花の香りに誘われて

番外編

・

「すみません！
遅くなりました！」


その日はいつもより遅れてのお迎えとなった。


「お父さん、お疲れ様です。
ちょうど良かったです。
たっくん、ちょっと前からぐずり始めてて。
いつもはニコニコ楽しそうに他の子とも遊んでいるんですけど。

今オムツ変えているのでお待ち下さい。」


部屋を見るとブロックで楽しそうに遊ぶ他の子供達。

「できた！
しぇしぇ、しぇしぇ、できた！」

「やー、ちが、ちが！」

「しぇしぇ、しー！しーたい！」

「トイレかな？
よく言えたね。先生、みゆちゃんトイレ行きます。」


みんな話せるのか。
……ダメだ。また気持ちが落ちる。

目を瞑って下を向くと聞き慣れた泣き声が聞こえた。

「うわーーん！ふえーーん！」

「お父さんお待たせしました。
熱はないみたいですが今日帰ってから熱など出たら明日ご連絡下さい。

ほらたっくんお父さんが来たよ。」


僕を見つけた途端、ふぇ、ふぇ、と言いながら少し嗚咽まじりになる。


「ごめんね、遅くなって。匡帰ろうか。」


手を伸ばすとそれにすがるように保育士の腕から体を乗り出した。


「う……ふぇ……ま、まーま！！」

うわーーん、と、また泣き出す匡。

「お父さんが恋しかったんだね。
もういるから大丈夫だよ。」

「まーま！まーま！！……ふぇっ、ふぇっ、……」

まーまとハッキリ言った言葉に不安が薄くなったのを感じた。
僕は一人で変に考えすぎていたのかもしれない。


「ごめん、ごめんね。
よし、帰ろうか。」

匡の背中をトントンとすると次第に泣き止み眠りについた。

まーま、か。
嬉しいけどパパが良かったな。
と、思うのは許してね。



それから匡はパパ、お父さんと呼んではくれなくなった。