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第六章 桃畑
ん?ミキ?ミキって…?
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と、その時だった。「きゃあーっ!あれ見て!なにあれ?」「え?なになに?うわっ!なんだこいつ。お化けか?…中身は女か?」などなど道行く人々の叫び声が突然上がった。人々の指差す方を見ると確かに異様なものがこちらに向かってふらふらと、覚束ない足取りで近づいて来るのが見える。それは何と云うか伸縮性のある半透明の、人間大のビニール袋の中に入っている女と云うか、あるいは全身がゼラチン質の膜の中に囲われている女と云うべきか、とにかく、何ともこの世離れした異様なものだった!袋(あるいは魔王が放った蜘蛛の糸の殻?)の中身はどうやら全裸の女と察せられのだが、その女が時に前方に手を翳しながら苦し気に袋の中で何かを必死に叫び、訴えているようだ。しかし声は膜に遮られて表に出て来ない。行き交う人たちは呆気にとられ気味悪がってその得体の知れないものに(女に)道を譲り近づこうとしない。中には指差してそれを笑い出す奴らもいた。笑うなどとは俺にはもちろん論外だったがしかし敬遠するのは俺もまったくご同様だった。何かのパフォーマンスでこんなことをしているのかそれとも中にいるのは狂人なのかまったく知れなかったが、こんな突拍子もないものには関わらないという常識は俺にもあった。ただ…袋の中の人物の何事かを訴えるシリアスさだけには心が打たれる。まるであの時のミキみたいだなと…ん?ミキ?ミキって…この瞬間心に稲妻が走った。次元を超えて何かと繋がるような、霊界と現実が結ばれるような…。しかしこの時目には見えぬが俺のまわりで何者か悪しきものが『ちっ』と舌打ちをしたように感じられた。タブーを犯すなと俺に警句を発しているようにも感じられる。それを合図にしたかのように袋の女のすぐうしろにいたチンピラ風の男連れ2、3人の内の一人が「てめえ、目障りなんだよ」と云いざま女をうしろから蹴飛ばした。よろける側にいた中年のサラリーが「来るな!こっちへ!」と云って両腕で強く突き飛ばす。女はたまらずに地面に倒れ込んだ。
【「わたしは絶対に、絶対にこの人に添い遂げて…わたしは、絶対に負けないぞーっ!」とでも叫んでいるような女の姿。そのイメージ。from pinterest】
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