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第六章 桃畑
殺戮の修羅場
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このとき目には見えぬが最前よりまとわりついて離れない、何者か悪しき想念の主が『ほう…』とばかり、感心したかのごときつぶやきを俺に送ってみせる。もっとも至って猜疑心いっぱいという感じなのだが…。
さても、その猜疑心への答えはすぐに示されることとなる。隊列の内の誰かが「来た!」と鋭く声を上げた。列がいっせいにバラけて俺が飛び出てきた側の、紙が空中に乱舞している通路に向って全員が迎撃の姿勢を取る。俺も両拳(こぶし)を固めて固唾を飲んで身構える。紙の向こうから人間の声とも思えぬ、獣の咆哮としか聞こえない異様な雄叫びが迫って来た。そして紙の乱舞から飛び出して来たものは…それはなんと、人間ではなく獣人どもだったのだ!全身毛むくじゃらでその口には牙が生え真っ赤にぎらつく目は悪魔そのものだ。それぞれが身長2メートルほどもありモーニングスターやメイス、あるいは大剣などを手にしている。数は(俺の?)部隊と同じ10数人…いや10数匹ほどか。その怪物どもがいっせいに部隊に打ちかかる。あちらで頭が潰されこちらで首が飛び、剰え隊員の身体を引きちぎっては貪り食う始末。その様は戦闘と云うよりは一方的な殺戮でありとても直視に堪えない。そのうちの一匹が、戦闘に加わらず離れたところで身体を氷つかせていた俺を直視した。脇に抱えていた血だらけの隊員の身体を放り投げ、口に咥えた腕を吐き捨てると、口から血を滴らせながらなにごとか獣語で呪いの言葉を吐きつつ一歩二歩と俺に迫って来た。手にしていたメイスを床に放り投げ「引き裂いてやる」とばかり両手を翳してにじり寄ってくるその様こそは、最前より悪しき想念を送ってくる存在そのものの姿とも思われた。『おい、どうした?この通り俺も素手だ。お前の臣下の仇を取ったらどうだ?まさかお前、臣下を見殺しにしてそのまま…』なる想念が物理的迫力を伴って伝わりくる。戦うどころか、俺の膝は震え全身が震えて…畢竟俺は踵を返すと脱兎のごとくに駆け出した。女のように悲鳴を上げながら、ジャスト逃げ出した。恐ろしい、ただ恐ろしい!見栄も義も臣下(…なのか?)を思う心も何もない。あるのは助かりたい、おのれだけが助かりたいという一心だけだ。「ワハハハハハ」あさましき俺の背(せな)に魔王の哄笑が響き渡った…。
さても、その猜疑心への答えはすぐに示されることとなる。隊列の内の誰かが「来た!」と鋭く声を上げた。列がいっせいにバラけて俺が飛び出てきた側の、紙が空中に乱舞している通路に向って全員が迎撃の姿勢を取る。俺も両拳(こぶし)を固めて固唾を飲んで身構える。紙の向こうから人間の声とも思えぬ、獣の咆哮としか聞こえない異様な雄叫びが迫って来た。そして紙の乱舞から飛び出して来たものは…それはなんと、人間ではなく獣人どもだったのだ!全身毛むくじゃらでその口には牙が生え真っ赤にぎらつく目は悪魔そのものだ。それぞれが身長2メートルほどもありモーニングスターやメイス、あるいは大剣などを手にしている。数は(俺の?)部隊と同じ10数人…いや10数匹ほどか。その怪物どもがいっせいに部隊に打ちかかる。あちらで頭が潰されこちらで首が飛び、剰え隊員の身体を引きちぎっては貪り食う始末。その様は戦闘と云うよりは一方的な殺戮でありとても直視に堪えない。そのうちの一匹が、戦闘に加わらず離れたところで身体を氷つかせていた俺を直視した。脇に抱えていた血だらけの隊員の身体を放り投げ、口に咥えた腕を吐き捨てると、口から血を滴らせながらなにごとか獣語で呪いの言葉を吐きつつ一歩二歩と俺に迫って来た。手にしていたメイスを床に放り投げ「引き裂いてやる」とばかり両手を翳してにじり寄ってくるその様こそは、最前より悪しき想念を送ってくる存在そのものの姿とも思われた。『おい、どうした?この通り俺も素手だ。お前の臣下の仇を取ったらどうだ?まさかお前、臣下を見殺しにしてそのまま…』なる想念が物理的迫力を伴って伝わりくる。戦うどころか、俺の膝は震え全身が震えて…畢竟俺は踵を返すと脱兎のごとくに駆け出した。女のように悲鳴を上げながら、ジャスト逃げ出した。恐ろしい、ただ恐ろしい!見栄も義も臣下(…なのか?)を思う心も何もない。あるのは助かりたい、おのれだけが助かりたいという一心だけだ。「ワハハハハハ」あさましき俺の背(せな)に魔王の哄笑が響き渡った…。
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