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PSYCode
しおりを挟む超能力犯罪。近年、出処は様々ではあるが【PSYパッケージ】と呼ばれる擬似的に超能力を発現させられた或いは、自らの意思で超能力者となったもの達による犯罪が横行していた。
──「犯人、依然として要求に応じず。人質の解放は身代金と逃走経路を確保してからとのこと」
「しかし、既に突撃隊が向かい全滅させられている。こちらが素直に要求に応じると言っても向こうは信じてはくれまい。苗島君、何とかならないかね?」
ここでも、【PSYパッケージ】による犯罪に手を焼いている警察の特殊部隊と対超能力者への特殊捜査課の苗島 貴仁がただただ、犯人の立て籠ったビルの屋上を見上げていた。すると、そこへ苗島の携帯に着信があり応答し通話を終えると特殊部隊の現場隊長に向けて一言告げた。
「間もなく、こちらに超能力対策課の【PSYCode】が来ます」
「さ、【PSYCode】だと!?人数は?」
「え?1人ですけど?」
現場が騒然とし始めたところに銃声。どうやら、突撃隊の生存者が人質の確保に成功させ、逃げ際に放った発砲の音であったらしく胸を撫で下ろす一同────、すると間を開けることなくバイクが一台《KEEP_OUT》と書かれた規制テープを飛び越えて現場に乗り込んできた。
到着するなりヘルメットを取るドライバー、ヘルメットから晒した髪を空気になびかせて髪を耳に掛けながらビルの入口付近まで静かに歩み寄っい行く。
「お、おいッ君!!何をやっ────、ん?」
「彼女です。彼女が【PSYCode】を持つ超能力者で私が先程連絡を取っていた、花才 能子です」
「彼女が……?しかし、壁に手を当てて何をしているのです?」
待機している隊員の言うとおり、能子は入口まで赴くと黒いエナメル製の手袋を取り素手で自動ドアのセキュリティカードを差し込む機械に触れて目を閉じていた。それもブツブツと何かを読み取るように喋りながら行っていたのだ。
「遠隔透視開始────、同時に過去40分の現実での出来事を再閲覧……。絞り込み、割り出し────把握…完了」
「な、何をやっているのかね本当に?あれか透視というやつかね?それで屋上の現状を観ているのかね?」
「いえ、違います。彼女は今────」
素人の目には透視能力を使っているように見えるのも当然かもしれない。だが、この瞬間に彼女が使った超能力はそれとは異なり三つ使用していた。
一つ目は遠隔透視────、遠隔──つまりは遠く離れた場所を透視する千里眼のようなものである。そして二つ目に使用した超能力────残留思念の念視────。これによって過去の物体が記憶した記録を読み取り何故今回の件に至ったのかを限定的に閲覧し記憶していた。
最後に未来視────、これによりこれから起こる未来を覗き見ることによって次に自分が取るべき行動を先読みしたのだ。
「突撃隊は下がらせろ。あとは能子1人で充分です──、っとそうお伝えください……」
「わ、分かった。ほ……本当に信用していいのかね?相手が超能力者だからと、あんな自然発生したかも分からない【PSYCode】などという連中を────」
能子が感情の乗らない足取りでエレベーターのボタンを押すが、そのエレベーター二つは地下に向けて降下させるだけで能子自身は階段を手摺りを飛び移って駆け上がって行った。
『パネロ……、そちらの方は首尾よく出来ているか?こちらのパッケージとそっちの暴走したパッケージはどうやら落ち合う予定だったらしい』
口を動かすことなく念話でその場に居ない別の【PSYCode】へ連絡を取っていた。
━ 深夜のとあるパーキングエリア ━
「連絡遅かったじゃない能子。お陰様で、着いてきた真狩刑事は気絶しているわ」
「てめぇ、誰と話してやがる?」
「それと能子、そっちにはパッケージは2人居るのよね?なら、数だけなら今回は私の勝ちってこと?」
「おいっ!?────んなッ!?」
「今、大事な話してんだろうがぁ!!」
右手の人差し指と中指を顳かみに当てて念話をしている少女。髪の色が左右で紅と碧に色分けされたツインテールにスカジャンにスパッツという動きやすさを重視した恰好──かと思えば、スカジャンは特注なのか袖はブカブカでまくらないと手が出てこない程袖の丈だけ合っていないという不恰好をしていた。
『飴を舐めていられるほどには、余裕な相手ということらしい。ちなみに、今日1日の能力者検挙数はこれで21人になるのだが……?』
「はぁ!?何ふざけたこと言ってんのっ!?私はコイツら全員含めたって10人行かないわよぉ?」
━━━ ガリッ!!
つい嫉妬のあまりに舐めていた棒付きの飴を奥歯で噛み砕いてしまった。すると、念話の邪魔になって吹き飛ばした【PSYパッケージ】とは別の能力者が背後から少女に掴みかかり両肩を鷲掴みにして持ち上げた。
「フヒヒヒ……♡ロリ、最高ォォ♡ねぇ?お兄さんと遊ぼ?こんなふうに、さッッ!!」
「────。」
「ミシミシ言ってるよ♡ねぇお嬢ちゃん、お兄さんの怪力で分からせてあげるからねぇ♡♡」
「────プッ……」
突如掴みかかってきた恰幅な男の額に咥えていた飴の棒を噛み砕いた破片が付いているまま吐き捨てた。すると、地面に落下した棒付き飴はメラメラと発火して燃え尽き、怪力で少女押さえ付けていた男の両肩もいきなり発火して熱さのあまりに少女を手放して後退った。
「ロリロリってキメェんだよぉ!!私にはパネロって名前があんだ。冥土の土産にでも覚えていきな」
「あちぃ!?あぢぃー!!何だよこの火?き、消えねぇぞ?」
「はん♪とぉぜんでしょ♪だってその火元は私だから」
発火能力。パネロが掴みかかってきた男に発火能力で火をつけたのだ。この超能力は、自身の全身を発火させる能力として知られ超能力としても扱いが難しいのではないかと言われる説や、目で見たものを発火させられる能力も発火能力に含まれるのではないかと言わるほど不確かな範囲の超能力のなのである。
「つまり、あんたの身体に着いた火は私の身体を燃やしていたものをテレポーテーションさせているって訳。もっと馬鹿な奴でも分かるように言うなら、火を消すのに火元を布物で叩くことで酸素に引火するのを防ぐことで鎮火ってするのよね?なら、自分の燃えている箇所にそれやったってダメだよね?お兄ぃ~さん♡」
「そ、そうが!?お前だ、ごのぉ───メスガキッ!!お前の腕を叩けば、火が消えるっ!!」
「はぁ~キモッ……。同じ息も吸いたくないんだけど?」
男の抱き着き攻撃をダンスでも踊るかのような軽やかなステップで避けていくパネロであったが、突き飛ばしたパッケージの号令で残りの超能力者達も姿を現した。《6対1》の状況で完全に包囲されてしまうもその場で首鳴らしに屈伸をしながらニヤリと口角を上げて屈むと、ブーツの踵を円を書くようにコンクリートに擦り付けて摩擦を起こして自身の両脚を蒼い炎と朱い炎が螺旋状に燃え広がり始めた。
━━ Brain___Hazard___Overflow...
「ノンリミットレッグス……、あんたたちの能力───焼き切って上げるっ♪」
「へっ!この数を相手に人体発火現象くらいで勝てるってかぁ?やっちまえ!」
「まず右にタップ、2回」
「ぐおっ!?」
燃え上がる左脚でリズムを刻み、右脚のつま先と踵を擦り当てるように一人目の足を踏み躙る。悶絶しているところを構わずに頭を鷲掴みにしてポールダンスのポールを伝うように一周して近寄る他の能力者達に火の粉をお見舞いして、怯んだところへ飛び蹴りで2人目を蹴り倒した。
やがて、構え直そうと起き上がろうとした両名の全身が燃えるとレントゲンに映したように骨が浮かび上がると、首元と肩のそれぞれに埋め込まれていたチップが炎によって焼かれて無くなると同時に火は焦げや煙も残さずに鎮火し意識を奪った。
「こ、このメスガキがっ!!」
「────っ?あのさ?さっきから、メスガキメスガキって言ってるけど私……もう26だからっ!!!!」
「うぐごぉ!?」
「チッ……!!寄りによってコイツが変異種か」
変異種。超能力を人工的に誘発させられた人間を【PSYパッケージ】と呼ぶなかで、その力を暴走させた者が稀に到達した変異的超能力を発現させる者をそのように総称しているのだ。
イライラを全開に表情に出しながら、迫って来る残りの能力者を捌く為に一度膝蹴りを水平に繰り出して側頭部に直撃させて遠くへ引き離して身を翻した。
「あんた達は────邪魔だッッ!!」
「な、何なんだこの女ぁ??」
「オレたちの能力が点で通じないなんて?」
「グッ……、そこのクソヲタクが暴走なんてしなけりゃ今頃……」
「それはないから安心して。あんたの迎えを待っているお仲間さんの方にも、私の仲間が到着した。どのみちあんた達は────ッ!!」
既に終わっているという言葉を蹴り出した回し蹴りに込めて、連中を仕切っていた能力者の男の顎にに連撃で命中させ吹き飛ばした。しかし、力加減を損ねたせいでそのまま吹き飛ばされた先にあった火災警報器にぶつかってしまい、パーキングエリア内に警報の音が鳴り響くと同時に天井のスプリンクラーから水が一斉に噴き出して辺り一面が水浸しになってしまった。
「フヒヒヒ♡ヒヒフ……ハハッアッハッハ♡これでキミのそれは使い物にならないねぇ♡」
残す一人となった変異種のヲタクは水を大量に身体に浴び水浸しになったパネロを見て人体発火現象が収まっていることを見るなり、息を粗げて勝利を確信したように笑っているのを「チッ……」と舌打ちを返して睨むだけであった。その余裕振りに腹を立てたヲタクは恰幅な体系とは縁遠い程に腕だけ異常に発達した筋肉の力こぶを作り出して、コンクリートを叩いて砕くと手頃なサイズとなった破片をトスバッティングでコンクリートの弾丸をショットガンのようにして打ち出してパネロを蜂の巣にする勢いで何度も何度も打ち続けた。
━━ ガチンッ……ビュ~~~、ダダダダンッッ!!!!
パーキングエリアは跡形もなく形を変えてしまい、これ以上コンクリートを削って使い続ければ倒壊してしまう状況になるまで打ち手を止めなかった。とてもじゃないが人間の手で起こせるものとは思えない惨状の中立ち尽くすヲタクは、不快な笑い声で「さぁメスガキちゃんを分からせてやったぞぉ♡♡」と自信満々に勝利宣言をしていた。
「楽しかった?何も無い所にバッティングでストレス発散してみて」
「えっ?何で傷1つ負って……!?」
「はぁ…………。瞬間移動───そんくらいアニメ漬けになった頭でも聞いた事くらいあるでしょ?」
「で、でも超能力を複数使用出来ないって……」
「それはあんた達の常識。私達にとっては3つ4つの掛け持ちは日常茶飯事なんですけ、どッッ!!」
今の今までの攻撃を瞬間移動で避けていたことに度肝を抜かして完全に無謀なところに、土手っ腹目掛けて右脚のストレートが深く入った。後退りしたヲタクは逆上してそれまで投げていたコンクリートの破片全てを観念動力で動かして耐久値をお構い無しに乱射する。
そして、更に驚愕することとなった。なんと、スプリンクラーからの噴射はまだ止んでいない空間で何事もなかったかようにパネロの両脚には火が昇っており、ブレイクダンスの容量で脚を巧みに振り回して向かってくるコンクリートの悉くを破壊しながら前進してきていたのだ。
「あ、あぁ……」
「変異種の場合は、転移した精神毎焼き尽くさないといけないから面倒────。まぁあんたにとってはこれ、ご褒美みたいなもんか?」
距離が遂にあと一歩のところまで来たパネロはヲタクの胸部に回し蹴りで切り口を作って、身体を延伸力で三回転程させてから着地と同時に切り口に手を突っ込んだ。
「う、うわああ!!??わ、分からせるはずが……フヒヒヒ♡分からされちゃったんだ────な……♡」
引き抜いた手にはメラメラと燃え上がる白い火の玉が握られていた。それを握り潰すと電池が切れたかのようにヲタクは意識を失ってその場に倒れた。
死んだ魚でもしない目で倒れたヲタクを見下ろしながら「チッ……」とわざと大きく舌打ちをしてから、乗り込んだ時に即落ち二コマをキメた真狩刑事を起こしに向かった。
「────んん?ここは?」
「何寝ぼけてんのさ?パッケージは全部引っ捕らえて、連行してもらったわ」
「そ、そんな!?もしかして俺また?」
「ええ。見事に非常口の扉を開けたところを後頭部ぶっ叩かれて、夢の中だったわよ。ソートで見せてあげたわよね?連中の考えていること。ほんっと、危なっかしいんだから」
意識を取り戻した真狩は呆れ気味な態度を取っているパネロがずぶ濡れになっていることに気が付くと、空かさず自分の来ていたジャケットを羽織らせてあげた。しかしパネロは「別にいい」と直ぐに突き返して置いてある車に戻って行った。
「やぁパネロ。思っていた以上に被害は少なくて助かった」
「スキン、この感じだと修復は3時間くらいになる?」
「いいや、35分ほどで完成出来るよ収束回帰ならあっという間だから」
「そう。じゃあ私と真狩刑事は車で待ってるね」
持ち場の交代をするように入れ替わり車の助手席へと乗車したパネロと、頭の痛みが無い事を不思議そうにしつつも運転席に乗り込んだ真狩刑事であったがやっぱり気になって仕方がないとパネロと会話を再開した。
「本当に大丈夫なのかい?風邪引かない?」
「うっさいな。ほっとけば乾くでしょ。てか、その心配する心にさ……?」
続けて言っておきたい言葉がある様子ではあるも、またしても「チッ……」と舌打ちをして言いかけた言葉をぐっと押し殺して棒付き飴をポケットから取り出して袋を剥がして自身の口に突っ込んでシートを倒して後部座席に置いてあったアイマスクを着けた。
「ご、ごめん。怒らせてしまった、かな?」
「…………別に。そんなんじゃなくて、ちょっと疲れただけ。仮眠するから触ったりなんてしたら燃やすから……」
「あの、俺は刑事だし今は勤務中なのよ?仕事仲間に対してそんなことはしないさ」
「────あ、そ……」
より機嫌を損ねたのか車内の空気が悪くなり、20分程してスキンが後部座席に乗車してきた。そして、車のエンジンをかけて現場を後にしたのであった。
能子は屋上部へと続く階段をここからは非常階段を使って登ることとし、非常口のオートロックに手を当てて念じて開き階段をゆっくりと上がっていく。すると歩きながらまたも顳かみに指を当てて念話を送っていた。
『パネロ達は無事に終わった。巡回組も帰還している。お前達もそろそろ帰って来い』
『おっパネちゃん終わったんだー?てか、そういうのはアタタも自分の仕事収めてから言いなよー。とりま了解、あの子もすぐ近くに居るから一緒に連れ帰るねー♪』
『それはゴメン……、昂夜といると……ストレス溜まる。一人で帰るよ……』
『はぁ?それ言っちゃうー?チビのくせに────』
━━ プツンッ……。
「続きは家でやってもらうとしよう」
自分が回線となっているテレパシー内で口喧嘩をされるのはたまったものではないのと、言われたとおり仕事納めをして能子自身も帰宅出来るように人質の居る屋上へと急いだ。
━ 来玲 昂夜とプレソーア ━
「ちょっとー?テレパスを切断することなくなぁい?おっと、逃すとこだった♪はい、3テンポッ♪」
自分と一緒に居るとストレスになると言われてムキになったかに思えた昂夜は、座っていたスロットのボタンを独自のテンポで押していき画面上に【777】が一列に並びメダルを大量に獲得していた。そんな彼女の周りにはこれでもかというほどドル箱が積まれており、今でたラッキーセブンを打ち止めにして換金を済ませに行く。
「ふむふむ……46万!?マジーッ!?今日は稼ぎ過ぎちゃったかなぁ♪」
「ま、またのお越しをお待ちして────ん?」
声を震わせている定員の目の前に人差し指を突き出してニコニコと笑っている昂夜が目に止まった定員は首を傾げていると、昂夜は着ていたパーカーのチャックを外していき臍まではっきりと視えるところまで下げた。中は下着しか付けておらず見える他全てが素肌であるのを強調するようにパーカーを肩周りまで見せるかのように捲り上げて行きながら、小さく囁くように言った。
「店員さん?今日のことは忘れて────、ね♡」
「は、はい……」
手を振りながらその場から去って行く昂夜をただ茫然と見つめている店員は、昂夜がその場から姿を完全に消すと我に返ったように頭を振って口を開いた。
「あれ?今……お客さんと話してなかったっけ?ん?店長?はい、────えぇ?また監視カメラの不調ですか?分かりました直ぐに向かいます」
通信を切って何かイマイチ思い出せていないことがある気がするなと首を傾げつつも、いつもどおりの店内業務へと戻っていくのであった。
鼻歌交じりに手に入れた現金を鞄に入れてスキップしている昂夜の目の前に一台車がハザードランプを点けた車が停まると直ぐにその車の運転席を覗き込んだ。
「あー、宮内クンじゃん♪送っててくれるのー?」
「送っててくれるの?じゃないですよ。課長が今日は事務所待機だって言ったのにいつまで経っても帰ってこないってお怒りの電話が入ったんだよ」
「なぁんだ、お説教ですかー?あたしの稼ぎがないと超能力対策課の備品とか買い揃えないくらい予算も叩いてくれない警察組織は悪いと思いますけどー」
「いいから乗ってください」
とりあえず、助手席に乗りシートベルトを締めたことを確認して車を走り出してその場から移動を開始した。途中、信号で停車する度に街灯に照らされている昂夜の恰好が目に留まりながらも黙々と運転に集中する宮内であったが、そんな視線を感じていない昂夜でもなく冷やかしと退屈しのぎがてら質問をした。
「ねぇねぇ宮内クン。その後、彼女さんとはどうなのー?」
「えっ!?か、彼女ぉぉ?もしかして、築山先輩のことですか?」
「うん、そうそうツキちゃん。んでー?どうなのどうなのー?」
「どうって言われても、そもそもお付き合いしてないですし……。あんな素敵な女性なら彼氏くらい居るんじゃないですか?」
「んー、居ないよー?」
「えっ!?何で分かるんですか?お、女の勘って奴ですか?」
吃驚仰天といったリアクションを取る宮内は、超能力対策課に配属されたての刑事である事もあり昂夜達【PSYCode】の存在も超能力者の存在すらも信じていないある意味でこの時代では天然記念物的な立場に居る人間だった。その様子をウシシと笑いながら「まぁそんなところー♪」と適当に返していた。
やがて、トイレに行きたいからと言ってコンビニに車を停めさせると昂夜はシートベルトを外してドアを開けずに宮内の方を見つめ始めた。
「な、何だよ?早く行ってきなよ」
「あーうん。トイレは大丈夫」
「えっ?なら早く帰りましょうよ。課長も他の皆さんも待っていますから」
「ねぇ宮内クン♡」
再びエンジンをかけようとキーを挿そうとする手に昂夜も手を重ねて身を乗り出した。その拍子でチャックが開いて露わになっている中身が宮内の視界を埋め尽くすように映ったので、赤面しながら昂夜を押し退けた。
「あん♡なぁにー?ひょっとして女の素肌観るの生は初めてとかー?」
「そ、そんなんじゃないよっっ!?何をやってるんだ君はって話だよっ!!」
「あー大丈夫大丈夫♪ちょっとさ、余りにも儲かっちゃったからこのままご飯行かない?高級焼肉店ッ♡♡」
「あ……、はぁ……そういう事ですか?」
「えー?他にどういうことがあったのかなー?」
小賢しい表情でニヤニヤと宮内を見つめる昂夜だったが、本当に目的は高級焼肉店でご飯を食べることのようで「分かりました行きますっ!」と宮内が許諾したのを聴いて「わーい」と無邪気に喜んでシートベルトを締めた。
「よーし、出発だあああぁぁぁぁぁ♪宮内クン沢山食べるのよー♪全部あたしの奢りなんだからぁぁぁ♪」
「なんか、そんな風に大声で言われるのは恥ずかしいのでやめてください。あと、こんな事して課長達にバレたらどうするんですか?」
「それは宮内クンが黙っていればいいのよー♪勿論、ツキちゃんには内緒にしといてあげるから」
「だからぁぁ────築山先輩とは付き合ってないですからぁぁぁぁぁ!!!!」
宮内は内心でも泣き叫びながら、昂夜と一緒に帰路とは反対方向にある高級焼肉店のある街へと車を走らせるのであった。その移動中の際「まぁ、能子には全部筒抜けなんだけどねー」とカミングアウトしていたのを聞いて、会計で自分の分は払える分だけしか宮内は食べなかったのであった。
昂夜を乗せた車が停まっていたコンビニ店内では、実はコンビニ強盗が押し寄せていたことに気付かずに───。
「はぁ……やっと車行ったか……。マジで迎えに来たのかと……思った」
「おいっ!!ガキ聞こえてねぇのか?オレは拳銃持ってんだぞ?クッ、このクソガキッ!!ヘッドホンなんて付けってから聞こえてねぇんだろが!!」
「プレソーア君!?────え?」
ヘッドホンを付けた少年は惣菜コーナーに向かってヘッドホンを付けていたため、強盗が押しかけていた事に気付いていなかった。そこへ何度も声をかけてきていた強盗の一人が遂に業を煮やして掴み掛かったのだが、次の瞬間ヘッドホンが外れたのと同時に強盗が吹き飛び飲み物コーナーまで飛んでいった。
「あっヤバ……」
「ぐおぁ!!??な、何だ?何がどうなっている?」
「アニキ、宙に浮いてやす……」
「危な……、お店壊しちゃうとこだったね……。店員さん、ごめんなさい……」
ヘッドホンを剥がされた事で感情的になって放った念力波動で強盗を吹き飛ばし、物品を壊しそうになったことを素直にお辞儀して詫びて来ている常連の少年に対して「ああ、大丈夫」しか返せず唖然としている店員を置いて、強盗達に外へ出るように申し出るプレソーアであった。
「ふ、ふざけんなこのガキ!!テメェ超能力者だろ?最近世間で流行ってるっていう犯罪は全部テメェみたいなのがやってるのか?そのせいでオレたちみてぇな強盗が軽犯罪になって助かったんだけどな」
「ウザ……。好きで犯罪者のレッテル……、貼られた訳じゃないし……。【PSYパッケージ】とは違うし……」
「こ、このやろう。ア、アニキを離しやがれ────うわああ!!!!」
頼んでも出ていってくれないなら、念力で追い出すまでと全員を浮遊させて自動ドアから外へと突き飛ばすと、ヘッドホンを付け直しながら全身に電気を纏っていく。
「別に超能力者の事……、どう思うが勝手だよ……。でもさ……お前らだって超能力に甘えてこんなくだらない事……やってるんなら……同じ穴の狢ってやつ……なんじゃない?」
「ひっ────ッッッ!!!???」
一瞬カメラのフラッシュが点滅したかのようにピカッと光った次の瞬間、そこに感電して倒れている強盗のじゃ確かなかった。コンビニ店員が外へ出て周辺を見渡していると頭上からメモ用紙が降ってきたので手に取って読んだ。
── お騒がせしてごめんなさい。お詫びとは言いませんが強盗達のことはもう通報しています。もう来ることはないと思いますので、レジで受け取っていないお釣りに関しては受け取っておいてください。 ー プレソーアより ー ──
「プレソーア君……、──ッ!?」
店員が読み終えたとほぼ同時のタイミングでメモ用紙は静電気を発して消えてしまった。念写投影────、それがプレソーアが店員に見せた手紙の正体であった。
「また行きつけのコンビニ……探さなきゃ……。昂夜と違って……記憶、消せないし……」
超能力者とて万能ではないことを吐露しながら、ヘッドホンから音楽をかけて一人帰路を歩くプレソーア。決して超能力者であることを知らからとて、必ずしも確保されたくする訳でもなく自身が警察組織の【PSYCode】であると言えば済む話だが、一般人を巻き込んだこと自体が彼のプライドに反しているらしく自身の能力を隠して人間社会に溶け込むことに努めていた。
やがて人気のない住宅道に出たところで、ヘッドホンを外すと脳裏にヘッドホンやイヤホンを指した時のように所からともなく声が流れ込んでくる。超感覚心聴────、それが彼の持つ【PSYCode】としての超能力。それは本人の意思とは関係なく周囲にいる人間の心の声が建物を隔てていても一斉に聴こえてくるという能力で、相手側が心を閉ざすことがない限り聴こえ続けてくるものだった。そのため、本人はその能力を封じる観点でいつもヘッドホンを付けていたのであった。
「能子……、あとは君だけだよ……」
耳障りな住宅内に入っている家族やペット達の声が流れ込む中で、同じ【PSYCode】のいる場所を共有して他のメンバーの周囲の音を聴いたプレソーアは静かにそう呟くと、再びヘッドホンを着けて自宅へと歩みを再開した。
『そうか、ご苦労。ではこちらも、早い事片付けるとしよう』
屋上へと続くドアを蹴破って能子は人質となった少女の方を見て、間に入るようにして【PSYパッケージ】の前に立ちはだかった。見たところ拳銃を所持している様子はないパッケージに対し、突撃隊の隊員は肩に下げているサプレッサー付きの銃と拳銃を所持しており【PSYパッケージ】の方へ銃を向けつつ少女を抱き抱えていた。
「なるほどな……。おい、もう1人の仲間はどうした?」
「な、仲間ぁ?悪いが、ここに居るのは俺一人だ。迎えに来るはずだった奴が来ないからお前達警察に交渉していたんじゃないか!!」
「そうか。なら────」
━━ ドスッ!!
「仲間と再会させてやろう。とは言っても、目を覚ました時には超能力もない唯の人間として刑務所で再会になるのだがな」
瞬きすらする間もなかった刹那で50mは離れていた距離を瞬間移動し、パッケージの男のみぞおちを突き意識を奪った能子は息一つ乱れた様子はなかった。これにて作戦終了と警戒を解く突撃班の隊員達は吹き飛ばされた負傷者を優先して運び出して撤収作業に入っていた。
「待て」
「っ?何でしょうか?」
「その子を何処へ連れて行くつもりだ?狙いは能子の筈だが?」
「────ッ!?な、何のことでしょうか。自分は対超能力特殊部隊の隊員でありますよ」
「そうか……。不便なものだな記憶複製を見様見真似で使うというのは……。とにかく、その少女は渡さない」
立ち去ろうとする人質を救出した隊員に向かって能子が放った一言に周囲がザワつく中、能子の方を見る少女と目と目を合わせて数秒後に少女の手を取っていた隊員と能子の姿がそこにはなかった。無線で待機している部隊へ連絡を共有すると、苗島から「それなら、我々のもとに来ています。状況は終了です」と返事を返して撤収作業の続行を指示して終わった。
「待て!本当に、本当に何も知らないんだ……私は、本官は、僕は、ワタシ……は、はは────【PSYCode】を捕まえる、ため────」
「もういい、寝ていろ」
「一体、どういう事なんだ?現場に居た【PSYパッケージ】は1体だけの筈……それが何故2体目が?」
「こいつはこの件とは別で行動をしていた。どうやら狙いは能子達だったようだが、慣れない超能力を使い自分が突撃隊員だと思い込むあまりに本分を記憶から喪ってしまっていたらしい。これ、犯人とこいつのパッケージチップだ」
そう言って苗島の手にSDカードサイズのチップを渡すと、バイクへと跨りヘルメットを被った能子は現場を後にしようとしたが、ふと何かを思い出したかのように入口の方に目を向けると人質にされていた少女に近付きヘルメットを取って屈むと少女の顔を見て口を開いた。
「恐い思いをしたな」
「お姉さん、さっきはありがとう。お目目合わせた時に言われたとおりに床に倒れたよ。助けてくれてありがとう」
「どういたしまして。じゃあお別れする前に……」
少女の目の前に人差し指を出すと、少女の瞳孔から光が消えた。そして、「今日起きた恐い出来事は消して置くよ」と抑揚のない言葉で催眠をかけ始めた能子に対して、少女が「はい……」と返すと立ち上がり改めてヘルメットを被りバイクに乗りエンジンをかけた。
「勿論、能子と遭ったことも綺麗さっぱり忘れて明日から生きなさい」
ガチャッとシールドをはめてバイクを走り出して闇へと消えて行った。
「あれが噂の【PSYCode】、超能力対策課だなんて本当にあるのだな」
「ええ。それでは自分もこれで」
苗島も後を追うように、パトカーへと乗り込んで現場を後にしたのであった。
バイクで詰所に到着した能子はヘルメットをハンドルにかけ、室内に入っていくと報告書を窓口で渡し終えると自動ドアを出て正門前でモジモジし始めた。胸元に寄せていた両手にはスマートフォンが握られており、アドレス帳を開いてスクロールを少し下に移動させたあと深呼吸をしてから送信ボタンをタップする。
───「はい、もしもし?」
「た、達美か?能子だ」
───「能子さん……、僕の電話番号なんだから僕が出るに決まってますよ。お仕事終わりました?」
「あ、ああ。報告も今済ませたところだから、帰ろうと思う。そ、その……能子が帰り道に買って帰る必要のある物はあるだろうか?」
能子はこれから帰宅する家の同居人の徳飛 達美へ連絡を取っていた。不思議なことに能子の超能力で心を読むことや未来を覗くことが出来ない達美の前では、超能力を使っても考えていることが分からないことからこうして普通の人同様に質問して聞くことにしているのだ。
───「大丈夫ですよ。もうご飯の用意も出来ていますから、気を付けて真っ直ぐ帰ってきてください。それとお風呂の用意も出来ていますから、帰ってきたらみんなで順番決めて入ってくださいね」
「う、うん分かった。あ、能子……能力使わずに普通に帰る。達美、じゃ…あ、電話……着るぞ?」
ぎこちない終話で通話終了をタップして電話切り、全身を震わせて頑張って喋れたと自分を鼓舞してウキウキする気持ちを抑えながら達美達の待つ自宅へと向かう能子なのあった。
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