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メインフェイズ 3

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 「アネルマ・レンピ・マキネン! やっと見つけたぞ、よくも聖女たるアルヤをさらい邪法の生贄にしようとしたなっ! しかしっ王太子エーディット・ユハニ・アハマヴァーラがそなたの悪事を見逃さぬ! さあアルヤを返せっ!」

10回目の人生。 わたくしが18となった今日、王都外れにある私の研究所へやってきたのは王太子殿下と乳兄弟のヘンリッキ・エスコ・ハースキヴィ侯爵子息。 そして数人の近衛でした。

「これはこれは王太子殿下。 このような所へようこそおいでくださいました。 先ぶれもなしでの御出おいゆえろくなお持て成しも出来ませんがごゆるりとご滞在ください」

私はそう言うと慇懃いんぎんな態度でカーテシーを決めました。
そんな私に腹が立ったのか、その端正な顔を歪めて私を睨みつけてきます。

「ふざけるなっ! 証拠は挙がっているのだ! アルヤはどこだっ!?」

私はその殿下の詰問の声には答えず軽く首を傾げる。

「貴様っ! とぼけていようとも貴様の罪は明白であるっ! おとなしくばくにつけ!」

「はて? 罪とは一体どのような? 私はそのような罪になるようなことはしておりませんが?」

私のその返答が気に食わなかったのか、殿下は腰に差した長剣の柄を握りしめ…… ヘンリッキ様に止められます。

「殿下っ! 落ち着いてください。 あの悪女には私も思う所はありますが、まずは聖女様の安否を確かめることが肝要かと」

そう言われ殿下は怒りで震える手を柄から外し、私を睨みつけます。

「そうであった。 アネルマ! おとなしくアルヤの居場所を白状すればよしっ! さもなくば」

顔を真っ赤にさせ私を睨みつける殿下に向けて肩を一つ竦め、ニッコリと微笑みかけます。

「こちらへどうぞ?」

そう言って私はもう一つの部屋へ続くドアを開け、殿下達が付いてくるのを確認することなく中に入りました。

「まっ待て! おいっ追いかけるぞ」

私に続いて部屋へと足を踏みこんだ殿下達はハッと息を飲み、近衛の誰かもしくは全員が驚き、恐怖の声を上げます。

「おお、空と雷の主神ウッコよ! なんてことだ」

「死者の国トゥオネラでもここまでひどくはない……」

暫し茫然としていた殿下は私を睨みつけると罵声を投げつけてきました。

「貴様っ! 貴様っ!! 悪霊アヤッタラもかくやなこの非道。 よもや楽に死ねると思うなよっ!! 聖女を殺したその罪「死んでいませんわよ?」…… なに?」

殿下の言葉を遮り発した私の言葉に、殿下は幾度となく瞬きを繰り返し私の言葉を理解しようとしました。
そして、脳が理解したのか眉をひそめ荒々しく問い詰める。

「こ、このような状態で生きているだとっ!?」

そう。 聖女は生きている。
この巨大な培養槽ばいようそうの中で。
聖女は、全裸の状態で両手を胸の前で組み、目を閉じた状態で液体に漬かっている。
この液体は生命の水という錬金術の秘術の一つでこの液体を肺に取り込めば呼吸せずとも、または食事をせずとも生命活動に影響はない。

「だっだが頭がっ……」

殿下は直視できないのか、やや視線を外しながら聖女に指を指し示す。

……ああ、そういう事。

「問題ありません。 生命活動に影響はありませんので」

聖女の頭部の状態は、耐性のない方にはかなりきつい状態となっているので、ここでは描写を控えさせていただきますわね。

「っだとしても貴様の罪はっ!!」

「先ほどから罪罪とおっしゃられておりますが、なんの罪だと言われるのでしょう?」

私の答えを聞いた殿下は青ざめていた顔色を怒りで真っ赤に染め怒鳴りつけてくる。

「とぼけるなっ!! 聖女の現在の状況こそがおぞましい貴様の罪そのものであろうっ!」

そう言われた私ですが、軽く肩を竦めやれやれとばかりに首を左右に振ります。

「私はこの国・・・の法に触れるようなことはしておりませんわよ?」

「悪女めっ、ぬけぬけと!」

今まで殿下の後ろで発言を控えていたヘンリッキも、たまらず声を上げる。

「本当に私は法を犯してなどいないのですよ? すべては陛下のお心のままに」

私がそう言うと、殿下とヘンリッキはポカンと口を開けしばし茫然としたのち、烈火のごとくな怒りを見せた。

「貴様言うに事欠いて陛下の命令だとっ! 不敬であろうっ! ええいもう辛抱ならん! 今すぐこの剣の錆にしてくれるっ」

そう言って殿下が腰の剣を抜き放ち、こちらへ足を一歩踏み出したその時。

「やめぬか、騒々しい」

部屋の奥から威厳のある声が響いた。





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