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5.アルフレッド視点

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(・・・・疲れたな)

明後日にはファンブレント学園の入学式が始まる。
俺と同い年で生徒会役員でもある、クリストファークリスローランロウから準備の手伝いを頼まれ、朝からずっと働き通しだ。

(彼女は今年入学するんだったな。)

幼い頃の彼女を思い出し、胸にチクリと痛みが走る。思い出に囚われそうになる自分を叱りつけ、外の空気を吸おうと思い学園内の庭園に足を向けた。

そして庭園の近くまでたどり着き、その光景に目を奪われる。

庭園にある噴水の近くで、一人の令嬢が胸の前で手を組み、大きな瞳を天に向け何か囁いている。
囁いてる内容は聞き取れないが、彼女の全身から喜びが溢れ出し、まるで神から祝福を受けたように光り輝いて見える。

(か、彼女だ…。本当に?夢ではないのか。)

思い掛けず彼女に出会えたことに戸惑いと喜びの想いが胸を締め付けた。

そしてこちらの視線に気づいた彼女が振り向いた。

(会えた。ついに会えたんだ。)

俺は声を掛けることも忘れ、熱い眼差しで彼女見つめ続けた。

(あぁ昔の面影がある。もう一度あの笑顔を見せてくれないだろうか。)

瞬きをすると消えてしまうような錯覚を覚え、彼女から目が離せない。

しかし彼女はまるで怯えるように身を竦め始めた。

(しまった。見つめ続けるなんて不躾だ。)

俺は非礼を詫びるべく足早に彼女に近づいていったが、彼女は目を見開き俺に背を向けて走り去ってしまった。

ーーーーな、なんで、、、

「ま、待ってくれ!!」

俺は焦って声を張り上げたが、彼女には聞こえなかったのか立ち止まることはなかった。

彼女に逃げられたことがショックで、俺の足は縫い付けられたように動くことができなかった。

====

「ハァーハッハッハ」

「だまれ。フレデリックフレッド。」

俺は隣で豪快に笑う男を睨みつける。

「だってようやく会えたのに逃げられたんだろう。そりゃないぜ。なぁシモンシム。」

揶揄うように笑いながら、目の前に座る男に話を振る。

「まぁ仕方ないんじゃないか。アルフレッドアルは強面だし背も高いから威圧感があるしな。まぁ僕だったら咄嗟に気の利いた言葉ぐらい思いつくけど、アルには無理だろうしね。」

・・・・やっぱり怖がられたのか。
彼女の怯えた顔を思い出し俺は深い溜め息を吐いた。あれから日を改めて何度か庭園に行ったが結局会うことはなかった。

「お、おい。そんなに落ち込むなよ。シム!強面は言い過ぎだぞ。」

「おい、ずるいぞフレッド。まてまて、強面は間違いだ。ほ、、ほら、お前は精悍な顔立ちだし、体も鍛えてて上背もあるだろう。まさに男の憧れだぞ。」 

フレッドとシムが焦ったように言い繕う。

「・・・男に好かれても嬉しくない。」

「「・・・・」」

コホンと咳払いをし真面目な顔でロウが話し始める。

「それぐらいにしたらどうです。殿下の私室で騒ぎ過ぎではないですか。それと確かにアルは目つきが鋭いし近寄り難い雰囲気ではありますが、でも面倒見が良くてとても頼りになるじゃないですか。そういったところを分かってもらえれば良いんじゃないでしょうか。」

「ロウ、お前も結構酷いこと言ってるぞ。」

「フレッド⁉︎な、なんでですか⁉︎僕はもっとアルの内面の良さを知ってもらえばと思ったんです。」

「・・・俺は目つきが悪いのか?」

「「自覚なかったのかよ⁉︎」」
「自覚なかったんですか⁉︎」

ーー三人の声が見事に揃った。
ー仲良いなお前達。

「ハハ、アルはかなり意気消沈してしまっているね。」

そう言って優雅に微笑みこちらを見つめる瞳はサファイアの様に青く輝いている。端正な顔立ちにプラチナブロンドの髪が映える。まるで絵本にでてくる"王子様"のようだ。世の令嬢達は彼の微笑みを見ると顔を赤らめ恋をしたような目を向ける。

・・・俺とは大違いだ。

「クリスは"王子様"みたいだな。」

みたい・・・ではなくて、私は王子なんだよ。」

「あぁ、それは知っている。」

「「「「・・・・・」」」」

何故か四人は諦めたように首を横に振った。

今俺達は校舎内にある殿下の私室にいる。
殿下は学業の他に公務や生徒会長の仕事を務めていて、仕事に集中できるように特別に私室を持っているのだ。

「さて、そろそろ入学式が始まるね。皆行こうか。」

殿下の言葉を合図に俺達は一斉に立ち上がり礼をとる。

「「「「承知致しました。クリストファー殿下」」」」

俺達四人は将来殿下の側近となる為、フレッドは騎士として、ロウは文官として日々研鑽している。シムは隣国アルシュタイトの留学生だが、学園を卒業と同時に当国のキャトリー公爵へ婿入りし、当国とアルシュタイト国の外交の架け橋となる。

そして俺の生家ウィンスレット伯爵家は広大な土地を所有し、一部の領地は海や友好国と接している為、王国で交易の要として建国当初より王家に仕えている。学園を卒業後は父の仕事を手伝い将来父の跡を継ぐつもりだ。

「入学式なら彼女の顔も見られるだろう?そんな情けない顔でいいのかい?」

殿下は揶揄う様に笑いながら俺を見るが、その目には"切り替えろ"と命じていた。

俺はすぐさま顔を引き締め思い直す。

そうだ…。
そもそも俺は彼女に会う資格などないのだ。
遠目で見られるだけでもいいじゃないか。
入学式で姿を見られれば、もう彼女に近づくことはしないと………

思っていた。
思っていたのだ。
思っていたのだが。

ーーー何故だ、、何故いない。

殿下が代表の挨拶をするために壇上し、会場内全ての視線を集めている中、俺は新入生の列を目を凝らして見渡していた。

入学式では先に在校生が会場入りし、学年ごとに会場の左右に分かれて着席する。後から新入生が入場し、会場の真ん中に爵位の高い者から着席する。

彼女の爵位は男爵だから一番最後に入場するはずだが、彼女の姿を見つけられないまま新入生の入場は終わってしまった。

(何かあったのか?!)

俺は今にも会場を飛び出したい衝動に駆られたが、
入学式を中座するわけにもいかず踏み止まった。
気も漫ろのまま入学式を終え、もしや体調が悪くなったのかと思い、慌てて校医室に向かったが既に彼女と思わしき人物は教室に戻っていた。

(また会えなかった…。)

こうも姿が見えないと庭園で会ったのは幻だったのではないかと思えてくる。

授業も全く頭に入らず、ロウやクリスから呆れたような目を向けられる。
何とか一日を終えたが、己の不甲斐なさに溜め息を吐く。

「・・・どこにいるんだ。リリア。」 

一目でいいから君に会いたい。
会う資格は無いと思うのに、会いたい気持ちが抑えらない。訓練所で汗でもかけば気が紛れるだろうか。

「ここからなら裏庭を通り抜けた方が近いか。」

俺は想いを振り払うように裏庭に向かった。
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