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5.殿下視点

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──── 王座の間。

 絢爛豪華に装飾されている王座に我が父である国王陛下が鎮座し、周りには父の側近が並んでいる。

 先刻卒業パーティーが終宴し、直ぐに俺は父に呼ばれたのだが……婚約破棄のことを聞き出したいのだろう。

 無能なくせに耳が早い。

「マクシミリアン、異形の娘と婚約を破棄したと聞いたが」

 沈黙を破るように父が抑揚のない声で問い質す。

「その通りで御座います。あの様な化け物が私の婚約者など……あの者は聖女の務めなどと詭弁を弄して、国を乱す愚か者に御座います」

「……詭弁か。そうだな、教会の存在に疑問があったのは私も同じ気持ちだ。しかし、異形の娘の父親が先代聖女の死を口煩く言い募ってきてな。たかが女一人死んだことなど些末なことだが、聖女を殺したのは私の古くからの友人だ。下手に騒がれては友人が困ると思い、泣く泣くマクシミリアンとの婚約を了承することになったのだが」

 古くからの友人・・・・・・・だと?笑わせるな!
 お抱えの男娼・・・・・・の間違いだろう?
 男娼との関係を明るみになるのを恐れて、この俺を化け物に売ったのだろう!
 
──── 俺が何も知らないと思っているのか。

「父上、ご心配には及びません。私が策もなく婚約を破棄した訳ではございません。化け物が私の婚約者に決まってから、有力な貴族達に教会は聖女を使って国に寄生する害悪だと訴えておりました。そしてその訴えに皆も賛同しております。教会が先代聖女の死を言い募ろうとも誰も耳を貸さないでしょう。父上の古い友人・・・・の傷になる事はございません」

 お抱えの男娼に害が及ばないと分かったのか、色欲魔は安堵の表情を浮かべる。

「父上、聖女との婚約破棄並びに国外追放は、この国の総意に御座います」

「そうか、そこまで根を回しているとは。良くやったぞ。異形の娘と婚約など辛い思いをさせてしまったことを不甲斐なく思う。マクシミリアン、其方は立派に育ってくれた。父として誇りに思うぞ」

 黙れ…教会の言いなりになった無能が……。

「過分なお言葉身に余る光栄です。父上、教会の者達が聖女を追放されたことに逆上し悪逆することも考えられます。この国を守る為にも教会関係者は一掃すべきです」

「うむ。そうだな。それも致し方ないか。マクシミリアン、教会の一掃は其方に全権を委ねよう」

「有難う御座います。国に寄生する害悪など一掃してみせます。それでは今後の用意もございますので御前を失礼させて頂きます」
 
 俺は父に敬礼を取り王座の間を後にした。
 そして私室に戻る為に薄暗い長い廊下を一人歩きながら呟く。

「影、いるか」

「ハッ、こちらに」

 突如俺の目の前に黒ずくめの男が現れ跪いた。

「いいか、内密に・・・化け物を捕まえてこい」

「……追放ではないのですか?」

対外的にはな・・・・・・。この俺が何年も化け物の相手をさせられたのだぞ。その報いを受けてもらう」

「承知致しました」

 影は返事をすると暗闇に紛れこむように姿を消した。

「待っていろ、化け物め」

 捕まえたら先ずは忌々しい角をへし折ってやろう。
 そして喉を焼いて、肌を裂き、目をくり抜いてやろうか。
 いや、待てよ。喉を焼けば悲鳴が聞こえなくなってしまう。それは面白くないな。ならば喉は最後か。

 さぞ、いい声で鳴いてくれるだろうな。

 化け物の凄惨な姿を想像すると嗜虐的な笑みが浮かび気持ちが昂ぶってくる。

 ククク、この国に聖女も教会も必要ない。
 そして無能な王もな・・・・。
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