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第三章 君は何者?
ねえ、お父さんはどこですか?お父さんに会いたい!
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「ゴメナサイネ、タムラサン。オハナシノトチュデ。サキノハナシ、ツヅケテクダサイ」つり銭の額を確かめることもなく手持ち金庫をカウンターの下にしまいながらミキがまたもやたどたどしい口調に戻って俺に話の続きを要求する。再三のことでミキの変調には驚かなかったし、むしろ変調するその分けに俺は気づきかけていた。どうもミキがふざけて云ったと思っていた「田村さん、やさしそうだから…」あたりのことなのだろう。そのように直感した俺は最前よりの諸々の疑問、即ちカウンターの端にちゃんとレジスターがあるのに手持ち金庫を使うこと、あの男は何者なのか、またそもそもなぜこのバーが俺に貸し切りなのか、等々を正したかったがすべてを飲み込んで直感に掛けた。尤も話のきっかけに男のことを聞きはしたが。
「なんか嫌(や)なやつだねえ、あの男。冷たくって。ここのオーナー?ミキちゃんをいじめてるみたいな感じがして、俺、思わずムッとしちゃった。だいじょうぶ?ミキ。普段から辛い思いしてない?」するとその言葉に想像以上に心を動かされたように入れ込んでミキが答える。こちらが唖然とするような、殆ど突然人格が変わったような、豹変に近い感じで。しかもいきなり正調?日本語に戻ってなのだが、しかしそのミキの話にはぜんぜん脈路が感じられない。
「そ、そうよ、田村さん。男は何で、何で、あんな風に女をいたぶることが出来るの?私が気を汲んであんなに尽くしたというのに。そんな女の真心も考えずに、ちょっとでも自分の意に添わなければ男は平気で女をなぶりものにするのよ。身も心も、根こそぎにね!私、私…。ねえ、お父さんはどこですか?私、お父さんに会いたい!」え?お父さん…?なぜお父さんなのか。理解出来ずただ唖然とするばかりだったが、しかしこの時カウンター下に置いたミキの携帯が鳴った。ハッと我に返ったように俺を見つめたあとでミキが携帯を取る。
「…は、はい…はい、わかりました…はい。どうもすいませんでした…はい」一方的に何かを云われたようで、しょげ返ったようにミキが携帯を切る。そのあと必死で心の中を繕うようにしてから改めてミキが俺に向き直った。見ればあの男が来る前の妖艶な笑みを顔に浮かべさえしてである。
「なんか嫌(や)なやつだねえ、あの男。冷たくって。ここのオーナー?ミキちゃんをいじめてるみたいな感じがして、俺、思わずムッとしちゃった。だいじょうぶ?ミキ。普段から辛い思いしてない?」するとその言葉に想像以上に心を動かされたように入れ込んでミキが答える。こちらが唖然とするような、殆ど突然人格が変わったような、豹変に近い感じで。しかもいきなり正調?日本語に戻ってなのだが、しかしそのミキの話にはぜんぜん脈路が感じられない。
「そ、そうよ、田村さん。男は何で、何で、あんな風に女をいたぶることが出来るの?私が気を汲んであんなに尽くしたというのに。そんな女の真心も考えずに、ちょっとでも自分の意に添わなければ男は平気で女をなぶりものにするのよ。身も心も、根こそぎにね!私、私…。ねえ、お父さんはどこですか?私、お父さんに会いたい!」え?お父さん…?なぜお父さんなのか。理解出来ずただ唖然とするばかりだったが、しかしこの時カウンター下に置いたミキの携帯が鳴った。ハッと我に返ったように俺を見つめたあとでミキが携帯を取る。
「…は、はい…はい、わかりました…はい。どうもすいませんでした…はい」一方的に何かを云われたようで、しょげ返ったようにミキが携帯を切る。そのあと必死で心の中を繕うようにしてから改めてミキが俺に向き直った。見ればあの男が来る前の妖艶な笑みを顔に浮かべさえしてである。
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