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白峰の巻
これは鬼の目…
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梅子が答えるべきところ鳥羽が「ほほう、いやお見逸れした。さすが沙門や。なるほどおっしゃる通り、この世の中が思うようには行かない、得手勝手で欺瞞が多いというのはその通りやが、しかしわしやったら‘いつか見とってみい、ひっくり返したる、天下を取ったる’てな具合に飛躍への発条(ばね)としますがな。堪え忍び、しかるのち撃って出る、ですわ。ははは。あ、いかん、ここはわしやのうて梅子さんやった。堪忍、堪忍」と思わず自分の処世術を披露したあとで僧の話をつなぐように「うーむ、なるほど。とにかくこの世の中が我慢ならん、本音と建前に逃げる世間は気に食わんというわけやな。それはまあわかるが(≒青くさいと思うが)、そやけどなんでそれがク、クワンティエン?やったか、さっきの話に結びつくんやろ。うん、まあ、そこや…それで?」とばかり梅子に顔を向ける。鳥羽のちょっかいにたたらを踏まされた梅子だったがめずらしく癇を高ぶらせずにウン、ウンとばかりに二度ほどうなずいてから「そうねえ、それこそ真なくば立たずだわさ。しんの字は信ずるの信じゃなくて真実の真だけど、そこが会長さん、あんたと私の違いよ。そしてそれは雲水さん、それがさきほどのあんたへの意趣返しでもあるのよ。真実と正義がすべてを律しなければいったい何がすべての指針になると云うの?やられたらやり返す、いつか必ずという出世へのバネとするというのもいいけどさ、しかしそれじゃ世の中無茶苦茶になっちゃうじゃん。忍土はいつか仏国土にせんがための忍土でしょ?いつかは真をあらわすための。いつまでも忍ぶばかりで、自分の中で消化するばかりだったら結局はポシャってしまう。絶望してしまう。しかしそうなったらそうなったで、こんどはそれを世間ばらは笑うのよ!世の中を知らぬ大馬鹿者め、いい気味だ、思い知れ!てんで、自分の中の忍土でさえ粉々に踏みにじるわけ。その時のくやしさがわかる?」と語るうちにまたもや激高して来、こころなしか目もとにうっすらと涙さえ浮かぶ。しかし「だから、堪えられないのよ、その手の欺瞞事に。それこそ云い寄るサルから逃げるように、建前で武装した、粉飾した世間から、俺たちに従え、俺たちの掟に入れ、やらせろなどと迫られても、誰が!ってなるわけ。愛だの何だのと語ってさ、その実言葉だけで矛盾をめいっぱい包含した世間ばらが、虫唾が走るほど私は嫌なの!以上!ザッツ・オーバーよ」と断定をくだしてみせ、さらに「あんな思いは二度と御免だ。百歩も千歩もゆずってみせ、贖罪の写経さえしてみせたのに、おのれ、サルども…」とうわごとのように何かをくちずさんだが、はたしてこれを本人が自覚して云ったものかどうかはわからない。しかしその折り偶然だろうか、自分と合った梅子の視線に郁子は恐れおののいた。『これは鬼の目…』と心中でつぶやく。
【これは鬼の目…われ日本国の大魔王となり…皇を民とし民を皇となさん】
【これは鬼の目…われ日本国の大魔王となり…皇を民とし民を皇となさん】
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