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 俺はいよいよこの質問が出来ると、ちょっと緊張しながら言った。
「いつもどんな本読んでるの?」
「つまらないものよ」
 意外なほどあっさり答えが返ってきた。作者とかジャンルとかそういうことが訊きたかったのに、そう思う隙も、もらえずレナちゃんは喋りだす。
「面白い小説なんかないわ。スマホでメイク動画とか都市伝説解説動画とか見てた方が楽しいに決まってるじゃない」
「じゃあ、なんで小説?」
「珍しいでしょ?」
「珍しい?」
「みんなスマホを見てる中で、一人小説を読んでる美人な女の子。それって一見目立たないけど、見つけたら珍しいって思うでしょ?実際、そう思ってたんじゃない?だから毎日なんの本を読んでいるんだろうなんて質問が思いつくのよ」
 レナちゃんは、本当は目立ちたいのかな。
「面白くないことに時間を費やすって、なんかもったいなくない?」
「どうかしら。スマホはみんなで同じものを同じタイミングで見れて何人かで盛り上がったりできるけど、小説って読む速度がみんな違うからページをめくる時にずれができたりして、絶対的に個人競技になるから団体の中で一人でいたいならスマホより本を読んでた方がいいってだけ。そういうパフォーマンスなのよ。私は一人で平気です。話しかけないでって訴えてるだけ」
 確かに。レナちゃんは入学当初からクラスで独立している。群れない。
「なんでそんなことするの?」
「みんなと見えてる世界が違うんだもん。みんなには見えないものが見えてる。コレって結構ストレスなのよ。あの子の守護霊は主の肩にくっついちゃっても御払いもしないなんて、なんて仕事が出来ないくせに一緒になってスマホの動画見てケラケラ笑ってたりするとムカつくし、だからっていちいち私が面倒みてたらキリがないもの」
 俺のカノジョには普通の人間にはない苦労がある。そういうの半分負担してあげられないかなって思いながら肉を噛んだ。
「だから、ブンくんとパキネちゃんの関係が羨ましいの」
 レナちゃんの言葉に、窓の外を見ていたパキネがレナちゃんを見つめた。
「守護霊が疫病神なんて、って初めは気の毒に思ったけど、信じられないくらい二人は仲がよくて、パキネちゃんは強力な守護で、何度も主の命を救って、暇があればたわいのない話をして、私も初めは二人の仲間に入れてくれるだけで充分だと思ってたのよ?けど、だんだん負けたくないなって思うようになるくらいブンくんが好きだって気が付いた気がしたの」
 パキネが迷惑そうに溜息を吐くと、俺の分の水の入ったコップが倒れた。
「あ、ごめん、うっかりしたんよ」
「あーもう、パキネ気をつけろって」
 机に広がる水を、僕とレナちゃんは慌ててナフキンで拭き取った。
「疫病神なんやもんしかたないんよ」
「その言葉便利だな」
「ごめんて」
 本当に申し訳なさそうに反省するパキネは、珍しくてなんだか新鮮で可愛かった。
 俺は自然とパキネの頭の上に手を置いていた。
 そして気が付いた。もしこれがレナちゃんの頭だったら、俺は手を置いていないと。
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