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メインフェイズ 4
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「やめぬか、騒々しい」
部屋の奥、正確に言えば聖女が揺蕩っている培養槽の更に奥からゆったりとした足取りで出てこられたのは……
「へっ陛下っ!?」
「父上っ!? なぜこのような所にっ」
ヘンリッキと殿下が突然現れたこの国の最高権力者に驚き、慌てて略式礼を取ります。
もちろん私もカーテシーでお迎えいたします。
陛下、ユハニ・ハンネス・アハマヴァーラ国王陛下はゆったりとした飾り気のない、しかし上等なローブに身を包んでいます。
私室でもないのに常にないラフな格好に疑問を覚えたのでしょうが、許可を得ていないのに発言できない殿下達は口を開いたり閉じたりしています。
ああ…… そうなのですね? 陛下、成功したのですね?
私が視線を投げかけると、いつもの鷹を思わせる鋭い眼光を緩め軽く頷きました。
ああっ! これで、これでっ!
陛下は更に足を進め、私の横まで来られました。
「ちっ、父上っ! お離れくださいっ、その女は大罪人ですっ!」
殿下の荒らげた声に不快げに眉を顰められたユハニ陛下は、殿下に見せつけるように私の肩を抱き引き寄せました。
「なっ、ち、ちちう……え?」
思いもしなかった陛下の行動に驚愕と、自分の物だと思っていた(自らは聖女と恋仲になっていたというのに)婚約者に対する陛下の態度に顔を歪ませて、私に罵倒したくても陛下がいるせいでそれも出来ないせいでアホウのように口をパクパクさせるのみ。
「やれやれ、うるさくてかなわん。 アネルマ」
一つ頷くと、陛下の求めに応じるべく私は彼に命じます。
「ヘンリッキ、殿下を押さえつけておきなさい」
「はあ? 貴様なにを言って…… おっおいヘンリッ」
私の命に従い、ヘンリッキは殿下の後ろから羽交い絞めにし口を塞ぎました。
「んー、んー!?」
突然の事に殿下は慌て、ヘンリッキを振り払おうと暴れようとしましたがびくともしない事に驚きます。
まあ、ヘンリッキは文官なので剣も扱う殿下よりも非力ですからね、本来なら……ですが。
さて。
「前回はダメでしたが今回はどうでしょうか? 『edetae=Lopettaa』」
一旦陛下から離れ、殿下に近づくと右手を伸ばし停止を意味する魔術呪を唱えます。 しかし、バチンッという音を立てて展開していた魔術式がかき消されました。
やはり、前回の時と同じようにかき消されましたか。
「ふむ、アネルマ。 王族は害意ある術から身を守る加護があるのだ。 とはいえ我が愚弟のように王籍から抜けると加護が消える程度の限定的なものだがな」
そう陛下がおっしゃられ、なるほどと納得します。 加護ですか、そういえば年老いた賢者神ワイナミョイネンが建国に関わったという伝説がありましたね。
我が国が、古の国カレリアの後継を名乗るのも理由があったのですね。
ついそうやって古の神話について考え込んでいたせいでしょうか?
それを隙とみた殿下は羽交い絞めにしているヘンリッキに肘打ちを決め、その拘束から逃れるや腰の剣を引き抜き素早く殿下に伸ばしていた私の腕を切り飛ばし、返す刀で首を切り落としました。
「魔女めっ! 油断したなっ! ……なっ!?」
殿下の驚愕の声を聴きながら、私は切り飛ばされた右手で髪を撫でつけます。
首も手も先ほどの事がまるでなかったかのように私が立っているのが理解できないのか、殿下が眼をむき剣を取り落としてしまいました。
ふふふっ、そうこれが、これこそが不老不死の秘術! 私はなにがあってもなにをされても元に巻き戻るのです。
そう、ある時私は考えました。 死んだら巻き戻る。 それはある意味不死と変わらないではないか? と……
つまり巻き戻りを自分の意志で操ればいいのではないかと。
しかし、そのためにはこの巻き戻りのカラクリを解明する必要がありました。
8回目の人生では手がかりすら掴めず、9回目でやっとわかったのです。
不老不死の最後のピース。 それが”聖女”。
聖女は本当に心優しい女性です。 たとえ殿下と恋仲になろうと、常に私を慮っていました。
実際、私のイジメにも殿下や他の者にも告げずジッと耐えていたほどに。
そして私が処刑された時、彼女は願った、願ってしまったのです。
哀れな彼女に次の人生があるならやり直しが出来るように、と……
その願いが私に流れるこの国と隣国の王族の血と反応し、巻き戻りの力となったのです。
部屋の奥、正確に言えば聖女が揺蕩っている培養槽の更に奥からゆったりとした足取りで出てこられたのは……
「へっ陛下っ!?」
「父上っ!? なぜこのような所にっ」
ヘンリッキと殿下が突然現れたこの国の最高権力者に驚き、慌てて略式礼を取ります。
もちろん私もカーテシーでお迎えいたします。
陛下、ユハニ・ハンネス・アハマヴァーラ国王陛下はゆったりとした飾り気のない、しかし上等なローブに身を包んでいます。
私室でもないのに常にないラフな格好に疑問を覚えたのでしょうが、許可を得ていないのに発言できない殿下達は口を開いたり閉じたりしています。
ああ…… そうなのですね? 陛下、成功したのですね?
私が視線を投げかけると、いつもの鷹を思わせる鋭い眼光を緩め軽く頷きました。
ああっ! これで、これでっ!
陛下は更に足を進め、私の横まで来られました。
「ちっ、父上っ! お離れくださいっ、その女は大罪人ですっ!」
殿下の荒らげた声に不快げに眉を顰められたユハニ陛下は、殿下に見せつけるように私の肩を抱き引き寄せました。
「なっ、ち、ちちう……え?」
思いもしなかった陛下の行動に驚愕と、自分の物だと思っていた(自らは聖女と恋仲になっていたというのに)婚約者に対する陛下の態度に顔を歪ませて、私に罵倒したくても陛下がいるせいでそれも出来ないせいでアホウのように口をパクパクさせるのみ。
「やれやれ、うるさくてかなわん。 アネルマ」
一つ頷くと、陛下の求めに応じるべく私は彼に命じます。
「ヘンリッキ、殿下を押さえつけておきなさい」
「はあ? 貴様なにを言って…… おっおいヘンリッ」
私の命に従い、ヘンリッキは殿下の後ろから羽交い絞めにし口を塞ぎました。
「んー、んー!?」
突然の事に殿下は慌て、ヘンリッキを振り払おうと暴れようとしましたがびくともしない事に驚きます。
まあ、ヘンリッキは文官なので剣も扱う殿下よりも非力ですからね、本来なら……ですが。
さて。
「前回はダメでしたが今回はどうでしょうか? 『edetae=Lopettaa』」
一旦陛下から離れ、殿下に近づくと右手を伸ばし停止を意味する魔術呪を唱えます。 しかし、バチンッという音を立てて展開していた魔術式がかき消されました。
やはり、前回の時と同じようにかき消されましたか。
「ふむ、アネルマ。 王族は害意ある術から身を守る加護があるのだ。 とはいえ我が愚弟のように王籍から抜けると加護が消える程度の限定的なものだがな」
そう陛下がおっしゃられ、なるほどと納得します。 加護ですか、そういえば年老いた賢者神ワイナミョイネンが建国に関わったという伝説がありましたね。
我が国が、古の国カレリアの後継を名乗るのも理由があったのですね。
ついそうやって古の神話について考え込んでいたせいでしょうか?
それを隙とみた殿下は羽交い絞めにしているヘンリッキに肘打ちを決め、その拘束から逃れるや腰の剣を引き抜き素早く殿下に伸ばしていた私の腕を切り飛ばし、返す刀で首を切り落としました。
「魔女めっ! 油断したなっ! ……なっ!?」
殿下の驚愕の声を聴きながら、私は切り飛ばされた右手で髪を撫でつけます。
首も手も先ほどの事がまるでなかったかのように私が立っているのが理解できないのか、殿下が眼をむき剣を取り落としてしまいました。
ふふふっ、そうこれが、これこそが不老不死の秘術! 私はなにがあってもなにをされても元に巻き戻るのです。
そう、ある時私は考えました。 死んだら巻き戻る。 それはある意味不死と変わらないではないか? と……
つまり巻き戻りを自分の意志で操ればいいのではないかと。
しかし、そのためにはこの巻き戻りのカラクリを解明する必要がありました。
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実際、私のイジメにも殿下や他の者にも告げずジッと耐えていたほどに。
そして私が処刑された時、彼女は願った、願ってしまったのです。
哀れな彼女に次の人生があるならやり直しが出来るように、と……
その願いが私に流れるこの国と隣国の王族の血と反応し、巻き戻りの力となったのです。
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