祇王と仏午前

多谷昇太

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わたしの主人

楽しみなカツオ節

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誰だって、たとえば人間の奥様たちだって話を無視されれば怒りますよね。「わかった、わかった」と云ってもちっともわかってないんですから。でもあんまりしつこくしますと蹴とばされたりしますのでいつもあきらめます。そのかわりにこんどは主人の今日一日のことを聞いてあげますの。食事も風呂もすんで畳にゴロンとなったとき、わたしはかたわらに寄り添っては主人の髪の毛を丹念になめてあげるんです。実はこれをいちばん主人は喜ぶみたい。横になってテレビを見たり本を読んだりしていてもそのうち気持ちよさそうに目を閉じてしまいます。その折りの感触で主人に今日一日なにがあったか、わたしには手に取るようにわかるんです。また監督さんに叱られたか、仲間にいじめれたのか、それともなにかいいことがあったのか、などなど肌感覚で…い、いや舌感覚でよくわかります。舌で聞きながら同時に癒してあげるんです。するうちに本当に気持ちよさそうに正体もなく眠り込んでしまいますので、ころあいを見はからってはこんどは主人の顔を舐めはじめます。そのままでは湯冷めして風を引いてしまいますから。でももしそれで起きなかったら顔に軽く爪を立てたりして、ニャニャニャ(ホホホ)。
 ところでもうひとつ主人のことで知っていただきたいことがあるんです。それはわたしへの命名にも大いに関係しているんですけど、わたしの主人は表向きには確かに建設作業員なのですが、心の中では「祇王、いいか、俺は歌人なんだ、歌人。わかるか?」「ミャーオ?(歌人ってなに?)」というわたしとのやりとりにある通り、自分が歌人であることにとても誇りを持っている人なんです。和歌というものを作ってはいろいろな所に投稿するのですが、でも入選は一度もないそうで、それでお金を稼げることもないんですって。「もし入選したらその時は祇王、お祝いにカツオ節を買ってやるぞ」と約束してくれているので、わたし入選するのを首を長くして待っているんですけど…。
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