バー・アンバー 第一巻

多谷昇太

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第八章 天国と地獄のサスペンス(1)

我慢のしどころ

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しかし俺はワクチン接種を地元の公的機関で既に済ませていたし、またここ一年ほどは病院などへは一切行くことがなかったから昨今の診療事情など門外漢だったのだ。予約など一切頭の中になかった。だから本来なら受付の段階で断られて然るべきだった。この先生の突っ慳貪(つっけんどん)さは恐らくそれが原因だろうがそれにしても初診の患者には度が過ぎるようだ。てんで詳しくはないのだが物の本などで読んだ範囲では「支持的精神療法」とか云って患者の話をゆっくりと肯定的に受け止め共感するのが精神科の初診における基本だと聞いている。ところがこの先生にはそんな気などまったくない。ようやくパソコンを打ち終わって椅子を回転させ俺に向き直る。「まあ(予約無しは)いいわ。それで?なに、眠れないんだって?」と、まあ横柄そのものだ。ムカッとしてけつをまくりたくもなったがしかしそれではМAD博士への道が断たれてしまう。昨日のバー・アンバーのダサいママへの堪忍と云い忍従の連続だ。俺はミキの顔を思い浮かべながら返事をする。
「ええ、そうなんですよ。ここ1ケ月ほど寝不足が続いていて、だからその…睡眠薬を頂きたくって」
「そりゃ必要なら処方するけどね、だけどあんた、ここは精神科なのよ。まずは心理療法からよ。あんたに心理教育しなきゃならないの。どうなの?そんな寝不足になるほどの〝鬱(うつ)っ気〟でもあるの?」
鬱(うつ)っ気と来やがった。その鬱をレクチャーするのが心理教育だろうが?こいつまったくぞんざいだ。まるで早く俺を追い出したいかのようだ。しかしそれなら端っから予約なしを理由に診療を拒否すればいいではないか。なぜ入れたのか。どうにもその対応ぶりが図りかねる。しかし医者は委細かまわずに「どうなの?」と畳みかけて来た。
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