士の連れてきた彼女はパネロの持つ能力全てを数段も上回って発揮する事が出来ています。これではどう見ても……
「ふ……ざけんな」
「ああん?なんか言ったか?」
「ええいっ何でもいい!このまま押し返すぞ!!」
「────なんかじゃ……ない」
恨みと嫉妬の焔が止められたパネロの攻撃に再び火を灯す。そして、自分は能子の劣化版なんかじゃないと眼に涙を浮かべながら、魂に喝を入れるように喉が張り裂ける勢いで叫んだ。
「私は能子を越えるまで、もう誰もにも負けられないッ!!だから、こんなところで……止まれないんだよォォォォォォ!!!!ウゥオォォォォラァァァァ──────ッ!!!!」
「うおっ!?な、なんだ!?火がまた熱を増したぞ?」
「狼狽えるな。所詮は虚仮威しさ。虚勢を張ったくらいでこのバリアは破れるわけが────なっ!?」
━━━ バギッ、バギッ、バキッ、バキキッ!!
超能力を持ったとて受け入れ難い事はある。今パッケージ達の前でそれは起きた。なんと、攻撃を受け止めていた何重にも連なっていた念力防壁を、パネロは挟むように畳んでいた両脚の開閉を繰り返すことで喰い破っていたのだ。
やがて、最後の一枚を噛み砕いたパネロの一撃は大きく開いた両脚の延長線を碧い焔が延び、鰐の顎のように眼前のパッケージ達を噛み砕くように抱き込んだ。
「バ、バケ────モン、だ……」
「フー、フー、フー、フー……。───、そぉらぁ!?次の相手は────何処だァァ!!??」
それは最早、超能力者というよりは単なる戦闘マシンだった。かつて、一番の超能力者かもしれないと言われた彼女に取ってたった一度の敗北は呪いの火のように今も彼女を縛り付けていた。
もう誰にも負けたくないという矜持に────。
その後も、逃げ惑っているパッケージを追い回して全員無力化した。パネロが息切れしながらその場に立ち尽くしているところへ対策課の真狩刑事が駆け付けた。
「パネロちゃん。だ、大丈夫?ごめん……俺、遅れちゃって────ってあれ?終わっちゃった?」
「────。」
「そっかぁ……。それにしてもパネロちゃん、息切れしてるくらいの強敵だったんだね。飲み物持ってくるよ」
遅れて駆けつけた真狩刑事で飲み物を取りに立ち去ろうとする袖を取り押さえるパネロ。そのまま顔は向けずに訊ねる。
「ねぇ……私、……頑張れてる、かな?」
「えっ?勿論だよ。1人でこれだけ大勢のパッケージを倒したんですよ?俺なんか超能力者じゃないから、援護射撃くらいしか出来ないし……」
「────あ、そ。ねぇ?1つ頼まれて……くれない?」
たまのわがままを言う彼女のように俯きながらそう言うパネロに、真狩刑事は顔を覗き込むように聞き返した。すると、真狩刑事の胸に飛び付いて泣き出した。息の整わないままの声でお願いを口にした。
「超能力使いたくないから、帰り……船でも何でもいいから送ってて……」
「────、お易い御用ですよ。でも、高い部屋は取れないですからね?」
「経費が駄目なら、ポケットマネー出せよ……そこは…………」
鼻をすすりながらこれ以上のわがままは言わないと、いつもよりも優しい口調で皮肉を言うだけに留めた。現場を去る間際に、一旦頭から話す前にもう一度自分の心に誓いを立てて真狩刑事とともにその場を後にした。
─── いつか能子を越す。
✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳
各地の暴動が鎮圧され、残すところ能子の向かった東部。しかし既に、操られていたパッケージは全て意識を失って辺り一面に倒れていた。残すところは今回の暴動の首謀者であるブリーダー組織の頭首だけになっていた。
「クックックッ……やりますね、花才 能子。やはり貴女には、パッケージ程度では話にならないようだ」
「それが解っていながら、どうしてこんなことをする?それとそのマスクは着けていても意味はないぞ」
「ッ!?まさか、読心拒否も意味をなさないというのですか?これは驚きだ……」
(それでも、何故私が此処に来たかは分かるまい……)
「分かるさ。能子に視えないものはない。お前の本当の狙いが暴動ではないことは半年前から分かっていたことだ」
その衝撃の一言に、マスクで顔が隠れていても分かる動揺と驚愕。それに目の前の人間、いや人の皮を被った超能力者の底知れぬ力に感じる絶望感。何よりも半年も前から積み上げて来ていた計画に気付いておきながら、世間的な問題に発展する暴動を起こすまで泳がせていたことが何よりの恐怖でしかなかった。
能子の狙いは更にその先の未来。何が起ころうとしているのか。それを先読みしているなかで【PSYCode】の脅威となるものは優先して対処しているに過ぎないということ。
つまり、花才 能子にとってこの暴動は仕事のスケジュールに予め記されていた出来事でしかないということ。そしてそれが【PSYCode】のライセンサー所得の必要性を世間に知ら占める絶好の機会へと変えるために帳尻合わせをしていたのだ。
「感謝しているよ。お前たちの起こしたこの問題が、【PSYCode】達を次のステージへと導いてくれるのだからな。これでようやく……能子の観測ミッションも更新される」
「ははぁ……、私達は道化だった……という訳ですか?」
自分達が掌で転がされていただけと知って、言葉を詰まらせるブリーダー頭首だったが、しばらくして狂ったように笑いマスクを脱ぎ捨てた。その素顔は現役の大臣補佐官の人間だった。
マスクを取ったことで薄らしか聴こえなかった心の声が、店内の宣伝音楽のように駄々漏れになる。
この国も枯れかけている。
建て直すには金が必要だ。
なら、超能力者を世間に裏で普及し国境越えた予算組をさせて同盟や条約を持ち込みやすいようにする。
そのために、超能力対策課という超能力者に超能力者をぶつけさせる専門組織を立てて専売特許の技術を生み出す。
だというのに、それに入ってきたこの女狐にすべて見透かされていただと!?
「さぁ、私の心の声を聞いて満足しただろ?だがな?全部お前のシナリオどおりだと思うな若造がっ!!」
「────────フン。」
大臣補佐官は手に持っていったボールペンを押した。芸当は達美達を襲った遊園地に現れた爆弾魔と同じだ。それ自体に意味はなく、行動を何かの発動のトリガーとしているものだ。その結果は能子の背後にあった。
能子が大臣補佐官を追い詰めた場所は空港。それも総理大臣のプライベートジェットが格納されている格納庫。人と違い心持たぬ鉄の塊がオートマチックでフライトを開始しようとしていた。
「ハーッハッハッハッ!!超能力がなんだぁ?人間の心は読めても機械の心は読めまい?そもそも心なんてないのだからなっ♪」
「…………そうだな」
「エーヒッヒッヒッ……これで私は終わりだが、超能力者の人口的大量普及は止められない。詰めが甘かったのだよ、お前はッ!!」
大臣補佐官の勝利確信を約束するかのようにプライベートジェット機が夕焼けの空に向かって飛んで行った。ごぉぉぉと離陸するエンジン音が響き、安定高度へ向けて飛び去って行く背中を見てあの中身に何が入っているかを種明かしのように伝える。
「あれにはなぁ、人なんて1人も乗っておらん。数万本にも及ぶパッケージチップとその製造データが、運び込まれたのだよ。世界中にっ!!」
「────。」
しかし、そんな勝利宣言すらも冷め切った目で見つめるだけでリアクションを見せない能子。さすがに超能力は魔法ではない以上、飛行機を止めるなんて奇跡にも等しいことは出来やしない。完全にそう油断しきっている目をしている大臣補佐官に、能子は温度を変えることなく一言告げる。
「この状況すらも能子は把握していた────、というのは思わないのか?」
「はん?分かっていても変えられない。それが貴様の限界だよ?」
「そうか……。なら、そのない脳みそ振り絞って観ているのだな」
飛び去り肉眼では捉えるのも難しい高度まで上昇したジェットのある方角を見ながら、空中浮遊する能子。そして静かに眼を閉じ瞑想に入る。その様を腹を抱えて笑う大臣補佐官。空が飛べるくらいなんだとジェット機の速さに人間の身で追いつけるものかとそれを見るまでは思っていたことだろう。
眼をカッと開いた能子。その目の前には世界中にチップを拡散させまいと飛ばされたジェット機。瞬間移動と空中浮遊。二つの能力を行使した能子は向かい来るジェット機を両手で受け止めるべく構える。
━━━━ Brain___Hazard___Overflow...捕縛転送&完全抹消
ジェット機が能子の両手に触れた瞬間、カメラのフラッシュのように点灯し上空から姿を消した。ジェット機の起動音がなくなったことに気付いてキョロキョロと大臣補佐官。
しばらくして、空港近くにある湾岸上にジェット機と能子が姿を現した。ジェット機は真っ逆さまに湾岸の海中を目掛けてスピードを維持したまま進行した。
「やめろぉぉぉぉぉぉ!!!!」
自身の夢を詰めたジェット機が海に突っ込むことと、あんな物が海中に突っ込んでしまえば小規模とはいえ津波が起こり、付近にどのような被害を齎すか分からないという生命の危機に瀕した叫び声を上げていた。
しかし、海面スレスレのところでジェット機は先端部から消しゴミで消されているのかシュレッダーにかけられた不用紙のように塵となって崩れ去っていく。これは能子が放ったBrain___Hazardの一つ完全抹消による事象であった。
ただしジェット機規模の面積分を抹消対象に定義するのに時間がかかってしまうもののため、加速し続けるジェット機を定義するとなれば機内の物が残ったまま期待だけ抹消してしまう懸念があった。その弱点をカバーしたのが捕縛転送である。物体移動と違って、対象物とともに能力の使用者も同じ座標に移動するその力で一時的に介入する亜空間或いは虚数空間。そこで物量の法則は一切が停止するため、抹消対象の読み込みは瞬きするだけの時間があれば出来る。
あとは、指定した座標に再出現すればいいだけのことだが、どうせなら自分をいっぱい食わせた気でいる大臣補佐官の心をプライド毎へし折ってやろうとリップサービス感覚で目の前でそれを実演しただけであった。
「あぁ……か、────かはッ……」
天変地異を目の当たりにした大臣補佐官はその場に泡を吹いて気絶していた。抹消を終えた能子は浮遊したまま、大臣補佐官の額に手をかざして記憶再定義して、今回の悪事に加担していた約半年間の記憶を書き換えていく。その内容はブリーダー組織に潜入して内側から壊滅させた英雄となるものだ。
「これからの後ろ盾の為にも大臣補佐官では、いて欲しいのでな……」
決着の着いた空港にも優しく雨が降り注ぎ始める。傘もささずに雨に打たれたまま大臣補佐官を官邸に物体送信で送る。
そして空虚な表情を浮かべたまま、心の中で自分にしか聴こえない言葉を発した。
(────つまらない。)
今回の騒動を種火に【PSYCode】の必要性はより広く認知されるようになる。そしてそれは、ある人から予め頭に入れられた計画の始まりに辿り着いただけに過ぎない。ここまで来るのに人間社会に溶け込む人生の大半を使ってきた能子に取って、作業ゲームが嫌いなのに友達付き合いのための無理矢理自分にやらせていたことと何ら変わりがなかった。
その計画のファーストステージのボスはこちらが定めたものであり、コンシューマーゲームで言うところのチュートリアルがやっと終わったことを意味していた。それらを誰に相談するでもなく、一人で淡々とこなして来た苦行を誰も知らないのだ。加えて、観測対象者の上位種である【PSYCode】ですらも呼吸するように心の内を覗けてしまう能子には悩みを打ち明けられる相手など作れるだろうか────。
「博士……、次のステージからは能子にも分かりません。【PSYCode】が無事に乗り越えられるのか」
誰もいない空間に自分に使命を託した者への問いかけを投げる。その答えは万物の心を読み取れる超能力を持ってしても聞き取ることは出来ない。雨が答えなき答えを求めている能子を厳しく虐げるように降り頻る。そんな豪雨にも負けないように首を上げ空を観る。例えこの人生が誰かに決められたものをシナリオどおり演出しているとしてもそうでないものを見つけたから。能子には、この人生の中で一つ夢を持つことが出来た。
(能子には夢が出来ました。この力を持ってしても心も未来も過去も────その一切が覗くことの出来ない人間。徳飛 達美。能子は彼のもとで……知りたいと思います……)
雨に掻き消されないよう確かに強く。それでもどこか儚く脆いその夢を。何度も再生させたお気に入りの音楽を聴くように、確かに定めて最後の一言を心に刻み付けた。
────人間の素晴らしさを……。
その後、昂夜とプレソーア、アギレヴがテレポートで帰宅したのにずぶ濡れで帰った能子を達美物凄く心配していた。案の定それは翌日に結果を表し、能子は風邪に倒れてしまった。しかし、能子は直ぐに治せる風邪を治そうとはせず達美に看病してもらうという貴重な体験に休暇を費やすのであった。
「むぅぅ────、1日だけと言ったのだ……」
その様子をアギレヴが壁を噛じるように睨んでいたことは、語る及ばないであろう。
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感想書かせていただきます
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