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中年・実年編
自由の子(1)
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「ねえ、おじさん…」「?」。
ふり向くとそこに少女がいた。瞬間的に世俗的な、また自己保存的な思いが頭をよぎる。『この子は何だ?…かわいらしい子だ…こんなかわいい子と話していたら、通行人たちはどう見るか…何かと誤解されはしまいか』等々のこと。
しかしそんな俺に一切お構いなく、少女は言葉をつなぐ。「ねえ、おじさん、あの雲はさあ、マリアナ諸島に行くのかなあ」「えー?」。
突然何を云うのかと呆気にとられたが少女につられて空を見る。そこにはなるほど帆船のような形をした雲がひとつ、風に乗ってふうわりふうわりと、ゆっくりと南へ移動していた。
海に見紛う、抜けるような青空をバックにして。
『ははあ、どうやらこの子はこの施設の子だな』と俺は見当をつける。
俺はタンクローリーの運転手で、精薄児の施設に油を入れに来ていたのだった。
『ハハ、そうか。しかしまいったなあ、どう受け答えすればいいのか』と困惑してしまう。
「そうだねえ、行くかも知れないねえ」などと照れながら返事をする。
「ふーん、行くんだ。やっぱり。行きたいなー、ぼくも」となぜか自分を「ぼく」呼ばわりしながら少女は云った。そしてさらに、「ねえ、おじさん、ぼくもあの雲のお船に乗れるかなあ」と重ねて訊いてくる。いまにも空に昇って行って、乗船しかねないような、そんなあこがれいっぱいの表情(かお)をして…
【自由の子のイメージ】
by 羊毛種さん
ふり向くとそこに少女がいた。瞬間的に世俗的な、また自己保存的な思いが頭をよぎる。『この子は何だ?…かわいらしい子だ…こんなかわいい子と話していたら、通行人たちはどう見るか…何かと誤解されはしまいか』等々のこと。
しかしそんな俺に一切お構いなく、少女は言葉をつなぐ。「ねえ、おじさん、あの雲はさあ、マリアナ諸島に行くのかなあ」「えー?」。
突然何を云うのかと呆気にとられたが少女につられて空を見る。そこにはなるほど帆船のような形をした雲がひとつ、風に乗ってふうわりふうわりと、ゆっくりと南へ移動していた。
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「ふーん、行くんだ。やっぱり。行きたいなー、ぼくも」となぜか自分を「ぼく」呼ばわりしながら少女は云った。そしてさらに、「ねえ、おじさん、ぼくもあの雲のお船に乗れるかなあ」と重ねて訊いてくる。いまにも空に昇って行って、乗船しかねないような、そんなあこがれいっぱいの表情(かお)をして…
【自由の子のイメージ】
by 羊毛種さん
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