バー・アンバー 第一巻

多谷昇太

文字の大きさ
上 下
21 / 100
第三章 君は何者?

よし、俺が好き勝手を云ってやる

しおりを挟む
再びの〝女を泣かせるような〟セリフを述べてミキの本質を誘おうとしたのだがミキは「えー?それこそ本当?ウフフ」と軽くいなす。しかしそう云いながらも口元に運んだグラスを持つ手が小刻みに震えている。内心で未だに動揺しているのは明らかだ。本音を云いたいのだろうが盗聴装置だか何だか知らないが恐らくここの会話は筒抜けなのだ、誰かに。それで俺はミキの代わりにという分けではないが、ここら辺りがミキの本音だろうという話題を提供することにした。ミキが云うのでなければ俺が何を好き勝手なことを云おうとお構いあるまい…?
「本当も本当。必ず君を守っちゃう」
「ウフフ、守ってくれる?嬉しい」
「うん…それでさ、俺さっき自分がフリーライターと云ったけどさ、実は俺の専門は介護関係なんだ」
「介護?」
「うん、そう。地味な分野だけど結構いまの時代のキーポイント的なところがあるんだよ。なぜって老人が多いからね、今は。いやそれどころか、今後団塊の世代が後期高齢者に移って行くにつれて、この介護事業は社会の一大ネックとなって行くか、あるいはむしろ社会を牽引する成長産業になって行くのか、なかなかダイナミズムなところがあるんだよ。君、さっき〝お父さんに何とか…って云ったけれど、どうなの?ミキのお父さんは。元気?まだまだ介護どころか矍鑠(かくしゃく)としてらっしゃるのかな?ハハハ」
会話を誘う俺の愛想笑いにも拘らずミキの表情が一瞬泣き顔っぽくなった。心の琴線に触れたのだろう。しかしそれをどうにか堪えてみせ「ううん、矍鑠どころかもう亡くなったわ。もう20年も前にね」。20年前というとお父上の享年は2001年頃か。ミキの年令が35かひょっとしてそれ以上にも見えることからして当時の彼女の年は20才くらいだったろうし、それから類推すればお父上の逝去はだいぶ早かったと思われる。不憫に思えたがさらに突っ込んでみる。
「えー?本当?それならお父さん、ずいぶん若くして亡くなったんだね。ひょっとして俺と同じくらいかな?俺、いま52だけど」
「へえ、田村さん、52なんだ…うん、そう。それなら私の父とちょうど同じよ。お父さんも52才で亡くなったから…ちょっとご免なさい」と云ってミキはグラスをいま一つ取り出し、自分用にチェイサーをこしらえ半分ほどを一気に飲んだ。だいぶ喉が渇いてるようだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

あるとき、あるまちで

沼津平成
ミステリー
ミステリー 純文芸 短編

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ARIA(アリア)

残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

嘘つきカウンセラーの饒舌推理

真木ハヌイ
ミステリー
身近な心の問題をテーマにした連作短編。六章構成。狡猾で奇妙なカウンセラーの男が、カウンセリングを通じて相談者たちの心の悩みの正体を解き明かしていく。ただ、それで必ずしも相談者が満足する結果になるとは限らないようで……?(カクヨムにも掲載しています)

クラウディアのノート

Olivia
ミステリー
短編集

処理中です...