人生詩集

多谷昇太

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老年編

ねぬなわの…(1)

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‘ねぬなわの苦しや永き寝ぬわざの根をば断ちなむ身儺底もぐる’ 

末世ともなれば、鬼も最低、ちんけになりまして、たとえばグアンタナモ収容所のように、虜囚を、人を眠らせません。またたとえば私のように、ヤクザのストーカーどもに取り憑かれまして、18年間も睡眠妨害を被ったりもするのです。 
だから、そりゃもうあなた、ただ、ただ、眠くって辛くって… 
困窮のあまり、とうとうガンになぞなったりして。 
死の影におびえながら、9時間におよぶ大手術を受けました。 
 
いま私は手術後のICUの部屋にいる。ひどい熱さと寒さが交互に襲って来て、大汗をかいたり、悪寒でガタガタふるえたりして、また何より痛くって痛くって、いま死ぬ…と、本当にそう思いました。(男でも泣いたりして?) 
しかしそれでも離れ得ぬこの身体を、因果と思ったりもするのです。 
そんな折り衝立を隔てた隣りのベッドから、2人の婦人の話し声が聞こえて来ました。 
「ううん、そうじゃないの。あの人(たぶん私)は…」「そうそうそう、だから私は云ったのよ…」取り止めのない会話が際限なく続きます。 
しかしちょっと待てよ、ここは面会謝絶の、手術直後のICU処置室のはず。 
ではいったい…? わかりました。一人二役。 
私同様手術を終えたご婦人が、分裂気味に一人二役を演じていたのです。 
知ってました?死の恐怖や、堪えられない苦しみを受けたりすると、人はときにおかしくなるって。 
かわいそうに…私は自分の苦しみを一瞬忘れて、婦人に同上しました。 
するとなぜか身体が少し楽になって、そのままスーッと、甘美な甘美な、 
久しき安眠の中に落ちて行き、そ、う、に… 
ガタン! ん…? 
眠りそうになるとその都度、誰かが何かを叩いて私を起こします。はてまたヤクザ? ちんけ鬼? 
いいえ違いました。隣りのご婦人でした。おそらく霊視ができるのでしょう。 
私が幽体離脱(=眠り)をしかけると、何かでベッドのフレームを叩いて起こしていたのです。もちろん婦人など知らぬ人、私の経緯など知る由もない。ではなぜ…? 
 
(ああ、鬼め! こんなことを、こんな時にまで! )
 
【式神、ようするにちんけ鬼、この世で云えばストーカーのチンピラども、式神ならぬ式糞ども】
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