58 / 65
白峰の巻
亜希子さんをもう一度よく見て
しおりを挟む
「いや、よくわかります、梅子さん。あなたのお腹立ちのほどは」と法師が受けて続けて「みなさんはどうですか?梅子さんがなぜこうも激高されるのか、そのわけがわかりますか?」と主に鳥羽の顔を見ながら話を向けてもみる。「わからん。初対面の身やからなおさらやけど、ちょっとお…おかしいんとちゃいまんの。亜希子はん、この人はふだんからこないな激高癖がおますのんか?」と本人の梅子をさしおいて鳥羽が亜希子に聞く。「梅子、いいから」と鳥羽の無礼を咎めようとする梅子を制して「いいえ、決してそんなことはありません。今日だけ、今だけちょっと高ぶっているかな。鳥羽さんとお坊様にお会いしてからこの方、なぜか。フフフ、たぶんお2人のインパクトが強かったからでしょう。論破癖はふだんからありますので、お2人に負けまいとしたんだと思います」などと場をとりなそうとする。「ほー、なるほど。しかしそれにしてもえろうきつうおましたな、今の剣幕は。まあ面と向かって云うとまたなんやから…これは独り言やけど、ちょっとお…控えることを覚えたほうがええんとちゃうかいな。年頃のいとはんであるならば。(相好を崩して)それこそ、嫁のもらい手がなくなりまっせ」最後は関西人らしくユーモアを効かして鳥羽が間接的に梅子を諌めた。しかしそれにサーッと真っ赤なオーラを立ち上らせた梅子に「まあ、まあ、梅子さん、梅子さん!ちょっと待って!」と僧がこれを制し「いや、会長、激高癖とおっしゃるならさきほどの拙僧へのそれもなかなかのものでしたから、梅子さんばかりを云うこともありますまい。およそ無碍に激高するということは人にはあり得ません。必ず理由があってのことです。恐れながら会長で云うなら日頃の経営者としての叱責癖がお出になったのでしょう。しかしこの梅子さんの場合はいささかなりとも違います」こう云って改めて梅子を真正面から見詰め直した。「梅子さん、ザッツオーヴァーと云ってすべてを切ってしまうのは簡単です。激高癖にせよ何にせよ、心の性癖のままに行動し生きてしまうのも坂道を下るがごとし、楽なことなのかも知れません。しかしさきほどから責めてばかりいるこの亜希子さんをもう一度よく見てください」と云って一端言葉を切る。僧の眼差しには真摯な光が宿り、梅子の「鬼の目」をも癒すがごとし。たじろぐことはいっさいないようだ。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
体育座りでスカートを汚してしまったあの日々
yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。
【新作】読切超短編集 1分で読める!!!
Grisly
現代文学
⭐︎登録お願いします。
1分で読める!読切超短編小説
新作短編小説は全てこちらに投稿。
⭐︎登録忘れずに!コメントお待ちしております。
季節の織り糸
春秋花壇
現代文学
季節の織り糸
季節の織り糸
さわさわ、風が草原を撫で
ぽつぽつ、雨が地を染める
ひらひら、木の葉が舞い落ちて
ざわざわ、森が秋を囁く
ぱちぱち、焚火が燃える音
とくとく、湯が温かさを誘う
さらさら、川が冬の息吹を運び
きらきら、星が夜空に瞬く
ふわふわ、春の息吹が包み込み
ぴちぴち、草の芽が顔を出す
ぽかぽか、陽が心を溶かし
ゆらゆら、花が夢を揺らす
はらはら、夏の夜の蝉の声
ちりちり、砂浜が光を浴び
さらさら、波が優しく寄せて
とんとん、足音が新たな一歩を刻む
季節の織り糸は、ささやかに、
そして確かに、わたしを包み込む
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる